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JP6724643B2 - ガラス板の製造方法、ガラス物品の製造方法、ガラス板、ガラス物品、およびガラス物品の製造装置 - Google Patents

ガラス板の製造方法、ガラス物品の製造方法、ガラス板、ガラス物品、およびガラス物品の製造装置 Download PDF

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JP6724643B2 JP2016156013A JP2016156013A JP6724643B2 JP 6724643 B2 JP6724643 B2 JP 6724643B2 JP 2016156013 A JP2016156013 A JP 2016156013A JP 2016156013 A JP2016156013 A JP 2016156013A JP 6724643 B2 JP6724643 B2 JP 6724643B2
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Description

本発明は、ガラス物品およびガラス板等に関し、特に化学強化されたガラス物品およびガラス板等に関する。
例えば、電子機器のカバーガラス、建材用の窓ガラス、および車両用のガラス部材などの分野において、使用されるガラス物品に高い強度が求められる場合がある。そのような場合、ガラス物品のもととなるガラス基板に対して、しばしば、化学強化処理が適用される。
化学強化処理は、ガラス基板をアルカリ金属を含む溶融塩中に浸漬させ、ガラス基板の表面に存在する原子径のより小さなアルカリ金属イオンを、溶融塩中に存在する原子径のより大きなアルカリ金属イオンと置換するプロセスである。
化学強化処理により、ガラス基板の表面には、元の原子よりも原子径の大きなアルカリ金属イオンが導入される。このため、ガラス基板の表面に圧縮応力層が形成され、これによりガラス基板の強度が向上する。
なお、一般に化学強化されたガラス物品は、
(I)大きな寸法のガラス素材を準備する工程、
(II)ガラス素材から、製品形状の複数のガラス基板を切断採取する工程、および
(III)採取されたガラス基板を化学強化処理する工程、
を経て製造される。
米国特許出願公開第2015/0166393号明細書 特表2013−536081号公報 米国特許出願公開第2012/0196071号明細書
従来の製造方法では、(II)における切断後から(III)における化学強化処理の際に、最終形状の多くのガラス基板をハンドリングする必要がある。しかしながら、この段階では、ガラス基板は未だ化学強化処理されていないため、特に端面に傷がつきやすく、十分に慎重なハンドリングが要求される。例えば、最終形状のガラス基板を化学強化処理する際には、ガラス基板の溶融塩中での支持または把持の方法、あるいはガラス基板と使用冶具との接触などについても十分な対策が必要となる。
このように、従来の製造方法は、ガラス基板のハンドリングが煩雑であるという問題がある。また、最終的に得られるガラス物品における主に強度の品質の確保が難しく、ガラス物品の製造歩留まりがあまり高められないという問題がある。
一方、このような問題を回避するため、予め大きな寸法のガラス素材に対して化学強化処理を実施しておき、このガラス素材を切断することにより、化学強化されたガラス物品を製造する方法が考えられる。
しかしながら、このような方法では、ガラス素材の表面が強化されているため、ガラス素材からガラス物品を切り出すことが難しくなるという問題がある。また、ガラス物品を切り出すことができたとしても、これにより得られるガラス物品は、化学強化されていない端面を有するため、十分な強度が得られないという問題が生じる。
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、傷による外観上の品質の低下が有意に抑制される上、良好な強度を有するガラス物品を得ることが可能な、ガラス物品およびガラス板の製造方法を提供することを目的とする。また、そのような製造方法により製造され得るガラス物品およびガラス板を提供することを目的とする。さらに、本発明では、そのようなガラス物品の製造装置を提供することを目的とする。
本発明では、ガラス板の製造方法であって、
(1)相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有するガラス素材を準備する工程と、
(2)前記ガラス素材の前記第1の主表面にレーザを照射することにより、前記第1の主表面に、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が形成されるとともに、前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が形成される、工程と、
(3)前記内部ボイド列が形成された前記ガラス素材を化学強化処理する工程と、
を有する製造方法が提供される。
なお、この製造方法において、前記(1)の工程におけるガラス素材は、本製造方法を実施する者が製造したものであっても、第三者から購入したものであってもよい。
また、本発明では、ガラス物品の製造方法であって、
前述の特徴を有するガラス板の製造方法により、ガラス板を製造する工程であって、前記ガラス板は、前記ガラス素材の前記第1の主表面に対応する第3の主表面、および前記ガラス素材の前記第2の主表面に対応する第4の主表面を有する、工程と、
前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列に沿って、前記ガラス板から、1または2以上のガラス物品を分離する工程と、
を有する、製造方法が提供される。
また、本発明では、ガラス板であって、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有し、
前記第1の主表面には、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が存在し、
前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が存在し、
当該ガラス板を前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列を通るように切断した際に得られる切断面の中央に、化学強化処理により形成された圧縮応力層を有する、ガラス板が提供される。
また、本発明では、ガラス板であって、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有し、
前記第1の主表面には、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が存在し、
前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が存在し、
当該ガラス板を前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列を通るように切断した際に得られる切断面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、前記所定のアルカリ金属イオンの濃度が当該ガラス板のバルク濃度よりも高いプロファイルを有し、
前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンである、ガラス板が提供される。
また、本発明では、ガラス板であって、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有し、
前記第1の主表面には、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が存在し、
前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が存在し、
当該ガラス板を前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列を通るように切断した際に得られる切断面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、当該ガラス板の厚さの中央部分に比べて、前記第1の主表面の側および前記第2の主表面の側ほど前記所定のアルカリ金属イオンの濃度が高いプロファイルを有し、
前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンであり、
前記切断面において、前記濃度プロファイルにおける前記所定のアルカリ金属イオンの濃度は、当該ガラス板のバルク濃度よりも高い、ガラス板が提供される。
また、本発明では、ガラス板であって、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有し、
前記第1の主表面には、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が存在し、
前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が存在し、
当該ガラス板を前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列を通るように切断した際に得られる切断面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、前記第1の主表面の側および前記第2の主表面の側ほど前記所定のアルカリ金属イオンの濃度が高い、略放物線状のプロファイルを有し、
前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンであり、
前記切断面において、前記濃度プロファイルにおける前記所定のアルカリ金属イオンの濃度は、当該ガラス板のバルク濃度よりも高い、ガラス板が提供される。
また、本発明では、ガラス物品であって、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面と、両主表面を接合する少なくとも一つの端面とを有し、
前記端面において、化学強化処理により形成された圧縮応力層を有し、
前記端面に垂直な方向のクラック深さは、前記端面に垂直な方向の前記圧縮応力層の深さよりも浅い、ガラス物品が提供される。
また、本発明では、ガラス物品であって、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面と、両主表面を接合する少なくとも一つの端面とを有し、
前記端面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、厚さ方向の中央部分に比べて、前記第1の主表面の側および前記第2の主表面の側ほど前記アルカリ金属イオンの濃度が高いプロファイルを有し、
前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンであり、
前記端面において、前記濃度プロファイルにおける前記所定のアルカリ金属イオンの濃度は、当該ガラス物品のバルク濃度よりも高い、ガラス物品が提供される。
また、本発明では、ガラス物品であって、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面と、両主表面を接合する少なくとも一つの端面とを有し、
前記端面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、前記第1の主表面の側および前記第2の主表面の側ほど前記アルカリ金属イオンの濃度が高い、略放物線状のプロファイルを有し、
前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンであり、
前記端面において、前記濃度プロファイルにおける前記所定のアルカリ金属イオンの濃度は、当該ガラス物品のバルク濃度よりも高い、ガラス物品が提供される。
さらに、本発明では、ガラス物品の製造装置であって、
ガラス板から1または2以上のガラス物品を分離する分離手段を有し、
前記ガラス板は、前述の特徴を有するガラス板であり、
前記分離手段は、
前記ガラス板に、前記面内ボイド領域に沿った押し付け力を加えること、
前記ガラス板を、前記第1の主表面または前記第2の主表面が凸になるように変形させること、および
前記ガラス板に、前記面内ボイド領域に沿った熱応力による引張応力を加えること、から選択される一以上により、
前記ガラス板から、前記1または2以上のガラス物品を分離する、製造装置が提供される。
本発明では、傷による外観上の品質の低下が有意に抑制される上、良好な強度を有するガラス物品を得ることが可能な、ガラス物品およびガラス板の製造方法を提供することができる。また、そのような製造方法により製造され得るガラス物品およびガラス板を提供することができる。さらに、本発明では、そのようなガラス物品の製造装置を提供することができる。
本発明の一実施形態によるガラス物品の製造方法のフローを模式的に示した図である。 本発明の一実施形態によるガラス物品の製造方法において使用され得る、ガラス素材の形態を模式的に示した図である 面内ボイド領域および内部ボイド列の形態を説明するための模式図である。 面内ボイド領域の一形態を模式的に示した図である。 ガラス素材の第1の主表面に、複数の面内ボイド領域が形成された状態を模式的に示した図である。 面内ボイド領域の一例を模式的に示した図である。 面内ボイド領域の別の一例を模式的に示した図である。 ガラス板から、複数のガラス物品が分離された状態を模式的に示した図である。 第1の製造方法において、ガラス板からガラス物品を分離する際に使用され得る装置の一例を模式的に示した図である。 第1の製造方法において、ガラス板からガラス物品を分離する際に使用され得る別の装置の一例を模式的に示した図である。 本発明の一実施形態によるガラス板の製造方法のフローを模式的に示した図である。 本発明の一実施形態によるガラス物品を概略的に示した図である。 本発明の一実施形態によるガラス物品の一つの端面における、厚さ方向における導入イオンの濃度プロファイル模式的に示した図である。 本発明の一実施形態によるガラス板を概略的に示した図である。 第1のガラス板の第1の主表面および断面の一例を示したSEM写真である。 本発明の一実施形態によるガラス板の仮想端面における内部ボイド列の一例を示したSEM写真である。 本発明の一実施形態によるガラス板の仮想端面における内部ボイド列の一例を示したSEM写真である。 本発明の一実施形態によるガラス板の仮想端面における内部ボイド列の一例を示したSEM写真である。 実施例におけるガラス基板と採取したサンプルとの関係を示した図である。 サンプルAの第1の端面において測定された、面内応力分布結果を示した図である。 サンプルBの第1の端面において測定された、面内応力分布結果を示した図である。 サンプルCの第1の端面において測定された、面内応力分布結果を示した図である。 サンプルAで得られたカリウムイオン濃度分析の結果を示したグラフである。 サンプルBで得られたカリウムイオン濃度分析の結果を示したグラフである。 サンプルCで得られたカリウムイオン濃度分析の結果を示したグラフである。 平曲げ試験装置の構成を模式的に示した図である。 縦曲げ試験装置の構成を模式的に示した図である。 各サンプルにおいて得られた平曲げ試験の結果をまとめて示した図(ワイブル分布図)である。 各サンプルにおいて得られた縦曲げ試験の結果をまとめて示した図(ワイブル分布図)である。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
(本発明の一実施形態によるガラス物品の製造方法)
図1〜図10を参照して、本発明の一実施形態によるガラス物品の製造方法について説明する。
図1には、本発明の一実施形態によるガラス物品の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローを模式的に示す。
図1に示すように、第1の製造方法は、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有するガラス素材を準備する工程(ガラス素材準備工程)(工程S110)と、
ガラス素材の第1の主表面にレーザを照射して、第1の主表面に面内ボイド領域を形成するとともに、ガラス素材の内部に内部ボイド列を形成する工程(レーザ照射工程)(工程S120)と、
ガラス素材を化学強化処理する工程(化学強化工程)(工程S130)と、
化学強化されたガラス素材であるガラス板から、前記面内ボイド領域および内部ボイド列に沿って、ガラス物品を分離する工程(分離工程)(工程S140)と、
を有する。
以下、図2〜図10を参照して、各工程について説明する。なお、図2〜図10は、それぞれ、第1の製造方法の一工程を概略的に示した図である。
(工程S110)
まず、相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有するガラス素材が準備される。
ガラス素材のガラス組成は、化学強化が可能な組成である限り、特に限られない。ガラス素材は、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、またはアルカリアルミノシリケートガラス等であってもよい。
この段階において、ガラス素材は、化学強化処理がされていてもよいし、化学強化処理がされていなくてもよい。なお、ここでの化学強化処理は、後の工程S130で実施される化学強化処理とは異なるものであることに留意する必要がある。
この点を明確にするため、以降、この段階での化学強化処理は、「予備的な化学強化処理」と称され、後の化学強化処理とは区別される。
予備的な化学強化処理の回数は、1回でも2回以上でもよく、特に限定されない。予備的な化学強化処理を2回以上実施した場合、主表面に直交する方向における残留応力層のプロファイルを、予備的な化学強化処理を1回のみ実施した場合に得られるプロファイルと異なる状態にできる。
ガラス素材の厚さは、特に限られないが、例えば0.03mm〜6mmの範囲であってもよい。
ガラス素材は、板状で提供されても、ロール状で提供されてもよい。ロール状のガラス素材を使用した場合、板状のものに比べて、搬送が容易となる。なお、板状のガラス素材の場合、第1および第2の主表面は、必ずしも平坦である必要はなく、曲面状であってもよい。
図2には、一例として、板状のガラス素材110の形態を模式的に示す。ガラス素材110は、平坦な第1の主表面112、平坦な第2の主表面114、および端面116を有する。
(工程S120)
次に、板状のガラス素材110にレーザが照射される。これにより、ガラス素材110の第1の主表面112に、面内ボイド領域が形成される。また、この面内ボイド領域から下側、すなわち第2の主表面114の側に、複数の内部ボイド列が形成される。
ここで、「面内ボイド領域」とは、複数の表面ボイドが所定の配置で配列されて形成された線状領域を意味する。また、「内部ボイド列」とは、ガラス素材の内部において、1または2以上のボイドが、第1の主表面から第2の主表面に向かって配列されて形成された線状領域を意味する。
以下、図3を用いて、「面内ボイド領域」および「内部ボイド列」の形態について、より詳しく説明する。図3には、ガラス素材に形成された面内ボイド領域および内部ボイド列を模式的に示す。
図3に示すように、このガラス素材110には、一つの面内ボイド領域130と、この面内ボイド領域130に対応する複数の内部ボイド列150とが形成されている。
前述のように、面内ボイド領域130は、複数の表面ボイド138が所定の配置で配列された線状領域を意味する。例えば、図3の例では、ガラス素材110の第1の主表面112に、複数の表面ボイド138が一定の方向(X方向)に配列されており、これにより面内ボイド領域130が形成される。
各表面ボイド138は、第1の主表面112におけるレーザの照射位置に対応しており、例えば、1μm〜5μmの間の直径を有する。ただし、表面ボイド138の直径は、レーザの照射条件およびガラス素材110の種類等により変化する。
隣接する表面ボイド138同士の中心間距離Pは、ガラス素材110の組成および厚さ、ならびにレーザ加工条件等に基づいて、任意に定められる。例えば、中心間距離Pは、2μm〜10μmの範囲であってもよい。なお、表面ボイド138同士の中心間距離Pは、全ての位置で等しくなっている必要はなく、場所によって異なっていてもよい。すなわち、表面ボイド138は、不規則な間隔で配列されてもよい。
一方、内部ボイド列150は、前述のように、ガラス素材110の内部において、1または2以上のボイド158が、第1の主表面112から第2の主表面114に向かって配列されて形成された線状領域を意味する。
ボイド158の形状、寸法、およびピッチは、特に限られない。ボイド158は、例えば、Y方向から見たとき、円形、楕円形、矩形、または三角形等の形状であってもよい。また、Y方向から見たときのボイド158の最大寸法(通常の場合、内部ボイド列150の延伸方向に沿ったボイド158の長さに相当する)は、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲であってもよい。
各内部ボイド列150は、それぞれに対応する表面ボイド138を有する。例えば、図3に示す例では、18個の表面ボイド138のそれぞれに対応した、合計18本の内部ボイド列150が形成されている。
なお、図3の例では、一つの内部ボイド列150を構成する各ボイド158は、ガラス素材110の厚さ方向(Z方向)に沿って配列されている。すなわち、各内部ボイド列150は、Z方向に延在している。しかしながら、これは単なる一例であって、内部ボイド列150を構成する各ボイドは、Z方向に対して傾斜した状態で、第1の主表面112から第2の主表面114まで配列されてもよい。
また、図3の例では、各内部ボイド列150は、それぞれ、表面ボイド138を除き、合計3個のボイド158の配列で構成されている。しかしながら、これは単なる一例であって、各内部ボイド列150は、1つもしくは2つのボイド158、または4つ以上のボイド158で構成されてもよい。また、それぞれの内部ボイド列150において、含まれるボイド158の数は、異なっていてもよい。さらに、いくつかのボイド158は、表面ボイド138と連結され、「長い」表面ボイド138が形成されてもよい。
さらに、各内部ボイド列150は、第2の主表面114で開口されたボイド(第2の表面ボイド)を有しても、有しなくてもよい。
なお、以上の説明から明らかなように、面内ボイド領域130は、実際に連続的な「線」として形成された領域ではなく、各表面ボイド138を結んだ際に形成される、仮想的な線状領域を表すことに留意する必要がある。
同様に、内部ボイド列150は、実際に連続的な「線」として形成された領域ではなく、各ボイド158を結んだ際に形成される、仮想的な線状領域を表すことに留意する必要がある。
さらに、一つの面内ボイド領域130は、必ずしも1本の「線」(表面ボイド138の列)として認識される必要はなく、一つの面内ボイド領域130は、相互に極めて接近した状態で配置された、平行な複数の「線」の集合体として形成されても良い。
図4には、そのような複数の「線」の集合体して認識される面内ボイド領域130の一例を示す。この例では、ガラス素材110の第1の主表面112に、相互に平行な2本の表面ボイド列138A、138Bが形成されており、これらにより、一つの面内ボイド領域130が構成されている。両表面ボイド列138Aおよび138Bの距離は、例えば、5μm以下であり、3μm以下であることが好ましい。
なお、図4の例では、面内ボイド領域130は、2本の表面ボイド列138Aおよび138Bで構成されているが、面内ボイド領域130は、より多くの表面ボイド列で構成されてもよい。
以下、このような複数の表面ボイド列で構成される面内ボイド領域を、特に「マルチライン面内ボイド領域」と称する。また、図3に示したような、一つの表面ボイド列で構成される面内ボイド領域130を、特に「シングルライン面内ボイド領域」と称し、「マルチライン面内ボイド領域」と区別する。
以上説明したような面内ボイド領域130および内部ボイド列150は、ガラス素材110の第1の主表面112に、レーザを照射することにより形成できる。
より具体的には、まず、ガラス素材110の第1の主表面112の第1の位置に、レーザを照射することにより、第1の主表面112から第2の主表面114にわたって、第1の表面ボイドを含む第1の内部ボイド列が形成される。次に、ガラス素材110に対するレーザの照射位置を変えて、ガラス素材110の第1の主表面112の第2の位置に、レーザを照射することにより、第1の主表面112から第2の主表面114にわたって、第2の表面ボイドを含む第2の内部ボイド列が形成される。この操作を繰り返すことにより、面内ボイド領域130、およびこれに対応する内部ボイド列150を形成することができる。
なお、1回のレーザ照射で、第2の主表面114に十分に近接するボイド158を有する内部ボイド列が形成されない場合、すなわちボイド158の中で第2の主表面114に最近接のボイドが、依然として第2の主表面114から十分に遠い位置にある場合(例えば、第2の主表面114に最近接のボイドにおいて、第1の主表面112からの距離がガラス素材110の厚さの1/2以下の場合)など、実質的に同じ照射位置において、2回以上、レーザ照射が行われてもよい。ここで、「実質的に同じ(照射)位置」とは、2つの位置が完全に一致する場合の他、多少ずれている場合(例えば最大3μmのずれ)も含む意味である。
例えば、ガラス素材110の第1の主表面112に平行な第1の方向に沿って、複数回レーザ照射を行い、第1の面内ボイド領域130およびこれに対応する内部ボイド列150を形成した(第1のパス)後、第1のパスと略同じ方向および略同じ照射位置でレーザ照射を行う(第2のパス)ことにより、第1の面内ボイド領域130に対応した、より「深い」内部ボイド列150を形成してもよい。
ガラス素材110の厚さにもよるが、内部ボイド列150を構成するボイド158のうち、第2の主表面114から最も近い位置にあるボイドの中心から、第2の主表面114までの距離は、0μm〜10μmの範囲であることが好ましい。
このような処理に使用可能なレーザとしては、例えば、パルス幅がフェムト秒オーダ〜ナノ秒オーダ、すなわち1.0×10−15〜9.9×10−9秒の短パルスレーザが挙げられる。そのような短パルスレーザ光は、さらにバーストパルスであることが、内部ボイドが効率よく形成される点で好ましい。また、そのような短パルスレーザの照射時間での平均出力は、例えば30W以上である。短パルスレーザのこの平均出力が10W未満の場合には、十分なボイドが形成できない場合がある。バーストパルスのレーザ光の一例として、パルス数が3〜10のバーストレーザで1つの内部ボイド列が形成され、レーザ出力は定格(50W)の90%程度、バーストの周波数は60kHz程度、バーストの時間幅は20ピコ秒〜165ナノ秒が挙げられる。バーストの時間幅としては、好ましい範囲として、10ナノ秒〜100ナノ秒が挙げられる。
また、レーザの照射方法としては、カー効果(Kerr−Effect)に基づくビームの自己収束を利用する方法、ガウシアン・ベッセルビームをアキシコンレンズとともに利用する方法、収差レンズによる線焦点形成ビームを利用する方法などがある。いずれにしても、面内ボイド領域、内部ボイド列が形成できる限り、どのような方法でもよい。
例えば、バーストレーザ装置(特許文献2)を使用した場合、レーザの照射条件を適宜変更することにより、内部ボイド列150を構成する各ボイドの寸法、および内部ボイド列150に含まれるボイドの個数等をある程度変化させることができる。
なお、以下の記載では、面内ボイド領域130と、該面内ボイド領域130に対応する内部ボイド列150とを含む平面(図3において、ハッチで示されている平面170)を、「仮想端面」と称する場合がある。この仮想端面170は、第1の製造方法により製造されるガラス物品の端面と実質的に対応する。
図5には、一例として、工程S120により、ガラス素材110の第1の主表面112に、複数の面内ボイド領域130が形成された状態を模式的に示す。
図5の例では、ガラス素材110の第1の主表面112に、横方向(X方向)に5本、および縦方向(Y方向)に5本、面内ボイド領域130が形成されている。また、図5からは視認できないが、各面内ボイド領域130の下側、すなわち第2の主表面114の側には、1または2以上のボイドが第2の主表面114に向かって断続的に配列された、複数の内部ボイド列が形成されている。
4つの面内ボイド領域130、および対応する内部ボイド列によって囲まれる部分、すなわち4つの仮想端面によって囲まれた仮想的な部分を、ガラスピース160と称する。
面内ボイド領域130の形状、さらにはガラスピース160の形状は、実質的に、工程S140後に得られるガラス物品の形状に対応する。例えば、図5の例では、ガラス素材110から、最終的に、16個の矩形状のガラス物品が製造される。また、前述のように、各面内ボイド領域130とこれに対応する内部ボイド列150を含む仮想端面は、工程S140後に製造されるガラス物品の一つの端面に対応する。
なお、図5に示した面内ボイド領域130、さらにはガラスピース160の配置形態は、単なる一例であって、これらは、最終ガラス物品の形状に応じて、所定の配置で形成される。
図6および図7には、想定される面内ボイド領域の別の形態の一例を模式的に示す。
図6の例では、各面内ボイド領域131は、略矩形状の一本の閉じた線(ループ)として配置され、コーナ部に曲線部分を有する。従って、面内ボイド領域131および内部ボイド列(視認されない)に取り囲まれたガラスピース161は、コーナ部に曲線部分を有する略矩形板状の形態となる。
また、図7の例では、各面内ボイド領域132は、略円形の一本の閉じた線(ループ)として配置される。従って、ガラスピース162は、略ディスク状の形態となる。
また、これらの例では、一つの仮想端面によって、ガラス物品の端面が形成されることになり、従って得られるガラス物品の端面は、いずれも一つとなる。
このように、面内ボイド領域130、131、132は、直線状、曲線状、または両者の組み合わせで形成されてもよい。また、ガラスピース160、161、162は、単一の仮想端面により囲まれても、複数の仮想端面により囲まれてもよい。
(工程S130)
次に、ガラス素材110が化学強化される。
化学強化処理の条件は、特に限られない。化学強化は、例えば、430℃〜500℃の溶融塩中に、ガラス素材110を1分〜2時間の間、浸漬することにより実施されてもよい。
溶融塩としては、硝酸塩が使用されてもよい。例えば、ガラス素材110に含まれるリチウムイオンを、より大きなアルカリ金属イオンに置換する場合、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、および硝酸セシウムのうちの少なくとも一つを含む溶融塩が使用されてもよい。また、ガラス素材110に含まれるナトリウムイオンを、より大きなアルカリ金属イオンに置換する場合、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、および硝酸セシウムのうちの少なくとも一つを含む溶融塩が使用されてもよい。さらに、ガラス素材110に含まれるカリウムイオンを、より大きなアルカリ金属イオンに置換する場合、硝酸ルビジウムおよび硝酸セシウムのうちの少なくとも一つを含む溶融塩が使用されてもよい。
なお、溶融塩中には、さらに炭酸カリウムなどの塩を一種類以上追加してもよい。この場合、ガラス素材110の表面に、10nm〜1μmの厚さの低密度層を形成することができる。
ガラス素材110を化学強化処理することにより、ガラス素材110の第1の主表面112および第2の主表面114に、圧縮応力層を形成することができ、これにより第1の主表面112および第2の主表面114の強度を高めることができる。圧縮応力層の厚さは、置換用のアルカリ金属イオンの侵入深さに対応する。例えば、硝酸カリウムを用いてナトリウムイオンをカリウムイオンに置換する場合、ソーダライムガラスでは圧縮応力層の厚さを8μm〜27μmとすることができ、アルミノシリケートガラスでは圧縮応力層の厚さを10μm〜100μmとすることができる。アルミノシリケートガラスの場合、アルカリ金属イオンが侵入する深さは、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。
前述のように、従来の化学強化されたガラス物品の製造方法では、
(I)大きな寸法のガラス素材を準備する工程、
(II)ガラス素材から、製品形状の多数のガラス基板を切断採取する工程、および
(III)採取されたガラス基板を化学強化処理する工程、
を経て、ガラス物品が製造される。
これに対して、第1の製造方法では、ガラス素材110を被処理体として、化学強化処理が実施される。この場合、従来のような、製品形状のガラス物品を化学強化処理する場合とは異なり、化学強化処理の際の被処理体のハンドリングが容易となる。
例えば、仮にガラス素材110の端面116(図5参照)に傷が生じたとしても、この部分は、最終的なガラス物品には含まれない。また、化学強化処理の際に、例えば、ガラス物品としては利用されないガラス素材110の外周部を利用して、被処理体を支持または把持することが可能になる。
従って、第1の製造方法では、従来に比べて、製造されるガラス物品における傷のない外観上および強度の品質の確保が容易となり、製造歩留まりを高めることが可能になる。
ここで、第1の製造方法では、ガラス物品の形状とする前に、ガラス素材110に対して化学強化処理を実施するため、分離工程S140後に得られるガラス物品は、化学強化されていない端面を有する可能性がある。この場合、ガラス物品に十分な強度が得られなくなってしまう。
しかしながら、本願発明者らは、第1の製造方法の工程S130後、すなわち化学強化処理後のガラス素材110において、仮想端面(すなわち、切断されたガラス物品の端面)においても、化学強化処理により導入されたアルカリ金属イオン(以下、「導入イオン」と称する)が存在することを見出した。また、仮想端面の平滑度が高いため、端面の平滑度を向上させるための加工工程が省略可能であることを見出した。
なお、後述するように、仮想端面では、第1の主表面112および第2の主表面114とは異なり、導入イオンは、面内で不均一な濃度分布を示し、ガラス素材110の厚さ方向の中央部分ほど、導入イオンの濃度は低下する。ただし、仮想端面全体に化学強化処理により導入されたアルカリ金属イオンが存在し、厚さ方向の中央部分においても、導入イオンは存在しており、その濃度はゼロではない。
この事実は、第1の製造方法では、工程S130での化学強化処理の際に、レーザ照射によりガラス素材110の表面に形成された微細な表面ボイド138、およびガラス素材110の内部に形成された微細なボイド158を介して、溶融塩がガラス素材110の内部に導入されていること、さらには導入された溶融塩と仮想端面との間で、置換反応が生じていることを示唆するものである。このような現象は、出願人が知る限りにおいては、これまで報告されていない。
また、この現象を裏付ける結果として、第1の製造方法、すなわち工程S110〜工程S140を経て製造されるガラス物品は、前述の(I)〜(III)の工程を経て製造された従来のガラス物品に比べて、遜色のない十分な強度を有することが確認されている。詳細は後述する。
このように、第1の製造方法では、工程S130の後に、第1の主表面112、第2の主表面114、および各仮想端面が、いずれも化学強化されたガラス素材110を得ることができる。
(工程S140)
次に、化学強化されたガラス素材110、すなわちガラス板175から、ガラス物品が分離される。
図8には、ガラス板175から、合計16個のガラス物品180が分離された状態を模式的に示す。各ガラス物品180は、4つの端面186を有する。
ガラス板175からガラス物品180を分離する際には、前述の仮想端面が利用される。換言すれば、前述の仮想端面で囲まれたガラスピース160が、ガラス板175から分離されてガラス物品180となる。従って、ガラス物品180の各端面186は、前述の仮想端面の一つに対応する。
前述のように、通常、化学強化処理されたガラス素材は、第1および第2の主表面が強化されているため、ガラス板175からガラス物品を分離することは難しいという問題がある。
しかしながら、第1の製造方法では、ガラス板175の仮想端面は、面内に、面内ボイド領域130、および対応する内部ボイド列150に含まれる、複数の表面ボイド138およびボイド158を有する。このため、ガラス板175からガラス物品180を分離する際には、これらのボイド138、158が、いわば「面内および内部に形成されたミシン目(perforation)」のような役割を果たす。従って、第1の製造方法では、仮想端面を利用することにより、ガラス板175からの分離を容易に行うことが可能になる。特に、面内ボイド領域130が「マルチライン面内ボイド領域」の場合、いっそう容易に、ガラス物品180を分離することができる。
ここで、前述のように、面内ボイド領域130は、複数のボイド138で構成され、内部ボイド列150は、複数のボイド158で構成される。これらの面内ボイド領域130および内部ボイド列150、さらにボイド138、158は、例えば、ガラス板の厚さ方向を貫通するように形成された貫通孔とは異なる。
また、前述のように、ガラス板175は、仮想端面にも化学強化処理が施されている。よって、得られるガラス物品180も、化学強化された端面186を有する。従って、第1の製造方法では、従来のガラス素材を化学強化処理してからガラス物品を分離する方法における問題、すなわち、化学強化されていない端面を有するため、ガラス物品に十分な強度が得られないという問題を回避することができる。
工程S140を実施するための具体的な方法は、特に限られない。例えば、機械的な方法または熱的な方法により、ガラス板175から、1または2以上のガラス物品180が分離されてもよい。
図9には、第1の製造方法の工程S140において、ガラス板からガラス物品を分離する際に使用され得る装置の一例を模式的に示す。この装置200では、機械的な方法により、ガラス板175から、1または2以上のガラス物品180を分離することができる。
図9に示すように、この装置200は、台座210と、ローラ220とを有する。ローラ220は、制御器(図示されていない)からの指令により、XY平面内の任意の方向に沿って移動したり、回転したりすることができる。また、制御器によってローラ220の押し付け力や移動速度を同期して調整することができる。
装置200を使用して、ガラス板からガラス物品を分離する際には、まず、台座210の上に、ガラス板175が載置される。なお、傷防止のため、台座210とガラス板175の間に、保護シート(図示されていない)を配置してもよい。
次に、ローラ220が、その先端がガラス板175と接するようにして、ガラス板175上に設置される。この時に、傷防止のため、ガラス板175の上にさらに保護シート(図示されていない)を配置してもよい。
この状態で、制御器からの指令を受信すると、ローラ220は、ガラス板175上を面内ボイド領域130に沿って移動する。ローラ220の先端は、その形状が稜角または半球状になっている。このため、ローラ220の押し付け力により、ガラス板175は、仮想端面に沿って分断される。この操作を、各面内ボイド領域130に沿って、繰り返し実施することにより、ガラス板175から、1または2以上のガラス物品180を分離することができる。
なお、図9の例では、各面内ボイド領域130は、直線状である。しかしながら、例えば、図6および図7に示したような曲線状の面内ボイド領域131、132に対しても、同様の操作により、ガラス板175から、1または2以上のガラス物品180を分離することができる。
図10には、ガラス板からガラス物品を分離する際に使用され得る別の装置の一例を模式的に示す。この装置250では、機械的な方法により、ガラス板175から、1または2以上のガラス物品180を分離することができる。
図10に示すように、この装置250は、変形可能なシート状部材260を介して、支持部材270に沿ってガラス板175を支持する構造を有する。
装置250における支持部材270は、各面内ボイド領域が直線形状の場合は、一般的な円筒ロール状で良い。支持部材270上を搬送される際に、ガラス板175が湾曲し、面内ボイド領域に沿った曲げモーメントが作用する。この結果、面内ボイド領域が高速に分断される。次の工程で別方向に沿って分断することを繰り返す。また、図6および図7に示したような曲線状の面内ボイド領域131、132の場合は、支持部材270は平板状、または上側に凸に湾曲して、支持部材270に変形可能なシート状部材260を介してガラス板175の変形を支持部材270に沿わせ、面内ボイド領域に沿った曲げモーメントを作用させることで、ガラス板175から、1または2以上のガラス物品180を分離することができる。この場合、シート状部材260は予めガラス板175に十分な接着力で仮接着させておき、分離時にシート状部材260を延伸変形させることを併用することが好ましい。シート状部材260の材質は、分離するのに十分な延伸変形が可能な柔軟性がある材料、例えば、ゴム材料等が利用される。
一方、熱的な方法により、ガラス板175から、1または2以上のガラス物品180を分離する場合には、「表面吸収方式」または「内部吸収方式」が使用されてもよい。
このうち「表面吸収方式」では、熱源を用いて、ガラス板175の第1の主表面112を局部的に加熱し、熱応力を発生させることにより、ガラス板175からガラス物品180を分離する。熱源としては、例えば、比較的波長の長いレーザ(COレーザ等)、バーナ、またはヒータ線などが使用される。熱源からの熱を面内ボイド領域130に集中させることにより、面内ボイド領域130、さらには仮想端面に熱応力が生じ、これらの仮想端面に沿って、ガラス板175が破断される。これにより、ガラス物品180を分離することができる。
これに対して、「内部吸収方式」では、比較的波長の短いレーザ(COレーザ等)が使用される。このようなレーザをガラス板175に照射すると、レーザの熱は、ガラス板175の内部に吸収される。従って、面内ボイド領域130に沿ってレーザを照射することにより、仮想端面に局部的に内部応力を発生させ、他の部分から破断させることができる。その結果、ガラス板175からガラス物品180が分離される。
なお、以上の説明では、1枚のガラス板175から、1または2以上のガラス物品180を得る方法を例に、分離方法の実施形態を説明した。しかしながら、前述の方法(機械的方法、および「内部吸収方式」)は、複数のガラス板175を積層させて実施してもよい。この場合、一度により多くのガラス物品180を製造することができる。
一般に、ガラス物品をガラス素材から分離する際には、ガラスカッターなどを用いて、ガラス素材が切断される。この場合、ガラス物品の端面は、凹凸を有する「荒れた」端面になりやすい。
しかしながら、第1の製造方法では、ガラス物品180を分離する際に、ガラスカッターのような切断手段を必ずしも使用する必要がないため、ガラス物品180を分離した際に、比較的平滑な端面186を得ることができる。
ただし、特に平滑な端面186が必要ではない場合など、特定の場合には、ガラスカッター等を用いて、仮想端面に沿ってガラス板175を切断することにより、ガラス物品180を分離してもよい。この場合も、仮想端面の存在により、通常の切断に比べてより容易に、ガラス板175を切断することができる。
以上の工程により、1または2以上のガラス物品180を製造することができる。
なお、得られたガラス物品180の端面186を保護するため、該端面186に、樹脂等の材料を塗布してもよい。
第1の製造方法では、前述のような特徴により、ガラス物品180における外観上の品質の低下が有意に抑制される上、良好な強度を有するガラス物品180を得ることができる。
以上、第1の製造方法を例に、ガラス物品を製造するための一製造方法について説明した。しかしながら、第1の製造方法は、単なる一例であって、ガラス物品を実際に製造する際には、各種変更が可能である。
例えば、第1の製造方法の工程S130における化学強化処理は、必ずしも、ガラス素材110の第1の主表面112および第2の主表面114の両方に対して実施する必要はなく、一方の主表面には、化学強化処理を実施しない態様も考えられる。
また、例えば、工程S130の後であって工程S140の前に、ガラス板175に各種機能を付与する工程(追加工程)を実施しても良い。
追加工程は、これに限られるものではないが、例えばガラス板175に表面に保護機能などの追加機能を追加したり、表面を改質したりするために実施されても良い。
そのような追加工程は、例えば、ガラス板175の第1の主表面112、第2の主表面および/または端面116(以下、これらをまとめて「露出面」という)に機能フィルムを貼付する工程、ならびに露出面の少なくとも一部に対して表面処理(表面改質を含む)を実施する工程等を有してもよい。
表面処理の方法としては、例えば、エッチング処理、成膜処理、および印刷処理等がある。成膜処理は、例えば、塗布法、浸漬法、蒸着法、スパッタリング法、PVD法、またはCVD法等を用いて実施されてもよい。なお、表面処理には、薬液を利用した洗浄も含まれる。
表面処理により、例えば、低反射膜、高反射膜、IR吸収膜またはUV吸収膜等の波長選択膜、アンチグレア膜、アンチフィンガープリント膜、防曇膜、印刷、電子回路およびこれらの多層構成膜などが形成されてもよい。
さらに、工程S120の前もしくは後またはその両方、すなわち面内ボイド領域130の形成前もしくは後またはその両方の段階において、ガラス素材110の少なくとも一つの主表面に、溝を形成してもよい。
例えば、ガラス素材110の第1の主表面112に、面内ボイド領域130が既に形成されている場合、この面内ボイド領域130に沿って、溝を形成してもよい。あるいは、ガラス素材110の第1の主表面112に、面内ボイド領域130がまだ形成されていない場合、将来形成される面内ボイド領域130に沿って、溝を形成してもよい。
溝の形状は、特に限られない。溝は、例えば、断面が略V字形状、略U字形状、略逆台形状、および略凹形状などであってもよい。また、これらの溝の形態において、溝の第1の主表面112または第2の主表面114の開口部分は、ラウンドしていてもよい。
このような断面形態の溝を形成した場合、工程S140後に得られるガラス物品180において、端面186の第1の主表面112および/または第2の主表面114との接続部分が面取りまたはラウンド加工された状態となる。このため、ガラス物品180に対する後加工の工程が省略できる。
溝の深さは、例えば、ガラス素材110の厚さの1/2未満である。溝の深さは、0.01mm以上であることが好ましい。
溝の形成手段は、例えば、砥石およびレーザ等であってもよい。特に、溝の精度および品質の点からは、レーザによる加工が好ましい。
(本発明の一実施形態によるガラス板の製造方法)
次に、図11を参照して、本発明の一実施形態によるガラス板の製造方法について説明する。
図11には、本発明の一実施形態によるガラス板の製造方法(以下、「第2の製造方法」と称する)のフローを模式的に示す。
図11に示すように、第2の製造方法は、
相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有するガラス素材を準備する工程(ガラス素材準備工程)(工程S210)と、
ガラス素材の第1の主表面にレーザを照射して、第1の主表面に面内ボイド領域を形成するとともに、ガラス素材の内部に内部ボイド列を形成する工程(レーザ照射工程)(工程S220)と、
ガラス素材を化学強化処理する工程(化学強化工程)(工程S230)と、
を有する。
なお、図11から明らかなように、この第2の製造方法は、前述の図1に示した第1の製造方法において、工程S140の分離工程が省略されたものに相当する。
すなわち、この第2の製造方法では、ガラス板として、前述の図5〜図7に示したような、1または2以上の仮想端面、すなわち面内ボイド領域およびこれに対応する内部ボイド列を有するガラス素材が製造される。
換言すれば、本願において、「ガラス板」とは、ガラス素材からガラス物品が製造されるまでの工程における中間体、すなわち加工されたガラス素材を意味する。
このような「ガラス板」は、ガラス素材に加工を加える工程(例えば工程S210〜工程S230)と、ガラス板からガラス物品を分離する工程とが、別の者または別の場所で実施される場合、あるいは時間的に相応の間隔をあけて実施される場合に、有意である。
なお、このような第2の製造方法においても、前述の第1の製造方法と同様の効果が得られることは、当業者には明らかであろう。すなわち、第2の製造方法で得られるガラス板は、仮想端面が化学強化されており、このガラス板からガラス物品を分離した際には、良好な強度を有するガラス物品を得ることができる。また、得られるガラス物品の品質の低下が有意に抑制される。
(本発明の一実施形態によるガラス物品)
次に、図12を参照して、本発明の一実施形態によるガラス物品について説明する。
図12には、本発明の一実施形態によるガラス物品(以下、「第1のガラス物品」と称する)を概略的に示す。
図12に示すように、第1のガラス物品380は、相互に対向する第1の主表面382および第2の主表面384と、両者を接続する端面386とを有する。なお、第1の主表面382は、ガラス素板の相互に対向する第1の主表面に対応し、第2の主表面384はガラス素板の相互に対向する第2の主表面に対応する。
図12の例では、第1のガラス物品380は、略矩形状の主表面382、384を有し、4つの端面386−1〜386−4を有する。また、各端面386−1〜386−4は、第1のガラス物品380の厚さ方向(Z方向)と平行に延在する。
しかしながら、これは単なる一例であって、第1のガラス物品380の形態として、各種形態が想定される。例えば、第1の主表面382および第2の主表面384は、矩形の他、円形、楕円形、三角形、または多角形の形状であってもよい。また、端面386の数は、第1の主表面382および第2の主表面384の形態に応じて、例えば、1つ、3つ、または4つ以上であってもよい。さらに、端面386は、Z方向から傾斜して(すなわちZ方向とは非平行な方向に)、延在してもよい。この場合、「傾斜」端面が得られる。
第1のガラス物品380の厚さは、特に限られない。第1のガラス物品380の厚さは、例えば、0.03mm〜6mmの範囲であっても良い。
ここで、第1のガラス物品380は、第1の主表面382および第2の主表面384が化学強化されている。また、第1のガラス物品380は、端面386が化学強化されている。
ただし、主表面382、384と、端面386とでは、化学強化の状態、すなわち導入イオン(化学強化処理により導入されたアルカリ金属イオン)の分布の状態が異なっている。
図13を用いて、このことについてより詳しく説明する。なお、ここでは、端面386は、主表面382、384と垂直な方向に延在していると仮定する。
図13には、第1のガラス物品380の一つの端面386(例えば386−1)での、厚さ方向(Z方向)における導入イオンの濃度プロファイルを模式的に示す。図13において、横軸は、厚さ方向の相対位置t(%)であり、第1の主表面382の側がt=0%に対応し、第2の主表面384の側がt=100%に対応する。縦軸は、導入イオンの濃度Cである。前述のように、導入イオンは、化学強化処理により導入されたアルカリ金属イオン、すなわち、ガラス物品の第1の主表面および第2の主表面に圧縮応力層を付与して、これらの主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンを意味する。
ここで、この濃度Cは、ガラス物品380の主表面382、384、および端面386−1〜386−4以外の部分、すなわちガラス物品380のバルク部分に含まれる、導入イオンと同種のアルカリ金属イオンの濃度(バルク濃度)を差し引いて算出している。このため、バルク濃度は、化学強化処理前のガラス素板の体積に対するアルカリ金属イオンの算術平均の濃度とほぼ同じである。
なお、図13に示すような濃度プロファイルは、端面386−1の各面内位置(Y方向に沿った任意の位置)で測定され得る。しかしながら、ガラス物品380の同一の端面386−1内であれば、端面386−1のいかなる位置で評価しても、濃度プロファイルの傾向はほぼ同様である。
図13に示すように、端面386−1では、厚さ方向に沿った導入イオンの濃度Cは、端面全体でバルク濃度より大きいプロファイルとなり、この例では略放物線状のプロファイルを示す。すなわち、導入イオンの濃度Cは、第1の主表面382の側(t=0%)および第2の主表面384の側(t=100%)で最大値Cmaxを示し、厚さ方向の中央部分(t=50%)で最小値Cminを示す傾向にある。ここで、最小値Cmin>0である。
なお、導入イオンの濃度プロファイルの形状は、第1のガラス物品380の厚さおよび材質、ならびに製造条件(化学強化処理の条件など)等により変化するが、いずれの場合も、端面全体でバルク濃度より大きくなり、一例として、このような略放物線状のプロファイルが生じる。ただし、化学強化処理の方法などの影響により、第1の主表面382の側(t=0%)と、第2の主表面384の側(t=100%)とで、導入イオンの濃度Cが厳密に一致しないことは、しばしば認められている。すなわち、いずれかの主表面での濃度CのみがCmaxとなることは、よく起こる。また、ここでの略放物線状のプロファイルは、放物線の数学上の定義とは異なり、導入イオンの濃度Cが、厚さ方向の中央部分に対して、第1の主表面の側および第2の主表面の側で大きくなり、且つ、この濃度プロファイルにおける導入イオン濃度は、ガラス物品のバルク濃度よりも高いプロファイルをいう。このため、この略放物線状のプロファイルには、導入イオン濃度がガラス物品のバルク濃度よりも高いプロファイルであって、厚さ方向の中央部分で導入イオンCが比較的緩やかに変化する略台形形状のプロファイルを含む。
ここで、シリコンイオンで規格化した導入イオンの濃度(原子比)、すなわち(導入イオンの濃度C)/(Siイオンの濃度)をCsとすると、バルクにおけるCsに対する対象端面におけるCsの最小値の比は、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは2.2以上である。
第1の主表面382および第2の主表面384では、導入イオンの濃度は、面内で実質的に一定であり、このような端面386−1の濃度プロファイルは、特徴的である。また、このような化学強化状態の端面386を有する第1のガラス物品380は、これまでに認められていない。
例えば、ガラス素材から製品形状のガラス物品を切り出し、このガラス物品を化学強化処理した場合、得られるガラス物品の端面における導入イオンの濃度は、面内で実質的に一定となる。その場合、典型的には、図13において、破線で示すようなプロファイルが得られる。すなわち位置によらずC=Cmaxとなる。また、例えば、ガラス素材を化学強化処理してから、製品形状のガラス物品を切り出した場合、得られるガラス物品の端面には、導入イオンはほとんど検出されない。すなわちC≒0となる。
第1のガラス物品380は、端面386がこのような特徴的な導入イオンの濃度プロファイルを有するため、従来の化学強化されたガラス素材を切り出して得られたガラス物品に比べて、良好な強度を有する。
第1のガラス物品380の第1主表面382、第2の主表面384の表面圧縮応力は、例えば、200MPa〜1000MPaの範囲であり、好ましくは500MPa〜850MPaの範囲である。第1のガラス物品380の端面386−1〜386−4の表面圧縮応力は、最小値が0MPa超であり、例えば25MPa〜1000MPa以上であり、好ましくは50MPa〜850MPa、より好ましくは100MPa〜850MPaの範囲である。なお、表面圧縮応力の測定は、例えば、光弾性解析法を利用した折原製作所製の表面応力測定装置FSM−6000LEやFSM−7000Hなどを用いて実施することができる。
なお、第1のガラス物品380は、第1の主表面382、第2の主表面384、および/または端面386に、1もしくは2以上の追加部材を備えても良い。
そのような追加部材は、例えば、層、膜、およびフィルム等の形態で提供されても良い。また、そのような追加部材は、低反射特性および保護などの機能を発現させるため、第1の主表面382、第2の主表面384、および/または端面386に提供されても良い。
第1のガラス物品380は、例えば、電子機器(例えば、スマートフォン、ディスプレイなどの情報端末機器)、カメラやセンサのカバーガラス、建築用ガラス、産業輸送機用ガラス、および生体医療用ガラス機器等に適用することができる。
(本発明の一実施形態によるガラス板)
次に、図14を参照して、本発明の一実施形態によるガラス板について説明する。
図14には、本発明の一実施形態によるガラス板(以下、「第1のガラス板」と称する)を概略的に示す。
図14に示すように、第1のガラス板415は、相互に対向する第1の主表面417および第2の主表面419と、両者を接続する4つの端面420(420−1〜420−4)とを有する。なお、第1の主表面417は、ガラス素板の相互に対向する第1の主表面に対応し、第2の主表面419はガラス素板の相互に対向する第2の主表面に対応する。
第1のガラス板415のガラス組成は、化学強化が可能な組成である限り、特に限られない。第1のガラス板415は、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、またはアルカリアルミノシリケートガラス等であってもよい。
第1のガラス板415の厚さは、特に限られないが、例えば0.1mm〜6mmの範囲であってもよい。
第1のガラス板415の第1の主表面417および第2の主表面419の形状は、特に限られない。これらは、例えば、矩形状、円状、または楕円状等であっても良い。なお、第1の主表面417および第2の主表面419は、必ずしも平坦である必要はなく、曲面状であってもよい。
第1のガラス板415は、第1の主表面112に、複数の面内ボイド領域431を有し、各面内ボイド領域431の下側(第2の主表面の側)には、対応する複数の内部ボイド列(視認されない)が形成されている。内部ボイド列は、第1のガラス板415の厚さ方向(Z方向)に平行に延在しても、厚さ方向に対して傾斜して延在してもよい。
各面内ボイド領域431、および対応する内部ボイド列によって囲まれる部分、すなわち仮想端面によって囲まれた部分は、ガラスピース461と称される。
図14から明らかなように、第1のガラス板415は、前述の図5に示したガラス素材110に相当する。すなわち、第1のガラス板415は、ガラス素材からガラス物品が製造されるまで工程における中間体として利用され、換言すれば、所望の形状のガラス物品を分離する前のガラス素材として利用される。
より具体的には、第1のガラス板415において、仮想端面に沿って、第1のガラス板415からガラスピース461を分離することにより、ガラス物品(ガラスピース461に相当する)を得ることができる。
このような第1のガラス板415は、ガラス素材から第1のガラス板415を製造する工程と、第1のガラス板415からガラス物品を分離する工程とが、別の者または別の場所で実施される場合、あるいは時間的に相応の間隔をあけて実施される場合に、有意である。
ここで、図15〜図18を参照して、第1のガラス板415に含まれる面内ボイド領域431および内部ボイド列について、より詳しく説明する。
図15には、図14に示した第1のガラス板415の第1の主表面417および断面を含むSEM写真の一例を示す。図15において、上側は、第1のガラス板415の第1の主表面417に対応し、下側は第1のガラス板415の断面に相当する。
第1のガラス板415の第1の主表面417には、水平方向に、2本の表面ボイドの列が形成されており、各列が、図14に示した面内ボイド領域431に対応する。この例では、各表面ボイドは、約2μmの直径を有し、隣接する表面ボイド間の距離Pは、約50μmである。
各表面ボイドの周囲には、幅約1μm〜2μmの変質部(白っぽいリング状の領域)が形成されている。これは、第1のガラス板415の成分がレーザ照射の際に溶融し、その後凝固することにより形成された応力残留部であると思われる。
一方、第1のガラス板415の断面は、実質的に、一つの面内ボイド領域431およびこれに対応する内部ボイド列に沿って切断されており、従って、この断面は、第1のガラス板415の仮想端面に対応する。なお、手作業による切断のため、示された断面は、正確には左端の表面ボイドを含んでいない。しかしながら、図15においても、仮想端面の形態は実質的に把握できる。そこで、図15における断面部分についても、仮想端面と称することにする。
図15において、示された仮想端面には、垂直方向に延在する3つの内部ボイド列が認められる。最も明確に視認できる中央の内部ボイド列を参照すると、この内部ボイド列には、複数の微細なボイドが、「ミシン目」のように断続的に配列されていることがわかる。内部ボイド例において、斜め方向に発生しているいくつかのヒゲ状のクラック、具体的には、中央の内部ボイド列で3つ見えるヒゲ状のクラックは、手作業による切断のためであり、内部ボイドではない。
図16には、第1のガラス板415の別の仮想端面におけるSEM写真の一例を示す。図16において、上側が第1のガラス板415の第1の主表面417の側に対応し、下側が第2の主表面419の側に対応する。
この写真から、仮想端面には、第1の主表面417から第2の主表面419に向かって、多数のボイドが一列に形成されており、これにより1本の内部ボイド列が形成されていることがわかる。
図16の写真では、内部ボイド列を構成する各ボイドは、約0.5μm〜約1.5μmの最大長(縦方向の長さ)を有し、ボイドの形態は、略円形、略楕円形、および略長方形等となっている。また、隣接するボイドの間の隔壁の寸法は、0.2μm〜0.5μm程度である。
図17および図18には、それぞれ、第1のガラス板415の仮想端面の別のSEM写真の一例を示す。
図17に示す例では、仮想端面に形成された一つの内部ボイド列は、寸法約0.5μm〜1.5μmのボイドで構成されている。ボイドの形態は、略円形または略楕円形である。また、隣接するボイドの間の隔壁の寸法は、0.1μm〜2μm程度である。
一方、図18に示す例では、仮想端面に形成された一つの内部ボイド列は、寸法約3μm〜6μmの細長いボイドで構成されている。また、隣接するボイドの間の隔壁の寸法は、0.8μm程度である。
このように、第1のガラス板415の仮想端面に含まれる内部ボイド列、さらには、これを構成するボイド群の形態は、特に限られない。これらは、第1のガラス板415のガラス組成およびレーザの照射条件等により、様々に変化する。なお、ボイド群は、ボイド生成時の応力によって、内部ボイド列に沿ってマイクロクラックが発生し、ガラス素材が内面ボイド領域に沿って分離されない程度にボイド群がそのマイクロクラックでつながっていてもよい。これは、化学強化処理での溶融塩のガラス素材内部への浸透の点から好ましい。
ただし、典型的には、内部ボイド列を構成するボイドの、内部ボイド列に沿った方向の寸法は、0.1μm〜1000μmの範囲であり、好ましくは、0.5μm〜100μm、より好ましくは0.5μm〜50μmの範囲である。また、内部ボイド列を構成するボイドの形状は、矩形、円形、および楕円形等である。さらに、隣接するボイドの間の隔壁の厚さは、通常、0.1μm〜10μmの範囲である。
同様に、面内ボイド領域431を構成する表面ボイドの寸法も、第1のガラス板415のガラス組成およびレーザの照射条件等により、様々に変化する。
ただし、典型的には、表面ボイドの直径は、0.2μm〜10μmの範囲であり、例えば、0.5μm〜5μmの範囲である。また、隣接する表面ボイドの中心間距離P(図3参照)は、1μm〜20μmの範囲であり、例えば、2μm〜10μmの範囲である。中心間距離Pが小さいほど、第1のガラス板415からガラス物品を分離することが容易となるが、レーザ照射の繰り返し回数が増えるため、加工速度の制約を受け、大出力の発振機が必要となる。
再度図14を参照すると、第1のガラス板415において、第1の主表面417および第2の主表面419は、化学強化処理されている。なお、4つの端面420は、化学強化処理されていても、されていなくてもよい。また、第1のガラス板415において、各ガラスピース461の周囲、すなわち仮想端面は、化学強化されている。
ただし、主表面417、419と、仮想端面とでは、化学強化の状態、すなわち導入イオンの分布の状態が異なっている。
すなわち、仮想端面では、導入イオンは、内部ボイド列の延在方向に沿って、前述の図13に示したような、略放物線状の濃度プロファイルを示す。
なお、図13に示すような濃度プロファイルは、仮想端面内での測定位置を変えてもあまり変化せず、同一の仮想端面内であれば、いかなる位置で評価しても、濃度プロファイルの傾向はほぼ同様である。
第1のガラス板415において、第1の主表面417および第2の主表面419では、導入イオンの濃度は、面内で実質的に一定であり、このような仮想端面における導入イオンの濃度プロファイルは、特徴的である。また、このような化学強化状態の仮想端面を有する第1のガラス板415は、これまでに認められていない。
なお、本願発明者らによれば、第1のガラス板415の仮想端面は、第1のガラス板415に対して、一般的な化学強化処理プロセスを実施した際に、第1の主表面417および第2の主表面419ととともに化学強化処理されることが認められている。
従って、仮想端面は、第1のガラス板415のガラス素板の化学強化処理の際に、仮想端面に含まれる断続的なボイドを介して、溶融塩が第1のガラス板415の内部に導入され、さらに導入された溶融塩と仮想端面との間で、置換反応が生じることにより、化学強化されるものと考えられる。
このような特徴を有する第1のガラス板415は、ガラス物品を提供する供給部材として利用することができる。特に、第1のガラス板415では、仮想端面が化学強化されているため、第1のガラス板415から得られるガラス物品は、化学強化された端部を有する。従って、第1のガラス板415を用いることにより、良好な強度を有するガラス物品を提供することが可能になる。また、第1のガラス板415は、化学強化する前から分離までガラス物品となる端面が出ておらず、ガラス物品にくらべて大きな板としてハンドリングできるので、ガラス板の表面および仮想端面に傷が付きにくく、強度の品質の低下が優位に抑えられる。
なお、第1のガラス板415は、第1の主表面417、第2の主表面419、および端面420の少なくとも一つに、1もしくは2以上の追加部材を備えても良い。
そのような追加部材は、例えば、層、膜、およびフィルム等の形態で提供されても良い。また、そのような追加部材は、低反射機能、高反射機能、IR吸収機能またはUV吸収等の波長選択機能、アンチグレア機能、アンチフィンガープリント機能、防曇機能、印刷、およびこれらの多層構成機能、並びに保護などの機能を発現させるため、第1の主表面417、第2の主表面419、および端面420の少なくとも一つに提供されても良い。
次に、本発明の実施例について説明する。
以下の方法で、各種ガラス物品のサンプルを製造し、その特性を評価した。
(サンプルAの製造方法)
縦横の長さLが100mmで、厚さtが1.3mmのアルミノシリケートガラス製のガラス基板を準備した。なお、ガラス基板は、ガラス素材に相当する。ガラス基板は、Dragontrail(登録商標)の化学強化前の素板を用いた。このため、ガラス基板のガラス組成は、化学強化処理によって置換されるアルカリ金属成分を除けば、Dragontrailの場合と同様である。このガラス基板に一方の主表面の側からレーザを照射し、縦方向および横方向に、複数の面内ボイド領域を形成した。
レーザには、ピコ秒オーダの短パルスレーザを出射できる、Rofin社(独国)のバーストレーザ(パルス数は3)を使用した。レーザの出力は、定格(50W)の90%とした。レーザの1つのバーストの周波数は60kHz、パルス幅は15ピコ秒、1つのバースト幅は66ナノ秒である。
また、レーザの照射回数は、各面内ボイド領域において、1回のみとした(従って、1パスのレーザ照射)。また、各面内ボイド領域において、隣接する表面ボイドの中心間距離Pは、5μmとした。
図19に示すように、ガラス基板800の第1の主表面802において、縦方向に2本の面内ボイド領域831を形成し、横方向に9本の面内ボイド領域832を形成した。縦方向の面内ボイド領域831同士の間隔Rは、60mmであり、横方向の面内ボイド領域832同士の間隔Qは、10mmとした。
なお、レーザは、第1の主表面802に対して、垂直な方向に照射した。従って、面内ボイド領域831、832の下側に形成される内部ボイド列は、ガラス基板800の厚さ方向と略平行に延在する。
次に、得られたガラス基板800に対して、化学強化処理を実施した。
化学強化処理は、ガラス基板800全体を、硝酸カリウム溶融塩中に浸漬させることにより行った。処理温度は、435℃であり、処理時間は1時間とした。
次に、ガラス基板800を、それぞれの面内ボイド領域831、832に沿って押し割ることにより、1枚のガラス基板800の中央部分(図19の太枠部)から、合計8枚のサンプル880を採取した。各サンプル880は、長さ(図19の長さR参照)が約60mmであり、幅(図19の長さQ参照)が約10mmである。各サンプル880は、4つの端面がいずれも前述の仮想端面に相当する。各サンプルの端面の状態を目視により確認したところ、傷などの問題は確認されなかった。
このようにして製造されたサンプル880をサンプルAと称する。
(サンプルBの製造方法)
サンプルAにおいて使用したガラス基板と同様のガラス基板を、サンプルAと同様のレーザ条件で面内ボイド領域および内部ボイド列を形成後に切断し、長さ60mm、幅10mmの複数のサンプルを採取した。その後、各サンプルに対して、化学強化処理を実施し、サンプルBを製造した。化学強化処理の条件は、前述のサンプルAの場合と同様である。
なお、このサンプルBの製造方法では、一部のサンプルは、端面に傷が生じており、健全な状態ではないものが含まれることがわかった。そのため、目視で健全な状態のサンプルのみを選別して、サンプルBを準備した。この傷は、切断後のサンプルで化学強化処理をしたため、化学強化前の工程の途中のどこかで発生したものと予想される。
(サンプルCの製造方法)
サンプルAにおいて使用したガラス基板と同様のガラス基板を用いてサンプルCを製造した。サンプルCの場合は、レーザ照射を実施せず、ガラス基板に対して直接、化学強化処理を実施した。化学強化処理の条件は、前述のサンプルAの場合と同様である。
その後、化学強化処理されたガラス基板を、サンプルAと同様のレーザ条件で切断し、長さ60mm、幅10mmの複数のサンプルCを採取した。
なお、このサンプルCの製造方法では、一部のサンプルは、端面に傷が生じており、健全な状態ではないものが含まれることがわかった。そのため、目視で健全な状態のサンプルのみを選別して、サンプルCを準備した。この傷は、化学強化処理後の切断の難しさに起因して発生したものと予想される。
(評価)
前述のように製造された各サンプルA〜Cを用いて、以下の評価を行った。
(応力分布の評価)
各サンプルA〜Cの端面の応力分布を評価した。この応力は、主に化学強化処理によるものである。評価には、複屈折イメージング装置(abrio:米国CRi社製)を使用した。それぞれのサンプルにおいて、評価対象面は、長さ60mm、厚さ1.3mmの端面(以下、「第1の端面」と称する)とした。
図20〜図22には、それぞれ、サンプルA〜Cの第1の端面において測定された、面内応力分布結果を示す。なお、これらの図は、白黒データのため、応力分布があまり明確ではないが、図の右側の中央領域では比較的小さな引張応力が発生し、図の左側の端部から右側に入った濃い領域では図の右側の中央領域よりも小さな引張応力が発生し、左上および左下のコーナ部近傍、並びに左側の端部では、色が濃い部分ほど、圧縮応力が大きくなっている(白色部よりも外側の領域)。
また、使用した装置では、評価対象面の情報のみならず、該評価対象面の奥行き方向(本評価では、Q=10mmの部分)の情報も含まれる。このため、この評価では、評価対象面から奥行き方向10mm分までの、いわば応力値が積分された結果が得られる。
図20に示すように、サンプルAでは、3つの外表面、すなわち上下2つの主表面と、幅10mm×厚さ1.3mmの端面(以下、「第2の端面」という)において、大きな圧縮応力が存在している。特に、「第2の端面」には、厚さ方向の位置によらず全体にわたって大きな圧縮応力が存在している。
また、図21に示すように、サンプルBの場合も、3つの外表面の全てにおいて、大きな圧縮応力が存在している。
一方、図22に示すように、サンプルCの場合は、上下2つの主表面には、大きな圧縮応力が存在しているものの、第2の端面の、特に厚さ方向の中心部分には、実質的に圧縮応力が存在していない。
このように、サンプルAの第2の端面には、厚さ方向全体にわたって、サンプルBの端面と同程度の圧縮応力が存在していることがわかった。
(カリウムイオンの分析)
次に、各サンプルA〜Cを用いて、第1の端面におけるカリウムイオン濃度の分析を行った。具体的には、各サンプルの第1の端面を対象に、EDX法(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive X−ray Spectrometry)を用いたライン分析を実施した。
図23〜図25には、それぞれのサンプルで得られた濃度分析の結果を示す。なお、これらの図において、横軸は、第1の端面における第1の主表面からの距離であり、この距離は、0(第1の主表面)から、1300μm(第2の主表面)まで変化する。また、縦軸(左軸)は、シリコンイオンで規格化したカリウムイオンの濃度(原子比)である。図23および図24においては、参考のため、右縦軸に、カリウムイオンの侵入深さのプロファイルを示している。この侵入深さは、EDX法により測定された、第1の端面に垂直な方向でのカリウムイオンの侵入深さを表している。すなわち、この値は、第1の端面において、前述のように定義される距離の方向に沿った各位置で測定された、第1の端面からの深さ方向におけるカリウムイオンの侵入深さを表している。
なお、これらの分析は、各サンプルの第1の端面のいくつかの位置で実施したが、得られる結果は、ほぼ同じであった。
図23の結果から、サンプルAの場合、第1の端面におけるカリウムイオンの濃度は、第1の主表面から第2の主表面に沿って、略放物線状のプロファイルを示すことがわかる。すなわち、カリウムイオン濃度は、第1の主表面側および第2の主表面側では高く、両主表面の中間部分では、低くなる傾向にある。
ここで、サンプルAの製造に用いたガラス基板に元来含まれるカリウムイオン濃度(K/Si)は、バルク濃度で0.118、すなわち約0.12である。一方、図23のプロファイルにおいて、カリウムイオン濃度の最小値(深さ約650μmでの値)は、0.19〜0.20である。従って、サンプルAの場合、第1の端面には、全体にわたって、カリウムイオンが導入されていると言える。なお、このことは、カリウムイオンの侵入深さが第1の主表面からの距離にあまり依存しておらず、距離が650μmの位置においても、カリウムイオンが20μm程度まで導入されていることからも明らかである。ここで、K/Siのバルク濃度に対する、プロファイルのK/Siの最小値の比は、1.6である。
図24には、サンプルBの場合の分析結果を示す。サンプルBの場合、第1の端面は、第1の主表面および第2の主表面と同様に、化学強化されている。従って、カリウムイオン濃度は、横軸の距離に依存せず、いずれの距離においても、ほぼ一定の高い値を示す。
一方、図25に示すように、サンプルCの場合は、ガラス基板に対して化学強化処理を実施してから、サンプルを切り出しているため、第1の端面には、カリウムイオンがほとんど導入されていない。すなわち、カリウムイオン濃度は、横軸の距離によらず、ガラス基板に元来含まれていたカリウムイオンの濃度である0.12に等しくなっている。
このように、サンプルAでは、化学強化処理後にサンプルを採取しているにも関わらず、端面にカリウムイオンが導入されていることが確認された。
(強度評価)
次に、各サンプルA〜Cを用いて、4点曲げ試験による強度評価を行った。
4点曲げ試験は、以下の2通りの方法(平曲げ試験および縦曲げ試験)で実施した。
(平曲げ試験)
図26には、平曲げ試験装置の構成を模式的に示す。
図26に示すように、平曲げ試験装置900は、1組の支点部材920と、1組の荷重部材930とを有する。支点部材920の中心間距離L1は、30mmであり、荷重部材930の中心間距離L2は、10mmである。支点部材920および荷重部材930は、試験に供されるサンプルの幅(10mm)に比べて、十分に長い全長(Y方向の長さ)を有する。
試験の際には、2つの支点部材920の上に、サンプル910が水平に配置される。サンプル910は、それぞれの第2の端面918が、両支点部材920の中心から、等しい距離となるように配置される。また、サンプル910は、第1の主表面912または第2の主表面914が下向きになるようにして配置される。
次に、2つの荷重部材930が、両者の中心がサンプル910の中心と対応するようにして、サンプル910の上方に配置される。
次に、荷重部材930をサンプル910に押し付けることにより、サンプル910の上部から、サンプル910に荷重が印加される。ヘッド速度は、5mm/分である。試験の際の室内の温度は約23℃及び相対湿度は約60%である。このような試験により、サンプル910が破断した際の荷重から求められる最大引張応力を、平曲げ破断応力とする。
(縦曲げ試験)
図27には、縦曲げ試験装置の構成を模式的に示す。
図27に示すように、縦曲げ試験装置950は、1組の支点部材970と、1組の荷重部材980とを有する。支点部材970の中心間距離L1は、50mmであり、荷重部材980の中心間距離L2は、20mmである。支点部材970および荷重部材980は、試験に供されるサンプルの厚さ(1.3mm)に比べて、十分に長い全長(Y方向の長さ)を有する。
試験の際には、2つの支点部材970の上に、サンプル910が水平に配置される。サンプル910は、それぞれの第2の端面918が、両支点部材970の中心から、等しい距離となるように配置される。また、サンプル910は、第1の端面916が上向きになるようにして配置される。サンプル910は、倒れないように支持される。この支持において、サンプル910と支持するための部材との間で摩擦が発生しないようにする。
次に、2つの荷重部材980が、両者の中心がサンプル910の中心と対応するようにして、サンプル910の上方に配置される。
次に、荷重部材980をサンプル910に押し付けることにより、サンプル910の上部から、サンプル910に荷重が印加される。ヘッド速度は、1mm/分である。試験の際の室内の温度は約23℃及び相対湿度は約60%である。このような試験により、サンプル910が破断した際の荷重から求められる最大引張応力を、縦曲げ破断応力とする。
(試験結果)
図28には、サンプルA〜Cにおいて得られた平曲げ試験の結果(ワイブル分布図)をまとめて示す。図中の各サンプルでのワイブルプロットに対するフィッティングによる直線は、最小二乗法によって求めた。
図28に示すように、サンプルCでは、破断応力があまり高くはなく、良好な強度を示さないことがわかった。これに対して、サンプルAおよびサンプルBでは、ほぼ同等の良好な強度を示すことがわかった。
なお、一般に、ワイブル分布図において、直線の傾きは、サンプル間のばらつきと相関することが知られている。すなわち、サンプル間のばらつきが少ないほど、直線の傾きは急になると言える。
図28に示す結果では、サンプルAの直線の傾きは、サンプルBに比べて急になっている。従って、サンプルAでは、サンプルBに比べて、サンプル間の強度のばらつきが少ないと言える。この理由は、サンプルAにおいて、その端部となる内部ボイド列が、化学強化工程中においてガラス自身で覆われているため、傷が付きにくく、強度のバラツキが少なくなるためである。
次に、図29には、サンプルA〜Cにおいて得られた縦曲げ試験の結果(ワイブル分布図)をまとめて示す。図中の各サンプルでのワイブルプロットに対するフィッティングによる直線は、最小二乗法によって求めた。
図29に示すように、サンプルCでは、破断応力があまり高くはなく、良好な強度を示さないことがわかった。これに対して、サンプルAおよびサンプルBでは、良好な強度を示すことがわかった。サンプルAの破断応力がサンプルBの破断応力よりも若干低いのは、前述した第1の端面における化学強化処理によるカリウムイオン濃度の違いがあるためである。
また、前述のように、サンプルAの直線の傾きは、サンプルBに比べて急になっていることから、サンプルAでは、サンプルBに比べて、サンプル間の強度のばらつきが少ないと言える。この理由は、サンプルAにおいて、その端部となる内部ボイド列が、化学強化工程中においてガラス自身で覆われているため、傷が付きにくく、強度のバラツキが少なくなるためである。
以上のように、サンプルAでは、ガラス基板の化学強化処理の際に、端面にカリウムイオンが導入されること、およびその結果として、サンプルAは、良好な強度を示すことが確認された。
次に、本発明の他の実施例について説明する。
(他の実施例1)
(サンプルの準備)
サンプルとしては、前述のサンプルAを使用した。図23に示したように、このサンプルの場合、第1の端面では、第1の主表面からの距離によらず、アルカリ金属イオンの侵入深さは、ほぼ20μmで一定である。以下、本実施例に使用したサンプルを、特に「サンプルD」と称する。
(第1の端面の表面粗さの測定)
サンプルDの第1の端面の表面粗さ(算術平均粗さRa)を測定した。算術平均粗さRaは、JIS B0601(2013年)に準拠し、東京精密社製のSurfcom1400Dを用いて測定した。測定長さは、第1の端面の長手方向に沿って、8.0mmとした。λc輪郭曲線フィルターのカットオフ値は、0.8mmとした。測定速度は、0.3mm/秒とした。
なお、測定は、12枚のサンプルDを用いて実施した。各サンプルとも、3箇所で測定を行った。
(第1の端面のクラック深さの測定)
以下の方法により、サンプルDにおける第1の端面のクラック深さを測定した。クラック深さの測定方向は、第1の端面に垂直な方向とした。
測定前にクラックの観察を容易にするため、サンプルDを、以下の条件でエッチングした。
(1)エッチング液の準備
エッチング液は、900mlの水に、46.0質量%のフッ化水素酸(HF)100mlと、36質量%の塩酸(HCl)1000mlを混合して調製した。
(2)エッチング処理
サンプルDを、(1)で準備したエッチング液に1分間浸漬させ、約3μmの当方性エッチングを実施した。
(3)ブラシ研磨
エッチング後に、サンプルDに対してブラシ研磨を行い残留物を除去した。
クラック深さの測定には、走査型共焦点レーザ顕微鏡(LEXT OLS3000:オリンパス社製)を使用した。
測定は、サンプルDの第1の端面において、略中央の領域(長手方向36mm×厚さ方向1.3mmの領域)で実施した。
観察されたクラックのうち、最も深いクラックの深さを、そのサンプルDの見かけのクラック深さDとした。ただし、実際のクラック深さ(Dと称する)は、このDに、ブラシ研磨によって減少した長さ分を加えて算定した。この実際のクラック深さDは、前述のエッチング処理による影響を含む値であることに留意する必要がある。
(評価)
12枚のそれぞれのサンプルDに対して得られた、第1の端面の表面粗さおよびクラック深さDの評価結果を、まとめて表1に示す。なお、表1には、参考のため、各サンプルDにおける第1の主表面の面内ボイド領域の表面ボイド間のピッチを合わせて示した。
表1から、各サンプルDにおける算術平均粗さRa(平均値)は、0.5μm〜0.6μmの範囲にあり、クラック深さDは、5.5μm以下であることがわかる。
なお、表1に示したクラック深さDは、第1の端面の観察対象領域において認められたクラックのうちの最大のものの値である。実際には、第1の端面(の未観察領域)に、より大きなクラック深さDを有するクラックが存在する可能性がある。
そこで、得られた結果は、サンプル数を12とし、第1の端面の長手方向36mm×厚さ方向1.3mmの領域で観察された、標準偏差が0.47μmの場合の、クラック深さDの平均値を示しているとみなすことができる。
従来の方法、例えば、#1000のダイアモンド砥石、またはそれ以上の粗いダイアモンド砥石によって、ガラスの端面を研削した場合、クラック深さは、ガラスの組成によらず、約7μm以上となることを示す実験データがある。
このことから、今回の結果は、従来のダイアモンド砥石により研磨された端面におけるクラックに比べて、第1の端面に存在するクラックでは、クラック深さが有意に抑制されていることを示している。
ここで、前述の特許文献1の図12に記載の端面のクラック深さは、今回、サンプルDで測定されたクラック深さの約10倍となっている。従って、特許文献1では、端面に垂直な方向のクラック深さは、その端面に垂直な方向におけるアルカリ金属イオンの侵入深さよりも深くなっているものと思われる。
このように、サンプルDの第1の端面における表面粗さは有意に小さくなっており、また、サンプルDの第1の端面に垂直な方向のクラック深さは、第1の端面におけるアルカリ金属イオンの侵入深さよりも浅いことがわかった。
この結果は、前述のサンプルAに対する強度評価の結果に整合するものと言える。また、第1の端面における表面粗さは、レーザ照射後、化学強化処理を行い、分離後であって、端面の研磨処理等を行っていないにも関わらず、端面が平滑で外観品質に優れると言える。
(他の実施例2)
前述の(サンプルAの製造方法)に示したような方法で、3種のサンプルE、FおよびGを製造した。
ただし、サンプルEは、厚さtが0.5mmのガラス基板(ガラス素材)から製造した、また、サンプルFは、厚さtが0.85mmのガラス基板(ガラス素材)から製造した。これに対して、サンプルGは、厚さtが1.3mmのガラス基板(ガラス素材)から製造した。すなわち、サンプルGは、サンプルAと同じ方法により製造した。
前述のように、これらのサンプルE〜Gは、製造の過程で、ガラス素材に対して化学強化処理を実施する工程を経ているが、いずれのサンプルの場合も、化学強化処理直後には、ガラス素材からサンプルが分離する現象は生じなかった。
各サンプルE〜Gに対して、EPMA法(電子プローブ・マイクロ・アナライザー:Electron Probe Micro Analyzer)を用いて、前述の「第1の端面」におけるカリウムイオン濃度の分析を行った。
分析は、第1の端面のうち、以下の3箇所で実施した:
ガラス素材の第1の主表面に対応するいずれかの位置、すなわち長さ60mmの一方の辺に対応するいずれかの位置(「測定領域1」という)、
ガラス素材の第1の主表面に対応する位置から、サンプルの厚さ方向(ガラス素材の第2の主表面に向かう方向)に沿って1/4だけ移動したいずれかの位置(「測定領域2」という)、および
ガラス素材の第1の主表面に対応する位置から、サンプルの厚さ方向に沿って1/2だけ移動したいずれかの位置(「測定領域3」という)。
以下の表2には、サンプルE〜Gの各測定領域で得られたカリウム濃度の分析結果を示す。
カリウムイオン濃度は、シリコンイオンで規格化したカリウムイオンの濃度(原子比)、すなわちCsで示した。なお、厳密には、各測定領域の中でも、各測定領域の表面に対して、直交する深さ方向(サンプルの幅方向)にわずかに入った表面の近傍で、カリウムイオン濃度は最大となる。そこで、ここでは、各測定領域において、表面の近傍でKの分析値が最大となる位置におけるCs値を、その測定領域におけるCsとして採用した。
なお、EPMA法で得られるCsの値は、前述のEDX法の結果とは異なる場合がある。しかしながら、プロファイルの評価にあたっての影響はない。
また、表2には、各測定領域におけるカリウムイオンの侵入深さの値を同時に示した。この侵入深さは、深さ方向(サンプルの幅方向)に沿った、第1の端面からのカリウムイオンの変化がなくなる侵入深さを表す。
さらに、表2には、測定領域3において計算された、バルクのCsに対する各測定領域のCsの比(以下、「Cs比」という)を示した。
表2の結果から、サンプルE〜Gでは、第1の端面全体にカリウムイオンが導入されていること、およびカリウムイオンの濃度は、厚さの中央部分から第1の主表面に向かって増加するプロファイルを示すことが確認された。さらに、第1の端面におけるカリウムイオンの濃度は、サンプルに元来含まれるカリウムイオン濃度(バルク濃度)よりも、1.8倍以上大きいことが確認された。
110 ガラス素材
112 第1の主表面
114 第2の主表面
116 端面
130、131、132 面内ボイド領域
138 表面ボイド
138A、138B 表面ボイド列
150 内部ボイド列
158 ボイド
160、161、162 ガラスピース
170 仮想端面
175 ガラス板
180 ガラス物品
186 端面
200 装置
210 台座
220 ローラ
250 装置
260 シート状部材
270 支持部材
380 第1のガラス物品
382 第1の主表面
384 第2の主表面
386(386−1〜386−4) 端面
415 第1のガラス板
417 第1の主表面
419 第2の主表面
420(420−1〜420−4) 端面
431 面内ボイド領域
461 ガラスピース
800 ガラス基板
802 第1の主表面
831、832 面内ボイド領域
880 サンプル
900 平曲げ試験装置
910 サンプル
912 第1の主表面
914 第2の主表面
918 第2の端面
920 支点部材
930 荷重部材
950 縦曲げ試験装置
916 第1の端面
918 第2の端面
970 支点部材
980 荷重部材

Claims (18)

  1. ガラス板の製造方法であって、
    (1)相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有するガラス素材を準備する工程と、
    (2)前記ガラス素材の前記第1の主表面にレーザを照射することにより、前記第1の主表面に、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が形成されるとともに、前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が形成される、工程と、
    (3)前記内部ボイド列が形成された前記ガラス素材を化学強化処理する工程と、
    を有する製造方法。
  2. 前記面内ボイド領域において、隣接するボイド同士の間隔は、3μm〜10μmの範囲である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記(2)の工程では、第1パスのレーザ照射により、前記面内ボイド領域が形成された後、さらに該面内ボイド領域に沿って少なくとも1回のレーザ照射が繰り返され、これにより、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたって、前記内部ボイド列が形成される、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. さらに、前記(2)の工程において、
    前記面内ボイド領域の形成後に、前記第1の主表面および前記第2の主表面の少なくとも一つにおいて、前記面内ボイド領域に沿って溝を形成する工程、または
    前記面内ボイド領域の形成前に、前記第1の主表面および前記第2の主表面の少なくとも一つにおいて、後に形成される面内ボイド領域に沿って溝を形成する工程、
    を有する、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の製造方法。
  5. ガラス物品の製造方法であって、
    請求項1乃至4のいずれか一つに記載のガラス板の製造方法により、ガラス板を製造する工程であって、前記ガラス板は、前記ガラス素材の前記第1の主表面に対応する第3の主表面、および前記ガラス素材の前記第2の主表面に対応する第4の主表面を有する、工程と、
    前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列に沿って、前記ガラス板から、1または2以上のガラス物品を分離する工程と、
    を有する、製造方法。
  6. 前記ガラス物品を分離する工程では、
    前記ガラス板に、前記面内ボイド領域に沿った押し付け力を加えること、
    前記ガラス板を、前記第3の主表面または前記第4の主表面が凸になるように変形させること、および
    前記ガラス板に、前記面内ボイド領域に沿った熱応力による引張応力を加えること、
    から選択される一以上により、前記1または2以上のガラス物品が得られる、請求項5に記載の製造方法。
  7. ガラス板であって、
    相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有し、
    前記第1の主表面には、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が存在し、
    前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が存在し、
    当該ガラス板を前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列を通るように切断した際に得られる切断面の中央に、化学強化処理により形成された圧縮応力層が存在する、ガラス板。
  8. ガラス板であって、
    相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有し、
    前記第1の主表面には、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が存在し、
    前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が存在し、
    当該ガラス板を前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列を通るように切断した際に得られる切断面における、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、前記所定のアルカリ金属イオンの濃度が当該ガラス板のバルク濃度よりも高いプロファイルを有し、
    前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンである、ガラス板。
  9. ガラス板であって、
    相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有し、
    前記第1の主表面には、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が存在し、
    前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が存在し、
    当該ガラス板を前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列を通るように切断した際に得られる切断面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、当該ガラス板の厚さの中央部分に比べて、前記第1の主表面の側および前記第2の主表面の側ほど前記所定のアルカリ金属イオンの濃度が高いプロファイルを有し、
    前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンであり、
    前記切断面において、前記濃度プロファイルにおける前記所定のアルカリ金属イオンの濃度は、当該ガラス板のバルク濃度よりも高い、ガラス板。
  10. ガラス板であって、
    相互に対向する第1の主表面および第2の主表面を有し、
    前記第1の主表面には、複数のボイドが配列された面内ボイド領域が存在し、
    前記面内ボイド領域から前記第2の主表面に向かって、1または2以上のボイドが配列された、複数の内部ボイド列が存在し、
    当該ガラス板を前記面内ボイド領域および前記複数の内部ボイド列を通るように切断した際に得られる切断面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、前記第1の主表面の側および前記第2の主表面の側ほど前記所定のアルカリ金属イオンの濃度が高い、略放物線状のプロファイルを有し、
    前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンであり、
    前記切断面において、前記濃度プロファイルにおける前記所定のアルカリ金属イオンの濃度は、当該ガラス板のバルク濃度よりも高い、ガラス板。
  11. 前記面内ボイド領域において、隣接するボイド同士の間隔は、3μm〜10μmの範囲である、請求項7乃至10のいずれか一つに記載のガラス板。
  12. 前記切断面は、当該ガラス板からガラス物品が分離される際の端面に対応する、請求項7乃至11のいずれか一つに記載のガラス板。
  13. 前記端面は、前記第1の主表面との接続部分、および/または前記第2の主表面との接続部分が、面取りされまたはラウンド加工されている、請求項12に記載のガラス板。
  14. ガラス物品であって、
    相互に対向する第1の主表面および第2の主表面と、両主表面を接合する少なくとも一つの端面とを有し、
    前記端面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、厚さ方向の中央部分に比べて、前記第1の主表面の側および前記第2の主表面の側ほど前記アルカリ金属イオンの濃度が高いプロファイルを有し、
    前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンであり、
    前記端面において、前記濃度プロファイルにおける前記所定のアルカリ金属イオンの濃度は、当該ガラス物品のバルク濃度よりも高い、ガラス物品。
  15. ガラス物品であって、
    相互に対向する第1の主表面および第2の主表面と、両主表面を接合する少なくとも一つの端面とを有し、
    前記端面において、前記第1の主表面から前記第2の主表面にわたる所定のアルカリ金属イオンの濃度プロファイルは、前記第1の主表面の側および前記第2の主表面の側ほど前記アルカリ金属イオンの濃度が高い、略放物線状のプロファイルを有し、
    前記所定のアルカリ金属イオンは、前記第1の主表面および前記第2の主表面に圧縮応力層を付与して、両主表面の強度を高めるためのアルカリ金属イオンであり、
    前記端面において、前記濃度プロファイルにおける前記所定のアルカリ金属イオンの濃度は、当該ガラス物品のバルク濃度よりも高い、ガラス物品。
  16. 前記端面に垂直な方向のクラック深さは、前記端面に垂直な方向の前記所定のアルカリ金属イオンの侵入深さよりも浅い、請求項14または15に記載のガラス物品。
  17. 前記所定のアルカリ金属イオンは、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンである、請求項14乃至16のいずれか一つに記載のガラス物品。
  18. 前記端面は、前記第1の主表面との接続部分、および/または前記第2の主表面との接続部分が、面取りされまたはラウンド加工されている、請求項14乃至17のいずれか一つに記載のガラス物品。
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