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沖縄でミツバチ飼育が国内トップレベルの理由は? 冬でも温暖、通年繁殖で全国出荷 蜜より求められる“仕事”とは <沖縄DEEP探る>


この記事を書いた人 アバター画像 琉球新報社

 養蜂農家らが育てるミツバチ。県内の飼育数が国内でトップレベルであることをご存じだろうか。ここ数年で急増し、ミツバチの群れの単位である蜂群数は2019年に1万4799群で日本一に。年々増加し、最新の22年のデータでは2万5681群で引き続き全国1位だ。19年比で73・5%(1万882群)もの増。県外で養蜂が難しい冬春期でも飼育が可能なこと、受粉が必要な農作物の生産に用いる交配用として全国の農家から引き合いがあり、応ずるための生産や流通の基盤が整ってきたことが背景にある。

 一方、一般からの糞害(ふんがい)の訴えの増加や病気を防ぐ管理の必要性から、行政が届け出の徹底を呼びかけたことも飼育数の押し上げにつながっているとみられる。

 飼養戸数も増加しており、22年の飼養戸数は373戸で、前年比30・9%(88戸)の増だった。

 飼養者の中には養蜂農家だけではなく、一般家庭で蜂蜜の採取を目的に飼っているケースのほか、コロナ禍などで在宅時間が増えたことで、中には愛玩目的で飼う人もいるという。

 沖縄で産業として生産されているのは主に植物の交配用ミツバチ。蜜源となる植物が少なく蜂蜜の生産量は多くはないという。飼育数の増加は、全国からのニーズの高まりを受け、養蜂農家が生産量を増やしていることがある。一方、飼養戸数が増えたのは、専業の増加よりも、一般で飼っている分の引き上げが大きいとみられる。

■好適地
 

 県養蜂組合によると、2009年に交配用ミツバチが全国的に不足となったことがあり、温暖な気候を生かせば解決できるのではと、沖縄での養蜂が注目されたことがあった。これを契機に盛んになったという。

 近年の生産数増加は流通体制の基盤確立も大きい。沖縄では特に北部地区で盛んなため、5年ほど前に生産量の増加に応える形で名護に集荷場を造り、交配用ミツバチや健康食品を取り扱う専門業者のアピ(岐阜県)と連携する形で県内の養蜂3団体を中心に、年間約2万群以上の出荷が可能になったという。

交配用ミツバチなどを取り扱うアピが名護市に建てたミツバチの集荷場=名護市(提供)

 アピは全国から交配用を入荷。沖縄から入荷し始めたのは約20年前で、当時の取り扱いは500群ほどだったという。09年の交配用不足問題を受け、これまでのノウハウを生かし、養蜂を沖縄の産業の一つとして確立させようと、積極的な進出を進めてきた。

 交配用として生産されたセイヨウミツバチの国内農業への経済貢献額は約1800億円に上るとの推計値もある。特にハウス栽培の農家にとっては自然状態では交配が進みにくいため、繁殖された交配用が必要になる。

 ミツバチは気温が約15度以下になると活動を停止するとされるが、沖縄では通年で繁殖が可能。そのため、11~3月ごろまでは、沖縄のミツバチが国内の農業に重要な役割を担っている。

 岐阜県で高級イチゴの「美人姫」を生産している奥田農園の奥田美貴夫さんは、沖縄から1シーズンで15群(約15万匹)導入している。イチゴは主に10~4月までの間の受粉を必要とするため、沖縄産は非常に重要だという。「岐阜にもこの時期に出荷する養蜂家はいるが、沖縄産は元気さが違う。きちんと受粉させないとイチゴの形や色が悪くなるので沖縄の養蜂には助けられている」。沖縄のハチが重宝されている。

■ルール作り急務

 一方でミツバチ生産が盛んになると、周辺への糞害や病害、寄生するダニを他の農家のハチにうつしてしまうといった問題も懸念される。

巣箱から出してミツバチの様子を確認する県養蜂組合の山口進組合長=6月、大宜見村内

 県養蜂組合の山口進組合長によると、ダニや感染症対策は経験豊富な養蜂家にとっても非常に難しい。初心者が蜂蜜を採取すること自体が容易ではないが、疫病などの対策を取ることはより難しいとみられ、小規模生産者の増加はリスクを高める可能性もあるという。

 県は、市町村への届け出を促すなど、登録の徹底を呼びかけているほか、養蜂家をマッピングし、新規で養蜂を始める場合には、2キロ圏内の養蜂家同士で話し合いによる調整を義務づけるなど対策をしている。

 山口組合長は「生産が増えることで問題が取りざたされることも多くなった。沖縄の養蜂は全国の農業を下支えする重要な産業でもある。おのおのの生産者や行政は慎重な対応が必要だと思う」と話し、より徹底したルール作りやコンプライアンスの強化の必要性を訴えた。

(福田修平)


蜂群数(ほうぐんすう) 統計上のミツバチの単位。一つの巣箱を1群と数える。女王蜂1匹と、そのほかのハチで構成され、1群当たりのハチの数は7千~5万ほど。ミツバチ飼養者は毎年1月、養蜂振興法に基づき市町村に飼育状況を届け出ることが義務付けられている。県は届け出を基に毎年、蜂群数を発表している。