ワークシフト(Work Shift)を読んだ。
仕事の世界の「古い約束事」とは?
『私が働くのは、給料を受け取るため。その給料を使って、私はものを消費する。そうすることで、私は幸せを感じる』342頁。
所得を増やし、消費を増やすという価値観だ。それが20世紀の大量生産、大量消費の価値観だ。
『過去二十年間の働き方や生き方の常識が多くの面で崩れようとしている。例えば朝九時から夕方五時まで勤務し、月曜日から金曜日まで働いて週末に休み、学校を卒業してから引退するまで一つの会社で勤め上げ、親やきょうだいと同じ国で暮らし、いつも同じ顔ぶれの同僚と一緒に仕事をするーーそんな日々が終わりを告げ、得体の知れない未来が訪れようとしている』4頁。
得体の知れない未来
その得体の知れない未来とはなんなのか。その未来にどのようにわたしたちは対応するべきなのか、そのヒントがある。
2025年頃をこの本では想定していて、様々なシナリオを提示しつつ、3つの働き方のシフトを提案している。
未来はここにある。
SF作家のウィリアム・ギブスンに言わせれば『未来はすでに訪れている。ただし、あらゆる場に等しく訪れているわけではない」20頁
我々にはそれがいま見えていないだけなのだ。
『第一に、ゼネラリスト的な技能を尊ぶ常識を問い直すべきだ。世界の五十億人がインターネットにアクセスし、つながり合う世界が出現すれば、ゼネラリストの時代が幕を下ろすことは明らかだと、私には思える』26頁
組織に属し、その組織でしか通用しない掟を習得し、大過なく過ごすことにより昇進し、経済的な対価を得るというロールモデル(日本の組織の典型例かもしれない)、ゼネラリスト志向に疑問を呈している。
『それに代わって訪れる新しい時代には、本書で提唱する「専門技能の連続的習得」を通して、自分の価値を高めていかなくてはならない』26頁
という価値観である。それには、どのような専門性を学ぶか、習得するかという戦略だけではなく、自分の専門性を売り込む、セルフマーケティングのスキルも必要になってくる。自分の技量をどう証明するのか、その方法論が必要になる。
未来を予測することは不可能だ。
だからと言って、何の準備もしないでいいわけではない。
自分の人生は自分で決める
自分の人生は自分で決める。その判断に本書はヒントを与えている。
未来を形づくる五つの要因として
をあげている。
例えばグローバル化の進展のなかで現在起こりつつある変化は、
- 二十四時間・週七日休まないグローバルな世界が出現した
- 新興国が台頭した
- 中国とインドの経済が目覚ましく成長した
- 倹約型イノベーションの道が開けた
- 新たな人材輩出大国が登場しつつある
- 世界中の都市化が進行する
- バブルの形成と崩壊が繰り返される
- 世界のさまざまな地域に貧困層が出現する
- テクノロジーが飛躍的に発展する
- 世界の五十億人がインターネットで結ばれる
- 地球上いたるところで「クラウド」を利用できるようになる
- 生産性が向上し続ける
- 「ソーシャルな」参加が活発になる
- 知識のデジタル化が進む
- メガ企業とミニ起業家が台頭する
- バーチャル空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる
- 「人口知能アシスタント」が普及する
- テクノロジーが人間の労働者に取って代わる
インターネットが世界中に張り巡らされ、人々がそれに依存することを前提とした社会でどのように生きて行くか。
企業は上記の要因について柔軟に対応することを求められ、それに対応できなければ市場から撤退することが求められる。
個人も同様に未来への対応を求められている。
未来はここにある。それが我々には見えていないだけなのだ。
ムーアの法則。2年弱で半導体の集積度は2倍になる。これが提唱されたのは1965年頃だ。半世紀近く前の未来だ。
自分がゼネラリスト志向ではなく専門技能を持ったキャリアを選択したのは、日本オラクルに転職し、Oracle本社へ出向した36歳の時だ。その当時自分がスペシャリストの道を選択するとは思っていなかった。歳を重ねることはゼネラリストの道を歩むことだと思っていた。ソフトウェアの日本語化、国際化を前職のDECで行い、文字コードの標準化活動などに参加して、好むと好まざるとには関わらず結果として、その手のスペシャリストとして米国OracleでRDBMSのエンジンをこりこり開発していた。
インターネットが商用化して、誰もが利用できるようになってYahoo!やAmazonのような第一世代の商用インターネット企業が登場したころである。
過去を見通してみる。大学に入った1977年前後。AppleやMicrosoftが創業してPCが世の中を変える予感に満ちていた。30年以上たって未来を振り返ってみれば、PCが世界を変えてしまった。JobsやGatesは、その未来をはっきりと見ていた。ムーアの法則は70年代も80年代も90年代も、そして現在も生きている。
一人の大学生がコンピュータに興味を持って、それを職業にして、30年以上たった。
社会が変化して、
- 家族のあり方が変わる
- 自分を見つめ直す人が増える
- 女性の力が強くなる
- バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える
- 大企業や政府に対する不信感が強まる
- 幸福感が弱まる
- 余暇時間が増える 52頁〜53頁
漫然と過ごしていると未来に追い越される。気がつくと30歳になり40歳になり50歳を超えている。
時間に追われて、『専門技能を磨きにくくなる』79頁。ものごとに集中して取り組む時間が失われ、専門技能を磨けなくなり、高度な専門性を持てなくなる。そのような専門性は、『おおむね、一〇〇〇〇時間を費やせるかどうかが試金石だとわかった。一日に三時間割くとしても一〇年かかる』80頁
『時間に追われない未来をつくる』92頁、ためにはどうしたらいいのか。
- 専門技能の習熟に土台を置くキャリアを意識的に築くこと
- せわしなく時間に追われる生活を脱却しても必ずしも孤独を味わうわけではないと理解すること
- 消費をひたすら追求する人生を脱却し、情熱的になにかを生み出す人生に転換すること 93頁〜94頁
第二のシフトを行う下記の三つのタイプの人的なネットワークを築いて行く必要がある。127頁
- ポッセ(同じ志を持つ仲間)
- 「ビッグアイデア・クラウド」。多様性に富んだ大人数のネットワーク
- 「自己再生コミュニティ」。頻繁に会い、一緒に笑い、食事をともにすることにより、リラックスし、リフレッシュできる人たちのことだ。
インターネットで多くの人たちと繋がることができるようになって、孤独感は増したが、一方で志、趣味、志向が同じ人たちを発見しやすくなった。インターネットがない時代であれば、限られた地域、学校の同級生、同窓生、会社の仲間などごく限られていたが、地域や組織の壁を容易く乗り越えて、志を一緒にする人たちと繋がれるようになった。
インターネットに自分の趣味や考えをさらしだしておけば、誰かがいつか発見してくれる。そのような時代になった。セルフマーケティングであり、自分を売り込むのではなく、同じ趣味を持つ人に発見してもらう。そのようなことが可能な時代なのである。
本書の前半は、未来に翻弄され時間に追われる暗い日々の事例を示し、次に、主体的に築く未来の明るい日々を示している。未来を予測し、備えていれば、明るい日々を迎えられる確率は高まる。
それを選ぶのは誰でもない。自分だ。
そのように考えた。一読をお勧めする。