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膨張したリチウムイオンバッテリ、正しい処分方法は?家電量販店、スマホキャリア、メーカー、自治体に聞いてみた
2024年10月2日 06:17
リチウムイオンバッテリの正しくない処分方法が引き起こす発火事故は、大きな社会問題になりつつある。もちろん業界も手をこまねいているわけではなく、不要になったリチウムイオンバッテリ搭載製品の回収およびリサイクルのスキームは、急速に整備されつつあるのが現状だ。
もっともリチウムイオンバッテリが膨張しているなど、本体に何らかの異常があると、正規の回収方法が利用できない場合も少なからず存在する。このような場合における対応方法を明示しているメーカーは少なく、触れることに避けている印象すらある。ユーザーの側から見ると、どのような手続きを取るのが正しいのか、迷うこともしばしばだ。
今回はこうした、バッテリが膨張しているデバイスの処分方法について、各メーカーなどに取材を行ない、各社の対応について調査してみた。
(1) まずは膨張していない場合の回収方法を紹介
(2) その1:家電量販店
(3) その2:スマホキャリア
(4) その3:モバイルバッテリメーカー
(5) その4:ノートPCメーカー
(6) まとめ
まずは膨張していない場合の回収方法を紹介
本題に入る前に、膨張していない状態におけるリチウムイオンバッテリ搭載製品の正しい回収方法を、簡単にまとめておこう。
まずモバイルバッテリは、業界団体「JBRC」に加盟しているメーカーの製品であれば、家電量販店などの協力店に設置されているリサイクルBOXへ投入できる。非加盟のメーカーの製品は、メーカー自らが回収を行なっているケースもあるが、海外メーカーを中心に受付窓口が存在しないことも少なくない。
メーカーが回収を行なっていない場合、ベターなのは自治体ごとの回収方法に従って処分することだ。方法は自治体によって異なり、不燃ごみなどで出す場合もあれば、自ら処分場へ持ち込んだり、訪問回収を実施していたりと、特殊なスキームを用意している場合もある。ただし、すべての自治体が回収を行なっているわけではないのが厄介だ。
そのため、JBRC非加盟のメーカーの製品で、かつ自治体も回収を行なっていない場合、宙ぶらりんになる可能性もゼロではない。購入時になるべくJBRC加盟メーカーの製品を選んだほうがよいとされるのは、こうした事情によるものだ。詳細は以下のページにまとめているのでご覧いただきたい。
スマホやノートPCなど、バッテリを内蔵したデバイスについてはどうだろうか。スマホに関しては、キャリアのショップに持ち込むことで回収してくれる。ノートPCについては「資源有効利用促進法」によって、メーカーによる回収とリサイクルが義務づけられており、メーカーが窓口を用意しているか、もしくは業界団体であるパソコン3R推進協会経由で回収を受け付けている。
一方でこれとは別に、リネットジャパンをはじめとした「小型家電リサイクル法」にもとづく認定事業者による回収も行なわれており、こちらはメーカーを問わず回収してくれる。詳細は以下のページにまとめているのでご覧いただきたい。
いずれにせよ、分かりやすいか否かは別にして、バッテリを内蔵したデバイスの処分についてはスキームが整備されつつあり、何かしらの方法が用意されていることがほとんどだ。ただしバッテリが膨張しているなど何らかの異常を伴っている場合は、対象外となることも多く、現状の課題はこれといえる。
以上を踏まえて、膨張したリチウムイオンバッテリ搭載製品の回収方法について、編集部より質問票を送付し、返答のあった各社からの回答内容を紹介する。回答に協力いただいた各社にはこの場を借りて御礼申し上げたい。回答は以下の順で紹介する。
- 家電量販店
- スマホキャリア
- モバイルバッテリのメーカー
- ノートPCメーカー
- 自治体
その1:家電量販店
まずは家電量販店から。今回はヤマダホールディングス、ビックカメラ、上新電機の3社から回答を頂戴した。内訳は以下の通りだ。
回答が一律である理由は、各社とも前述のJBRCの会員企業であり、JBRCのルールに則って回収を行なっているからだ。JBRCでは「破損、水濡れや膨張等の異常のある電池」は回収対象外としており、それゆえ回答内容も同一になる。ほかの会員企業の対応も、おそらく同じになるだろう。
ちなみにJBRCの別のページでは「回収対象外電池の処分に関しては、メーカーまたは自治体にご相談ください」とも記されており、そちらに委ねられているようだ。続いてはそちらの対応について見ていこう。
その2:スマホキャリア
続いてはスマホキャリア。今回はドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイルの4社から回答を頂戴した。内訳は以下の通り。
回答内容は全社共通で、バッテリが膨張していても問題なく回収を受け付けるとしている。なおソフトバンクによると「iPad/Apple Watch/iPod/ACPC(Always Connected P)/Airターミナル/Surface/Chromebook/みまもりGPS/どこかなGPS/Google Pixel Watch」はリサイクル受付対象外とのことで、スマホ/ケータイに含まれないデバイスは例外となるケースもあるようだ。
その3:モバイルバッテリメーカー
続いてはモバイルバッテリのメーカー。今回はサンワサプライ、エレコム、オウルテック、Ankerの4社から回答を頂戴した。内訳は以下の通り。
「回収しない」という回答があったのはサンワサプライ。保証期間内に膨張した場合は対応するが、その場合もあくまで交換対応になるとのこと。同社はホームページでJBRCでの回収を推奨しており、正常動作品以外については自社では扱わない方針のようだ。
残る3社はメーカー自ら回収を受け付けている。ちなみに「配送業者の受付基準によっては、通常通り回収を行なえない場合があります(オウルテック)」とのことで、メーカーが窓口を用意していても、リチウムイオンバッテリの状態によっては、配送を断られる場合もあるようだ。これはおそらく同社に限らず、ほかのメーカーにも言えることだろう。
その4:ノートPCメーカー
さて最後はノートPCメーカー。今回回答を頂戴したのは、Apple、ASUS、Dynabook、GIGABYTE、LG、MSI、NECパーソナルコンピュータ(レノボ・ジャパン)、エプソン、サードウェーブ、デル、天空、日本HP、富士通クライアントコンピューティング(FMV)、パナソニック、マウスコンピューターの15社となっている。
今回はいずれも個人利用であることを前提に回答をお願いしている。またメーカーによってはバッテリが取外し可能なノートPCを取り扱っている場合もあるが、ここでは本体と一体化して取り外しができないPCのみと扱っている。
もっとも多いのは、(1)自社で回収(廃棄)するパターン(Apple、ASUS、Dynabook、MSI、NECパーソナルコンピュータ/レノボ・ジャパン、エプソン、サードウェーブ、デル、天空、富士通クライアントコンピューティング/FMV)で、次いで(2)回収業者を案内するというパターン(GIGABYTE、LG、日本HP、マウスコンピューター)で、後者の場合はパソコン3R推進協会を案内される場合がほとんどだ。
ただしこの(1)、(2)は明確には区別しづらい。というのも、自社が窓口となって受付を行ない、その結果として回収業者を案内するといった、二段構えのスキームとなっている場合もあるからだ。見た目は(1)だが実質的に(2)というわけである。
たとえばマウスコンピューターは、まず修理を依頼し、その結果として廃棄を選択した場合はリネットジャパンを案内しているとのこと。案内先がパソコン3R推進協会ではなくリネットジャパンなのは、同社がパソコン3R推進協会に加盟していないためだろう。最初に問い合わせる窓口は同社だが、実態は(2)に近いと考えてよい。いきなり回収を申し込むのではなく、修理ありきなのがポイントということになる。
エプソンも同様にまず修理ありきで、そうでないバッテリの回収は、膨張の有無とは関係なく行なっていない。同社はこれについて「お客様によるバッテリ取り外しは機材トラブルにつながる可能性があるため」、「バッテリにおいてもお客様の資産となるため、回収する場合は資産移動の手続きが必要であるため」という2つの理由を挙げている。ただし個別相談があれば自社回収も受け付けるとのことで、今回は(1)に分類している。
一方、これらとは回答のニュアンスが異なるのがパナソニックで、自社では回収を行なわず、自治体ないしは家電量販店での廃棄を推奨するとしている。前述のように家電量販店での回収はJBRCが行なっており、バッテリが膨張した状態での回収はNGのはずだが、このあたり見解の相違が見られる。
まとめ
最後に参考までに、編集部スタッフおよび筆者が居住する計3つの自治体に、膨張したモバイルバッテリについて回収可能かを尋ねてみた。
結論としては、いずれも膨張していない正常なモバイルバッテリと同じスキームで、回収を受け付けるとのことだった。不燃ごみなのか、それとも有害危険ごみといった特殊な区分なのかは自治体によって異なるが、少なくとも門前払いということはない。すべての自治体が同様の対応であれば、ユーザーにとっては心強いだろう。
まとめると、スマホの場合はキャリア、PCやモバイルバッテリは家電量販店もしくはメーカーに問い合わせ、そこで対応が難しければ自治体頼みというのが、基本的なスキームということになる。居住する自治体が幅広く回収を行なっているのが分かっていれば、最初から自治体に問い合わせるのもありだろう。
もっとも、現状では回収を受け付けていない自治体もあることから、「困ったら自治体へ」とひとくくりに結論づけるのは少々無理がある。また今回寄せられた回答の中には、JBRCで膨張したバッテリも回収可能というニュアンスで回答してきているメーカーも複数あるなど、社内でスキームが一本化できていなかったり、実際の検証が行なわれていないとみられる様子があるのも気になった。
いずれにせよ、リチウムイオンバッテリ搭載デバイスの増加によって、こうした膨張バッテリの問題は今後さらに深刻になるのは間違いなく、今後さらに取り組みが進んでいくことが期待される。一方のユーザーの側も、現状のスキームが完全でないからといって自己判断で正しくない処分方法を選択し、その結果として発火事故を引き起こすことがないよう、留意する必要はありそうだ。