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「IT×小売」融合で株価変貌の季節へ、リテールテック新旋風 <株探トップ特集>

特集
2020年4月25日 19時30分

―米アマゾンのダイナミズムが東京市場にも波及、小売業界で新たな伝説が始まる―

新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めるため世界各国がとった政策は、人と人との接触を極力避け、外出も可能な限り制限するというものだった。これはワクチンや治療薬が開発されていない現状では、新型コロナ駆逐のために最強かつ唯一の方法であったが、その結果として広範囲にわたり経済活動がストップしてしまうという事態に陥った。特に、その影響を大きく受けたのが小売や外食、レジャーなどの個人消費に絡む業態だ。

●リテール新時代における勝者の条件

新型コロナは発生元の中国が世界に先駆けて終息に向かう方向にあるが、これに追随して欧米や日本など他の国々も遅かれ早かれ新型コロナを克服する時期が訪れることになる。しかし、感染が終息しても、人心はそう簡単にこのトラウマから脱することはできず、アフターコロナの世界でも消費者の生活防衛意識は高まったままの状態が続くのではないかという見方が強い。小売業界も今回の新型コロナ問題を契機に淘汰の波が押し寄せる可能性が高く、これまで以上にITなどを活用して合理性を追求し、収益体質を高めるといった経営努力が必要となっていく。

このITあるいは IoTをはじめとするデジタル技術を導入することにより、小売事業における新たなサービスやビジネスを実現することをリテールテックと呼ぶ。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)投資が重視され、老朽化した既存システムが残存した場合に想定される弊害が「2025年の崖」として大きく取り上げられるなか、小売業界もまた今のデジタルシフトの波に乗り遅れないことが重要な課題となる。そして、それが厳しいリテール新時代における勝者の条件であることが強く認識されていくことになるだろう。

●アマゾンのDNAが世界を変える

同分野で世界に先駆しているのはやはり米国である。米アマゾン・ドット・コムが運営し、レジなし精算を特長とする「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」は分かりやすいリテールテックの一形態だ。直近の話題としてアマゾンは今年2月、シアトルにレジなし精算の新たな食品スーパーを開店した。店内にレジはなく顧客が専用アプリをダウンロードし、改札ゲートにかざして入店すれば、あとは店内のカメラが自動的に追跡し、商品を取ってそのまま店を退出することで自動的に決済される。また、小売業界で世界トップクラスの米ウォルマートもデジタル技術の導入に傾注しており、実店舗やECサイトの境界線をなくし、情報管理システムを統一したオムニチャネル化で顧客満足度の向上を図り売り上げの拡大につなげている。

このほか、米国ではリテールテックを支えるスタートアップ企業が軒を連ねる状況だ。アマゾンに対抗する無人レジシステムの開発や顧客からの返品プロセス管理ソフトの開発などのほか、人工知能(AI)が組み込まれた自律移動型ロボットが人とコミュニケーションをとりながら接客するといったような近未来的な光景ももはや珍しくない段階にきている。

●SaaSそしてAIが変化の切り札に

日本国内でも大手を中心にITやIoTを活用し、業容拡大に向けた布石が積極的に打たれている。セブン&アイ・ホールディングス <3382> のリアルとネットを融合させた「オムニ7」はその先駆で、消費者の利便性を高めると同時に購買データの活用など会社側にも経営戦略上のメリットは大きい。

クラウドを活用してソフトをネット経由で提供する、いわゆるSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)もリテールテックを進めるうえでの重要な武器となる。社会イノベーションの担い手を標榜する日立製作所 <6501> はSaaS事業のノウハウを同社のIoT基盤「Lumada(ルマーダ)」と融合させるなどして一段の飛躍を図っている。ちなみに大手スーパー西友とは、弁当や総菜の発注自動化システムを共同開発しているが、ここでもルマーダのAIが活躍している。今後は、開発したシステムをSaaS活用によって顧客を開拓し、小売・流通業界に根を張るという青写真を描くこともできる。

SaaSは特に初期設備コストの負担が厳しい中小の小売事業者にとっては魅力的だ。そうしたなか、時流に乗って業績を急拡大させているのが、スマートフォンを利用したPOSレジアプリを手掛けるスマレジ <4431> [東証M]。今年7月には「スマレジ4.0」へのバージョンアップが行われる予定で、こうした動きに伴い導入店舗の拡大も加速することが予想される。同社の20年4月期第3四半期の営業利益は前年同期比2.4倍の7億800万円と絶好調だった。中期的にも小売業界のIT化推進で重要なポジションを占め、成長への期待が強い。

●成長株の宝庫で開花が近づく5銘柄

同社株に限らずリテールテック関連は成長株の宝庫で、株式市場でもここにきて存在感がにわかに高まる兆しをみせている。注目すべき5銘柄を取り上げてみた。

◎アイリッジ <3917> [東証M]

スマートフォンを活用した実店舗への集客や販促支援サービスを手掛ける。集客・販促ソリューション「popinfo」を軸にO2O(オーツーオー)アプリ、O2Oビッグデータ、位置情報解析マーケティングなどを展開し顧客開拓を進めている。19年7月には顧客データ分析プラットフォーム「FANSHIP」として新たに立ち上げている。3月末に同社のフィンテック子会社であるフィノバレーが提供するデジタル通貨プラットフォーム「MoneyEasy」とセブン銀行 <8410> がシステム連携を果たしたこともポイント。株価は年初に1400円台に位置しており、時価は依然として値ごろ感がある。

◎シノプス <4428> [東証M]

小売業界を主要ユーザーにAIを使った自動発注ソフト「sinops」を展開しており、牛乳や総菜などの日配食品の自動発注も行えるなど省人化ニーズに対応し、大手スーパーなど中心に導入が加速している。また、製造業向けでも生産計画の精度向上に貢献する中期需要予測システムを提供、今後収益への貢献が期待される。業績面ではここ数年来、売上高・利益ともに伸び率が著しく、PERは割高ながらその成長力に着目する買いが断続的に流入している。19年12月期は営業利益段階で前の期比30%増益を達成、20年12月期についても2ケタ成長が見込まれている。

◎アイル <3854>

中堅・中小企業を主要対象に基幹業務システム開発のほか、Web受発注システムやネット及びリアル店舗の顧客管理システムなどを展開している。システムエンジニア各人が業種に特化して、その業界に精通することで企業の変革ニーズに無理なく対応し、DX需要を掘り起こしている。抜群の収益成長力は特筆され、19年7月期は2ケタ増収で営業利益は前の期比80%強の伸びを実現した。20年7月期についても前期比60%の伸びを見込んでいる。足もとは新型コロナの影響が下振れ要因とはなるものの、中期的な高成長路線に変化はないと思われる。株価は戻り途上で75日移動平均線との下方カイ離も解消した。

◎ヴィンクス <3784>

イオングループ向けを主力に流通業界を対象としたシステム開発を手掛けている。大手スーパーやドラッグストア、100円ショップ向けなどのシステム開発需要が旺盛で業績は成長トレンドにある。客が店員を通さず自ら支払いを行うセルフレジの普及が進むなか、同社はこの関連有力株に位置づけられている。米セールスフォース・ドットコムと協業関係にあることは見逃せない点で、クラウド分野での業容拡大が今後の株価押し上げ材料となる。テクニカル的には底値圏から急速に戻り13週移動平均線をクリアしたが、信用買い残も低水準で上値は軽く、目先の押し目は拾い場となりそうだ。

◎eBASE <3835>

商品情報の管理データベースソフト「eBASE」を食品業界向け中心に提供、トレーサビリティー管理で強みを発揮する。食品業界向け以外でも同社のソフトを導入する動きが目立っており、日用雑貨業界向けに大型案件を継続的に獲得したほか、住宅関連の新規大型受注なども業績に寄与している。株価は上場来高値圏で上値指向が強い。営業利益は前19年3月期まで8期連続で2ケタ成長を続けるグロース企業の典型。今期も従来予想を上方修正し、前期比17.5%増の12億9100万円と2ケタ成長を確保する見込み。1000円大台替えから一段の活躍が期待される。

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