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ビジネスパーソンインタビュー
「認知症の人をイジるのは、悪じゃない」レギュラーはいま、介護の現場で奮闘していた

“あるある探検隊”での大ブレイクを経て…

「認知症の人をイジるのは、悪じゃない」レギュラーはいま、介護の現場で奮闘していた

新R25編集部

2018/12/26

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「あるある探検隊」で一世を風靡したお笑いコンビ・レギュラー。当時まだ小学生だった私も、学校の休み時間に隙あらばみんなで真似をして遊んでいました。

そんなレギュラーのお二人は現在、老人ホームなどの介護施設でネタを披露したり、学生向けに介護について講演をしたりと、「お笑い×介護」という切り口で介護業界を大きく盛り上げています。

今回は、お笑いの世界に生きるお二人だからこその熱くやさしい言葉で、何かと暗いイメージを持ってしまいがちな「介護の世界」についてお話いただきました。

〈聞き手:ライター・サノトモキ〉

【レギュラー】左=松本康太(まつもとこうた)、右=西川晃啓(にしかわあきひろ)

きっかけは、次長課長河本さんのボランティア活動

サノ

お二人はそもそも、どうして介護の世界に興味を持たれたのでしょうか?

松本さん

まず、おじいちゃんおばあちゃんウケが圧倒的によかったというのがあります。

ブレイクしたときもぼくらを笑ってくれるお客さんって、子どもかお年寄り。女子高生とか、そういう若い真ん中の層がごっそり抜けてて。

サノ

芸人さんとしては、「若い女性にキャーキャー言われたい」みたいなのはなかったんですか?

松本さん

そりゃありますよ!

ぼくらも、一応西川くんが「男前担当」として売ってたんですけどね。

西川さん

いや、男前度が弱すぎるやろ!

阿吽の呼吸

松本さん

一番のきっかけは、河本さんに岡山の老人ホームに連れていってもらったことですかね。

サノ

え、次長課長の河本さんですか?

松本さん

そうです。河本さんは、「不正受給の件で地元の人たちに迷惑をかけたから」と今でも月に一回ボランティアで岡山の施設をまわっているんですよ。それに僕も誘ってもらって。

そしたら、介護施設でものすごくウケたんです。河本さんにも「向いてんちゃう?」と言ってもらって、自分たちの強みにあらためて気づきました。

西川さん

そこで、何が失礼で何が失礼でないか、そういうことを知らないままじゃ気持ちよく笑ってもらえないから、きちんと介護のことを勉強したいなと思ったんです。

それで2014年に、介護職員初任者研修の資格を取りました。

サノ

そんな経緯があったんですね…全然知りませんでした。

「放火犯はお前や!」介護施設での漫才は、“意外な爆笑”が生まれることも

松本さん

とはいえ、介護職員の資格を取ったはいいけど、それを活かせる場がなかなかなくて悩んでいたところに、「レクリエーション介護士」という資格があるとお話をいただいたんです。

サノ

どんな資格なんでしょうか?

松本さん

簡単にいえば、「施設で利用者さんの前に立って、皆が楽しめることをする」という資格です。手品が得意な人は手品でもいいし、中国語でも、ネイルでもいい。

老人ホームで過ごしている人って、朝ご飯食べたら昼ご飯まではぽっかり時間が空くんですね。「余暇時間」がめちゃくちゃあるんですけど、身体が不自由だとできることも限られてしまうので、楽しみがない

そこで、介護士が施設を訪ねて、「余暇時間を創りなおし(リ・クリエーション)、生きがいを作り出す」んです。

西川さん

僕らも、「これだったら“お笑い×介護”ができるぞ」となったんですよ。それが1年前くらいかな。

それからは、施設で1時間ほどの芸や漫才をしています。

サノ

なるほど…

あまり想像できないんですが、介護施設でお笑いをやるってどんな感じなんですか?

西川さん

それがね、面白いんですよ。認知症の方とコミュニケーションを取ってうまくいくというか、面白くなることってたくさんあって。

たとえば、認知症が進んだおじいちゃんに「今までで一番苦い思い出はなんですか?」と聞いたら、「家に放火された」と言うんです。

ええ…

西川さん

で、「えらいこと聞いてもうたでー、犯人見つかったんですかー?」と掘り下げてみたら、松本くんを指さして、「犯人はお前や!!」と言ったんです。

松本さん

本気で僕やと思い込んでいるんですよ

そこで、「やったんか、松本くん!」「いや、西川くんそのとき一緒にお笑いの大会出とったやんか!絶対勘違いやで!」と二人で切り返したら、ものすごくウケたんです

サノ

なるほど…

松本さん

ほかには、「今まで行ったなかで一番楽しかったことはどこですか~?」っていう話をしてたら「京都!」っていうおばあちゃんがいたんです。「京都はすごくいいところだったわ」って。

僕らも京都出身ですから、これは“拾える”話やなと思って、「京都はどこがよかったですか? 清水寺?」ときいたら…

サノ

どこだったんですか?

西川さん

パチンコ!」って。

西川さん

しかもですよ、「そんなに楽しかったなら、もしかして勝たれたんですか…!?」ってきいてみたら、一言「忘れた!」って。

そんなん、面白すぎるじゃないですか。お笑いとしてのレベルがめっちゃ高い(笑)

会場大爆笑ですよ。

サノ

たしかにフリからのオチがきれいすぎる…(笑)

でも、それって…笑っていいんでしょうか…?

勝手なイメージですけど、お年寄りであったり、認知症の方のことって、笑ったりしちゃいけない空気感があるような気がするんですが。

西川さん

たしかに、「笑うのは非常識」みたいな空気は感じます。

でも僕らは、介護現場でも面白いことは面白いと笑っていいと思うんですよ

松本さん

「介護の現場では、かわいそうだから笑ってはいけない」というのは、間違っていると思うんです。

たしかに身体が不自由な人や認知症の人たちは、間違うことや、おかしなことを言ってしまうこともあります。

でも、決して「かわいそう」ではない。本人たちは普通に言っているのに、まわりが「これはかわいそうなことなんや」と決めつけて、隠そうとするほうがかわいそうやと思うんですよね。

サノ

たしかに、僕らが勝手にレッテルを貼っているだけなのかもしれない…

西川さん

そうやってウケたときは、僕らが帰るのを車椅子でわざわざ見送りに来て、泣きながら「また来てね」って言ってくれる人もいる。

スタッフさんにも「あの方があんなに笑ったりしゃべったりしたの、はじめてです。ふだんは自分の話を一切しないのに」なんて言ってもらえて。

ちゃんと笑いをつくれれば、通じると思うんです。僕らとしても、普通に漫才やってるときとは全然違ううれしさみたいなものがありますね。

介護施設ならではの難しい状況もあるが…「技術で笑いに変える」

サノ

逆に、やっぱり介護の現場だからこそ難しく感じる側面もあるんでしょうか…?

松本さん

もちろん本音をいえば…辛いこともたくさんありますよ。

認知症の方が状況を理解できずにネタ中に騒いでしまうことがあるんですけど、場の空気をなんとかしようと話しかけてみたら、泣き叫ばれてしまったり、本気で怒鳴られてしまったりしたこともありました。

サノ

それは想像するだけで辛い状況ですね…

なぜ、あえて話しかけていったんでしょうか?

松本さん

だって、僕らが無視していたら、その人が悪者みたいになっちゃうじゃないですか。

西川さん

笑いにしてあげるほうが、愛やと思うんです。そこは、お笑いとの共通点でもあって

若手が舞台でスベる。その失敗を、MCの先輩がイジって面白くする。「ホンマお前おもんないのお」は、イジメじゃないんですよ。

「失敗を面白く変える」っていう笑いの技術に、人は救われるはずなんです

サノ

なるほど、「認知症だから」と気を遣いすぎずに、「失敗をイジって面白くする」ほうがいいと。

松本さん

でも、これは正直、ものすごく難しい部分でもあります。それを「笑いものにされてる」と感じる人もいますからね。

本人が「おいしい」と思えるなら「お笑い」だけど、少しでも嫌な気持ちを感じたら「いじめ」になってしまう。

お笑いってほんとうに難しいんですけど、でも、そこをなんとか成功させるのが、僕たちプロの芸人の仕事なのかなと

西川さん

利用者のみなさんも、うまくできなかったり、思い出せなかったり…失敗があっていいと思うんです。

僕たちもスベッたり失敗したりするし、それで一緒に、ものっそい笑いを作っていきたい。

まわりにいるスタッフや家族も笑わせたい

サノ

施設でやるにあたって、普段のネタとは内容を変えたりもするんでしょうか?

松本さん

もちろん変えます。

基本的には全部、利用者さんに身体や頭を使ってもらえる内容にしていて。「あるある探検隊」のネタで一緒に手の体操をしてもらったり、漫才でもお客さんを巻き込んで思い出を聞いたりします。

西川さん

気絶なんでやねん」っていうゲームもやってます。

僕が利用者さんの間を歩いてて、あるタイミングで突然“気絶”するので、一番近くにいた人が「なんでやねん!」とツッコむゲームです(笑)。

「アカン、西川くん緊張しすぎて、気絶してもうたーーー!!」が脳内再生されました

サノ

やってみたい! お年寄りの方だけじゃなくて、誰でも楽しめそうですね。

松本さん

その「誰でも楽しめる」という部分は、めちゃくちゃ意識しています

僕ら、施設でやるときは必ず利用者さんの周りにスタッフさんとか家族の方とか…できるだけたくさんの人にまわりにいてもらうんです。

それは、認知症が進んで状況を理解できないような方でも、まわりが笑顔になったら、笑顔になれるからなんです。

サノ

そういうものなんですね…

松本さん

それに、実際に介護をされている人たちは、僕らなんか足もとにもおよばないほど大変なこともたくさんあるわけですよ。

だからこそ、その場にいるみんなに楽しんでもらえるものを作りたいと思ってるんです。

介護の研修に、若い人が少ない。笑いを通じてもっと現場を伝えたい

サノ

ちなみに、お二人が実際に介護について学んでみて、意外だったことはありましたか?

松本さん

とにかくギャップを感じることばかりでした。

たとえば…サノさん、「介護の目的」って何だと思います?

目的…? なんだろう…

サノ

んんー、本人ができないことをまわりが代わりにやってあげて、生活を手助けすること、じゃないですか?(キリッ)

松本さん

違います

僕らも研修を受けるまでは、介護とは「助けてあげること」だと思っていました。手が不自由だったら、飲み物を飲ませてあげるとかね。でも、それは大きな間違いで。

介護って、「自立支援」なんです

サノ

自立支援…?

松本さん

介護の目的は、「自分でできるようになるために、支援をすること」なんですよ。

なんでもやってあげていたら、何もできない身体になってしまう。だから介護士は、「飲み物を飲ませてくれ」とお願いされても、できるだけ「頑張ろう」と励まして、身体を元に戻していったり、衰えを遅らせたりするんです。

そう考えたら、認知症の方にお笑いでボケたりツッコんだりしていろいろ考えてもらうことも、決して悪いことじゃないと思うんですよね。

サノ

介護は「リハビリ」のような役割だったんですね…

ほかにも意外だったことはありましたか?

西川さん

研修に僕らより若い人が2人くらいしかいなかったことにも驚きましたね。

ほかは皆50代とかで、その人たちが介護をするときには、当然60歳くらいの人が90歳くらいの親を介護する「老老介護」になっているわけですよ。

松本さん

だから僕らも、年配の方を笑わせるだけじゃなく、お笑いをクッションにして、若い人たちに向けて「介護って面白いんですよ」って伝えする橋渡しができたらな、と考えるようになったんです。

サノ

…きれいごとかもしれないですけど、お二人のお話を聞いて、「介護の現場で遠慮なく笑えるようになる」ってすごく大切なことだし、そこから介護業界の明るいイメージが広がっていったらいいなって思いました。

今日は、ありがとうございました!

取材後お二人は「あんまええこと言った感じにされても困りますよ! 芸人ですから!(笑)」と照れくさそうに笑っていましたが、どう書いてもええ感じにしかならないような、思いのこもったインタビューでした。

介護は、誰にとってもいつかは身近なテーマになります。そのいつかが訪れたとき、ぜひこの記事に記された、二人の芸人のやさしくあたたかな心持ちを思い出していただけたらうれしいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉

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