【植木靖男の相場展望】 ─当面、日経平均2万8252円を巡る攻防戦に
「当面、日経平均2万8252円を巡る攻防戦に」
●東京市場を上昇に転じさせたもの
東京市場は、どうやら上昇基調に転換したかにみえる。相場とは不思議な世界である。悲観色が強まれば株価は下がるし、楽観色が強まれば上昇する。もちろん、材料があってこうした悲観や楽観が生じるのだが、究極的には投資家心理の揺らぎによる。これが株価を動かす。
だとしたら、相場は経済学というより心理学の方が株価を判断するうえで重要ということになる。この投資家心理を具象化したものが罫線(チャート)である。株価は材料性、時代性、チャートで判断できるというが、もっとも重要なのはチャートということになるか。
ところで、株式市場が悲観から楽観に転じるとき、目立った材料が顕在化すれば分かりやすいが、何もないようにみえるときに流れが転じたとすれば、どう判断すべきか。
たとえば今回、日経平均株価は5月30日を機に上昇に転じている。チャート的にはそれまで1カ月近く上値の壁となっていた2万7000円処を一気に突破したことで悲観から楽観に転じたのであるが、そのとき多くのメディアは翌日こう伝えている。米国株高が日本株を下支えた、あるいは米国における過度のインフレ懸念が和らいだ、といった報道だ。だが、この種の材料はもっと以前から言われていたことだ。
では、本当のところは何なのだ? 1カ月も上値を抜けなかった株価がなぜ商いを伴って上昇に転じたのか、未だにメディアは伝えない。おそらくまだ理解していないのであろう。
答えは簡単である。円安が進んだのだ。だが当時、円安は善か悪かで議論が高まっていた。当然のことながら、株価との関係について誰も関心がなかったのであろう。5月30日から円安・ドル高が再び鮮明になり、その後、今日まで円安が進むことで株価は連動して上昇に転じてきている。
株価は正直であり、もし間違っていたら直ちに修正をみせるのである。だが、いまだに修正しないとすれば、「円安=株高」は正しいとみざるを得ない。
●株高基調は維持、強気で押す局面か
では、円安基調は今後どうなるとみればよいのか。米国の金融引き締め強化はもはや動かし難い。また、欧州中央銀行(ECB)も7月から金利を引き上げ、量的緩和を終了する。一方、日本は黒田日銀総裁は頑として金融緩和策を維持するという。おそらく、欧米の金融政策と日本のそれとは当分真逆が続くとみてよい。となると、今後さらにドル高・円安が続くのだ。つまり、株高基調が維持されることになる。
黒田日銀総裁は誰がなんと言おうと金融緩和を続けるのだろう。つまり、欧米と日本との金利差は広がり、つれて株価は円安に連動して上昇するとみてよいことになる。
とはいえ、日経平均株価は3月29日に付けた高値2万8252円(終値ベース)が大きな壁であることはいうまでもない。容易に抜くことは難しい。年前半の最大の攻防戦かもしれない。しかし、基調はあくまでも上向きである。一方、米国株価は1月にすでに大天井をつけたとすれば、回復に入るまで2~3年はかかるだろう。
今後、日米の自律反発が終了する7~8月には、好採算の国なり市場を求めて世界の投機資金は次の国、市場を目指すことになろう。ひょっとすると、それは日本かもしれない。
当面、日本市場での買い主体から目を離すことはできない。
いずれにしても、当面はまだまだ好業績の派手さが残っているグロース株にも、また新たなテーマを求めてバリュー株にも物色の流れは続くことになろう。今後、株価にとって最大の不安材料は米国、欧州のQT(量的引き締め)の動向であろう。その影響が顕在化するまでは強気で押すところといえよう。
今回はインバウンドのテーマに沿う三越伊勢丹ホールディングス <3099> [東証P]、食糧危機の懸念台頭を背景に農薬・肥料メーカーのOATアグリオ <4979> [東証P]、防衛関連のIHI <7013> [東証P]に注目したい。なかでもIHIは戦後大きな相場では常に先頭を走った銘柄だ。期待したい。
2022年6月10日 記
株探ニュース