『VICTERA PETA』が“次のJ-POP”を掲げる意味 メジャーレーベルとして熱狂的なシーンを捉える大切さ
“次のJ-POP”を標榜する、新しい音楽イベントに注目が集まっている。ビクターエンタテインメントの若手社員が立ち上げた『VICTERA』という企画で、ユース層に人気のハイパーポップに焦点を当てたライブイベントを昨年8月に開催。4s4kiやSTARKIDS、Mega Shinnosukeといった面々が出演し、大きな盛り上がりを見せた。来たる3月19日には第二回目となるイベント『VICTERA PETA』を、Veats ShibuyaからLIQUIDROOMに場所を移し開催予定。会場のキャパシティが一段と大きくなったことからも、いかに熱狂の渦が広がっているかがわかるだろう。さらに、ハイパーポップを中心にラインナップを組んでいた前回から進化し、今回は(sic)boyやSTARKIDSに加えlil soft tennisやSATOHなど“次のJ-POP”を捉えた充実した出演者を揃えている。
小規模のイベントが数多く開催され、シーンとしてはこの上ない盛り上がりを見せているものの、メジャーのレコード会社はこのようなジャンルのイベント企画に消極的だったからこそ、今回のビクターの仕掛けは非常に面白い。このライブイベントはどのように立ち上げられ、この先どこへ向かおうとしているのか。イベントをプロデュースするビクターの若手社員・篠塚佑輝氏と、前回『VICTERA』でパフォーマンスし、3月19日の『VICTERA PETA』にも出演予定のlevi(STARKIDS)による対談取材を行った。実は、篠塚氏はハイパーポップやオルタナティブヒップホップのシーンで活躍するビートメーカーとしての顔も持つ。同世代でありながら、それぞれ異なる立場で現場を盛り上げている二人の対談をお届けしよう。(つやちゃん)
ハイパーポップへの注目から芽生えた新しいイベント
――まず、『VICTERA』を立ち上げた経緯を教えてください。
篠塚佑輝(以下、篠塚):数名の社員が社内副業という形で手を挙げて、私含め『VICTERA』チームというのが立ち上がりました。もともとビクターでは『ビクターロック祭り』というフェスを長年開催してるのですが、固定のメンバーでやっていたところに新しい風を吹かせるために若手が数名加わったんですね。今度は、その若手で新規のイベントも立ち上げようという話になって、そこでやってみたのが『VICTERA』でした。おかげさまで初回が大盛況だったため、第二回の開催も決まったという流れになります。
――ビクター主催の若い人向けのイベントがない、という課題もあったんですか?
篠塚:そもそもイベント事業自体に精力的に取り組んできたわけではないので、もっと増やしていきたいというのがありますね。あと、いわゆるメジャーレーベルがやるロックフェスというのは今までも多く開催されている中、そうではないジャンルの可能性を探ってみたいという思いがありました。それもあって、初回はハイパーポップにトライしてみた形です。
――ちなみに『VICTERA』というイベント名にはどういう意味があるんですか?
篠塚:めちゃくちゃいろいろ考えたんですけど、結局、字面で決めちゃいましたね。ビクターの「VIC」とテラバイトの「TERA」を組み合わせました。
――初回でハイパーポップに焦点を当てたのはなぜでしょう?
篠塚:まずは、その界隈の方々と繋がりがあったから、というのが理由ですね。私はもともとビートメイカーとして活動していて、それこそleviくんの楽曲も制作させてもらってたりするんですよ。それに、客観的に見てもハイパーポップって今すごく勢いがある。“次のJ-POP”って、サウンド的には何でもありだと思うんです。定義らしい定義って“JAPAN”しかなくて、音楽性は何でもいい。そう考えると、次のJ-POPになるのはハイパーポップだったりするのかなと思っています。
――なるほど。ハイパーポップというのが決まってからは、すぐにSTARKIDSはじめアーティスト側に説明してブッキングに動いていった感じですか?
篠塚:そうですね。leviくんもよく知っていたので、STARKIDSには一番最初に相談したと思います。
levi:そうなんだ! 嬉しい。自分たちはジャンルにとらわれずに音楽活動をやっているつもりだけど、そういった定義がひとつあるとやっぱりお客さんにとってはわかりやすいよね。それによって、自分たちが今までイメージしてなかった空間が作れているのは確かです。
篠塚:でも、STARKIDSとしては自分たちでハイパーポップと言っているわけではないでしょ? というのも、ハイパーポップって括られるのを嫌がるアーティストさんも結構いるじゃないですか。それは今までも身近なところで感じてきたし、だからこそ今後は“次のJ-POP”というところにもう少しイベントのテーマを広げていきたいと考えました。一回目はある程度わかりやすくするためにハイパーポップとしたけど、もう少し広げていってもいいのかなと。
――それはありますよね。ハイパーポップのイベントをメジャーレーベルがやるという点でも結構難しさがあったんじゃないかと思います。そのあたりについては、いかがでしたか?
篠塚:内向きと外向きの話が両方あって。まず内向きの話だと、そもそも社内でハイパーポップと言って言葉の意味が通じる人がそう多くはない状況でした。その中でまずは第一回を開催したことによって、だいぶ浸透したところはあると思います。外向きの話だと、「ビクターがやるんだ」とか「意外だね」という声は確かにありました。でも、他のメジャーレーベルがやってないことをやるっていうのは大事なことだし、そこでビクターの名前を出さずにやるのは面白くないと思ったので。「ちゃんとメジャーレーベルもここを見てるよ」というメッセージを伝えるためにも、しっかり名前を出してクオリティの高いものを作っていく必要がありました。そうじゃないと(アーティストたちに)認めてもらえないから。だから、クリエイティブも含めて気を遣いました。
ハイパーポップやヒップホップの現場に宿る高い熱量
――アートワークは前回も今回もtovgoさんですよね。
篠塚:そうですね。
――一方で、今ハイパーポップやオルタナティブヒップホップ系のイベント/パーティは小規模のものが乱立している状況です。それらとの差別化を図るという点で、意識したことはありますか?
篠塚:実は私はクラブイベントよりもどちらかというとバンドのライブとかによく行くんですけど、自分のビートメイカーとしての関わりで行った時に、このジャンルのイベントは転換がなく、ノンストップで続いていくスタイルがすごくいいなと思ってたんですよ。反対に、ロックバンドの公演にある“ライブ感”も、それはそれでカッコよくて。というわけで、クラブイベントのノンストップ感とロックバンドのライブ感、その両方のエッセンスを融合させようと考えました。そこが差別化のポイントかなと思います。転換があるアーティストも置きながら、基本的にはノンストップ感を重視して釘づけになってもらうという作り。とにかく来てもらえれば、何を観ればいいかがわかるし、ずっと楽しめる作りにしています。あとは、ブッキングですね。“次のJ-POP”を掲げているので、どこかにJ-POP要素を感じるアーティストに声をかけています。
levi:ハイパーポップって、コロナ禍にさらに盛り上がり始めた刹那的なムーブメントだと思うんですよ。でも、『VICTERA』はただ刹那的なだけじゃないイベントになっているなと感じます。不安定なところでみんながやっていると思うので、そうじゃない形に作り上げてくれている。しかもLIQUIDROOMって……!
篠塚:こういうジャンルだと、LIQUIDROOM規模はなかなかないよね。
――会場を広げたということは、昨年の一回目の時点で手応えがあったということですよね。
篠塚:熱気が異常でした。ワンフロアにこだわったんですけど、みんなが釘づけになって熱気が高まっていった感じですね。
levi:アーティスト側の雰囲気もすごく良くて。出ているアーティストが知り合いばかりで、ライブはもちろんだけど、楽屋もすごくいいムードだった。本当に楽しかったです。
――逆に、次回に向けて改善点だと感じたところはありますか?
篠塚:来てくれたお客さんの体験として、ライブを楽しむ以外のものももっと作れたらいいなとは思いました。ファッションが好きな人も多いだろうし。あと、おこがましいですけど、来てくれた人の自己肯定感が高まる場になればいいなと思っていて。次回は会場限定で使えるSNSサービス(KLEW)も導入します。自分の好きなことを共有したり、コミュニケーションを取ったり。
――あと、一人でも行けたらいいですよね。
篠塚:そうですね。メジャーレーベルがやる意味って、そういうところにもあると思うんです。安心感を持って来てもらいたいですね。初回は、もちろん若い人が多かったんですけど、意外に幅広い世代の方々にご来場いただいて。たぶん、ハイパーポップ系の音楽が今まで気になってたけど足を運べていなかった人もいたと思うんですよ。
――leviさんとしては、次回に向けてSTARKIDSがパワーアップする点はどこでしょう?
levi:STARKIDSって、今までずっとバイブスでやってきてたんですよ。そこを、ちゃんと聴くところは聴かせて、盛り上げるところは盛り上げて、というメリハリをもっと作れたらなと思います。STARKIDS代表としてではなく、僕個人の意見ですけどね。場数をたくさん踏んだアーティストがたくさん出るし、みんなクオリティの高いライブをすると思うので、STARKIDSもレベルをもう一段階上げていきたい。自分は結構ハイパーポップやヒップホップのライブに遊びに行くんですけど、みんな15分しか持ち時間がない中で、お客さんを振り向かせるために本当に命かけてやってるじゃないですか。あれはすごいですよね。だからシーンとして進化してるんだと思う。
篠塚:わかる。今、本当にお互いが切磋琢磨してる感じがするよね。