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JP5018951B2 - 電極 - Google Patents

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Description

本発明は電極に関する。
例えば有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」という)は、主として透明電極からなる陽極と、陰極と、これら電極の間に配置され、陽極から注入される正孔と、陰極から注入される電子が再結合することにより発光する発光層とで構成されており、透明電極は一般に透明基板上にインジウム−スズ酸化物(以下「ITO」という)からなる膜を有している。このような有機EL素子では、透明電極のITO膜から発光層への正孔注入効率を向上させることが望ましいとされているが、そのためには、ITO膜表面の仕事関数は高い方が望ましいとされている。
このようなITO膜を有する透明電極として、従来、例えば下記特許文献1〜3に開示されるものが知られている。特許文献1には、透明基板上に設けられた透明導電部を、活性酸素を含む気体に晒すことにより製造される、透明導電部表面における仕事関数が高い透明電極が開示されており、特許文献2には、透明基板上に設けられた透明導電部に、プラズマ化された酸素イオンを注入することにより製造される、透明導電部表面における仕事関数が高い透明電極が開示されている。
また特許文献3には、SnOの含有率が4〜6質量%とされたITO焼結体を使用してイオンプレーティング法によりガラス基板上にITO膜を成膜する方法が開示されている。
特開2001−284059号公報 特開2001−284060号公報 特許2002−83693号公報
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の透明電極は、いずれも仕事関数を高めることができるものの、以下に示す課題を有していた。
即ち、上記の特許文献1、2に記載の透明電極は、特殊なプラズマ発生装置あるいはイオン源を用いて製造するため、製造コストが高くなるという問題を有していた。
また上記特許文献3に記載の透明電極は、大きな真空容器を必要とするイオンプレーティング装置により製造するため、スパッタ法のような真空容器の小型化やインライン化できずランニングコストが高くなるため、製造コストが高くなるという問題を有していた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、金属酸化物導電部表面の仕事関数を低コストで十分に大きくできる電極を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、基板上に、金属酸化物を含む第1導電部と、この第1導電部の上の、当該第1導電部と異なる金属酸化物を含む第2導電部と、この第2導電部を特定の構成にすることで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、基板上に、第1金属酸化物を含む第1導電部と、前記第1導電部の上の、第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物を含む第2導電部と、前記第2導電部の厚さが15nm以下であり、前記第1金属酸化物がスズ添加酸化インジウムであり、前記第2金属酸化物がフッ素添加酸化スズであるという構成で、上記課題を解決できることを特徴とする電極である。
上記電極によれば、酸素イオンや活性酸素を用いたりイオンプレーティング法を用いたりすることが必要無いので、製造コストを低下させることができる。加えて、電極の第2導電部のイオン化ポテンシャルを、基板上にそれぞれ単独で配置した場合の第1導電部又は第2導電部のイオン化ポテンシャルよりも十分に大きくすることができる。即ち、導電部表面のイオン化ポテンシャルを低コストで十分に大きくすることができる。また、本発明に係る電極によれば、電極の使用環境に係らず電極の第2導電部のイオン化ポテンシャルが高い状態で安定化した電極を得ることができる。なお、本明細書において、「イオン化ポテンシャル」の概念には、「仕事関数」も含まれるものとする。
本発明による電極によれば、電極の構成で、電極の第2導電部のイオン化ポテンシャルを、基板上にそれぞれ単独で配置した場合の第1導電部又は第2導電部のイオン化ポテンシャルよりも十分に大きくすることができる。このため、酸素イオンや活性酸素を用いたりイオンプレーティング法を用いたりすることが必要無いので、製造コストを低下させることができる。加えて、電極の使用環境に係らず電極の第2導電部のイオン化ポテンシャルは高い状態で安定化している。
本発明の電極の一実施形態を概略的に示す断面図である。 電極の伝導部の表面状態を概略的に示す平面図である。 電極の製造方法の一実施形態を示す一連の工程図である。 実施例1に係る電極について、SEMによる導電部の表面状態を示す図である。 実施例2に係る電極について、SEMによる導電部の表面状態を示す図である。 参考例3に係る電極について、SEMによる導電部の表面状態を示す図である。 比較例13に係る電極について、SEMによる導電部の表面状態を示す図である。
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の電極の一実施形態を概略的に示す断面図、図2は、電極の導電部側表面をSEMで観察した状態を示す図である。図1に示すように、電極10は、基板2と、基板2上に配置された第1導電部4と、第1導電部4上に配置された第2導電部6とで構成されている。
また、図2に示すように、第2導電部6は、第2金属酸化物からなる複数の島状部8を有している。前記島状部8は第1導電部4を構成する第1金属酸化物からなる粒子7の上に形成されている。粒子7は基板2(図示せず)上に形成され、粒子同士は密に接している。
ここで、第2導電部6の厚さは30nm以下となっている。
このような電極10によれば、その使用環境に係らず、第2電極部6のイオン化ポテンシャルが高い状態で安定化される。言い換えると、厳しい還元性雰囲気や酸化性雰囲気下に置かれても、電極の第2導電部6の低下が十分に防止される。
基板2は、当該電極の基板として使用に耐え得るもので、且つ、第1導電部並びに第2導電部が当該基板上に形成可能であれば特に限定されない。
電極10として、透過すべき光の波長に対して透明な電極(以下「透明電極」という)としたい場合、基板2、第1導電部、第2導電部が、透過すべき光の波長に対して透明である必要がある。
上記透明電極用基板2として、例えば、透明なガラス基板、表面を適当に荒らすなどして光の反射を防止したガラス基板、磨ガラス状の半透明なガラス基板など光を透過するものが基板2の構成材料の一つとして挙げられる。なお、この場合、光を透過するものであれば材質はガラスでなくてもよく、透明プラスチックや透明結晶体などでもよい。基板2は透過すべき光の波長に対して透明のものであればこれらに特に限定されない。
上記透明電極用第1金属酸化物及び第2金属酸化物は、可視域に対する光透過性が高く、且つ、電気抵抗率が低いという理由から、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム、鉛、カドミウム、を主要成分とすることが好ましい。例えば、スズ添加酸化インジウム、ゲルマニウム添加酸化インジウム、モリブデン添加酸化インジウム、鉄添加酸化インジウム、チタン添加酸化インジウム、ジルコニウム添加酸化インジウム、ハフニウム添加酸化インジウム、ニオブ添加酸化インジウム、タンタル添加酸化インジウム、タングステン添加酸化インジウム、テルル添加酸化インジウム、フッ素添加酸化スズ、アンチモン添加酸化スズ、ニオブ添加酸化スズ、タンタル添加酸化スズ、アルミニウム添加酸化亜鉛、ガリウム添加酸化亜鉛、ビスマス添加酸化亜鉛、インジウム添加酸化亜鉛、イットリウム添加酸化亜鉛、スカンジウム添加酸化亜鉛、鉄添加酸化亜鉛、バナジウム添加酸化亜鉛、シリコン添加酸化亜鉛、ゲルマニウム添加酸化亜鉛、チタン添加酸化亜鉛、ジルコニウム添加酸化亜鉛、ハフニウム添加酸化亜鉛、スズ添加酸化ガリウム、ビスマス添加酸化鉛、インジウム添加酸化カドミウム、スズ添加酸化カドミウム、亜鉛−スズ酸化物、インジウム−スズ酸化物、亜鉛−インジウム酸化物、スズ−亜鉛−インジウム酸化物、などが挙げられる。
次に、図1に示した電極10の実施形態について図3(a)〜(c)を参照しながら説明する。図3(a)〜(c)は、電極10を製造する一連の工程図である。なお、本実施形態では、電極10として透明電極の場合について説明する。また、第1金属酸化物をスズ添加酸化インジウム、第2金属酸化物をフッ素添加酸化スズとする場合について説明する。
先ず、基板2を用意する(図3(a)参照)。そして、図3(b)に示すように、基板2の表面上に、スズ添加酸化インジウムからなる第1導電部4を形成する。
第1導電部4は、例えばスプレー熱分解成膜法を用いて形成することができる。スプレー熱分解成膜法は、基板2を加熱しながら、基板2の表面上にスズ添加酸化インジウム形成用原料(以下「ITO膜形成用原料」という)を噴霧するものである。これにより、ITO膜形成用原料を構成する材料が基板2の表面上で分解される。このとき、真空等の特別な雰囲気を必要としない。こうして、基板2の表面上にスズ添加酸化インジウムからなる第1導電部4が形成される。
ITO膜形成用原料としては、インジウム含有化合物、スズ含有化合物及びこれらを溶解する溶媒によって構成することができる。インジウム含有化合物としては、例えば塩化インジウム、硝酸インジウム、水酸化インジウム、酢酸インジウム、インジウムアセチルアセトナート、2−エチルヘキサンインジウム、インジウムイソプロポキシド、などが挙
げられ、スズ含有化合物としては、例えば塩化スズ、水酸化スズ、酢酸スズ、テトラブチルスズ、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズジアセテート、2−エチルヘキサンス
ズ、オクチル酸スズ、スズエトキシド、スズイソプロポキシド、スズイソブトキシドなどが挙げられる。また溶媒としては、インジウム含有化合物及びスズ含有化合物を溶解できる液体であれば特に制限されないが、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、水、又はこれらの2種以上の組合せなどを用いることができる。
また、このときの基板2の温度は、インジウム含有化合物及びスズ含有化合物を分解し酸化することが可能な温度であればよく、例えば200〜700℃とすればよい。
続いて、図3(c)に示すように、第1導電部4の表面上に、第2金属酸化物からなる第2導電部6を形成する。このとき、第2導電部6の厚さが30nm以下となるようにする。第2導電部6も第1導電部4を形成する場合と同様、スプレー熱分解成膜法を用いて形成することができる。
スプレー熱分解成膜法は、基板2を加熱しながら、基板2の表面上にフッ素添加酸化スズ形成用原料(以下「FTO膜形成用原料」という)を噴霧するものである。これにより、FTO膜形成用原料を構成する材料が第1導電部4の表面上で分解される。このとき、真空等の特別な雰囲気を必要としない。こうして、第1導電部4の表面上に、フッ素添加酸化スズからなる第2導電部6が形成される。
FTO膜形成用原料としては、フッ素含有化合物、スズ含有化合物及びこれらを溶解する溶媒によって構成することができる。フッ素含有化合物としては、例えばフッ化アンモニウム、フッ酸などが挙げられ、スズ含有化合物としては、例えば塩化スズ、水酸化スズ、酢酸スズ、テトラブチルスズ、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズジアセテート、2−エチルヘキサンスズ、オクチル酸スズ、スズエトキシド、スズイソプロポキシド、スズイソブトキシドなどが挙げられる。また溶媒としては、フッ素含有化合物及びスズ含有化合物を溶解できる液体であれば特に制限されないが、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、水、又はこれらの2種以上の組合せなどを用いることができる。第2導電部6の形成はFTO膜用原料を繰り返し噴霧することにより行なうが、第2導電部6の厚さを30nm以下にするには、1回当たりの噴霧量または噴霧回数などを調整すればよい。
また、このときの基板2の温度は、フッ素含有化合物及びスズ含有化合物を分解し酸化することが可能な温度であればよく、例えば200〜700℃とすればよい。
こうして、図3(c)に示す電極10が得られる。
また、電極10形成後に、還元処理を行なうことが好ましい場合がある。還元処理により、得られる電極10の電気抵抗率が低下したり、あるいは、電極10の第2導電部のイオン化ポテンシャルが大きくなる場合がある。具体的には、第1金属酸化物がスズ添加酸化インジウムで、第2金属酸化物がフッ素添加酸化スズの場合、電極の電気抵抗率が低下し、さらに、第2導電部のイオン化ポテンシャルが大きくなる。還元処理は、具体的には、還元雰囲気下で加熱することにより行なうことができる。還元雰囲気は、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、窒素ガス、希ガス、またはこれらの混合ガスなどによって形成することができる。また、加熱温度は、例えば、100〜800℃とすればよい。
上記のようにして電極10を形成すると、電極10の第2導電部6のイオン化ポテンシャルを、基板2上にそれぞれ単独で配置する場合の第1導電部または第2導電部のイオン化ポテンシャルよりも十分に大きくすることができる。加えて、酸素イオンや活性酸素を用いたりイオンプレーティング法を用いたりする必要が無いので、製造コストを低下させることができる。即ち、電極10の導電部表面のイオン化ポテンシャルを低コストで十分に大きくすることができる。さらに、電極10の第2導電部6のイオン化ポテンシャルが大きくなる前記現象が、電極10の導電部の構成に起因しているため、電極10の使用環境に係らず、電極10の第2導電部6のイオン化ポテンシャルが高い状態のままで安定である。
このような電極10は、第2導電部のイオン化ポテンシャルが十分に大きくなっているので、電極10の中でも、特に、必要な光の波長に対して透明である透明電極の場合は、例えば、有機EL素子の陽極としての透明電極や化合物太陽電池の透明電極に利用することができる。また、電極10は上記形成方法により低コストで製造できるため、有機EL素子や化合物太陽電池のコストを低下させることもできる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、第2導電部6において、当該第2導電部6の厚さが30nm以下であり、且つ、第2導電部6が複数の島状部から構成されているが、第2導電部6は、当該第2導電部6の厚さが30nm以下であること、第2導電部が複数の島状部から構成されていることのいずれかの要件を満たしていればよい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
以下に示す手順により図1に示す電極10と同様の構成の電極を作製した。
まず、基板として可視光に対して透明なガラス基板(厚さ:約1mm、26mm×50mm)上に、スプレー熱分解成膜(Spray Pyrolysis Deposition)法を用いて、スズ添加酸化インジウム(以下「ITO」という)部及びフッ素添加酸化スズ(以下「FTO」という)部を成膜し、可視光に対して透明な導電部を形成した。なお、ガラス基板としては、コーニング製#7059ガラスの平板を用いた。
このとき、ITO部及びFTO部は以下のようにして成膜した。
ITO部を成膜する場合は、塩化インジウム、塩化スズ及びエタノールからなるITO膜用原料を用意した。ITO膜用原料は、インジウム原子ととスズ原子とがモル比で95:5となるようにし、エタノール中のインジウムとスズの合計モル数が0.1mol/Lとなるように調整した。そして、このITO膜用原料を、孔径約0.1mmのスプレーノズルを用いてガラス基板の表面上にスプレーした。このとき、ガラス基板の温度は320〜350℃に設定し、スプレーは間欠的に200回行なった。このとき、スプレー時間は0.2〜0.3秒とし、スプレー間隔は約5秒とした。こうしてガラス基板上に厚さ約400nmのITO膜を形成した。
FTO部を成膜する場合は、塩化スズ、フッ化アンモニウム、2M−塩酸及びエタノールからなるFTO膜用原料を用意した。FTO膜用原料は、フッ素原子とスズ原子とがモル比で1:2となるようにし、2M−塩酸とエタノールとが体積比で5:95となるようにし、エタノール及び2M−塩酸の混合溶媒中のスズのモル数が0.1mol/Lとなるように調整した。そして、このFTO膜用原料を、孔径0.1mmのスプレーノズルを用いてITO部の表面上にスプレーした。このとき、スプレーは間欠的に2回行なった。ガラス基板の温度、スプレー時間及びスプレー間隔はITO部を形成する場合と同様とした。こうしてITO部上に厚さ約6nmのFTO部を形成した。
こうして基板上に積層導電部が形成された電極10を得た。
こうして得られた電極について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率:10万倍、加速電圧:10kVの条件で観察した。観察結果を図4に示す。なお、図4は、SEMによる電極の表面形態を示す図である。
図4より本実施例に係る電極は、大きな粒子が密に接した組織を有する第1導電部上に、多数の島状で組織を有する第2導電部が接している形態を有していることが確認された。ここで、第2導電部の島状の粒子の平均粒径は約6nmであった。
また、図示しない電極の断面のSEMによる形態観察によって、第2導電部の厚さと、前記表面形態から求まる第2導電部の島状粒子の平均粒径とがほぼ同じであることも確認された。このことから、第2導電部の厚さを6nmとした。なお、第1導電部の厚さは約400nmで、この数値は、電極の分光透過率の干渉パターンから求め、断面のSEMによる形態観察によってその確からしさを確認した。前記厚さに関する結果を表1に示す。表1において、第1導電部の各欄における括弧内の数値は、第1導電部の厚さを示しており、第2導電部の各欄における括弧内の数値は、第2導電部の厚さを示している(実施例2,4,5、参考例3,6及び比較例1〜6についても同様)。
Figure 0005018951
(実施例2)
FTO膜形成用原料のスプレー回数を5回としたこと以外は実施例1と同様にして電極を作製した。そして、得られた電極について、実施例と同様にして電極の表面形態を観察した。観察結果として、SEMによる電極の表面形態を示す図を図5に示す。
図5より、本実施例に係る電極は、大きな粒子が密に接した組織を有する第1導電部上に、多数の島状で組織を有する第2導電部が接している形態を有していることが確認された。ここで、第1導電部及び第2導電部の厚さを実施例1と同様にして測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
参考例3)
FTO膜形成用原料のスプレー回数を10回としたこと以外は実施例1と同様にして電極を作製した。そして、得られた電極について、実施例と同様にして電極の表面形態を観察した。観察結果として、SEMによる電極の表面形態を示す図を図6に示す。
図6より、本参考例に係る電極は、大きな粒子が密に接した組織を有する第1導電部上に、多数の島状で組織を有する第2導電部が接している形態を有していることが確認された。ここで、第1導電部及び第2導電部の厚さを実施例1と同様にして測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(比較例1)
ITO膜のみを形成したこと以外は実施例1と同様にして電極を作製した。そして、得られた電極について、実施例と同様にして電極の表面形態を観察した。観察結果として、SEMによる電極の表面形態を示す図を図7に示す。ITO膜の厚さを実施例1と同様にして測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(比較例2)
FTO膜のみを形成したこと以外は実施例1と同様にして電極を作製した。そして、得られた電極について、実施例1と同様にしてFTO膜の厚さを測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(比較例3)
FTO膜形成用原料のスプレー回数を20回としたこと以外は実施例1と同様にして電極を作製した。そして、得られた電極について、実施例1と同様にして第1導電部及び第2導電部の厚さを測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1と同じ電極を作製し、得られた電極に対し、水素ガスと窒素ガスとの混合ガス(水素ガス0.2%)の雰囲気中での、600℃、60分の熱処理による還元処理を施し、新たな電極を得た。そして、得られた電極について、実施例1と同様にして第1導電部及び第2導電部の厚さを測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(実施例5)
実施例2と同じ電極を作製し、得られた電極に対し、実施例4と同様にして還元処理を施し、新たな電極を得た。そして、得られた電極について、実施例1と同様にして第1導電部及び第2導電部の厚さを測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
参考例6)
参考例3と同じ電極を作製し、得られた電極に対し、実施例4と同様にして還元処理を施し、新たな電極を得た。そして、得られた電極について、実施例1と同様にして第1導電部及び第2導電部の厚さを測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(比較例4)
比較例1と同じ電極を作製し、得られた電極に対し、実施例4と同様にして還元処理を施し、新たな電極を得た。そして、得られた電極について、実施例1と同様にしてITO膜の厚さを測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(比較例5)
比較例2と同じ電極を作製し、得られた電極に対し、実施例4と同様にして還元処理を施し、新たな電極を得た。そして、得られた電極について、実施例1と同様にしてFTO膜の厚さを測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(比較例6)
比較例3と同じ電極を作製し、得られた電極に対し、実施例4と同様にして還元処理を施し、新たな電極を得た。そして、得られた電極について、実施例1と同様にして第1導電部及び第2導電部の厚さを測定した。厚さに関する結果を表1に示す。
(電極の導電部表面のイオン化ポテンシャルの測定)
実施例1,2,4,5、参考例3,6及び比較例1〜6で得られた電極について、導電部表面のイオン化ポテンシャルを、光電子分光装置を用い、測定した。結果を表1に示す。
表1において、実施例1,2及び参考例3で得られた電極は、比較例1で得られた第1金属酸化物であるITOのみからなる単独膜の導電部のイオン化ポテンシャル、及び、比較例2で得られた第2金属酸化物であるFTOのみからなる単独膜の導電部の仕事関数よりも、十分に大きなイオン化ポテンシャルを持つ。比較例3で得られた電極は、第2導電部の厚さが本発明の構成と異なるため、十分に大きなイオン化ポテンシャルを持たない。即ち、実施例1,2で得られた電極は、導電部の構成を本発明の構成とすることにより、導電部の表面のイオン化ポテンシャルを、低コストで十分に大きくすることができる。
表1において、実施例4,5及び参考例6で得られた電極は、還元処理により、実施例1,2及び参考例3で得られた電極の導電部のイオン化ポテンシャルよりも、大きなイオン化ポテンシャルを持つ。
また、表1において、実施例4,5及び参考例6で得られた電極は、比較例4で得られた第1金属酸化物であるITOのみからなる単独膜の導電部のイオン化ポテンシャル、及び、比較例5で得られた第2金属酸化物であるFTOのみからなる単独膜の導電部のイオン化ポテンシャルよりも、十分に大きなイオン化ポテンシャルを持つ。比較例6で得られた電極は、第2導電部の厚さが本発明の構成と異なるため、十分に大きなイオン化ポテンシャルを持たない。即ち、実施例4,5で得られた電極は、導電部の構成を本発明の構成とすることにより、導電部の表面のイオン化ポテンシャルを、低コストで十分に大きくすることができる。
(酸化処理後のイオン化ポテンシャルの測定)
実施例1,2,4,5、参考例3,6及び比較例1〜6で得られた電極に対し、大気中での、450℃、60分の熱処理による酸化処理を施した。これらの電極について、導電部表面のイオン化ポテンシャルを、酸化処理前と同様に光電子分光装置を用い、測定した。結果を表2に示す。
Figure 0005018951
表2から分かるように、酸化処理後においても、実施例1,2及び参考例3の電極は、比較例1の第1金属酸化物であるITOのみからなる単独膜の導電部のイオン化ポテンシャル、及び、比較例2の第2金属酸化物であるFTOのみからなる単独膜の導電部のイオン化ポテンシャルよりも、十分に大きなイオン化ポテンシャルを持つ。比較例3の電極は、第2導電部の厚さが本発明の構成と異なるため、十分に大きなイオン化ポテンシャルを持たない。即ち、施例1,2の電極の導電部表面のイオン化ポテンシャルは、導電部の構成を本発明の構成とすることにより、酸化処理後においても、十分に大きく、安定である。
また、表2から分かるように、酸化処理後においても、実施例4,5及び参考例6の電極は、比較例4の第1金属酸化物であるITOのみからなる単独膜の導電部のイオン化ポテンシャル、及び、比較例5の第2金属酸化物であるFTOのみからなる単独膜の導電部のイオン化ポテンシャルよりも、十分に大きなイオン化ポテンシャルを持つ。比較例6の電極は、第2導電部の厚さが本発明の構成と異なるため、十分に大きなイオン化ポテンシャルを持たない。即ち、実施例4,5の電極の導電部表面のイオン化ポテンシャルは、導電部の構成を本発明の構成とすることにより、酸化処理後においても、十分に大きく、安定である。
以上の実施例1,2,4,5、参考例3,6及び比較例1〜6の結果より、本発明の電極によれば、基板上に、第1金属酸化物を含む第1導電部と、前記第1導電部の上の、第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物を含む第2導電部と、前記第2導電部の厚さが15nm以下であるという構成で、あるいはまた、基板上に、第1金属酸化物を含む第1導電部と、前記第1導電部の上の、第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物を含む第2導電部と、前記第2導電部が複数の島状部からなるという構成で、基板上にそれぞれ単独で、第1導電部を構成する第1金属酸化物の膜、又は、第2導電部を構成する第2金属酸化物の膜、を形成した場合の導電部表面のイオン化ポテンシャルよりも十分に大きくすることができることを確認できた。さらに、本発明の電極によれば、還元処理や酸化処理等によっても、その導電部表面のイオン化ポテンシャルを十分に大きいまま維持でき、電極のイオン化ポテンシャルは高い状態で安定化されていることも確認できた。
本発明の効果が生じる理由、即ち、第1金属酸化物を含む第1導電部と、前記第1導電部の上の、第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物を含む第2導電部と、前記第2導電部の厚さが15nm以下であるという構成、あるいは、基板上に、第1金属酸化物を含む第1導電部と、前記第1導電部の上の、第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物を含む第2導電部と、前記第2導電部が複数の島状部からなるという構成の電極の導電部表面のイオン化ポテンシャルが、基板上にそれぞれ単独で、第1導電部を構成する第1金属酸化物の膜、又は、第2導電部を構成する第2金属酸化物の膜、を形成した場合の導電部表面のイオン化ポテンシャルよりも大きくなるという効果が生じる理由を次の様に考えた。
前記効果が生じる理由を、2重ショットキー障壁バンドモデルのような、界面順位を多く持つ、アイソタイプヘテロ接合バンドモデルを用いて説明できると考えた。ここでアイソタイプとは、接合面で接する両側の物質の電気伝導を司る主要キャリアが、両方の物質とも同じであることを意味する。即ち、主要キャリアが、両方の物質とも、電子である場合又は正孔である場合を意味する。
上記モデルを用いて効果が生じる理由を具体的に説明するにあたり、本願明細書の「発明を実施するための最良の形態」で示した、第1金属酸化物をスズ添加酸化インジウム(ITO)、第2金属酸化物をフッ素添加酸化スズ(FTO)とする場合を考える。ここで、ITO及びFTOは双方とも、主要キャリアが電子のn型半導体である。ただし、実際には、以下に説明する現象は、第1金属酸化物がITO、第2金属酸化物がFTOに限定されるものではなく、第1金属酸化物及び第2金属酸化物は、それぞれ以下の説明の中にある特性を持つ金属酸化物であればよい。
比較例1のITO単独膜及び比較例2のFTO単独膜は、それぞれ高いキャリア密度を持つ。東陽テクニカ製ResiTest8300を用いたホール効果を利用した4探針法による測定では、ITO単独膜及びFTO単独膜のキャリア濃度は、それぞれ4.7×1020cm−3及び3.0×1020cm−3であった。このようにキャリア濃度が1×1020cm−3以上と高い場合には、ITO単独膜及びFTO単独膜のフェルミ準位は伝導帯の中にあると考えられる。それゆえ、ITO単独膜及びFTO単独膜のフェルミ準位は、それぞれの伝導帯占有電子の最大準位と一致する。
次に、ITOとFTOとが接合した複合体について考える。ITOとFTOは接合面で結晶学的な整合が取れていないので、ITOとFTOの接合界面には、多くの界面準位が存在する。これらの界面準位は、電子を捕獲する。
FTOの厚さあるいは粒径が6nmの場合、即ち、実施例1あるいは実施例4の場合、FTOの伝導帯中の電子数は本質的に極端に少ないため、接合形成によって、FTOの伝導帯中の電子はすべて界面準位に捕獲され枯渇すると考えられる。このため、多数の界面準位は、ITOの伝導帯中の電子を捕獲することになる。これにより、ITOの伝導帯中の電子数は大きく減少するため、複合体の接合面近傍のフェルミ準位は低くなり、結果的に、ITO単独膜及びFTO単独膜のフェルミ準位より小さくなると考えられる。本発明の電極の場合、複合体のイオン化ポテンシャルとして、複合体のフェルミ準位を測定していることになるので、フェルミ準位が低くなれば、イオン化ポテンシャルは大きくなる。よって、実施例1または実施例4のイオン化ポテンシャルは大きくなる。効果を生じるこのような現象が、実施例1あるいは実施例4の電極に起こり、高いイオン化ポテンシャルが発現していると考えられる。
FTOの厚さあるいは粒径が15あるいは30nmと大きくなった場合、即ち、実施例2または参考例3あるいは実施例5または参考例6の場合、FTOの伝導帯中の電子数は本質的に増加し、接合形成によっても、FTOの伝導帯中の電子の多くは界面準位に捕獲されても枯渇はしないと考えられる。この場合、界面準位に捕獲されるITOの伝導帯中の電子数は相対的に減少すると考えられる。これにより、ITOの伝導体中の電子数はそれ程減少しないため、複合体の接合面近傍のフェルミ準位の低下は、ITO単独膜及びFTO単独膜のフェルミ準位より小さくなるが、6nmの場合ほど大きな低下とはならないと考えられる。よって、実施例2または参考例3あるいは実施例5または参考例6のイオン化ポテンシャルは大きくなるが、その大きさは実施例1または実施例4ほど大きいものにはならないことになる。
FTOの厚さあるいは粒径がさらに大きくなり60nmの場合、即ち、比較例3または比較例6の場合、FTOの伝導帯中の電子数は多くなり、且つ、表1または表2にあるように、単独のFTOのイオン化ポテンシャルの方が単独のITOのイオン化ポテンシャルよりも小さいため、言い換えれば、単独のFTOのフェルミ準位の方が単独のITOのフェルミ準位より高いため、界面準位に捕獲される電子は、FTOの伝導帯中の電子に起因するものである考えられる。この場合、複合体の接合面近傍のフェルミ準位は、単独のITOのフェルミ準位と単独のFTOのフェルミ準位の間になると考えられる。よって、比較例3または比較例6のイオン化ポテンシャルは、ITO単独膜のイオン化ポテンシャル、即ち、比較例1または比較例4のイオン化ポテンシャルより大きくならない。
以上のようにして、本現象は考えることができるため、第1金属酸化物がITO、第2金属酸化物がFTOに限定されるものではない。
2…基板、4…第1導電部、6…第2導電部、10…電極。

Claims (5)

  1. 基板と、
    前記基板上に配置され、第1金属酸化物で構成される第1導電部と、
    前記第1導電部上に配置され、前記第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物で構成される第2導電部とを備える電極であって、
    前記第1金属酸化物と前記第2金属酸化物が同時に双方とも、n型半導体またはp型半導体であり、
    且つ、前記第2導電部の厚さが15nm以下であり、
    前記第1金属酸化物がスズ添加酸化インジウムであり、前記第2金属酸化物がフッ素添加酸化スズであることを特徴とする電極。
  2. 前記第1金属酸化物が可視光に対して透光性を持つことを特徴とする請求項1に記載の電極。
  3. 前記第2金属酸化物が可視光に対して透光性を持つことを特徴とする請求項1又は2に記載の電極。
  4. 前記第1金属酸化物単独または前記第2金属酸化物単独で構成される膜の室温でのキャリア濃度が1×1019cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極。
  5. 前記第1導電部及び前記第2導電部はいずれも、スプレー熱分解成膜法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の電極。
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