世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、2024年11月に発表された「世界子供白書2024」をご紹介します。
「世界子供白書2024」とは?
国連児童基金(UNICEF)が発表している基幹報告書「世界子供白書」。2024年版も公表され、世界中の子どもが置かれている状況と、子どもが生きる未来について取り組むべきことをまとめています。
世界を変えていく3つのメガトレンド
インドの緑化された公立学校 © UNICEF/UNI489314/Panjwani
2024年版「世界子供白書」では、2050年までの子どもたちの生活について、「人口構成の変化」、「気候と環境の危機」、「飛躍的な技術革新」を、世界を変える大きな要因となる3つのメガトレンドとして、現在の世界の状況と、各トレンドによる影響を考察しています。
注意したいのは「世界子供白書」の内容は、正確な予測ではなく、現在の社会状況から導き出されるいくつかのシナリオであるという点。未来は私たちの手で変えていけるため、確実性のある予測ではないというのが「世界子供白書」からのメッセージです。それでは、内容を見ていきましょう。
2024年9月のベトナム。過去70年間で最強の超大型台風「ヤギ」が上陸し、数百万人の子どもたちや家族の生活に影響をおよぼした。 © UNICEF/UNI643215/Pham Ha Duy Linh
メガトレンドのひとつ目は「人口構成の変化」です。2023年、2000万人を超える子どもたちが紛争や災害により、国内避難を余儀なくされていますが、気候変動の影響が大きくなる中で、この数字はより大きくなっていく可能性があると指摘しています。
2050年代には世界の子どもの数は現在と同じ23億人程度になると予測されていますが、その1/3以上が、中国、インド、ナイジェリア、パキスタンの4カ国在住の子どもとなる見通しです。一方で、少ない国では、子どもが人口の10%以下になることも予想されています。日本ではすでに15歳以下の人口が11.4%(2023年)と低い水準にあります。
子どもの人口割合が減少すると、子どもの存在や権利がないがしろにされる可能性が高まる懸念があります。世界ではユース世代の声を取り入れるための仕組みづくりが模索されていますが、その重要性を裏付ける数字と言えそうです。
パキスタンの少年。かつては氾濫地域だったが、ほぼ乾いたエリアになってしまったという。© UNICEF/UNI431633/Sokhin
ふたつ目のメガトレンドは「気候と環境の危機」です。現在、すでに約10億人の子どもたちが気候や環境による危機にさらされる国に住んでいます。2050年にはその影響がかなり広範囲になると考えられています。
すでにパリ協定により2030年までに世界の平均気温の上昇を2℃以下に、できれば1.5℃以内に抑える努力をすることが求められています。しかし、現状の進捗では2050年には2℃上昇してしまう可能性は十分に高いと言えるでしょう。
となると、2050年代には今の8倍の子どもが猛暑にさらされる可能性が出てきます。その場合、熱中症などに加え、喘息などの慢性呼吸器疾患や心血管疾患などの病気も多くなると懸念されます。さらに、極端な猛暑の地域が増えることで、極度の干ばつ、サイクロン、洪水にさらされる地域も増えます。水と食糧の不足が日常的に起こる可能性も高まり、特に途上国では、これらの影響が社会や経済の安定にとっても大きな負担となることが考えられます。
スーダンの内戦から逃れたエリアで学習する子どもたち © UNICEF/UNI552921/Elfatih
3点目は「飛躍的な技術革新」です。AIや次世代再生可能エネルギーなどさまざまなジャンルでの先端技術が世の中を変えていきますが、中でもインターネットは他の技術を支える基盤として特に重要な役割を果たしています。
デジタル化によって新たな知識や価値観とつながるのはもちろん、医療へのアクセスの改善や社会的な分断を防ぐことができるようになります。一方で、子どもたちは適切な管理によってプライバシーやアルゴリズムによる偏見から守られなければ、差別や搾取がより深まってしまう可能性をはらんでいます。
現在、高所得国では約95%以上の人がインターネットに接続している一方、低所得国では約26%にとどまっています。この格差は、教育や情報へのアクセス、さらには将来の経済的な機会にまで影響を及ぼし、地域間の不平等をさらに拡大させる可能性があります。
このままの社会であったなら
サイクロンによって屋根が飛んでしまったバヌアツの建物。 © UNICEF/UN0804601/Shing
私たちの社会が現状のままであった場合の2050年のシナリオは、決して悪いことばかりではありません。2000年代においても、新生児や5歳までの子どもの生存率は上昇を続けているため、2050年代も明るい見通しが持てそうです。それに伴い平均寿命も延びる傾向になるでしょう。教育水準の高まりも期待されています。子どもに対する教育は一般化してきており、高等教育については2000年代には40%程度しかを受けていませんでしたが、2050年代には77%になりそうだという予測が出ています。
しかし、気候変動の影響は大きいままであり、極端な気候災害にさらされる子どもは増える見込みです。2050年には現在の低所得国に住む子どもが増えると予想されており、さらに気候災害の影響を受ける子どもが増えてしまう可能性があります。
2050年に必要なこと
ユニセフが支援するアフガニスタンの教育クラスの外で遊ぶ子どもたち © UNICEF/UNI581665/Naftalin
より良い2050年を迎えるためには、3つのメガトレンドそれぞれに対応した施策を行っていくことが必要であると、「世界子供白書」は言っています。新たな人口動態に備えるために、教育の充実と雇用の創出、障がいのある子どもも含めたインクルーシブな都市を作り、世代間の公平性を確保するといった取り組みが必要です。
気候や環境の危機に対しては、より一層の対策を行い、都市計画などには最初から気候変動に対する耐性を組み込むことを提案しています。技術革新については、平等性のあるデジタルの利用を確保し、教育水準を上げていくことが必要になるでしょう。
冒頭で触れたとおり、2024年の「世界子供白書」の内容は確実な未来予測ではなく、可能性のあるシナリオのリストアップです。私たちが関与し続けることで未来は変わっていくという大きなメッセージに、どう応えていくか。それを考えることが、未来を作っていく作業になっていくのではないでしょうか。
Reference:
unicef 「The State of the World’s Children 2024」
総務省統計局 「人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)」
Text:Itsuki Tanaka