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JP7585402B2 - 曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法 - Google Patents

曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法に関する。
近年、スマートフォンの意匠の自由度を高めるため、そのカバーガラスや筐体に、曲面形状を有するガラス部材が使用されはじめている。これらのガラス部材の製造においては、板状ガラスを熱加工することにより曲面形状を得ることが、製造コストの面で有利となる。また、これらのガラス部材は、外的要因による衝撃を受けても割れにくいことが求められている。このため、スマートフォンのカバーガラスや筐体のガラス部材に使用されるガラスは、高い機械的強度と優れた熱加工性が求められ、化学強化ガラスが多く選ばれている。さらに装飾の観点から様々な色に着色したガラスが要望されている。
特許文献1には、結晶化と共に曲面加工する化学強化ガラスの製造方法が記載されている。
特開2017-190265号公報
本発明の課題は、曲面形状を有する結晶化ガラス部材およびその製造方法を提供することである。特に、スマートフォンの筐体用途に適した、曲面形状を有する結晶化ガラス部材を提供することである。また、着色した曲面形状を有する結晶化ガラス部材を提供することである。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、従来より高温で熱処理することにより、矩形の板の4辺が内側に湾曲している形状へ変形させることができることを見いだし、この発明を完成したものであり、その具体的な構成は以下の通りである。
(構成1)
板状ガラスの温度を、板状ガラスの屈伏点(℃)をAtとしたとき、[At+40]℃を超え[At+146]℃以下の第1の温度域となるように調整し、前記板状ガラスから結晶を析出させながら、前記板状ガラスに作用する外力によって、前記板状ガラスの少なくとも一部を曲面形状に変形させる変形工程と、
を有する、曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法。
(構成2)
前記第1の温度域が、[At+50]℃以上、[At+145]℃以下の範囲である構成1に記載の曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法。
(構成3)
前記板状ガラスは、酸化物換算の重量%で、
SiO成分を40.0%~70.0%、
Al成分を11.0%~25.0%、
NaO成分を5.0%~19.0%、
O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、
TiO成分を0.5%~12.0%、
Fe成分を0~15.0%、および
CoO+Co成分を0~2.00%
含有する構成1または2に記載の曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法。
(構成4)
前記変形工程の前または後に、板状ガラスまたは変形した板状ガラスの温度を第2の温度域に加熱し、結晶を析出させる熱処理工程を有する構成1~3のいずれかに記載の曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法。
(構成5)
前記変形工程の後に、前記曲面形状を有する結晶化ガラス部材をイオン交換処理をして表面に圧縮応力層を形成するイオン交換処理工程を有する構成1~4のいずれかに記載の曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法。
(構成6)
矩形の板の4辺が内側に湾曲した曲面形状を有する結晶化ガラス部材であって、
前記結晶化ガラス部材は、酸化物換算の重量%で、
SiO成分を40.0%~70.0%、
Al成分を11.0%~25.0%、
NaO成分を5.0%~19.0%、
O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、
TiO成分を0.5%~12.0%、
Fe成分を0~15.0%、および
CoO+Co成分を0~2.00%
含有する結晶化ガラス部材。
(構成7)
前記内側に湾曲した部分の曲面形状が、曲面半径Rが1~12mmの曲面を有する構成6に記載の結晶化ガラス部材。
(構成8)
透明または不透明で、
無色、または黒色、青色もしくは白色またはこれらの混色に着色している構成6又は7に記載の結晶化ガラス部材。
(構成9)
表面に圧縮応力層を有する構成6~8のいずれかに記載の結晶化ガラス部材。
本発明によれば、曲面形状を有する結晶化ガラス部材およびその製造方法を得ることができる。
本発明の曲面形状を有する結晶化ガラス部材は、スマートフォンのカバーガラス、スマートフォンの筐体、時計のカバーガラス、車載用途に使われるHUD(ヘッドアップディスプレイ)用基板や近赤外線センサー用カバーガラス、自動車、飛行機等の輸送機械の内装部品、その他電子機器、機械器具等の部品として、好適に使用することができる。
本発明の結晶化ガラス部材が有する曲面形状の一例を示す斜視図である。 図1が示す曲面形状のA-A断面図である。 本発明の変形工程の態様一例を示す図であり、板状ガラスの断面が現れる方向から見た図である。(a)は変形前、(b)は変形後の図である。 本発明の変形工程の態様一例を示す図であり、板状ガラスの断面が現れる方向から見た図である。(a)は変形前、(b)は変形後の図である。 実施例において、結晶化ガラス部材の曲率半径を測定した位置を示す図である。 実施例において、結晶化ガラス部材の板厚を測定した位置を示す図である。
1 結晶化ガラス部材
2 成形型
3 ウエイト
4 押圧部材
C 曲面の近似円
G 板状ガラス
本発明の曲面形状を有する結晶化ガラス部材の製造方法は、板状ガラスの温度を、板状ガラスの屈伏点(℃)をAtとしたとき、[At+40]℃を超え[At+146]℃以下の温度域となるように調整し、前記板状ガラスから結晶を析出させながら、前記板状ガラスに作用する外力によって、前記板状ガラスの少なくとも一部を曲面形状に変形させる変形工程を有することを特徴とする。以下、本発明の製造方法について、詳細に説明する。
[板状ガラスを準備する工程]
板状ガラスを準備する。板状ガラスは非晶質でもよく、または結晶化していてもよい。
板状ガラスの組成は、特に限定されないが、好ましくは、酸化物換算の重量%で、
SiO成分を40.0%~70.0%、
Al成分を11.0%~25.0%、
NaO成分を5.0%~19.0%、
O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、
TiO成分を0.5%~12.0%、
Fe成分を0~15.0%、および
CoO+Co成分を0~2.00%
含有する。
本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算の重量%で表示する。ここで、「酸化物換算」とは、ガラス構成成分が全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総重量を100重量%としたときの、ガラス中に含有される各成分の酸化物の量を、重量%で表記したものである。
透明または白色の部材を製造するときは、Fe成分とCoO+Co成分を含まないことが好ましい。
黒色の部材を製造するときは、Fe成分とCoO+Co成分を含むことが好ましい。
青色から黒色(例えば深みのある青、黒みがかった青)の部材を製造するときは、CoO+Co成分を含み、Fe成分は含まないことが好ましい。
SiO成分は、より好ましくは45.0%~65.0%、さらに好ましくは50.0%~60.0%含まれる。
Al成分は、より好ましくは13.0%~23.0%含まれる。
NaO成分は、より好ましくは8.0%~16.0%含まれる。9.0%以上または10.5%以上としてもよい。NaO成分が多いと化学強化が強まる。
O成分は、より好ましくは0.1%~7.0%、さらに好ましくは1.0%~5.0%含まれる。
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上は、より好ましくは2.0%~15.0%、さらに好ましくは3.0%~13.0%、特に好ましくは5.0%~11.0%含まれる。MgO成分およびZnO成分から選択される1以上は、MgO成分単独、ZnO成分単独またはその両方でよいが、好ましくはMgO成分のみである。
CaO成分は、より好ましくは0.01%~3.0%、さらに好ましくは0.1%~2.0%含まれる。
TiO成分は、より好ましくは2.0%~10.0%、さらに好ましくは3.0%~10.0%、特に好ましくは3.5%~8.0%含まれる。TiO成分は、結晶化を容易とするため好ましくは1.5モル%以上、より好ましくは2.0モル%以上、さらに好ましくは3.0モル以上含むことが好ましい。
黒色の部材を製造するとき、Fe成分は、より好ましくは1.5%~12.0%、さらに好ましくは2.0%~10.0%含まれる。
CoO成分とCo成分は合わせて(CoO+Co成分は)、より好ましくは0.05%~0.80%、さらに好ましくは0.08%~0.50%含まれる。
青色から黒色の部材を製造するとき、CoO+Co成分は、より好ましくは0.05%~3.5%、さらに好ましくは0.10%~2.50%含まれる。
ガラスは、Sb成分、SnO成分およびCeO成分から選択される1以上を0.01%~3.0%(好ましくは0.02%~2.0%、さらに好ましくは0.05%~1.0%)含むことができる。
上記の配合量は適宜組み合わせることができる。
SiO成分、Al成分、NaO成分、MgO成分およびZnO成分から選択される1以上、TiO成分、Fe成分、並びにCoO+Co成分を合わせて90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは98.5%以上とできる。
SiO成分、Al成分、NaO成分、KO成分、MgO成分およびZnO成分から選択される1以上、CaO成分、TiO成分、Fe成分、CoO+Co成分並びにSb成分、SnO成分およびCeO成分から選択される1以上を合わせて90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上とできる。これら成分で100%を占めてもよい。
ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、ZrO成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。配合量は、0~5.0%、0~3.0%または0~2.0%とできる。
また、ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、B成分、P成分、BaO成分、SnO成分、LiO成分、SrO成分、La成分、Y成分、Nb成分、Ta成分、WO成分、TeO成分、Bi成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。配合量は、各々、0~2.0%、0以上2.0%未満または0~1.0%とできる。
ガラスには、清澄剤として、Sb成分、SnO成分、CeO成分の他、As成分、およびF、NOx、SOxの群から選択された一種または二種以上を、含んでもよいし、含まなくてもよい。ただし、清澄剤の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。尚、SOx(xは3等)は酸化還元が不安定であるためガラスの色に悪影響を及ぼす恐れがあるので、含まないことが好ましい。
ガラスには、上述されていない他の成分を、本発明の結晶化ガラス部材の特性を損なわない範囲で、含んでもよいし、含まなくてもよい。例えば、Nb、Gd、Yb、Lu、V、Cr、Mn、Ni、Cu、AgおよびMo等の金属成分(これらの金属酸化物を含む)などである。ただし、青色などの部材を製造するとき、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Ag、AuおよびMo等の金属成分(これらの金属酸化物を含む)は、それぞれを単独または複合して少量含有した場合でもガラスの色に影響を及ぼすため、実質的に含まないことが好ましい。
また、Pb、Th、Tl、Os、Be、Cl及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
板状ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を均一に混合し、混合した原料を白金製や石英製の坩堝に投入し、電気炉やガス炉で1300~1550℃の温度範囲で5~24時間溶融して、溶融ガラスとし、攪拌均質化する。耐火煉瓦製のタンク炉で溶融し、溶融ガラスとしてもよい。その後、溶融ガラスを適当な温度に下げてから、金型に鋳込むことでブロック状または、柱状に成形して徐冷する。
ブロック状または柱状に成形したガラスは、さらに熱処理して結晶化してもよい。この熱処理は、1段階でもよく2段階の温度で熱処理してもよい。
2段階熱処理では、まず第1の温度で熱処理することにより核形成工程を行い、この核形成工程の後に、核形成工程より高い第2の温度で熱処理することにより結晶成長工程を行う。
1段階熱処理では、1段階の温度で核形成工程と結晶成長工程を連続的に行う。通常、所定の熱処理温度まで昇温し、当該熱処理温度に達した後に一定時間その温度を保持し、その後、降温する。
2段階熱処理の第1の温度は600℃~750℃が好ましい。第1の温度での保持時間は30分~2000分が好ましく、180分~1440分がより好ましい。
2段階熱処理の第2の温度は650℃~850℃が好ましい。第2の温度での保持時間は30分~600分が好ましく、60分~300分がより好ましい。
1段階の温度で熱処理する場合、熱処理の温度は600℃~800℃が好ましく、630℃~770℃がより好ましい。また、熱処理の温度での保持時間は、30分~500分が好ましく、60分~300分がより好ましい。
板状ガラスの段階で結晶化させておくと、後の熱処理工程や変形工程において所望の結晶を得るための結晶化時間を短縮できる。
ブロック状または柱状ガラスは、切断加工、研削加工をすることにより、板状に成形する。または、攪拌均質化した後の溶融ガラスを、フロート法、スリットダウンドロー法などの方法を用いて、直接、板状に成形し、その後徐冷をすることで板状ガラスを作製してもよい。
[熱処理工程]
変形工程の前または後に、熱処理工程において、板状ガラスまたは成形ガラスから結晶を析出させてもよい。結晶化の温度(第2の温度域)は、通常、ガラスのガラス転移点をTg(℃)、屈伏点をAt(℃)とするとき、[Tg]℃以上[At+146]℃以下が好ましい。結晶化の温度に到達した後の保持時間は、好ましくは0~500分、より好ましくは0~400分、さらに好ましくは0~300分である。好適な第2の温度域は第1の温度域と同様であるが、第2の温度域や保持時間は、所望のガラス部材の結晶の量に応じて調整する。熱処理工程を設けることにより変形工程での結晶化時間を短くでき、または結晶化温度を低くできる。
白色の部材を製造するときは、結晶化温度を高くおよび/または結晶化時間を長くして、結晶化を進め白化してもよい。透明または他の色の部材を製造するときは、一般に結晶化が進むと色は濁るため、結晶化しすぎないように調整する。
[変形工程]
変形工程では、板状ガラスの温度を、板状ガラスの屈伏点(℃)をAtとしたとき、[At+40]℃を超え[At+146]℃以下の温度域(第1の温度域)となるように調整し、板状ガラスから結晶を析出させながら、板状ガラスに作用する外力によって、板状ガラスの少なくとも一部を曲面形状に変形させる。
上記温度域は、上限は[At+130]℃以下、[At+120]℃以下、[At+110]℃以下、[At+100]℃以下、[At+90]℃以下、または[At+80]℃以下とできる。下限は[At+50]℃以上、[At+60]℃以上、[At+70]℃以上、[At+90]℃以上または[At+100]℃以上とできる。
温度が低いと所望の曲面形状が得られず成形時に割れが生じる。温度が高いと、部材の板厚が不均一になり、成形型に融着したり、形状が変形したりする。
上記の温度域で成形することにより、例えば、長方形の4辺が内側に湾曲した形状の成形が可能となる。板厚をほぼ均一にできる。
透明なガラスを製造するときは、結晶化が進んで色が濁らないように調整する。温度域の上限は、[At+80]℃以下、[At+75]℃以下または[At+70]℃以下とできる。
変形温度への昇温速度は、特に限定されないが、昇温速度は速いほど好ましい。遅すぎると作業効率が悪くなる。
また、変形後の徐冷により、変形後の板状ガラスの歪を除去できる。降温速度は、好ましくは3℃/秒以上20℃/秒以下であり、より好ましくは5℃/秒以上15℃/秒以下である。この範囲であると、板状ガラス内部の歪を十分に除去でき、当該工程に係る時間が必要以上に長時間とならないため好ましい。徐冷が終了した後は、炉から板状ガラスを出し、室温まで自然放冷する。
板状ガラスの少なくとも一部を支持することにより、板状ガラスに外力が作用することで、板状ガラスが曲面形状を有するように変形できる。矩形の板の4辺が内側に湾曲している曲面形状(例えば、図1に示すようなスマートフォン筐体形状)を形成できる。矩形は概略長方形または正方形でよい。周囲の4辺は、好ましくは板状ガラスの底面の接線に対して70~110度(好ましくは70~90度)内側に曲がっている。底面の接線は、板状ガラスを平らな面にできるだけ左右対称になるように設置したときの接線である。
また、図2に示す湾曲部分の曲面に沿って近似円Cを想定したとき、この円の半径(曲面形状の曲面半径)R(mm)は、実施例記載の測定方法で、例えば1~12の範囲であり、好ましくは3~10、より好ましくは4~8である。
成形型で曲面形状を形成するとき、成形型も矩形の板の4辺が内側に湾曲している曲面形状を有する。板状ガラスはこの成形型の形状に沿って変形する。成形型のRと成形後の結晶化ガラス部材のRの差であるΔRの絶対値は、例えば0~7の範囲であり、好ましくは0~5であり、より好ましくは0~3である。
図3、図4は、板状ガラスに作用する力によって、板状ガラスが変形する態様を示したものである。
図3は、成形型2の上に板状ガラスGを載せ、板状ガラスGの上面に載せたウエイト(上型)3が板状ガラスGに及ぼす力が、板状ガラスの変形に寄与する態様を示したものである。ウエイト(上型)3は重力の作用によって、板状ガラスGに力を及ぼしている。
図4は、成形型2の上に板状ガラスGを載せ、押圧部材4が及ぼす力が、板状ガラスGの変形に寄与する態様を示したものである。押圧部材4は、図示しない動力源から発生した力が伝達され、板状ガラスGに力をおよぼしている。
変形工程において、外力が板状ガラスに及ぼす力は、好ましくは0.2~1.2kg/cmであり、より好ましくは0.3~1.0kg/cmであり、さらに好ましくは0.4~0.9kg/cmである。外力の作用する時間にもよるが、外力が小さすぎると、所望の形状を得られない恐れがあり、外力が大きすぎると材料の成形型への融着や板厚のばらつきが大きくなり、割れが発生する恐れがある。
板状ガラスに作用する外力は、重力、板状ガラスの上面に載せたウエイトが板状ガラスに及ぼす力、押圧部材が板状ガラスに及ぼす力、またはこれからの力の合力であってよい。すなわち、外力の少なくとも一部は、重力であってよく、板状ガラスの上面に載せたウエイトが板状ガラスに及ぼす力であってよく、または押圧部材が板状ガラスに及ぼす力であってよい。
外力の作用する時間は、好ましくは1~50秒であり、より好ましくは2~40秒であり、さらに好ましくは3~35秒である。外力の大きさにもよるが、時間が短すぎると、所望の形状を得られない恐れがあり、時間が長すぎると、材料の成形型への融着や板厚のばらつきが大きくなり、割れが発生する恐れがある。
熱処理工程および変形工程の温度条件・時間条件を設計するためには、所望の結晶化ガラス部材の結晶析出量に対応する比重をあらかじめ測定して目標比重とし、本発明の製造方法の工程終了後の板状ガラスの比重が、目標比重となるように、熱処理工程および変形工程の温度条件・時間条件を設計すればよい。
得られた結晶化ガラス部材は、例えば、結晶相としてMgAl、MgTiO、MgTi、MgTiO、MgTi、MgSiO、MgSiO、MgAlSi、MgAlSi18、NaAlSiOおよびFeAl並びにこれらの固溶体から選ばれる1以上を含有する。
[化学強化工程]
結晶化ガラス部材は、機械的強度を更に高めるために圧縮応力層を形成させてもよい。本発明の製造方法により得られた曲面形状を有する結晶化ガラス部材は、析出結晶によりあらかじめ機械的特性が高いことに加え、圧縮応力層を形成することにより、より高い強度を得ることができる。
圧縮応力層の形成方法としては、例えば結晶化ガラス部材の表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面層に圧縮応力層を形成する化学強化法がある。また、結晶化ガラス部材を加熱し、その後急冷する熱強化法、結晶化ガラス部材の表面層にイオンを注入するイオン注入法がある。
化学強化法は、次の様な工程で実施することができる。結晶化ガラス部材を、カリウムまたはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)またはその複合塩を350~600℃に加熱した溶融塩に、0.1~12時間接触または浸漬させる。これにより、表面付近のガラス相に存在する成分と、溶融塩に含まれる成分とのイオン交換反応が進行する。この結果、結晶化ガラス部材の表面部に圧縮応力層が形成される。
結晶化ガラス部材の圧縮応力層の応力深さは、好ましくは40μm以上であり、例えば55μm以上であり、60μm以上とすることができる。上限は、例えば300μm以下、200μm以下、または100μm以下とできる。圧縮応力層がこのような厚さを有することで、結晶化ガラス部材に深いクラックが生じてもクラックが延伸したり、基板が割れたりするのを抑えることができる。
圧縮応力層の表面圧縮応力は、好ましくは750MPa以上であり、より好ましくは900MPa以上であり、さらに好ましくは950MPa以上である。上限は、例えば1300MPa以下、1200MPa以下、または1100MPa以下とできる。このような圧縮応力値を有することでクラックの延伸を抑え機械的強度を高めることができる。
[結晶化ガラス部材]
本発明の結晶化ガラス部材は、矩形の板の4辺が内側に湾曲している曲面形状を有する。形状については上記と同じであり説明を略す。
結晶化ガラス部材は、酸化物換算の重量%で、
SiO成分を40.0%~70.0%、
Al成分を11.0%~25.0%、
NaO成分を5.0%~19.0%、
O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、
TiO成分を0.5%~12.0%、
Fe成分を0~15.0%、および
CoO+Co成分を0~2.00%
含有する。結晶化ガラス部材の組成については、板状ガラスの組成についての記載を適用できる。
結晶化ガラス部材は、透明にすることも白化(不透明)することもでき、無色、黒、青、白またはこれらの混色などに着色させることもできる。製造工程において、温度を高くし、および/または加熱時間を長くするほど、結晶化が進み白化する傾向がある。用途に応じて結晶析出量を調整できる。
本発明の曲面形状を有する結晶化ガラス部材は上記の方法により製造でき、表面に圧縮応力層を有することもできる。
実施例1~45
[結晶化ガラス部材の製造]
まず、結晶化ガラス部材の原ガラスとなる板状のガラスを製造した。各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の原料を選定し、これらの原料を表1に示した実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した。次に、混合した原料を白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1300~1550℃の温度範囲で5~24時間溶融した。その後、溶融したガラスを攪拌して均質化してから金型等に鋳込み、徐冷して原ガラスのインゴットを作製した。このインゴットを705℃で5時間熱処理して結晶化した。実施例1~17は無色透明なガラス、実施例18~31は不透明黒色ガラス、実施例32~45は透明青色ガラスであった。
得られたインゴットを切断し研削を行うことにより長方形の板状ガラスとした。その後、この板状ガラスを研磨加工した。
板状ガラスのガラス転移点Tg(℃)、屈伏点At(℃)、比重を表2~4に記載する。
板状ガラスのガラス転移点(Tg)、屈伏点(At)の測定は、以下のように行った。板状ガラスと同じ組成からなる長さ50mm、直径4±0.5mmの丸棒状の試料を作製した。この試料について、ブルカー・エイエックス株式会社のTD5000SA熱膨張計高温測定機を用い、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に準じて温度と試料の伸びを測定した。試料には、長さ方向に10gfの測定荷重が付加されている。ガラス転移点(Tg)は前記JOGIS08-2003に基づき、温度と試料の伸びを測定して得られた熱膨張曲線から決定した。屈伏点は、測定荷重によって、試料が膨張した後、試料が軟化して収縮に転じたときの温度とした。
次に、実施例2~8,13,15,17,19~25,27,29,31,33~39,41,43,45では、表2~4に示す熱処理工程条件で熱処理をして結晶化した。表中の「熱処理工程条件」の欄に記載がない場合は、熱処理工程を施していないことを示す。800℃で保持時間が0時間のものは透明性が保たれる傾向にあった。
さらに、表2~4に示す変形工程条件で、金型(下型)に板状ガラスを押圧部材で押し込むようにして成形して、図1に示すように、長方形の4辺が内側に、板状ガラスの底面の接線に対して約70~約90度曲がっている弁当箱状の曲面形状に変形した。
この変形過程でガラスは変形と共に結晶化した。炉の温度は、板状ガラスの温度が変形温度となるように調節した。830℃以上になると不透明化が進む傾向にあった。
なお、実施例では、板状ガラスの温度を直接測定できないため、下型の側面から中心部に1.7mmの穴を開けて、1.6mmの熱電対を挿して測定した下型の温度の値を板状ガラスの温度とした。
実施例1~45においては、全て金型に沿うように板状ガラスが変形し、所望の曲面形状を有する結晶化ガラス部材を得ることができた。得られた結晶化ガラス部材は、結晶が所望の量で析出しており、目的とする透明性または色を有していた。
具体的には、実施例1~17では、無色透明から白化した白色成形ガラスが得られた。実施例18~31では、透明青色から白化した不透明の水色の成形ガラスが得られた。実施例32~45では、不透明の黒色から白化した不透明の灰色の成形ガラスが得られた。
また、得られた結晶化ガラス部材の比重を測定した。結果を表2~4に示す。
[結晶化ガラス部材の評価]
(1)湾曲部の曲率半径R
実施例1で得られた結晶化ガラス部材について、図5に示すA,B,C,Dの位置で内側湾曲部の曲線から近似した円の半径R(mm)を測定した。測定装置は、株式会社ミツトヨ製SV-C4100を用い、半径0.02mmのスタイラスで側面部を測定して得た曲線から円を近似し、円の半径R(mm)を求めた。ガラス部材の半径Rは、5.7~7.8mmであった。金型の半径Rは、4.8~5.3であり、金型の半径Rとガラス部材の半径Rの差ΔRは、0.4~2.8であった。
また、実施例11で得られた結晶化ガラス部材も同様に円の半径R(mm)を測定した。ガラス部材の半径Rは、4.8~6.0mmであった。金型の半径Rは、4.8~5.3であり、金型の半径Rとガラス部材の半径Rの差ΔRは、0.1~1.1であった。
(2)色度
結晶化ガラス部材について、反射面に対する入射角度5度における正反射を含む反射スペクトルを、分光光度計(日本分光社製、V-650)で測定した。このとき、試料厚みは0.7mmであり、ガラスの裏面(光源が照射されたガラス面の反対側)に白板アルミナ板を設置しない状態で測定した。得られたスペクトルから、2度の観測者角度かつCIE光源D65におけるL、a、bを求めた。結果を表2~4に示す。
変形工程前の板状ガラスについても同様にL、a、bを測定した結果を表5に示す。さらに、一部の実施例(実施例1~8,18~26,28,30,32~39)については、変形工程前後のL、a、bの差を表6に示す。表6においてLが大きく増えたことは白化したことを示す。
(3)板厚
板状ガラスと結晶化ガラス部材について、図6に示す9カ所の位置で、成形(変形)前後の板厚を測定した。板厚の測定には、超音波厚さ計MODEL25DLを用いた。実施例2,6,16,29の平均を表7に示す。表7に示すようにほぼ均一な厚さの部材が得られた。
(4)結晶相
実施例6で得られた結晶化ガラス部材について、X線回折分析装置(Philips製X’PERT-MPD)を用いてX線回折図形において現れるピークの角度から、および必要に応じてTEMEDX(日本電子製JEM2100F)を用いて、析出した結晶相を判別した。MgSiO、MgTiO、MgSiO、NaAlSiOの結晶相が確認された。
[結晶化ガラス部材の化学強化]
実施例1で得られた厚み0.7mmの結晶化ガラス部材を500℃のKNO溶融塩中に500分浸漬し、化学強化法によって、結晶化ガラス部材の表面に圧縮応力層を形成した。圧縮応力層の厚みを、折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEを用いて測定した。圧縮応力層の厚みは94μmであり、表面圧縮応力値938MPaであった。曲線解析(Curve Analysis)により求めた中心圧縮応力値は88MPaであった。
実施例32で得られた厚み0.7mmの結晶化ガラス部材を460℃のKNO溶融塩中に500分間浸漬し、化学強化法によって、結晶化ガラス部材の表面に圧縮応力層を形成した。圧縮応力層の厚みを、折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEを用いて測定した。圧縮応力層の厚みは69μmであり、表面圧縮応力値1091MPaであった。曲線解析により求めた中心圧縮応力値は52MPaであった。
比較例1,2
比較例1として、実施例1のガラスを高温の880℃で成形したところ、板厚が変動し、成形部材への融着や変形が生じ、成形ができなかった。
比較例2として、実施例1のガラスを低温の770℃で成形したところ、図1に示すような形状を得ることができなかった。
Figure 0007585402000001
Figure 0007585402000002
Figure 0007585402000003
Figure 0007585402000004
Figure 0007585402000005
Figure 0007585402000006
Figure 0007585402000007

Claims (3)

  1. 矩形の板の4辺が内側に湾曲した曲面形状を有する結晶化ガラス部材であって、
    前記結晶化ガラス部材は、酸化物換算の重量%で、
    SiO成分を40.0%~70.0%、
    Al成分を11.0%~25.0%、
    NaO成分を5.0%~19.0%、
    O成分を0.1%~9.0%、
    MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~13.0%、
    CaO成分を0.01%~3.0%、
    TiO成分を0.5%~12.0%、
    Fe成分を0~15.0%、
    CoO+Co成分を0~2.00%、および
    成分を0%以上2%未満
    含有する結晶化ガラス部材であり、
    不透明であり、
    黒色、青色もしくは白色またはこれらの混色に着色している結晶化ガラス部材
  2. 前記内側に湾曲した部分の曲面形状が、曲面半径Rが1~12mmの曲面を有する請求項1に記載の結晶化ガラス部材。
  3. 表面に圧縮応力層を有する請求項1又は2に記載の結晶化ガラス部材。
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