サンタナが1969年に発表したファースト・アルバムである。かのウッドストック・フェスティバル出演の2週間後にリリースされた本作は、全米チャート4位という大ヒットとなった。メキシコ人の血を引く情熱のギタリスト、カルロス・サンタナのクラーベのビート感覚を活かしたラテン音楽のグルーヴ、もとは「サンタナ・ブルース・バンド」と名乗っていたころからの粘っこいブルース・フィーリングが渾然一体となった「ラテン・ロック」という新しいジャンルの確立だった。
その歴史的ファーストのサラウンド・バージョンがこれ。70年代初頭に様々な規格が出回った4チャンネル・レコードのひとつとしてリリースされたもので、そのマルチ・チャンネル音源をリマスターし、ハイブリッドSA‐CD盤に収めたものだ。通常の2チャンネル・ステレオ音声なら普通のCDプレーヤーでも聴けるが、もちろん目玉は、当時クアドラフォニックと言われたサラウンド音声だ。リアにパーカッション類とオルガン、フロント2チャンネルにギターやベース、ボーカルなどが定位しており、さながらバンドのリハーサル・スタジオに紛れ込んで、演奏するメンバーに囲まれて聴いているような聴取体験だ。当時のサンタナは『キャラバンサライ』の時の流れるような洗練されたサウンドとはほど遠い、ワイルドで荒々しくプリミティブな音なので、よってたかって音で袋だたきにされるような体験はなかなか面白い。
とはいえ、この貴重なバージョンが、きわめて限られた再生環境でしか聴けないのは残念。ぶっちゃけサラウンド環境はあってもSA‐CDマルチ・チャンネル盤が再生できるプレーヤーを持ってる人なんて、一部のマニアを除いてほとんどいないはず。せめてブルーレイで出して欲しかった。 (小野島大)
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