プロバスケットボールのりそなBリーグ1部の琉球ゴールデンキングスは開幕から1カ月がたった。シーズン開幕した10月を6勝3敗と勝ち越したキングス。キングス在籍時の背番号「6」が永久欠番となり、現在は県内でバスケットスクールを運営し、Bリーグ中継の解説などをしている金城茂之さんにキングスの現状について、語ってもらった。
10月の6勝3敗は結果を例年で見るとちょっと負けが多く3敗は痛い感じはする。しかし、昨季の主力だったメンバーが抜けて、ほぼ新規チームに近い状態だと考えるとまずまずだったかと思う。
特に、開幕戦の三遠ネオフェニックスは強豪だ。その相手に未完成状態のキングスがどう挑むのかという点を踏まえた上で言うと、初戦こそ延長まで行って負けたが、2戦目しっかり勝ちきったというのが大きい。挑戦者としての立場をチーム全員で楽しんでる雰囲気と、試合をしながら課題を発見し、対策をチーム全員で取り組む姿勢は見ていて気持ちいいものがあった。
10月の3敗も3敗で終わらせるのではなく、ちゃんと修正を繰り返している。試合の前後半で直す部分、試合ごとに直せる部分、まだまだこれからという部分を分析しながら試合に臨んでいる。瞬間で見ておらず、シーズンを通して皆で同じ目標に向かってる感じが出ており、すごくいい。
島根スサノオマジック戦は大敗した。苦手な相手というのがやはり分かる。守備の弱点の部分でジャック・クーリー、アレックス・カークのところを狙われた。負けたもう1試合の滋賀レイクス戦でも弱点を狙われたので、昨季からの課題だ。攻撃でもゾーン守備をされた時にブレークするのが結構厳しかった。ただ、弱点を修正するのか、逆に長所を伸ばすのか判断がしやすくなるので明確な負け方があるのはプラスだ。
一方、勝敗を抜きに考えて、伊藤達哉の離脱はとても痛い。実際にセカンドユニットに影響が出ていた。そこをスリービッグでつないだり、ボール運びのところをヴィック・ローやケヴェ・アルマにさせてたりしていた。平良彰吾が途中加入したことで、セカンドユニットのゲーム運びはだいぶ落ち着いた。平良がエナジー、気持ちで引っ張る部分を出してくれてるのは、チームにとってもいいスタンダードになる。そこに引っ張られて守備ではいい効果を出してる。
10月のピックアッププレーヤーは毎試合にヒーローが変わったので選ぶのが難しいが、岸本隆一かローだ。安定してこの2人がチームを引っ張っている。隆一は攻撃面で相手の守備を突破し、起点になる動きをやっている。攻撃面だけなら隆一だ。
ローは攻守全てやっている。攻撃はどちらかというと自分でこじ開けるタイプで、苦しい時間帯を個人技で打開する力が目立った。相手の守備に寄られてもパスを出していた。シンプルなことだが、この二つがすごく良かった。リバウンドは強いし、リバウンドを取ってからのプッシュもいい。守備はオールランドに守れている。総合力ではローになるかなと思う。
10月の注目試合は三遠との開幕戦と大敗した島根戦だ。
三遠が昨季の完成度に、デイビッド・ヌワバ、吉井裕鷹、津屋一球とサイズアップを図り、日本国籍取得選手も獲得しきてかなり強化してきた。大方の勝利予想は三遠寄りだったと思う。1試合目に関しては、やはり岸本隆一が三遠の用意してきた守備をことごとく突破して主導権を握らせなかったのが、驚いた。ゲームを支配してた印象が強い。結果は負けたが一人で勝てそうなところまで持ってきた。
大敗した島根の時は、島根の得意な部分が出て、キングスの得意な部分が出せなかったのが大きい。40分間、自分たちのバスケットをすることがB1では結構大きなテーマだ。それをさせないために、どのチームもディフェンス前から当たってプレッシャーかけ、ポイントガードのコントロール力を失わせようとしたり、オフェンスリバウンドに飛び込んでビッグマンの体力を削ったりすると思うが、島根戦では全部裏目に出てしまった。
攻撃では島根のスイッチ守備を崩せなくて、今後の課題が見えた。島根、三遠、アルバルク東京などサイズのあるチームはみんなスイッチしてくるので、そこをどういう風に攻めるかが昨季のファイナルから引き続き課題になると思う。
今年はチームとしても球離れが良くなってワンテンポ展開が速い。昨季はハーフコートが多かったが、対照的に今季はトランジションが多い。昨季はハーフコートでもワンサイドで崩して逆サイドに振った時に1回止めて、相手の守備にまた組み直して攻めるというパターンがかなり多かった。
今季は連動がすごく速いので全体的に攻撃のリズムが良くなった分、リングに向かいながら周りを見る余裕が持てていると思う。スペーシングもだいぶ良くなってる。誰がどこにいるかが昨季より見えてる。
攻撃では攻め方を少し変えた時があった。特に広島ドラゴンフライズ戦。昨季も含めてこれまではピックにこだわる時間がすごく長かった。守備では逆にビッグマンが苦手なピックの守備をさせられ、ビッグマンにかかる負担がすごく多かった、ポストにボール預けて任す時間がすごく増え、クーリーやカークがボールを触る時間が長くなったことでストレスの半減にもつながり、いいプレーが生まれる要因になったと思う。
あと、小野寺祥太、脇 真大、松脇圭志の縦のドライブが明らかに増えている。アウトサイドでの横の動きから縦の変化が生まれることによって、新しい攻撃のリズムが生まれている。
シュートアテンプトが多いのは、伊藤が入って速攻が出たことや、ローとアルマもリバウンド取ってそのままプッシュできるというの大きい。それに相変わらずのクーリーのリバウンドもあり、さらにカークもかなりコンディション良い。今季はトランジションが目立つので、かなりの武器になっていくと思う。10月は得点平均がトップではあったが得点リーダーズのトップ10に入っていない。みんながいい感じなので、得点のバランスがいい。
平良の加入はビッグサプライズだ。「この経験をものにするぞ」という姿勢が彼自身からものすごく見えるので、見ていて気持ちがいい。守備は前からプレッシャーかけるなど、B1で通用している。ハンドリング力もあるし、縦の突破力も結構高めだ。連係や互いの特徴を知るのはまだ時間がかかると思うが、起点づくりになっており、非常に優れた選手だ。
11月の注目試合は千葉ジェッツ戦だ。千葉Jは守備でオールスイッチしてくる。それに対しキングスがどう攻撃を仕掛けていくかが注目される。
千葉Jも攻撃のスタイルが変わっている。昨季の富樫を中心にした、ピックスタイル(ハンドラーを中心に攻撃を組み立てる戦術)に加え、フレックススタイル(コート上の全員が動き回り、ノーマークを作る戦術)も持っており、そこをクーリーやカークがどうやって守るのかが課題になってくる。フレックスの入りが分かればゾーン守備を敷けるが、キングスはゾーン守備をあまりしない。千葉Jもサイズは大きいのでもしマンツーマンで守るとなった時にどうするかが注目点だ。
そこで注目選手となるのが松脇になる。サイズもスピードもある千葉Jを止めることはできるはずで、守備は申し分ない。攻撃では昨季までは3点弾が多かったが、今季はそれにプラス縦のドライブもいい。どんどんトライしていけば、相手は的を絞りづらくなる。今は3点弾を打つバリエーションたくさんあるが、それは横の動きで、相手はついてきている。実際に難しいシュートもあった。そこに縦のアクセントも入れば、もっと守りづらくなると思う。
1984年11月生まれ。浦添市出身。琉球ゴールデンキングス創設時から主力として活躍し、bjリーグ4度の優勝に貢献。在籍時に背負った背番号「6」はチームの永久欠番となった。キングスに12年間在籍した後、仙台89ERSに移籍した。引退後は仙台でアシスタントコーチを務めた。現在、自身が設立した金城茂之Try Error Retryでバスケットボールスクールや講演などを行い、Bリーグの中継で解説も行っている。