頭部外傷から統合失調症になるのか?
頭部外傷が原因で統合失調症になるかといえば、
答えは「ならない」。(大本営発表)
しかし、それと独立事象で統合失調症になることはある。
この大本営というのは「100人に聞きました」の統計みたいなもので、いわゆる通説である。ほとんどの精神科医が「ならない」と答えるであろう。
統合失調症の原因として周産期の脳へのダメージが悪いなどと言っているのに、出生後の頭部外傷ではそういう風にならないと言うのは、ちょっと矛盾すると思わない? ずっと幼少時の脳のダメージはどう扱うんだ?とか。
どの程度以上のダメージが影響を及ぼすと決めにくいし、この調査自体がうまくできないのだと思う。また、統合失調症による精神症状なのか、あるいは頭部外傷後遺症による精神病状態なのか診断できないなら、調査の信憑性を著しく欠くものになる。ちょっと大本営の擁護をすれば、出産前後は脳の成熟度が十分でないので、この時期に脳障害を受けるのと、学童期くらいに受けるのとでは全く意味が違うと言えば言える。(参考)
かつて頭部外傷を起こした人が統合失調症になった場合、普通の統合失調症の人と症状が少し異なる。一般には緊張型~非定型病像の人が多く、激しい興奮、暴力行為などが出現しやすい。こういうことを調査した論文があるかもしれないが、僕は読んだことがないので今日の記事は経験的なことから書いている
殺人事件を起こすような統合失調症の人は、たぶん破瓜型の人は少なく、緊張型が多く、妄想型がこれに準じるように思う。破瓜型の人はそこまでの爆発的なエネルギーが集約できないような気がする。
しかし、病型としての破瓜型は確率的には圧倒的に高いので、統計的には「破瓜型が多い」になってしまうのかもしれない。
一般に統合失調症は長患いになると、次第に崩れて破瓜型っぽくなる。だからうちの外来に通っているかつて殺人事件を起こしたおじいちゃんは今はまるで破瓜型に見えるが、事件当時は緊張型の色彩が強かったように思う。というか、間違いなく緊張型であったであろう。
また、僕は約2名殺した人もある時期長く診ていたことがあるが、この人もかつては典型的な緊張型であった。この人はいつまで経っても症状が生々しく、拒絶的で薬物変更にも頑として応じず、一生、退院できそうになかった。一般に、緊張型統合失調症は良い時は良いが、悪い時は断然悪いのである。緊張型だからこそ、大きな事件を起こした後、短い期間で治療が奏功し退院する展開になるのである。
かつて医療観察法が施行される前、緊張病症候群から殺人事件を起こし措置入院になるが、たった1~2年くらいで退院するということが見られた。このような人は激しい時は激しいけど、良くなると人が変わったように良くなるからである。破瓜型に比べ欠陥症状も目立たず社会適応もそこまで悪くない。
被害者から見ると、まるで八百長である。精神病がよく理解されていないと、不信感を持たせるところは確かにある。世間を震撼させるような事件を起こした人が、なぜそんなに早く退院させるんだという話にはなる。確かにかつては措置入院の決定は2人の精神科医に任されていたし、退院もその時の主治医が決めることができた。その主治医は例えば4年目だって良いのである。全く規定はなかったから。また退院後の通院指導や服薬も特に監視の義務はなかった。まさにアフターケアはないも同然だったのである。今の医療観察法は、その批判を受けた法律になっている。
結局、例えば緊張型の患者で院内の規則的な服薬により、たいして欠陥症状も残さず良くなる人がいたとしても、退院後きちんと服薬するかどうかはまた別な話なのである。いくら薬に反応性が良く、寛解しやすい病型であったとしても、服薬しないなら再発の確率は高まる。統合失調症の人で薬を信用せず、すぐに飲まなくなる人は、どんな病型であれ予後不良だ。
稀に緊張型の人で薬を完全に止めてしまっても、ほとんど悪化しない人もみられる。これは本来、挿間性の精神病だったか、ストレスの受止め方が病前より変化し再発しにくくなったためであろう。これはある意味、欠陥症状の残遺といえるが、元々神経質だったり、いつもくよくよ考えこむようなタイプの人がいくらか大雑把になり、それが幸いして社会適応が改善することはある。このような人の疾病の理解はさまざまで、誤診されて薬を飲まされていたと思う人から、薬のために病気が治ったと考える人もいる。このあたりは個人差があるが、統合失調症の人の場合、やはり考え方に偏りがあるなど柔軟性を欠き、改善してからも「良くなっているが、相当に変わっている人」と周囲から思われていることも稀ではない。これは広い意味の陰性症状に含めるのであろうが、実際、陽性症状的なケースもあるのではないかと思う。
結果的にほとんど必要がなくなった場合、最初からそれが必要ではなったと思う人では、当時の副作用の酷さから、無駄な薬物治療をされたと考え、かつての主治医を本当に憎む場合もあるだろう。これは結果論であり真実はわからないものであるが、いかなる診断であれ、かつての薬物治療が明らかに間違っていたという証拠はないと思う。なぜなら、精神科の治療は対症療法だからである。精神医療に大きな疑問や不信感を感じる人々は、結果的にこのような病状経過を辿った人である。
その意味では、精神科の薬物治療は、誤診とか誤処方というのとはちょっと違うのではないかと思うのである。特に薬物は臨床症状に対して相対的に処方されるものだし、精神疾患と薬には決定的な適応のようなものがなく、境界など存在しないからだ。
僕は一般の精神科医より、平均すれば少ない量で治療しているように思っているが、急性期に必要とあれば結構な量の抗精神病薬を処方することもある。近く、そのような治療経過だった人を紹介したい。
例えば、ある患者さんが真の診断が統合失調症ではなく、広汎性発達障害であったとしよう。その人に抗精神病薬を使ったことが間違いと言う判断にはたぶん裁判でもならないと思われる。その薬物療法は医師が必要と判断して、そうされた可能性が高いからだ。かなりの副作用が出ているのにその処方が続けられたとしたら、興奮性や暴力性などでそうせざるを得ないケースもあるが、やや要領が悪かったとは言わざるをえない。それでもなお、それは医師の裁量の範囲である。
実際、仮に裁判で、ある発達障害にリスパダールを8㎎処方されていて、副作用がでまくっていたのに継続されたなどと訴えても、裁判的には問題にならないと思われる。なぜなら、リスパダール8㎎はコントミン換算で800㎎にしかならないからである。病状が悪かったので、そういう処方になったと言われたら終わりだ。これも医師の裁量だからである。今回、福島県立大野病院事件の裁判では、一般的に行われている医療と同じようなものであれば、それを医療過誤だとはいえないという判決が出ているのを見てもわかるであろう。
このような考察から、精神医療では誤診、誤処方を証明することは非常に難しい。まあコントミン換算で3000mg処方していたとしたら、話は別で誤りは他の文脈になる。
明らかな誤診・誤処方とは、ヘルペス脳炎なのに、それが診断できず他の治療を続け、死亡するか明らかに重い後遺症になったケースや、テグレトールなどで重篤な副作用が出ているのにそれを軽視し死亡したり失明した場合などである。
向精神薬は副作用がなにがしか出るのが普通であり、それこそ薬理作用が出ていることを証明している。
参考
エストロゲンと精神疾患
ウェールズタイプの統合失調症の寛解
①頭部外傷から統合失調症になるのか?
②統合失調症の寛解という意味
③社会的な目線での統合失調症とアスペルガーの共通点
④精神疾患と暴力、触法性
⑤2ちゃんねるとアスペルガー
⑥発達障害は統合失調症の免罪符ではない
⑦赤
(続く)
答えは「ならない」。(大本営発表)
しかし、それと独立事象で統合失調症になることはある。
この大本営というのは「100人に聞きました」の統計みたいなもので、いわゆる通説である。ほとんどの精神科医が「ならない」と答えるであろう。
統合失調症の原因として周産期の脳へのダメージが悪いなどと言っているのに、出生後の頭部外傷ではそういう風にならないと言うのは、ちょっと矛盾すると思わない? ずっと幼少時の脳のダメージはどう扱うんだ?とか。
どの程度以上のダメージが影響を及ぼすと決めにくいし、この調査自体がうまくできないのだと思う。また、統合失調症による精神症状なのか、あるいは頭部外傷後遺症による精神病状態なのか診断できないなら、調査の信憑性を著しく欠くものになる。ちょっと大本営の擁護をすれば、出産前後は脳の成熟度が十分でないので、この時期に脳障害を受けるのと、学童期くらいに受けるのとでは全く意味が違うと言えば言える。(参考)
かつて頭部外傷を起こした人が統合失調症になった場合、普通の統合失調症の人と症状が少し異なる。一般には緊張型~非定型病像の人が多く、激しい興奮、暴力行為などが出現しやすい。こういうことを調査した論文があるかもしれないが、僕は読んだことがないので今日の記事は経験的なことから書いている
殺人事件を起こすような統合失調症の人は、たぶん破瓜型の人は少なく、緊張型が多く、妄想型がこれに準じるように思う。破瓜型の人はそこまでの爆発的なエネルギーが集約できないような気がする。
しかし、病型としての破瓜型は確率的には圧倒的に高いので、統計的には「破瓜型が多い」になってしまうのかもしれない。
一般に統合失調症は長患いになると、次第に崩れて破瓜型っぽくなる。だからうちの外来に通っているかつて殺人事件を起こしたおじいちゃんは今はまるで破瓜型に見えるが、事件当時は緊張型の色彩が強かったように思う。というか、間違いなく緊張型であったであろう。
また、僕は約2名殺した人もある時期長く診ていたことがあるが、この人もかつては典型的な緊張型であった。この人はいつまで経っても症状が生々しく、拒絶的で薬物変更にも頑として応じず、一生、退院できそうになかった。一般に、緊張型統合失調症は良い時は良いが、悪い時は断然悪いのである。緊張型だからこそ、大きな事件を起こした後、短い期間で治療が奏功し退院する展開になるのである。
かつて医療観察法が施行される前、緊張病症候群から殺人事件を起こし措置入院になるが、たった1~2年くらいで退院するということが見られた。このような人は激しい時は激しいけど、良くなると人が変わったように良くなるからである。破瓜型に比べ欠陥症状も目立たず社会適応もそこまで悪くない。
被害者から見ると、まるで八百長である。精神病がよく理解されていないと、不信感を持たせるところは確かにある。世間を震撼させるような事件を起こした人が、なぜそんなに早く退院させるんだという話にはなる。確かにかつては措置入院の決定は2人の精神科医に任されていたし、退院もその時の主治医が決めることができた。その主治医は例えば4年目だって良いのである。全く規定はなかったから。また退院後の通院指導や服薬も特に監視の義務はなかった。まさにアフターケアはないも同然だったのである。今の医療観察法は、その批判を受けた法律になっている。
結局、例えば緊張型の患者で院内の規則的な服薬により、たいして欠陥症状も残さず良くなる人がいたとしても、退院後きちんと服薬するかどうかはまた別な話なのである。いくら薬に反応性が良く、寛解しやすい病型であったとしても、服薬しないなら再発の確率は高まる。統合失調症の人で薬を信用せず、すぐに飲まなくなる人は、どんな病型であれ予後不良だ。
稀に緊張型の人で薬を完全に止めてしまっても、ほとんど悪化しない人もみられる。これは本来、挿間性の精神病だったか、ストレスの受止め方が病前より変化し再発しにくくなったためであろう。これはある意味、欠陥症状の残遺といえるが、元々神経質だったり、いつもくよくよ考えこむようなタイプの人がいくらか大雑把になり、それが幸いして社会適応が改善することはある。このような人の疾病の理解はさまざまで、誤診されて薬を飲まされていたと思う人から、薬のために病気が治ったと考える人もいる。このあたりは個人差があるが、統合失調症の人の場合、やはり考え方に偏りがあるなど柔軟性を欠き、改善してからも「良くなっているが、相当に変わっている人」と周囲から思われていることも稀ではない。これは広い意味の陰性症状に含めるのであろうが、実際、陽性症状的なケースもあるのではないかと思う。
結果的にほとんど必要がなくなった場合、最初からそれが必要ではなったと思う人では、当時の副作用の酷さから、無駄な薬物治療をされたと考え、かつての主治医を本当に憎む場合もあるだろう。これは結果論であり真実はわからないものであるが、いかなる診断であれ、かつての薬物治療が明らかに間違っていたという証拠はないと思う。なぜなら、精神科の治療は対症療法だからである。精神医療に大きな疑問や不信感を感じる人々は、結果的にこのような病状経過を辿った人である。
その意味では、精神科の薬物治療は、誤診とか誤処方というのとはちょっと違うのではないかと思うのである。特に薬物は臨床症状に対して相対的に処方されるものだし、精神疾患と薬には決定的な適応のようなものがなく、境界など存在しないからだ。
僕は一般の精神科医より、平均すれば少ない量で治療しているように思っているが、急性期に必要とあれば結構な量の抗精神病薬を処方することもある。近く、そのような治療経過だった人を紹介したい。
例えば、ある患者さんが真の診断が統合失調症ではなく、広汎性発達障害であったとしよう。その人に抗精神病薬を使ったことが間違いと言う判断にはたぶん裁判でもならないと思われる。その薬物療法は医師が必要と判断して、そうされた可能性が高いからだ。かなりの副作用が出ているのにその処方が続けられたとしたら、興奮性や暴力性などでそうせざるを得ないケースもあるが、やや要領が悪かったとは言わざるをえない。それでもなお、それは医師の裁量の範囲である。
実際、仮に裁判で、ある発達障害にリスパダールを8㎎処方されていて、副作用がでまくっていたのに継続されたなどと訴えても、裁判的には問題にならないと思われる。なぜなら、リスパダール8㎎はコントミン換算で800㎎にしかならないからである。病状が悪かったので、そういう処方になったと言われたら終わりだ。これも医師の裁量だからである。今回、福島県立大野病院事件の裁判では、一般的に行われている医療と同じようなものであれば、それを医療過誤だとはいえないという判決が出ているのを見てもわかるであろう。
このような考察から、精神医療では誤診、誤処方を証明することは非常に難しい。まあコントミン換算で3000mg処方していたとしたら、話は別で誤りは他の文脈になる。
明らかな誤診・誤処方とは、ヘルペス脳炎なのに、それが診断できず他の治療を続け、死亡するか明らかに重い後遺症になったケースや、テグレトールなどで重篤な副作用が出ているのにそれを軽視し死亡したり失明した場合などである。
向精神薬は副作用がなにがしか出るのが普通であり、それこそ薬理作用が出ていることを証明している。
参考
エストロゲンと精神疾患
ウェールズタイプの統合失調症の寛解
①頭部外傷から統合失調症になるのか?
②統合失調症の寛解という意味
③社会的な目線での統合失調症とアスペルガーの共通点
④精神疾患と暴力、触法性
⑤2ちゃんねるとアスペルガー
⑥発達障害は統合失調症の免罪符ではない
⑦赤
(続く)