雅-MIYAVI- Presents<HELL-OH!! From東京>と名付けられた2デイズ・イベントの初日。本日の対バンはZAZEN BOYS。翌日はNothing's Carved In Stoneが招かれている。つまり、2日目の2月2日にリリースされる(店着日は今日なので、会場でももう売っていたけど)『WHAT’S MY NAME ep』に参加しているベーシストが籍を置くバンド2組との対バンイベントだ。『WHAT’S MY NAME ep』が、昨年リリースされたアルバム『WHAT’S MY NAME』のオープニング・ナンバーを日向秀和(ストレイテナー/Nothing's Carved In Stone/EOR)、TOKIE、KenKen、MIYA(385)、吉田一郎(ZAZEN BOYS)、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という非っ常に豪華なベーシストたちとのフィーチャリング・バージョンでリカットするという、恐らくは『WHAT’S MY NAME』を改めてロック・シーンにリプレゼンテーションする意味合い(彼の中にはまだ内容に見合うだけの「発見」をされていないという意識があるのかもしれない)が含まれたものなので、その発売日に誰も無視できないような豪華な号砲をあげるための祝典なのだと思う。
向井秀徳の「MATSURI STUDIOからMATSURI SESSIONを引っ張りあがってやってまいりました。ZAZEN BOYSです」という恒例の前口上の後、始まったのは“RIFF MAN”!もう、1曲目からハイライトのような選曲、獰猛なグルーヴ、それに応えるフロアの凄まじい盛り上がりだ。いきなり目の前に歪な高層タワーがぶっ建てられたような錯覚を覚える、破壊的なのに何故か構築的なロック。このバンドの演奏、精緻さからダイナミズムまで、必ず見る度に凄くなっているように感じる。もちろん、始まりから凄かったバンドであるのにもかかわらず。もしかしたら自分の中に「前回より凄くなるバンド」という固定観念が出来上がっているのかもしれないが、少なくともその期待を裏切られたことは一度もない。この音圧は海外の一流バンドと比べてもなんの遜色もないな、と思ったのがだいぶ前だったが、気が付けば海外を見渡してもどこにもいない「世界基準のかなり上方」を行くバンドになっていた。本当に稀有な存在だと思う。
セットリストが進んでいくうちに気が付いたのだが、今日のZAZEN BOYSは吉兼聡のギターを強調する音量バランスがとられていた。また、『ZAZEN BOYS4』前後くらいからギターとシンセを使う割合が半々くらいになっていた向井秀徳も、今日はギターを弾いていた時間が圧倒的に長かったように思う。憶測だが、ギター・ヒーローである雅-MIYAVI-との対バンということで「ギター・ロック・バンド」としてのZAZEN BOYSをぶつけてきたのではないだろうか。それこそ、初期のレッド・ツェッペリンのようなイメージの。その結果として、あのえげつないグルーヴの、即効性が強化されていたように思う。もちろん、演奏するのはあのシンプルとはかけ離れた楽曲なのだが、曲中に格好良いギター・ソロが入り、後半にいくにつれギター2本の絡みがクレッシェンドをつけることで、ある意味分かりやすい「ロック的な」カタルシスが宿っていたのだ。そして、その分かりやすさが安っぽさとか、短慮な感じと一切結びつかない(つきようがない。だって、楽曲がもう圧倒的に高級だから)のがまた凄まじい。
最終曲は、近頃の定番となっている向井秀徳の指揮者遊び(向井が右手で出す指示に合わせて、メンバーが音を出す)が挟まれた“Cold Beat”の熱狂を一旦リセットするような、クールで、どこか物悲しいイントロで始められた。“Asobi”だ。≪遊び足りない≫というリフレインが強調される曲だが、今日の“Asobi”は、上モノとビートの整合性がとられ、まるで1つの美しい塊のようなフォルムだった。大半を人力で演奏するテクノとして、こんなに粗がなく、そつがなく、美しいのって、驚異的だと思う。全員の演奏力の高さももちろんだけど、この曲の進化に関しては向井秀徳の頭にある設計図が途方もなく優れているがゆえの凄さが勝っているのではないだろうか。そうでないと、「格好良く」はなっても「美しく」はならないと思う。これまで何度思ったか分からないけれど、改めて底知れない。この男は。そんな、ファン冥利に尽きる余韻を残した1時間だった。
雅-MIYAVI-が登場したのは8時26分。服装は上下黒の無地で、『WHAT’S MY NAME』のジャケット写真でも印象的だったあの長いちょんまげを落とした(その理由を雅-MIYAVI-はtwitterで「もっと演奏に集中できるかなと思って」とつぶやいている)シックな装いだ。サポート・ドラムのBoBo(54-71)が少し遅れて現れ、“WHAT'S MY NAME?”が演奏される。この曲の格好良さも、雅-MIYAVI-のバカテクも知っていたつもりだったのに、最初のリフから、ぶッ飛ばされた。とにかく1小節ごとの音の密度、情報量が尋常ではない。1人で同時にメロディを奏で、ノイズを出し、グルーヴを叩き出す。まさに「一騎当千」という言葉が浮かぶ光景だ。すげぇ。BoBoのドラムは、ZAZEN BOYSの松下敦のときと比べてバスドラの音量がデカく感じたが、ギターとドラムだけ、という編成ゆえの低音を補うセッティングだったのかもしれない。それもあり、全体の音像としても、2人だけで十分、をあっさりクリアした上で、2人だけだからこそ明確にそれぞれの凄さが分かる、という絡み合い方をしている。まだ1曲目なのに何度も思ったので何度も言うが、すげぇ。
最初にフロアが沸点を迎えたのは、3曲目に演奏された“SURVIVE”。コーンと80sディスコ・ソウルを有り余るセンスとテクニックで無理矢理混血したようなヘヴィなのに踊りやすいキラー・チューンだが、そこに生のダイナミズムが加わることで、抗いようのないくらいキャッチーなダンス・アンセムになっている。もはや、兵器。最初のサビに入った頃、自分の隣で見ていた、セット・チェンジの間中ずっと松下敦の話をしていた2人組(ZAZENのファンなのだろう)が、「やばっ!」と言って前に走っていったのが印象的だった。それだけ、伝達速度に優れた曲なのだと思う。これからもライブ・セットの中で重要な1曲になっていくのではないだろうか。
この日は新曲が3曲も披露され、且つどれも今すぐリリースできそうなハイ・クオリティなものだったが、中でも8曲目に演奏された新曲が特に頭に残った。『Parade』くらいの時期(つまり、絶頂期)のプリンスを彷彿とさせる、音の隙間を効果的に配したファンク・ナンバーだったはずが、曲の後半で雅-MIYAVI-のギター・ソロに入ると徐々に空間を捻じ曲げるようなスペーシーでサイケデリックなサウンドが場を支配していく。前半と後半のサウンドのギャップ、また、ファンクはとにかくファンキーに、サイケはひたすらぐわんぐわんに、といったそれぞれの徹底したアレンジが、雅-MIYAVI-のミュージシャンとしてのボキャブラリーの豊富さを改めて物語っていたように思う。
本編も終盤に差し掛かる頃、吉田一郎がステージに招かれた。演奏されるのはもちろんepでコラボした“WHAT'S MY NAME?”、なのだが、その前に挨拶代わりといった感じで行われたセッションが壮絶だった。雅-MIYAVI-と吉田一郎が額をこすり付け合いながら交す、超高速のスラッピングの応酬。まるで、逆刃刀を持ったサムライとへヴィ級のボクサーが、音で殴り合っているみたいだった。そんなセッションから移行するのだから、“WHAT'S MY NAME?”もヒート・アップしないわけがない。のっけから圧巻のグルーヴ。吉田一郎にメインのリフを任せ、雅-MIYAVI-はソロを弾き倒すというアレンジなのだけど、その中でも吉田一郎は雅-MIYAVI-にただ合わせるだけという感じは全くなく、隙あらば自分が主導権を握るぞ、というような緊迫感を漂わせていた。BoBoと2人での演奏時と比べると、めちゃくちゃ異物感があり、それがとても面白く、格好良かった。それを狙っての人選だったのではないか、そう思えるくらいに、素晴らしいバトル(もう、こう呼びたい)だった。
“FUTURISTIC LOVE”で本編を締めた後、雅-MIYAVI-コール(黄色いだけでなく、茶色い、明らかに男の声も混じっていたのが、今日のライブの素晴らしさを物語っていたのではないか)に導かれ始まったアンコールで演奏されたのは、今日2度目の“SURVIVE”!曲ならばいくらでもあるはずなのに、この最高のダンス・ナンバーを最後にもう1度持ってきてくれたのはやはり、この祝典に来てくれた全員を祝福したい、という意思が働いてのことだったのではないだろうかと思う。それに呼応してか、終演後のフロアは疲れの色以上に、幸福そうな表情で溢れていた。(土屋文平)
<セットリスト>
ZAZEN BOYS
1.RIFF MAN
2.SI・GE・KI
3.Honnoji
4.Himitsu Girl’s Top Secret
5.SEKARASIKA
6.Whisky & Unubore
7.Kimochi
8.Cold Beat
9.Asobi
雅-MIYAVI-
1.WHAT’S MY NAME
2.UNIVERSE
3.SURVIVE
4.新曲
5.CHILLIN' CHILLIN' MONEY BLUE$
6.MOON
7.新曲
8.新曲
9.S.M.F.B
10.WHAT'S MY NAME? (w/吉田一郎)
11.FUTURISTIC LOVE
アンコール
SURVIVE