ゆず、“図鑑”のページをめくるような音楽体験 横浜アリーナ最多公演数を記録・更新したツアーを観て
昨年7月に2年ぶりのアルバム『図鑑』をリリースしたゆずが、ツアー『YUZU ARENA TOUR 2024-2025 図鑑 Supported by NISSAN SAKURA』を開催。2月18日、19日、22日~24日に本編ファイナルとなる横浜アリーナ5days公演を行った。昨年10月にスタートし、約5カ月に渡って開催されてきた本ツアー。横浜アリーナはゆずの地元である横浜の会場であり、5daysの初日18日には横浜アリーナで80回目という最多公演数を記録した。記念すべき81回目、19日の公演の模様をレポートする。
ライブはアルバム『図鑑』と同じ、「Overture -harmonics-」「図鑑」という2曲で幕を開けた。ステージ後部全面を覆い尽くす巨大なビジョンには、アルバム『図鑑』のアートワークから今回のツアー演出まで手掛けたフラワーアーティスト・東信氏が主宰するクリエイション集団「AMKK」による「EXOBIOTANICA3 -Botanical space flight-」とコラボレーションした映像が映し出された。これは地球で育った植物が宇宙へと飛び出し、再び地上に帰還するまでの一連を記録するインスタレーション作品で、2024年9月に、アメリカ・ネバダ州のラブロック砂漠から3度目の打ち上げが行われた。その際のドキュメント撮影と同時期に北川悠仁が単身LAへと渡り、本映像を撮影。植物を乗せて大空を舞う気球や、北川が雄大な砂漠でひとり歩き、高地でギターを鳴らす様子などが、ストリングスを交えた美しいサウンドと共に映し出され、青い地球という星の大きさに圧倒される。「図鑑」はそんな壮大さを歌いながら、〈覚悟決めて dive〉から熱く激しい展開になり、叩きつけるような雨や雷が轟く映像によって、大自然への畏怖までもが表現されたように思えた。ワークウェアのようなデザインの、デニム調の衣装を身に纏った北川と岩沢厚治の2人。ツアー『図鑑』を完成させるためのフィールドワークが、今始まった。
この日は、アルバム『図鑑』以外からも様々な楽曲が披露された。2015年のナンバー「かける」では、北川が「ヨコハマー!」と声を掛け、力強い歌声が会場に響いた。「元気ですかヨコハマ、みんなの声を聴かせてください!」と呼びかけ、コール&レスポンスで始まった「RAKUEN」は、2022年のアルバム『SEES』収録の楽曲。北川は歌いながら花道を歩き、会場を巻き込んでいく。
「81回目の横浜アリーナ公演、歴代アーティストNo.1。みんなのおかげです。ありがとう!」と、まずは感謝を述べた北川。さらに本ツアーについて、「フラワーアーティストの東信さんとコラボしたステージや演出を楽しんでいただきたい。タイトルの通り『図鑑』のページをめくるように、1ページずつ音楽を表現していくので、僕たちの『図鑑』の世界を、最後まで思い切り楽しんでください」とコメント。
「今回のツアーは冬を越えるツアー。年も越してきました。続いては懐かしい冬のナンバーを」と紹介して歌ったのは2002年のアルバム『ユズモア』に収録の「みぞれ雪」。「知っている人は一緒に歌ってください。知らない人は知ってるふりをしてください」と、ユーモアたっぷりにコメントした北川。アコースティックギターと岩沢のハーモニカが軽快に響くナンバー。2人が主メロを交代しながら、サビでは早口のメロディを歌う。まさしく“ゆず節”といった楽曲を、観客は手を揺らしながら一緒に口ずさんだ。続く1999年の「いつか」は、ピアノ一本をバックに歌い、徐々にストリングスなどの楽器が加わっていくスタイルで披露。ビジョンには雪が舞い散る映像が映し出された。
恒例の観客アンケートでは、どのアルバムからゆずのファンになったかを調査。中にはゆずのライブで出会い、北川のバースデー(1月14日)にプロポーズしたというカップルや、幼稚園の年長の時から母親に連れられてゆずのライブに通っているという親子など。この日も、年齢や経緯も実に様々な観客が訪れていたことに、笑顔をほころばせた2人だった。
2000年のアルバム『トビラ』収録曲「シャララン」では、ストリングスチームがリコーダー演奏を披露し、歌詞に合わせて2人の幼少時代の写真が映し出されるなど、観客を楽しませ、その後はアルバム『図鑑』から立て続けに披露。ソリッドなロックチューン「つぎはぎ」では、〈音が止まって!〉という歌詞で音が止まる演出。フォーク調で始まり、Queenのようなコーラスやギターが展開し、電車が走る映像と共に届けた「SUBWAY」。その電車の車窓からまばゆい星空を臨むように披露した「十字星」。前半ラストには2003年の疾走感あふれる青春パンク調の楽曲「青」を披露。北川は「行くぞ!」と声をかけてステージを駆け回り、サビやラストのコーラスでは、観客も一緒に拳を掲げての大合唱となった。
中盤には、2人が各会場の近辺をドライブで散策する「ご当地図鑑」の映像、ゆりやんレトリィバァによる「伏線回収」の振り付け講座の映像が流れ、後半は2003年のアルバム『すみれ』収録の「スミレ」でスタート。ポップなメロディから、サビではちょっと和な感じに展開する同曲。北川は〈この手を離さないで〉という歌詞で、カメラに向かってウィンクするサービスも。
一転、パフォーマー(FLOWER PERFORMERS)によるダンスと、ビジョンに映し出されたアルバム『図鑑』の花のアートワークによって、幻想的なステージを展開した「花言霊」からは、圧倒的なパフォーマンスで、ステージから目が離せなくなった。同じくアルバム『図鑑』アートワークからヒナゲシが登場して届けられたのは、2008年のアルバム表題曲「ワンダフルワールド」。壮大なスケール感が会場を覆い尽くし、夕焼けのようなオレンジのライトが2人を包み込む。最後の大合唱と北川の絶唱が、エモーショナルに感情をかき立てた。そこから続いた「栄光の架橋」では、大きな感動を呼び起こす。「カモン、ヨコハマ!」の掛け声に、観客は体を揺らしながらの大合唱で応えた。同曲を歌い終え「『栄光の架橋』が完成した日、嬉しくて伊勢佐木町の街に出て、バレないようにそっと歌ったんです」と思い出を語り、「時が経ちまた横浜の街で『栄光の架橋』を歌えて幸せです」とコメントした北川に、会場からは惜しみない拍手が贈られた。