熱心な時代劇ファンというわけではないのだが、これだけは特別と思えるのが中村吉右衛門主演のドラマ『鬼平犯科帳』だ。
江戸情緒たっぷり、鬼平が粋でカッコいい…… などなど、このドラマの魅力をいうときりがない。とはいえ、一番の魅力は、時代劇にありがちな勧善懲悪におさまらないところではないだろうか。
何しろ、ほんとうの主役は、鬼平ではなく盗賊なのではと思えるくらいに彼らを多面的に描いているのだ。
鬼平の名台詞に「人間(ひと)とは、妙な生きものよ。悪いことをしながら善いことをし、善いことをしながら悪事をはたらく」というのがある。
あぁ、そうだよね、私だって、電車で席譲ったけど、その前は人を押しのけて座ろうとしたし…… なんて、盗賊を見ながら、自分の行動をふと振り返ったりする。
そして、吉右衛門版鬼平の魅力を語るうえで、欠かせないのがエンディング。
四季折々の江戸の風景を見せながら、バックに流れるのはジプシー・キングスの「インスピレイション」。
哀感たっぷり、むせび泣くようなラテンのギターが、江戸の春夏秋冬に見事にハマる。余韻に浸りながら、あぁ、いいドラマ見たなぁという思いを深めてくれる。
普通ならしっとり歌い上げるバラードや演歌を選びそうなところ、ラテンギターのインストを選ぶなんて、ほんとセンスよすぎ!
2017年に鬼平ファン必読の書、制作スタッフの鬼平裏話が満載な『ドラマ「鬼平犯科帳」ができるまで』(春日太一著、文春文庫)が刊行された。その中に、プロデューサー2人の対談が収録されていて、エンディングテーマがなぜ「インスピレイション」になったかにも触れられている。
もともとは、池波正太郎がラテンのギターが好きだったのがきっかけという。第1シリーズを見て、吉右衛門鬼平を絶賛したという池波先生、きっとこのエンディングについても、満足だったに違いない。
1989年から連続ドラマとしてスタートし、途中からは年1本のスペシャル版として放送されていた鬼平だったが、それも2016年末に終了した。
でも、時代劇チャンネル等が繰り返し再放送しているせいか、鬼平は終わってなんかいない、今も江戸で生きているって、私には思えるのだ。それに、現代劇をあとで見ると、古さを感じてしまうことがあるが、時代劇だとそもそもが昔を描いているから、逆に古びない気もする。
ひとつ心配がある。
視聴率が低迷するフジテレビが、キャストを変えて新・鬼平をつくろうとしないかってこと。テーマ曲もキャストも、吉右衛門版は完璧なんだもの。
新キャストで鬼平に新たな魅力を…… なんて、くれぐれも考えないでほしい。
ほんと、頼みます。
※2017年5月26日に掲載された記事をアップデート
2019.05.22
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