二人の天才は何を考えたのか?
1665年、ペストの流行で閉鎖された大学を去り、孤独の中で次々と大発見を成し遂げたニュートン。それから240年後、特許庁で働きながらひとりで特殊相対性理論を作り上げたアインシュタイン。
ともに孤独を愛し、研究に没頭することを好んだ二人の天才をとらえたテーマ「光」と「重力」を通して、彼らの思考にせまります。
二人に根付いた"Never Give Up"の精神
「時代、ジャンルにかかわらず、これぞ天才と思われる人物をあげよ」と問われたとき、多くの人の頭に浮かぶのは、ニュートンとアインシュタインではないだろうか。
この二人、物理学という特定の領域を超え、人類史に輝く知の巨人の双璧をなす存在といえる。そして、双璧をなす二人にはいくつもの共通点が見られるのである。
まず、気がつくのは、いずれも若くして、孤独な研究環境の中で突然、その天才的な独創性を一気に噴出させたことである。
ニュートンが重力の法則、微積分法、二項定理の着想を抱き、光のスペクトル実験をすべて一人で行ったのは、20代前半のわずか1~2年の間であった。アインシュタインも特殊相対性理論、光量子仮説、ブラウン運動の理論の論文を20代半ばの1年で矢継ぎ早に発表している。
また、これだけの独創性を発揮する背景には、深い思索を長い期間、持続させ、問題を決して投げ出さない、強い意志の力があったことは間違いない。
リンゴが落ちるのを見るまでに、ニュートンが重ねた研鑽と努力がどれほどあったかと思う。同じように、アインシュタインは10代で閃いた光のパラドックスから10年後、特殊相対性理論を生み出し、20代後半で浮かんだ自由落下のパラドックスから8年後、一般相対性理論を構築するわけである。
二人の天才には、「Never Give Up」の精神が息衝いていた。
さらに、彼らが関心を抱いたテーマについても、顕著な共通性が認められる。それは光と重力である。
ニュートンには重力の理論を盛り込んだ『プリンキピア』という大著があるが、もう一冊『光学』の存在も忘れてはならない。ニュートンの力学が近代物理学の礎となったことは言を俟たないが、ニュートンの光学研究も科学革命の一翼を担う重要性をもっていた。
古代・中世を通じて受け入れられていた光の本性に関する固定観念を、実験によって根底から覆したのは、ニュートンであったのだから。
一方アインシュタインは、さきほどあげた光量子仮説や、レーザーの原理となった誘導放射の理論などを通して光と深くかかわったことはよく知られているが、それだけではない。
光速度不変の原理を基盤としていることからもわかるように、特殊相対性理論こそ光の物理学そのものといえる。そして一般相対性理論は、重力場の扱いにニュートン力学とは異なる新しい視点を導入したものであると同時に、その具体性は光の屈曲という現象で示されている。
ニュートンとアインシュタインの時代の差は約2世紀半になるが、これだけの時間を超越して、二人の天才が光と重力に向き合い続けたという事実が示しているのは、このテーマこそが物理学の枠組みを象っているということに他ならない。
換言すれば、光と重力をニュートンとアインシュタインがどのように捉えていたかをたどれば、物理学という学問の特徴が炙り出せるといえる。本書のタイトルは、そうした思いを込めてつけたものである。
ところで、もうひとつ、ニュートンとアインシュタインには見落としてはならない共通点がある。