NTTドコモとKDDIが相次ぎ携帯電話の高速化サービスをぶち上げた。携帯事業者を変更後も電話番号を継続利用できる「番号ポータビリティ」に備えたという側面もある。

 NTTドコモは8月31日,HSDPA(high speed downlink packet access)技術を使うサービスを投入した。下り方向(基地局から端末方向)の速度を,従来の384kビット/秒の約10倍となる最大3.6Mビット/秒に高める。ただし上り(端末から基地局方向)速度は384kビット/秒のままだ()。

図●NTTドコモとKDDIの通信速度高速化計画
図●NTTドコモとKDDIの通信速度高速化計画
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 KDDIは12月に,「1xEV-DO Rev.A」に対応した端末を投入する。下りは最大3.1Mビット/秒。従来の2.4Mビット/秒に比べて高速化の幅は小さいが,上りは144kビット/秒から1.8Mビット/秒と10倍以上に高める。

 ボーダフォン(10月からソフトバンクモバイル)も,「10月にはHSDPAのインフラが整う」(孫正義社長)。年末までに端末を用意する構えだ。秋から冬にかけて,携帯電話が一斉に高速化する。

3年目でやっとKDDIと同じ土俵に

 NTTドコモは新サービスの開始によって,ようやくMビット/秒クラスのサービスを提供できるようになる。NTTドコモが2001年5月に採用したW-CDMAの最大速度は上り下りとも384kビット/秒。一方KDDIが2003年11月に導入したCDMA2000 1xEV-DO Rev.0(CDMA 1X WIN)は下りが最大2.4Mビット/秒だった。利用頻度が高い下りの速度で後れを取っていたが,3年目にしてやっと追い付き,追い越した格好だ。

 NTTドコモはHSDPAのサービス・エリアも急ピッチで拡大し,既にRev.0の全国展開を終えたKDDIのキャッチアップを図る。サービス開始時こそ東京23区内限定だが,10月末には全国主要都市に拡張。2008年3月には,人口カバー率を90%以上にする。

映像など大容量データも提供できる

写真1●HSDPAに対応したNTTドコモの「N902iX HIGH-SPEED」
写真1●HSDPAに対応したNTTドコモの「N902iX HIGH-SPEED」

 下り速度を10倍に高めたことで,これまで不可能だった大容量コンテンツのやり取りが可能になった。新サービスの第1弾は,ネットワーク利用の少ない深夜のうちに音楽番組を携帯電話に配信する「ミュージックチャネル」。サービスと同時に出荷を開始した「N902iX HIGH-SPEED」で利用できる(写真1)。これはKDDIが1xEV-DO Rev.0を基盤に3年前に始めた「EZチャンネル」と同じコンセプトのサービスである。

 NTTドコモはさらに,ドラマなどの映像配信も視野に入れている。「映像は著作権の調整が大変。今回は間に合わなかったが,調整が付き次第始める予定。それほど遠くない時期にサービスを開始できる」(NTTドコモのプロダクト&サービス本部長の辻村清行取締役常務執行役員)。

 HSDPA対応の端末は,2007年4月までにあと2機種を投入する予定だ。


KDDIは上り速度向上で勝負

 KDDIのRev.Aは,開始当初のサービス・エリアを東名阪を中心とした大都市部に限定する。2007年3月までに全国の主要都市に拡大し,2010年初頭に全国展開を完了させる計画としている。

 Rev.AではQoS(サービス品質)機能も実装する。パケット網を使ってVoIP(voice over IP)などのリアルタイム・サービスを提供できるようになった。

写真2●1xEV-DO Rev.Aに対応したKDDIの「W47T」。
写真2●1xEV-DO Rev.Aに対応したKDDIの「W47T」。

 KDDIはRev.Aを使って,まず「テレビ電話」サービスを展開する考え。高速化した上り通信とQoS機能を駆使したサービスとして,12月に投入する「W47T」(写真2)と「DRAPE」の2機種で対応する。なお,NTTドコモのテレビ電話サービスは回線交換網を使う方式のため,QoSの確保機能は必要ない。

 テレビ電話はKDDIの端末同士で通話できるほか,網内に設置するゲートウエイが通信方式を変換することで,NTTドコモの端末との通話も実現する。さらにKDDI端末同士なら,最大5人での通話が可能。この場合,全端末に一人の映像だけが流れる。いわばプッシュ・トゥー・トークのテレビ電話版という位置付けである。

 12月に開始するサービスを8月末に明かしたのは,10月24日に始まる番号ポータビリティを意識したから。早い段階でテレビ電話機能を明らかにして,他社との比較で優位に立とうとする狙いが見える。


パケット料金は高速化後も据え置き

 パケット料金は両社とも,高速化後も従来のままに据え置く考え。具体的には,料金プランに応じて1パケット当たり0.01~0.1円程度を課金するほか,定額プランを選ぶことでドコモでは月額4095円,KDDIでは4410円で使い放題にできる。

 通信を高速化すれば,同じデータ量をダウンロードした場合の占有時間が減少する。このため,1パケット当たりの単価を下げられるはず。しかしNTTドコモは,「パケット料金は下げる予定は今のところない。パケット定額なら従来と同じ利用料金で使い勝手の良い環境を手に入れられる」(辻村取締役常務執行委員)と,ユーザーを定額制に誘導したい考え。KDDIも同様の態度を取る。