プロセッサも、メモリーも、サーバーも、自分たちで作る――。

 高度に分業化が進んだコンピュータ業界において、国内ベンチャーのPEZY Computing(以下、PEZY)の取り組みは明らかに異端だ。異端であるだけに、これまでのPC(パソコン)アーキテクチャーの限界を打破する、新たなコンピュータの姿を見せてくれるのでは、との期待が膨らむ。

 PEZYは、シリコンバレーで医療機器ベンチャーを創業した齊藤元章氏が、スパコン技術を開発するベンチャーとして2010年に国内で設立した企業である。

 同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援のもとで、2014年に1024コアのメニーコアプロセッサ「PEZY-SC」を開発。このプロセッサを採用した高エネルギー加速器研究機構(KEK)の小型スパコン「Suiren(睡蓮)」は、電力効率の高さを争う「Green500」の2014年11月版ランキングで2位に入った(写真1)。

写真1●Suirenのシステムの室内部(左)とPEZY-SCモジュール(右)
写真1●Suirenのシステムの室内部(左)とPEZY-SCモジュール(右)
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 Suirenが省電力性能で世界トップクラスとなったのは、省電力性能に優れたプロセッサを開発した事に加えてもう一つ、電気を通さない液体を循環させて基板を冷却する「液浸冷却」を実現する装置を自社開発したことがある。空冷と比べて冷却効率が高く、システム全体の消費電力を抑えやすくなる。

 同様の冷却技術として、より安価な油で冷却する「油浸冷却」があるが、一度油漬けになった基板は修理・再装填できず、システムのメンテナンス性が低下する課題があった。Suirenの場合は基板を取り出して乾燥させれば、通常のサーバーと同じように修理、再装填できるという(写真2)。

写真2●PEZYの関連会社であるExaScalerが開発した液浸冷却装置。次期プロセッサ「PEZY-SC2」を搭載したスパコンも液浸冷却を適用する予定である
写真2●PEZYの関連会社であるExaScalerが開発した液浸冷却装置。次期プロセッサ「PEZY-SC2」を搭載したスパコンも液浸冷却を適用する予定である
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 PEZYは2015年2月、PEZY-SCの後継として、4096のコアを搭載する次世代プロセッサ「PEZY-SC2」の開発計画を公表した。PEZY-SC2の倍精度演算性能は8テラFLOPSで、2016年末までに初期サンプルを製造する計画だ。

 次世代機においてPEZYは、プロセッサ、液浸冷却装置のみならず、一般には汎用のDRAMを使うメインメモリーについても自社で設計する考え(ITpro関連記事:スパコン開発の国内ベンチャーPEZYに、エルピーダ元CTOの安達氏が参画)。垂直統合型の開発体制で、分業を前提とする現行のアーキテクチャーを超えるコンピュータの開発を目指す。