しかしながら、上記の非特許文献1および非特許文献2に記載されているような電子移動度の高い材料を電子輸送層として用いた場合、有機EL素子内における電子とホールとの再結合領域がホール注入電極側に移動し、ホール輸送層に到達する電子の量が多くなる。ホール輸送層の材料として一般的に用いられているトリフェニルアミン誘導体は、電子を受け入れると非常に不安定になり劣化する。その結果、有機EL素子の発光寿命が短くなる。
また、2層以上の発光層を有する有機EL素子においては、電子とホールとの再結合領域がホール注入電極側に移動すると、ホール注入電極側の発光層における発光強度が電子注入電極側の発光層における発光強度に比べて高くなり、所望の発光色が得られなくなる。
本発明の目的は、駆動電圧が低くかつ長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
本発明の他の目的は、駆動電圧が低くかつ所望の発光色を得ることが可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、ホール注入電極と、発光層と、電子注入電極とを順に備え、発光層と電子注入電極との間に電子の輸送を促進する電子輸送層と、電子の移動を制限する電子制限層とをさらに備えたものである。
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層と電子注入電極との間に電子の輸送を促進する電子輸送層が設けられている。それにより、電子を効率よく発光層に注入することができるので、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧を低くすることができる。
また、発光層と電子注入電極との間に電子の移動を制限する電子制限層が設けられている。それにより、電子注入電極から発光層へと注入される電子の移動が制限され、ホールと電子との再結合領域が電子注入電極側へ移動する。したがって、ホールと再結合することなく発光層を通り抜けてホール注入電極側の層に到達する電子が低減される。その結果、電子によるホール注入電極側の層の劣化を防止することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を長くすることができる。
なお、電子制限層の材料としては、電子輸送層の材料よりも低い電子移動度を有する材料が選択される。
電子制限層は、発光層と電子輸送層との間に設けられてもよい。この場合、電子輸送層によって電子の輸送が促進され、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧が低下する。さらに電子制限層によってホール注入電極側の層の劣化を防止することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命が長くなる。
電子制限層は、電子輸送層と電子注入電極との間に設けられてもよい。この場合、電子輸送層によって電子の輸送が促進され、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧が低下する。さらに電子制限層によってホール注入電極側の層の劣化を防止することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命が長くなる。
電子制限層は式(1)で示される分子構造を有する有機化合物を含み、式(1)中のR1〜R3は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基であってもよい。この場合、電子制限層における電子移動度が低くなるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が十分に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を十分に延ばすことができる。
電子制限層は式(2)で示される分子構造を有するトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum)を含んでもよい。この場合、電子制限層における電子移動度が低くなるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が十分に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を十分に延ばすことができる。
電子制限層は式(3)で示される分子構造を有する有機化合物を含み、式(3)中のR4〜R7は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基であってもよい。この場合、電子制限層における電子移動度が低くなるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が十分に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を十分に延ばすことができる。
電子制限層は、1つの有機化合物からなってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造が容易になる。
電子制限層は、複数の有機化合物からなってもよい。この場合、複数の有機化合物により電子の移動を抑制することができる。
電子制限層は、第1および第2の有機化合物を含む複数の有機化合物の混合層であり、第1の有機化合物は電子制限層全体の50重量%以上であり、第2の有機化合物は電子制限層全体の30重量%以下であり、第2の有機化合物の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、第1の有機化合物の最低空分子軌道のエネルギーレベルより低くてもよい。
この場合、第2の有機化合物により電子がトラップされるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が十分に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を十分に延ばすことができる。なお、有機化合物の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルは、サイクリックボルタンメトリー等の手法により測定することができる。最低空分子軌道のエネルギーレベルの高低は、その値の大小で一義的に決定される。例えば、最低空分子軌道のエネルギーレベルの値が2.5eV(−2.5eVと表記する場合もある)の有機化合物Aと最低空分子軌道のエネルギーレベルの値が3.0eV(−3.0eVと表記する場合もある)の有機化合物Bとを比較した場合、有機化合物Bの最低空分子軌道のエネルギーは有機化合物Aの最低空分子軌道のエネルギーよりも低い。つまり、最低空分子軌道の表記法に関わらず、最低空分子軌道のエネルギーレベルの絶対値が大きい有機化合物のほうが最低空分子軌道のエネルギーレベルは低くなる。
電子制限層は、第1および第2の電子制限層を含み、第1の電子制限層は第1および第2の有機化合物を含む複数の有機化合物の混合層であり、第2の電子制限層は1つの有機化合物からなり、第1の有機化合物は第1の電子制限層全体の50重量%以上であり、第2の有機化合物は第1の電子制限層全体の30重量%以下であり、第2の有機化合物の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、第1の有機化合物の最低空分子軌道のエネルギーレベルより低くてもよい。
この場合、第1および第2の電子制限層により電子の移動を抑制することができるとともに、第1の電子制限層の第2の有機化合物により電子をトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を十分に抑制することができる。それにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を十分に延ばすことができる。
第2の電子制限層は式(1)で示される分子構造を有する有機化合物を含み、式(1)中のR1〜R3は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基であってもよい。この場合、第2の電子制限層における電子移動度が低くなるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が確実に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の電子制限層は式(3)で示される分子構造を有する有機化合物を含み、式(3)中のR4〜R7は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基であってもよい。この場合、第2の電子制限層における電子移動度が低くなるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が確実に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(4)で示される分子構造を有するアルキル置換9,10-ジアリールアントラセンであり、式(4)中のAr1およびAr2は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子または炭素数が30以下の芳香族置換基であり、R8は炭素数が5以下の脂肪族置換基であってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(5)で示される分子構造を有する9,10-ビス(4-(6-メチルベンゾチアゾール-2-イル)フェニル)アントラセンであってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(6)で示される分子構造を有するフェナントロリン誘導体であり、式(6)中のR9〜R12は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基であってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(7)で示される分子構造を有する2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンであってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(8)で示される分子構造を有するシロール誘導体であり、式(8)中のR13〜R16は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基であってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第2の有機化合物は式(9)で示される分子構造を有するクマリン誘導体であり、式(9)中のR17は水素原子、ハロゲン原子、炭素数が30以下の脂肪族炭化水素置換基またはジアルキルアミノ基であり、Ar3は炭素数が30以下の芳香族置換基であってもよい。この場合、第2の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の有機化合物は式(10)で示される10-(2-ベンゾチアゾイル)-1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H,11H,-ベンゾ[l]ピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンであってもよい。この場合、第2の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の有機化合物は式(11)で示される分子構造を有するナフタセン誘導体であり、式(11)中のAr4〜Ar7は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が30以下の脂肪族置換基、炭素数が30以下のジアリールアミノ基、または炭素数が30以下の芳香族置換基であってもよい。この場合、第2の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の有機化合物は式(12)で示される5,12-ビス(4-ターシャリー-ブチルフェニル)-ナフタセンであってもよい。この場合、第2の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の有機化合物は式(13)で示されるルブレンであってもよい。この場合、第2の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
電子制限層は、さらに第3の有機化合物を含み、第3の有機化合物は電子制限層全体の10重量%以下であり、第3の有機化合物の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、第2の有機化合物の最低空分子軌道のエネルギーレベルより低くてもよい。
この場合、第3の有機化合物によって電子が確実にトラップされるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が確実に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第1の電子制限層は、さらに第3の有機化合物を含み、第3の有機化合物は第1の電子制限層全体の10重量%以下であり、第3の有機化合物の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、第2の有機化合物の最低空分子軌道のエネルギーレベルより低くてもよい。
この場合、第3の有機化合物によって電子が確実にトラップされるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が確実に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の電子制限層は式(1)で示される分子構造を有する有機化合物を含み、式(1)中のR1〜R3は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基であってもよい。この場合、第2の電子制限層における電子移動度が低くなるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が確実に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の電子制限層は式(3)で示される分子構造を有する有機化合物を含み、式(3)中のR4〜R7は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基であってもよい。この場合、第2の電子制限層における電子移動度が低くなるので、ホール注入電極側の層への電子の到達が確実に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(4)で示される分子構造を有するアルキル置換9,10-ジアリールアントラセンであり、式(4)中のAr1およびAr2は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子または炭素数が30以下の芳香族置換基であり、R8は炭素数が5以下の脂肪族置換基であってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(5)で示される分子構造を有する9,10-ビス(4-(6-メチルベンゾチアゾール-2-イル)フェニル)アントラセンであってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(6)で示される分子構造を有するフェナントロリン誘導体であり、式(6)中のR9〜R12は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基であってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(7)で示される分子構造を有する2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンであってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第1の有機化合物は式(8)で示される分子構造を有するシロール誘導体であり、式(8)中のR13〜R16は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基であってもよい。この場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の低下を防止しつつ発光寿命を延ばすことができる。
第2の有機化合物は式(1)で示される分子構造を有する有機化合物を含み、式(1)中のR1〜R3は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基であってもよい。この場合、第2の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の有機化合物は式(2)で示される分子構造を有するトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウムを含んでもよい。この場合、第2の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第2の有機化合物は式(3)で示される分子構造を有する有機化合物を含み、式(3)中のR4〜R7は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基であってもよい。この場合、第2の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第3の有機化合物は式(9)で示される分子構造を有するクマリン誘導体であり、式(9)中のR17は水素原子、ハロゲン原子、炭素数が30以下の脂肪族炭化水素置換基またはジアルキルアミノ基であり、Ar3は炭素数が30以下の芳香族置換基であってもよい。この場合、第3の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第3の有機化合物は式(10)で示される10-(2-ベンゾチアゾイル)-1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H,11H,-ベンゾ[l]ピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンであってもよい。この場合、第3の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第3の有機化合物は式(11)で示される分子構造を有するナフタセン誘導体であり、式(11)中のAr4〜Ar7は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が30以下の脂肪族置換基、炭素数が30以下のジアリールアミノ基、または炭素数が30以下の芳香族置換基であってもよい。この場合、第3の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第3の有機化合物は式(12)で示される5,12-ビス(4-ターシャリー-ブチルフェニル)-ナフタセンであってもよい。この場合、第3の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
第3の有機化合物は式(13)で示されるルブレンであってもよいこの場合、第3の有機化合物によって電子を確実にトラップできるので、ホール注入電極側の層への電子の到達を確実に抑制することができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光寿命を確実に延ばすことができる。
電子輸送層は式(4)で示される分子構造を有するアルキル置換9,10-ジアリールアントラセンであり、式(4)中のAr1およびAr2は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子または炭素数が30以下の芳香族置換基であり、R8は炭素数が5以下の脂肪族置換基であってもよい。この場合、電子の移動が十分に促進されるので、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧を十分に低下させることができる。
電子輸送層は式(5)で示される分子構造を有する9,10-ビス(4-(6-メチルベンゾチアゾール-2-イル)フェニル)アントラセンであってもよい。この場合、電子の移動が十分に促進されるので、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧を十分に低下させることができる。
電子輸送層は式(6)に示される分子構造を有するフェナントロリン誘導体であり、式(6)中のR9〜R12は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基であってもよい。この場合、電子の移動が十分に促進されるので、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧を十分に低下させることができる。
電子輸送層は式(7)に示される分子構造を有する2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンであってもよい。この場合、電子の移動が十分に促進されるので、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧を十分に低下させることができる。
電子輸送層は式(8)に示される分子構造を有するシロール誘導体であり、式(8)中のR13〜R16は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基であってもよい。この場合、電子の移動が十分に促進されるので、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧を十分に低下させることができる。
発光層は、ホスト材料とドーパントとを含み、ホスト材料は、式(14)で示されるターシャリー-ブチル置換ジナフチルアントラセンであり、ドーパントは式(15)で示される1,4,7,10-テトラ-ターシャリー-ブチルペリレンであってもよい。この場合、高効率な青色光の取り出しが可能である。
発光層は、短波長発光層と長波長発光層とを含み、短波長発光層が発するピーク波長のうち少なくとも一つは500nmよりも小さく、長波長発光層が発するピーク波長のうち少なくとも一つは500nmよりも大きくてもよい。この場合、電子制限層の膜厚を調整することにより、ホールと電子との再結合領域の位置を制御することができる。それにより、短波長発光層および長波長発光層における発光の割合を調整することが可能となり、所望の発光色を得ることができる。
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、電子の輸送を促進する電子輸送層と電子の移動を制限する電子制限層とを設けることにより、駆動電圧を低くしかつ寿命を延ばすことが可能となる。また、短波長発光層と長波長発光層とを設けることにより、所望の発光色を得ることが可能となる。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子を示す模式的な断面図である。
図1に示す有機EL素子100の作製時には、まず基板1上に、例えば、インジウム−スズ酸化物(ITO)等の透明導電膜からなるホール注入電極2を形成し、このホール注入電極2上に、ホール注入層3、ホール輸送層4、発光層5、電子制限層6および電子輸送層7を順に形成する。さらに、この電子輸送層7上に、例えば、アルミニウム等からなる電子注入電極8を形成する。
基板1は、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である。ホール注入層3は、例えば、プラズマCVD法(プラズマ化学的気相成長法)により形成されたCFX (フッ化炭素)からなる。
ホール輸送層4は、例えば、下記式(16)に示されるN,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニル-ベンジジン(N,N'-Di(1-naphthyl)-N,N'-diphenyl-benzidine)(以下、NPBと略記する)等の有機材料からなる。
発光層5は、例えば、下記式(14)に示されるターシャリー-ブチル置換ジナフチルアントラセン(tert-butyl substituted dinaphthylanthracene)(以下、TBADNと略記する)をホスト材料とし、下記式(15)に示す1,4,7,10-テトラ-ターシャリー-ブチルペリレン(1,4,7,10-Tetra-tert-butylPerylene)(以下、TBPと略記する)をドーパントとして形成される。
電子制限層6としては、電子移動度の低い材料を用いることが好ましい。電子制限層6の材料としては、電子輸送層7の材料よりも電子移動度が低い材料を選択する。例えば、下記式(1)に示される構造を有する有機化合物を用いることができる。
式(1)において、R1〜R3は互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよく、式(1)中のキノリン環のいずれの位置にあってもよい。式(1)中のR1〜R3は、水素原子、ハロゲン原子または炭素数が4以下のアルキル基を示す。
本実施の形態においては、電子制限層6は、下記式(2)に示されるトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum)(以下、Alq3と略記する)からなる。Alq3の電子移動度は10-6cm2 /Vsである。
また、電子制限層6としては、下記式(3)に示される構造を有する有機化合物を用いてもよい。
式(3)において、R4〜R7は互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよく、ベンゼン環およびキノリン環のいずれの位置にあってもよい。式(3)中のR4〜R7は、水素原子、ハロゲン原子または炭素数4以下のアルキル基を示す。
電子輸送層7としては、電子移動度の高い材料を用いることが好ましい。電子輸送層7の材料としては、電子制限層6の材料よりも電子移動度が高い材料を選択する。例えば、下記式(6)に示されるフェナントロリン誘導体を用いることができる。
式(6)において、R9〜R12は互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよい。式(6)中のR9〜R12は、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基を示し、R11およびR12は式(6)のベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位のいずれの位置にあってもよい。式(6)のR9〜R12の脂肪族置換基としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、tert-ブチル基等が挙げられ、芳香族置換基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、9-アンスリル基、2-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基等が挙げられる。
本実施の形態においては、電子輸送層7は、下記式(7)に示される2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline)(以下、BCPと略記する)からなる。
また、電子輸送層7としては、下記式(8)に示されるシロール誘導体を用いてもよい。
式(8)においては、R13〜R16は互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。式(8)中のR13〜R16は、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基を示す。式(8)のR13〜R16の脂肪族置換基としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、tert−ブチル基等が挙げられ、芳香族置換基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アンスリル基、2−チエニル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、2−(2−フェニル)ピリジル基、2,2−ビピリジン−6−イル基等が挙げられる。
上記の有機EL素子100においては、ホール注入電極2と電子注入電極8との間に電圧を印加することにより、有機EL素子100の発光層5が発光し、基板1の裏面から光が出射される。
本実施の形態の有機EL素子100においては、電子輸送層7として高い電子移動度を有するBCPが用いられている。それにより、電子を効率よく発光層5に注入することができる。その結果、駆動電圧が低くなり、有機EL素子100の消費電力が低減される。
また、発光層5と電子輸送層7との間に電子輸送層7よりも低い電子移動度を有するAlq3からなる電子制限層6が設けられている。それにより、電子輸送層7から電子制限層6を通って発光層5へと注入される電子の移動が電子制限層6によって制限され、ホールと電子との再結合領域が電子注入電極8側へ移動する。したがって、ホールと再結合することなく発光層5を通り抜けてホール輸送層4に到達する電子が低減される。その結果、電子によるホール輸送層4の劣化を防止することができ、有機EL素子100の発光寿命を長くすることができる。
この場合、電子制限層6により電流が制限されることになるが、電子輸送層7が高い電子移動度を有するので、有機EL素子100全体に流れる電流はほとんど低減されない。このように、高い電子移動度を有する電子輸送層7および低い電子移動度を有する電子制限層6を組み合わせることにより、駆動電圧を低く保ちつつ有機EL素子100の長寿命化を実現することができる。
なお、電子輸送層7の電子移動度は10-5cm2 /Vs以上であることが好ましく、10-4cm2 /Vs以上であることがより好ましい。この場合、発光層5への電子の注入量を十分に増加させることができるので、駆動電圧を大幅に下げることができる。
また、電子制限層6と電子輸送層7との電子移動度の差は10倍以上であることが好ましい。この場合、発光層5への電子の注入量を十分に制限することができるので、有機EL素子100の発光寿命を大幅に延ばすことができる。
また、電子制限層6の膜厚は20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nmであることがさらに好ましい。この場合、電子の注入量を十分に増加させることができるので、駆動電圧を大幅に下げることができる。
このように、本実施の形態に係る有機EL素子100によれば、発光層5上に電子制限層6および電子輸送層7を形成することにより、駆動電圧を低くしかつ発光寿命を長くすることが可能となる。
本実施の形態に係る有機EL素子100においては、発光層5上に電子制限層6および電子輸送層7が順に形成されているが、発光層5上に電子輸送層7および電子制限層6が順に形成されてもよい。また、電子制限層6および電子輸送層7の代わりに発光層5上に電子制限層6の材料と電子輸送層7の材料とが混在する層が形成されてもよい。
また、電子制限層6の材料としては、上記の材料に限られず電子輸送層7よりも低い電子移動度を有する他の有機材料を用いてもよい。電子輸送層7の材料としては、上記の材料に限られず電子制限層6よりも高い電子移動度を有する他の有機材料を用いてもよい。
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る有機EL素子を示す模式的な断面図である。第2の実施の形態に係る有機EL素子101は、図1の有機EL素子100の発光層5の代わりに橙色発光を得ることが可能な橙色発光層5aおよび青色発光を得ることが可能な青色発光層5bが設けられる点を除き第1の実施の形態に係る有機EL素子100と同様の構成を有する。
橙色発光層5aは、例えば、NPBをホスト材料とし、下記式(12)に示す5,12-ビス(4-ターシャリー-ブチルフェニル)-ナフタセン(5,12-Bis(4-tert-butylphenyl)-naphthacene)(以下、tBuDPNと略記する)を第1のドーパントとし、下記式(17)に示す5,12-ビス(4-(6-メチルベンゾチアゾール-2-イル)フェニル)-6,11-ジフェニルナフタセン(5,12-Bis(4-(6-methylbenzothiazol-2-yl)phenyl)-6,11-diphenylnaphthacene)(以下、DBzRと略記する)を第2のドーパントとして形成される。この場合、第2のドーパントは発光し、第1のドーパントは、ホスト材料から第2のドーパントへのエネルギーの移動を促進することにより第2のドーパントの発光を補助する役割を担う。それにより、橙色発光層5aは500nmよりも大きく650nmよりも小さいピーク波長を有する橙色光を発生する。
青色発光層5bは、例えば、TBADNをホスト材料とし、NPBを第1のドーパントとし、TBPを第2のドーパントとして形成される。この場合、第2のドーパントは発光し、第1のドーパントはキャリアの輸送を促進することにより第2のドーパントの発光を補助する役割を担う。それにより、青色発光層5bは400nmよりも大きく500nmよりも小さいピーク波長を有する青色光を発生する。
本実施の形態の有機EL素子101においては、電子輸送層7として高い電子移動度を有するBCPが用いられている。それにより、電子を効率よく発光層5に注入することができる。その結果、駆動電圧が低くなり、有機EL素子101の消費電力が低減される。
また、青色発光層5bと電子輸送層7との間に電子輸送層7よりも低い電子移動度を有するAlq3からなる電子制限層6が設けられている。それにより、橙色発光層5aおよび青色発光層5bへと注入される電子の移動が制限され、ホールと電子との再結合領域が電子注入電極8側へ移動する。この場合、電子制限層6の膜厚を調整することによりホールと電子との再結合領域の位置を制御することができる。その結果、橙色発光層5aおよび青色発光層5bにおける発光の割合を調整することが可能となり、所望の発光色を得ることができる。
この場合、電子制限層6により電流が制限されることになるが、電子輸送層7が高い電子移動度を有するので、有機EL素子101全体に流れる電流はほとんど低減されない。このように、高い電子移動度を有する電子輸送層7および低い電子移動度を有する電子制限層6を組み合わせることにより、駆動電圧を低くするとともに所望の発光色を得ることができる。
なお、電子輸送層7の電子移動度は10-5cm2 /Vs以上であることが好ましく、10-4cm2 /Vs以上であることがより好ましい。この場合、橙色発光層5aおよび青色発光層5bへの電子の注入量を十分に増加させることができるので、駆動電圧を大幅に下げることができる。
また、電子制限層6と電子輸送層7との電子移動度の差は10倍以上であることが好ましい。この場合、橙色発光層5aおよび青色発光層5bへの電子の注入量を十分に制限することができるので、所望の発光色を容易に得ることができる。
また、電子制限層6の膜厚は20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nmであることがさらに好ましい。この場合、電子の注入量を十分に増加させることができるので、駆動電圧を大幅に下げることができる。
このように、本実施の形態に係る有機EL素子101によれば、青色発光層5b上に電子制限層6および電子輸送層7を形成することにより、駆動電圧を低くしかつ所望の発光色を得ることが可能となる。
また、橙色発光層5aおよび青色発光層5bとが発光することにより、白色発光を得ることができる。この場合、白色発光を得ることが可能な有機EL素子に赤色、緑色および青色のフィルタを設けることで光の3原色の表示(RGB表示)が可能となり、フルカラー表示が実現する。
本実施の形態に係る有機EL素子101においては、青色発光層5b上に電子制限層6および電子輸送層7が順に形成されているが、青色発光層5b上に電子輸送層7および電子制限層6が順に形成されてもよい。また、電子制限層6および電子輸送層7の代わりに青色発光層5b上に電子制限層6の材料と電子輸送層7の材料とが混在する層が形成されてもよい。
本実施の形態においては、橙色発光層5aが長波長発光層に相当し、青色発光層5bが短波長発光層に相当する。
(第3の実施の形態)
図3は有機EL素子を用いた有機EL表示装置の一例を示す模式的平面図であり、図4Aは図3の有機EL表示装置のA−A線断面図である。
図3および図4Aの有機EL表示装置においては、赤色に発光する有機EL素子100R、緑色に発光する有機EL素子100Gおよび青色に発光する有機EL素子100Bがマトリクス状に配置されている。
有機EL素子100Bは、図1の発光層5と同様の青色発光層5Bを有する。
有機EL素子100Rは、図1の発光層5の代わりに、赤色発光層5Rを有する。赤色発光層5Rは、例えば、Alq3をホスト材料とし、下記式(13)に示されるルブレン(Rubrene)を第1のドーパントとし、下記式(18)に示される(2−(1,1−ジメチルエチル)−6−(2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−lII,5II−ベンゾ〔ij〕キノリジン−9−イル)エテニル)−4H−ピラン−4−イリデン)プロパンジニトリル((2-(1,1-Dimethylethyl)-6-(2-(2,3,6,7-tetrahydro-1,1,7,7-tetramethyl-lII,5II-benzo〔ij〕quinolizin-9-yl)ethenyl)-4H-pyran-4-ylidene)propanedinitrile)(以下、DCJTBと略記する)を第2のドーパントとし
て形成される。この場合、第2のドーパントは発光し、第1のドーパントは、ホスト材料から第2のドーパントへのエネルギーの移動を促進することにより第2のドーパントの発光を補助する役割を担う。
有機EL素子100Gは、図1の発光層5の代わりに、緑色発光層5Gを有する。緑色発光層5Gは、例えば、TBADNをホスト材料とし、tBuDPNまたは下記式(19)に示される3-(2-ベンゾチアゾールイル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン(3-(2-Benzothiazolyl)-7-(diethylamino)coumarin)(以下クマリン6と略記する。)をドーパントとして形成される。
以下、本実施の形態に係る有機EL表示装置をより詳細に説明する。
図3においては、左から順に有機EL素子100R、有機EL素子100Gおよび有機EL素子100Bが設けられている。
各有機EL素子100R,100G,100Bの構成は平面図では同一である。各有機EL素子100R,100G,100Bは行方向に延びる2つのゲート信号線51と列方向に延びる2つのドレイン信号線(データ線)52とに囲まれた領域に形成される。各有機EL素子の領域内において、ゲート信号線51とドレイン信号線52との交点付近にはスイッチング素子である第1のTFT130が形成され、中央付近には各有機EL素子100R,100G,100Bを駆動する第2のTFT140が形成される。また、各有機EL素子100R,100G,100Bの領域内に補助容量70、およびITOからなるホール注入電極2が形成される。ホール注入電極2の領域に各有機EL素子100R,100G,100Bが島状に形成される。
第1のTFT130のドレインはドレイン電極13dを介してドレイン信号線52に接続され、第1のTFT130のソースはソ−ス電極13sを介して電極55に接続される。第1のTFT130のゲート電極111は、ゲート信号線51から延びる。
補助容量70は、電源電圧Vscを受けるSC線54と、能動層11(図4A参照)と一体の電極55とから構成される。
第2のTFT140のドレインはドレイン電極43dを介して各有機EL素子のホール注入電極2に接続され、第2のTFT140のソースはソ−ス電極43sを介して列方向に延びる電源線53に接続される。第2のTFT140のゲート電極41は電極55に接続される。
図4Aに示されるように、ガラス基板10上に多結晶シリコン等からなる能動層11が形成され、その能動層11の一部が有機EL素子を駆動するための第2のTFT140となる。能動層11上にゲート酸化膜(図示せず)を介してダブルゲート構造のゲート電極41が形成され、ゲート電極41を覆うように能動層11上に層間絶縁膜13および第1の平坦化層15が形成される。第1の平坦化層15の材料としては、例えばアクリル樹脂を用いることができる。第1の平坦化層15上に透明なホール注入電極2が各有機EL素子ごとに形成され、ホール注入電極2を覆うように第1の平坦化層15上に絶縁性の第2の平坦化層18が形成される。第2のTFT140は第2の平坦化層18の下に形成されている。
ホール注入電極2および第2の平坦化層18を覆うようにホール輸送層4が全体の領域上に形成される。
有機EL素子100R、有機EL素子100Gおよび有機EL素子100Bのホール輸送層4上には、それぞれ列方向に延びるストライプ状の赤色発光層5R、緑色発光層5Gおよび青色発光層5Bが形成される。
ストライプ状の赤色発光層5R、緑色発光層5Gおよび青色発光層5Bの間の境界は第2の平坦化層18上の表面でガラス基板10と平行となっている領域に設けられる。
有機EL素子100R、有機EL素子100Gおよび有機EL素子100Bの赤色発光層5R、緑色発光層5Gおよび青色発光層5B上には、列方向に延びるストライプ状の電子制限層6および列方向に延びるストライプ状の電子輸送層7がそれぞれ形成される。
電子制限層6は、例えば、第1および第2の実施の形態と同様に低い電子移動度を有するAlq3からなる。電子輸送層7は、例えば、第1および第2の実施の形態と同様に高い電子移動度を有するBCPからなる。
さらに、各電子輸送層7上には電子注入電極8が形成される。電子注入電極8の上には樹脂等からなる保護層34が形成されている。
上記有機EL表示装置において、ゲート信号線51に選択信号が出力されると第1のTFT130がオンし、そのときにドレイン信号線52に与えられる電圧値(データ信号)に応じて補助容量70が充電される。第2のTFT140のゲート電極41は補助容量70に充電された電荷に応じた電圧を受ける。それにより、電源線53から各有機EL素子100R,100G,100Bに供給される電流が制御され、各有機EL素子100R,100G,100Bは供給された電流に応じた輝度で発光する。
本実施の形態の有機EL表示装置の各有機EL素子100R,100G,100Bにおいては、電子輸送層7として高い電子移動度を有するBCPが用いられている。それにより、電子を効率よく赤色発光層5R、緑色発光層5Gおよび青色発光層5Bに注入することができる。その結果、各有機EL素子100R,100G,100Bの駆動電圧が低くなり、有機EL表示装置の消費電力が低減される。
また、赤色発光層5R、緑色発光層5Gおよび青色発光層5Bと電子輸送層7との間に電子輸送層7よりも低い電子移動度を有するAlq3からなる電子制限層6が設けられている。それにより、電子輸送層7から電子制限層6を通って赤色発光層5R、緑色発光層5Gおよび青色発光層5Bへと注入される電子の移動が制限され、ホールと電子との再結合領域が電子注入電極8側へ移動する。したがって、ホールと再結合することなくホール輸送層4に到達する電子が低減される。その結果、電子によるホール輸送層4の劣化を防止することができ、各有機EL素子100R,100G,100Bの発光寿命を長くすることができる。
この場合、電子制限層6により電流が制限されることになるが、電子輸送層7が高い電子移動度を有するので、各有機EL素子100R,100G,100Bに流れる電流はほとんど低減されない。このように、高い電子移動度を有する電子輸送層7および低い電子移動度を有する電子制限層6を組み合わせることにより、駆動電圧を低く保ちつつ各有機EL素子100R,100G,100Bの長寿命化を実現することができる。その結果、消費電力が少なくかつ発光寿命の長いフルカラー表示が得られる。
なお、図4Aの例では、赤色に発光する有機EL素子100R、緑色に発光する有機EL素子100Gおよび青色に発光する有機EL素子100Bを用いてフルカラー表示を得る場合について説明したが、図2で説明したような白色発光の有機EL素子を用いてもフルカラー表示を得ることができる。以下、白色発光の有機EL素子を用いた場合の有機EL装置について図を用いて説明する。
図4Bは、白色発光の有機EL素子を用いた有機EL装置の一例を示す模式的断面図である。図4Bの有機EL装置が図4Aの有機EL装置と異なるのは以下の点である。
図4Bの有機EL装置においては、層間絶縁膜13上で第2のTFT140間に赤色カラーフィルタRCF、緑色カラーフィルタGCFおよび青色カラーフィルタBCFが形成されている。
ホール輸送層4を覆うように、橙色発光層5a、青色発光層5b、電子制限層6および電子輸送層7が形成されている。
この有機EL装置においては、橙色発光層5aおよび青色発光層5bが発光することにより得られる白色光が、赤色カラーフィルタRCF、緑色カラーフィルタGCFおよび青色カラーフィルタBCFをそれぞれ通過する。それにより、赤色光、緑色光および青色光を取り出すことができ、フルカラー表示が実現する。
なお、この有機EL装置においては、各画素ごとに橙色発光層5a、青色発光層5b、電子制限層6および電子輸送層7を形成する必要がなく、橙色発光層5a、青色発光層5b、電子制限層6および電子輸送層7をそれぞれ一体的に形成することができるので、有機EL装置の製造が容易になる。
(他の実施の形態)
上記実施の形態においては、電子制限層6が1つの有機化合物により構成される場合について説明したが、電子制限層6は、複数の有機化合物から構成されてもよい。
例えば、電子制限層6が、第1の有機化合物と第2の有機化合物との混合層であってもよい。第1の有機化合物の重量比は、電子制限層6全体の50%以上であることが好ましく、第2の有機化合物の重量比は、電子制限層6全体の30%以下であることが好ましい。また、第2の有機化合物としては、第1の有機化合物よりも最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルが低い有機化合物を用いることが好ましい。この場合、第2の有機化合物により電子がトラップされるので、ホール輸送層4に到達する電子を低減することができる。その結果、ホール輸送層4の劣化が防止され、有機EL素子の発光寿命を延ばすことができる。
なお、有機化合物の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルは、サイクリックボルタンメトリー等の手法により測定することができる。最低空分子軌道のエネルギーレベルの高低は、その値の大小で一義的に決定される。例えば、最低空分子軌道のエネルギーレベルの値が2.5eV(−2.5eVと表記する場合もある)の有機化合物Aと最低空分子軌道のエネルギーレベルの値が3.0eV(−3.0eVと表記する場合もある)の有機化合物Bとを比較した場合、有機化合物Bの最低空分子軌道のエネルギーは有機化合物Aの最低空分子軌道のエネルギーよりも低い。つまり、最低空分子軌道の表記法に関わらず、最低空分子軌道のエネルギーレベルの絶対値が大きい有機化合物のほうが最低空分子軌道のエネルギーレベルは低くなる。
第1の有機化合物としては、例えば、上述した式(6)に示されるフェナントロリン誘導体、上述した式(8)に示されるシロール誘導体、または下記式(4)に示されるアルキル置換9,10-ジアリールアントラセン(alkyl substituted 9,10-diaryl anthracene)を用いることができる。
式(4)において、Ar1およびAr2は互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子または炭素数が30以下の芳香族置換基を示す。また、R8は炭素数が5以下の脂肪族置換基を示し、式(4)中のアントラセン環のいずれの置換位置にあってもよい。
アルキル置換9,10-ジアリールアントラセンとしては、例えば、下記式(5)に示される9,10-ビス(4-(6-メチルベンゾチアゾール-2-イル)フェニル)アントラセン(9,10-Bis(4-(6-methylbenzothiazol-2-yl)phenyl)anthracene)(以下、DBzAと略記する)が挙げられる。
第2の有機化合物としては、例えば、下記式(9)に示されるクマリン誘導体または下記式(11)に示されるナフタセン誘導体を用いることができる。
式(9)において、Ar3は炭素数が30以下の芳香族置換基であり、芳香環は複素環であってもよい。また、R17は水素原子、ハロゲン原子、炭素数が30以下の脂肪族炭化水素置換基、またはジアルキルアミノ基を示す。
式(11)において、Ar4〜Ar7は互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が30以下の脂肪族置換基、炭素数が30以下のジアリールアミノ基、または炭素数が30以下の芳香族置換基を示し、芳香環は複素環であってもよい。
クマリン誘導体としては、例えば、下記式(10)に示される10-(2-ベンゾチアゾイル)-1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H,11H,-ベンゾ[l]ピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン(10-(2-benzothiazolyl)-1,1,7,7-tetramethyl-2,3,6,7-tetrahydro-1H,5H,11H-benzo[l]pyrano[6,7,8-ij]quinolizin-11-one)(以下、C545Tと略記する)が挙げられる。
また、ナフタセン誘導体としては、tBuDPNまたはルブレン等が挙げられる。
また、第2の有機化合物としては、上述した式(1)に示される構造を有する有機化合物または上述した式(3)に示される構造を有する有機化合物を用いてもよい。
なお、第2の有機化合物としてクマリン誘導体またはナフタセン誘導体を用いる場合には、第2の有機化合物の重量比は、電子制限層6全体の10%以下であることが好ましい。
電子制限層6には、さらに第3の有機化合物が混合されてもよい。この場合、第1の有機化合物の重量比は、電子制限層6全体の50%以上であることが好ましく、第2の有機化合物の重量比は、電子制限層6全体の30%以下であることが好ましく、第3の有機化合物の重量比は、電子制限層6全体の10%以下であることが好ましい。また、第2の有機化合物としては、第1の有機化合物よりも最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルが低い有機化合物を用いることが好ましく、第3の有機化合物としては、第2の有機化合物よりも最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルが低い有機化合物を用いることが好ましい。この場合、第2および第3の有機化合物により電子がトラップされるので、ホール輸送層4に到達する電子を低減することができる。その結果、ホール輸送層4の劣化が防止され、有機EL素子の発光寿命を延ばすことができる。
電子制限層6が第1〜第3の有機化合物により構成される場合、第2の有機化合物としては、上述した式(1)に示される分子構造を有する有機化合物または上述した式(3)に示される分子構造を有する有機化合物を用いることができる。
また、第3の有機化合物としては、上述した式(9)に示されるクマリン誘導体または上述した式(11)に示されるナフタセン誘導体を用いることができる。
また、電子制限層6は、第1の電子制限層および第2の電子制限層からなる積層構造を有してもよい。この場合、第1の電子制限層を上記のような複数の有機化合物の混合層にし、第2の電子制限層を単一の有機化合物の層にすることが好ましい。この場合、第2の電子制限層としては、例えば上述した式(1)に示される分子構造を有する有機化合物または上述した式(3)に示される分子構造を有する有機化合物を用いることができる。なお、第1の電子制限層を電子注入電極8側に形成してもよく、第2の電子制限層を電子注入電極8側に形成してもよい。
また、電子輸送層7はDBzAからなってもよい。この場合、DBzAは高い電子移動度を有するので、有機EL素子の駆動電圧を低下させることができる。
なお、発光層5が複数の層からなる有機EL素子(例えば、第2の実施の形態のように、橙色発光層5aと青色発光層5bとが形成されている場合)に上記のような複数の有機化合物からなる電子制限層6を設ける場合、電子制限層6の膜厚、第2の有機化合物の濃度または第3の有機化合物の濃度を調整することにより、所望の発光色を得ることが可能となる。
また、上記実施の形態においては、電子制限層6が発光層5(青色発光層5b)と電子輸送層7との間に設けられる場合について説明したが、電子の過剰な注入を抑制する役割を果たすことができるのであれば、電子制限層6の位置は上記の例に限定されない。例えば、電子制限層6は電子輸送層7と電子注入電極8との間に設けられてもよい。また、複数の発光層を有する有機EL素子においては、電子制限層6は、発光層と発光層との間に設けられてもよい。
以下、実施例および比較例の有機EL素子を作製し、作製した有機EL素子の発光特性を測定した。
(実施例1)
実施例1においては、図1の構造を有する有機EL素子を次のように作製した。
ガラスからなる基板1上にインジウム−スズ酸化物(ITO)からなるホール注入電極2を形成した。次に、ホール注入電極2上にプラズマCVD法によりCFX (フッ化炭素)からなるホール注入層3を形成した。プラズマCVDにおけるプラズマ放電時間は15秒とした。
さらに、ホール注入層3上に、ホール輸送層4、発光層5、電子制限層6および電子輸送層7を真空蒸着により順に形成した。
ホール輸送層4は、膜厚150nmのNPBからなる。発光層5は、膜厚30nmを有し、TBADNからなるホスト材料にTBPからなるドーパントを1重量%添加することにより形成される。電子制限層6は、膜厚3nmのAlq3からなる。電子輸送層7は、膜厚7nmのBCPからなる。
その後、電子輸送層7上に、1nmのフッ化リチウム膜および200nmのアルミニウム膜の積層構造からなる電子注入電極8を形成した。
以上のようにして作製した有機EL素子の10mA/cm2 での駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。なお、発光寿命は測定開始時の輝度3000cd/m2 が半減するまでの時間を測定したものである。
その結果、実施例1の有機EL素子の駆動電圧は4.2Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.14,0.13)であり、発光効率は5.8cd/Aであり、発光寿命は130時間であった。
(比較例1)
比較例1においては、電子制限層6の膜厚を10nmとし、電子輸送層7を設けなかった点を除いて、実施例1と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
比較例1の有機EL素子の10mA/cm2 での駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、比較例1の有機EL素子の駆動電圧は6.2Vであり、CIE色度座標は(x、y)=(0.14、0.14)であり、発光効率は4.0cd/Aであり、発光寿命は150時間であった。
(比較例2)
比較例2においては、電子輸送層7の膜厚を10nmとし、電子制限層6を設けなかった点を除いて、実施例1と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
比較例2の有機EL素子の10mA/cm2 での駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、比較例2の有機EL素子の駆動電圧は3.8Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.14,0.13)であり、発光効率は5.4cd/Aであり、発光寿命は60時間であった。
(評価)
表1に、実施例1、比較例1および比較例2の有機EL素子の各層の条件を示す。表2に、実施例1、比較例1および比較例2における駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命の測定結果を示す。
表2に示すように、実施例1の有機EL素子の駆動電圧は比較例1の有機EL素子に比べて低くなっている。
実施例1の有機EL素子においては、電子制限層6と電子注入電極8との間に高い電子移動度を有するBCPからなる電子輸送層7が設けられている。この電子輸送層7が電子の移動を促進し、実施例1の有機EL素子の駆動電圧が低くなったと考えられる。
一方、比較例1の有機EL素子においては、高い電子移動度を有するBCPからなる電子輸送層7が設けられておらず、低い電子移動度を有するAlq3からなる電子制限層6のみが設けられている。この電子制限層6によって電子の移動が抑制され、比較例1の駆動電圧が高くなったと考えられる。
ここで、実施例1の有機EL素子の発光効率は比較例1の有機EL素子に比べて高くなっている。さらに、実施例1の有機EL素子の発光寿命は比較例1の有機EL素子とほぼ等しくなっている。このように、実施例1の有機EL素子においては、BCPからなる電子輸送層7を設けることによる特性の低下はほとんどないと言える。
また、表2に示すように、実施例1の有機EL素子の発光寿命は比較例2の有機EL素子に比べて十分に長くなっている。
実施例1の有機EL素子においては、電子輸送層7と発光層5との間にAlq3からなる電子制限層6が設けられている。この電子制限層6によって電子輸送層7から発光層5へと注入される電子の移動が制限される。それにより、電子とホールとの再結合領域が電子注入電極8側へ移動し、ホールと再結合せずに発光層5を通り抜けてホール輸送層4に到達する電子が低減したと考えられる。その結果、ホール輸送層4の劣化を防止でき、実施例1の有機EL素子の発光寿命を長くすることができたと考えられる。
一方、比較例2の有機EL素子には、電子制限層6が設けられていない。そのため、電子とホールとの再結合領域がホール注入電極2側に位置し、ホールと再結合せずに発光層5を通り抜けてホール輸送層4に到達する電子が増加したと考えられる。その結果、ホール輸送層4が劣化し、発光寿命が短くなったと考えられる。
ここで、実施例1の有機EL素子の駆動電圧および発光効率は比較例2の有機EL素子とほぼ等しくなっている。このように、実施例1の有機EL素子においては、Alq3からなる電子制限層6を設けることによる特性の低下はほとんどないと言える。
また、表2に示すように、実施例1の有機EL素子のCIE色度座標は比較例1および比較例2の有機EL素子とほぼ等しくなっている。
以上のように、電子制限層6として電子移動度の低い材料を用い、電子輸送層として電子移動度の高い材料を用いることにより、有機EL素子の発光特性を低下させることなく、駆動電圧を低くしかつ発光寿命を延ばすことができる。
(実施例2)
実施例2の有機EL素子が実施例1の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
発光層5の膜厚は40nmである。電子制限層6は、膜厚1nmのAlq3からなる。電子輸送層7は、膜厚10nmのDBzAからなる。
実施例2の有機EL素子の20mA/cm2 での駆動電圧、CIE色度座標および発光効率、ならびに80mA/cm2 での発光寿命を測定した。なお、発光寿命は、測定開始時の輝度が半減するまでの時間を測定したものである。
その結果、実施例2の有機EL素子の駆動電圧は4.7Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.14)であり、発光効率は6.9cd/Aであり、発光寿命は100時間であった。
(実施例3)
実施例3においては、電子制限層6の膜厚を3nmとした点を除いて、実施例2と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例2と同じ条件で、実施例3の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例3の有機EL素子の駆動電圧は5.1Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.14)であり、発光効率は6.6cd/Aであり、発光寿命は150時間であった。
(実施例4)
実施例4の有機EL素子が実施例2の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
電子制限層6は、膜厚5nmを有し、DBzAにC545Tを2重量%添加することにより形成される。
実施例2と同じ条件で、実施例4の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例4の有機EL素子の駆動電圧は4.8Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.15)であり、発光効率は6.8cd/Aであり、発光寿命は150時間であった。
(実施例5)
実施例5においては、電子制限層6の膜厚を10nmとした点を除いて、実施例4と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例2と同じ条件で、実施例5の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例5の有機EL素子の駆動電圧は5.2Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.16)であり、発光効率は6.6cd/Aであり、発光寿命は190時間であった。
(実施例6)
実施例6の有機EL素子が実施例2の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
電子制限層6は、膜厚5nmを有し、DBzAにtBuDPNを2重量%添加することにより形成される。
実施例2と同じ条件で、実施例6の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例6の有機EL素子の駆動電圧は5.0Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.15)であり、発光効率は6.1cd/Aであり、発光寿命は180時間であった。
(実施例7)
実施例7においては、電子制限層6におけるtBuDPNの添加量を4重量%とした点を除いて、実施例6と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例2と同じ条件で、実施例7の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例7の有機EL素子の駆動電圧は5.4Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.15)であり、発光効率は5.9cd/Aであり、発光寿命は220時間であった。
(実施例8)
実施例8の有機EL素子が実施例2の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
電子制限層6は、膜厚5nmを有し、DBzAにルブレンを1重量%添加することにより形成される。
実施例2と同じ条件で、実施例8の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例8の有機EL素子の駆動電圧は4.9Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.15)であり、発光効率は6.2cd/Aであり、発光寿命は180時間であった。
(実施例9)
実施例9においては、電子制限層6の膜厚を10nmとした点を除いて、実施例8と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例2と同じ条件で、実施例9の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例9の有機EL素子の駆動電圧は5.4Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.16)であり、発光効率は5.8cd/Aであり、発光寿命は240時間であった。
(比較例3)
比較例3においては、電子制限層6の膜厚を10nmとし、電子輸送層7を設けなかった点を除いて、実施例2と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例2と同じ条件で、比較例3の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、比較例3の有機EL素子の駆動電圧は6.6Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.14)であり、発光効率は5.2cd/Aであり、発光寿命は280時間であった。
(比較例4)
比較例4においては、電子制限層6を設けなかった点を除いて、実施例2と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例2と同じ条件で、比較例4の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、比較例4の有機EL素子の駆動電圧は4.5Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.13,0.14)であり、発光効率は7.3cd/Aであり、発光寿命は80時間であった。
(評価)
表3に、実施例2〜9および比較例3,4の有機EL素子の各層の条件を示す。表4に、実施例2〜9および比較例3,4における駆動電圧、CIE色度座標、発光効率および発光寿命の測定結果を示す。また、図5に発光寿命の測定結果の一例として、実施例3、実施例7および比較例4の有機EL素子の輝度の経時変化を示す。図5において、横軸は時間を示し、縦軸は測定開始時の輝度を1とした場合の相対輝度を示す。また、一例として、図6に実施例9および比較例3の発光スペクトルを示す。図6において、横軸は波長を示し、縦軸は相対強度を示す。
表4に示すように、実施例2〜9の有機EL素子の駆動電圧は、比較例3の有機EL素子に比べて低下している。また、実施例2〜9の有機EL素子の発光効率は、比較例3の有機EL素子に比べて向上している。
実施例2〜9の有機EL素子においては、電子制限層6と電子注入電極8との間に高い電子移動度を有するDBzAからなる電子輸送層7が設けられている。この場合、電子輸送層7によって電子の移動が促進され、発光層5へ注入される電子の量を多くすることができる。それにより、実施例2〜9の有機EL素子においては、駆動電圧が低下するとともに発光効率が向上したと考えられる。
一方、比較例3の有機EL素子においては、発光層5と電子注入電極8との間にDBzAからなる電子輸送層7が設けられておらず、Alq3からなる電子制限層6のみが設けられている。この場合、電子制限層6が電子を電子注入電極8から発光層5へ輸送する役割を担う。ここで、Alq3の電子移動度はDBzAの電子移動度に比べて低い。そのため、比較例3の有機EL素子においては、実施例2〜9の有機EL素子に比べて発光層5への電子の注入が制限される。それにより、比較例3の有機EL素子においては、駆動電圧が高くなるとともに、発光効率が低下したと考えられる。
また、表4に示すように、実施例2〜9の有機EL素子の発光寿命は、比較例4の有機EL素子に比べて向上している。
実施例2〜9の有機EL素子においては、発光層5と電子輸送層7との間に電子制限層6が設けられている。この電子制限層6によって電子輸送層7から発光層5へと注入される電子の移動が制限される。それにより、電子とホールとの再結合領域が電子注入電極8側へ移動し、ホールと再結合せずに発光層5を通り抜けてホール輸送層4に到達する電子が低減したと考えられる。その結果、ホール輸送層4の劣化を防止でき、発光寿命が向上したと考えられる。
一方、比較例4の有機EL素子には、電子制限層6が設けられていない。この場合、電子とホールとの再結合領域はホール注入電極2側に位置し、ホールと再結合せずに発光層5を通り抜けてホール輸送層4に到達する電子が多くなる。それにより、ホール輸送層4が劣化し、発光寿命が短くなったと考えられる。
また、実施例2〜9の有機EL素子の駆動電圧および発光効率は比較例4の有機EL素子に比べてそれ程悪化していない。このように、電子制限層6を設けることにより、駆動電圧および発光効率を悪化させることなく発光寿命を増加させることが可能になる。
以上のことから、電子輸送層7としてBCPの代わりにDBzAを用いた場合にも本発明は有効であることが分かる。
また、表4に示すように、実施例4〜9の有機EL素子では、電子輸送性材料(本例では、DBzA)に少量の電子トラップ材料(本例では、C545T、tBuDPNまたはrubrene)が添加された構成を有する電子制限層6を設けることにより、大幅に発光寿命が向上している。
ここで、サイクリックボルタンメトリーによって決定されるC545T、tBuDPNおよびrubreneのLUMOのエネルギーレベルの値は、それぞれ、2.99eV、2、96eVおよび3.02eVである。電子のトラップ力は、LUMOのエネルギーレベルの値が大きいほど強い。つまり、電子のトラップ力は、C545T、tBuDPNおよびrubreneの順に強くなる。したがって、表4の結果から、電子制限層6に添加される電子トラップ材料の電子のトラップ力が強いほど、有機EL素子の発光寿命が長くなることが分かる。
また、実施例4の有機EL素子と実施例5の有機EL素子とを比較すると、実施例5の有機EL素子の発光寿命が長い。このことから、電子制限層6の膜厚が厚いほうが有機EL素子の発光寿命が長くなることが分かる。
また、実施例6の有機EL素子と実施例7の有機EL素子とを比較すると、実施例7の有機EL素子の発光寿命が長い。このことから、電子トラップ材料の濃度が高いほうが有機EL素子の発光寿命が長くなることが分かる。
また、表4に示すように、実施例2〜9の有機EL素子のCIE色度座標はほぼ等しい。このことから、電子制限層6においてC545T、tBuDPNまたはrubreneが発光していないと考えられる。
なお、電子制限層6の膜厚が厚い有機EL素子(実施例5および実施例9)においては、CIE色度座標のy値が若干大きくなっているが、これは、有機EL素子全体の膜厚が大きくなることにより光の干渉条件が変化したために生じたものだと考えられる。例えば、図6に示すように、電子制限層6にルブレンが添加されている実施例9の有機EL素子の発光スペクトルにおいては、ルブレンの発光帯域である550nm付近での発光は見られない。
(実施例10)
実施例10においては、図2の構造を有する有機EL素子を次のように作製した。
ガラスからなる基板1上にインジウム−スズ酸化物(ITO)からなるホール注入電極2を形成した。次に、ホール注入電極2上にプラズマCVD法によりCFX (フッ化炭素)からなるホール注入層3を形成した。プラズマCVDにおけるプラズマ放電時間は15秒とした。
さらに、ホール注入層3上に、ホール輸送層4、橙色発光層5a、青色発光層5b、電子制限層6および電子輸送層7を真空蒸着により順に形成した。
ホール輸送層4は、膜厚150nmのNPBからなる。橙色発光層5aは、膜厚60nmを有し、NPBからなるホスト材料にtBuDPNからなる第1のドーパントを10重量%添加し、DBzRからなる第2のドーパントを3重量%添加することにより形成される。
青色発光層5bは、膜厚50nmを有し、TBADNからなるホスト材料にNPBからなる第1のドーパントを20重量%添加し、TBPからなる第2のドーパントを1重量%添加することにより形成される。
電子制限層6は、膜厚3nmのAlq3からなる。電子輸送層7は、膜厚7nmのBCPからなる。
その後、電子輸送層7上に、1nmのフッ化リチウム膜および200nmのアルミニウム膜の積層構造からなる電子注入電極8を形成した。
以上のようにして作製した有機EL素子の10mA/cm2 での駆動電圧、CIE色度座標および発光効率を測定した。
その結果、実施例10の有機EL素子の駆動電圧は5.1Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.400,0.395)であり、発光効率は15.2cd/Aであった。
(実施例11)
実施例11においては、電子制限層6の膜厚を5nmにした点を除いて実施例10と同じ有機EL素子を作製した。
実施例11の有機EL素子の10mA/cm2 での駆動電圧、CIE色度座標および発光効率を測定した。
その結果、実施例11の有機EL素子の駆動電圧は5.5Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.354,0.366)であり、発光効率は14.1cd/Aであった。
(比較例5)
比較例5においては、電子制限層6を設けなかった点を除いて実施例10と同じ有機EL素子を作製した。
比較例5の有機EL素子の10mA/cm2 での駆動電圧、CIE色度座標および発光効率を測定した。
その結果、比較例5の有機EL素子の駆動電圧は4.5Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.464,0.441)であり、発光効率は15.6cd/Aであった。
(評価)
表5に、実施例10、実施例11および比較例5の有機EL素子の各層の条件を示す。表6に、実施例10、実施例11および比較例5における駆動電圧、CIE色度座標および発光効率の測定結果を示す。
図7は、実施例10、実施例11および比較例5の有機EL素子の発光スペクトルを示すグラフである。図7において、横軸は波長を示し、縦軸は相対強度を示す。
図7に示すように、実施例10、実施例11および比較例5の有機EL素子の発光スペクトルは、450nm付近で第1のピーク値を示し、570nm付近で第2のピーク値を示す。
ここで、実施例10の有機EL素子においては、第1のピーク値と第2のピーク値とがほぼ同じである。実施例11の有機EL素子においては、第1のピーク値が第2のピーク値に比べて大きい。比較例5の有機EL素子においては、第2のピーク値が第1のピーク値に比べて大きい。
このように、電子制限層6の厚さによって、第1のピーク値に対する第2のピーク値の大きさが変化している。すなわち、電子制限層6の厚さを調整することによって、橙色発光層5aと青色発光層5bとの発光強度比を調整することができ、所望の白色光を得ることができる。
また、表6に示すように、実施例10および実施例11の有機EL素子の駆動電圧は比較例5の有機EL素子に比べてほとんど上昇していない。また、実施例10および実施例11の有機EL素子の発光効率は比較例5とほぼ同じである。このことから実施例10および実施例11の有機EL素子においては、電子制限層6を設けたことによる特性の低下はほとんどないと言える。
以上のように、電子制限層6として電子移動度の低い材料を用い、電子輸送層として電子移動度の高い材料を用いることにより、有機EL素子の発光特性を低下させることなく、駆動電圧を低くしかつ所望の発光色を得ることができる。
(実施例12)
実施例12の有機EL素子が実施例10の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
ホール輸送層4は、膜厚100nmのNPBからなる。橙色発光層5aは、膜厚50nmを有し、NPBからなるホスト材料にtBuDPNからなる第1のドーパントを20重量%添加し、DBzRからなる第2のドーパントを3重量%添加することにより形成される。
青色発光層5bは、膜厚45nmを有し、TBADNからなるホスト材料にNPBからなる第1のドーパントを10重量%添加し、TBPからなる第2のドーパントを1重量%添加することにより形成される。
電子制限層6は、膜厚1nmのAlq3からなる。電子輸送層7は、膜厚10nmのDBzAからなる。
実施例12の有機EL素子の20mA/cm2 での駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比および発光効率、ならびに80mA/cm2 での発光寿命を測定した。なお、青/橙ピーク比は、青色波長領域(400nm〜500nm)における最大発光強度を、橙波長領域(500nm〜650nm)における最大発光強度で除したものである。また、発光寿命は、測定開始時の輝度が半減するまでの時間を測定したものである。
その結果、実施例12の有機EL素子の駆動電圧は4.8Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.35,0.41)であり、青/橙ピーク比は0.93であり、発光効率は10.8cd/Aであり、発光寿命は280時間であった。
(実施例13)
実施例13においては、電子制限層6の膜厚を3nmとした点を除いて、実施例12と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例12と同じ条件で、実施例13の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例13の有機EL素子の駆動電圧は5.0Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.32,0.39)であり、青/橙ピーク比は1.30であり、発光効率は10.6cd/Aであり、発光寿命は310時間であった。
(実施例14)
実施例14の有機EL素子が実施例12の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
電子制限層6は、膜厚3nmを有し、DBzAにtBuDPNを2重量%添加することにより形成される。
実施例12と同じ条件で、実施例14の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例14の有機EL素子の駆動電圧は4.9Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.35,0.41)であり、青/橙ピーク比は0.94であり、発光効率は10.4cd/Aであり、発光寿命は330時間であった。
(実施例15)
実施例15においては、電子制限層6の膜厚を10nmとした点を除いて、実施例14と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例12と同じ条件で、実施例15の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例15の有機EL素子の駆動電圧は5.3Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.31,0.38)であり、青/橙ピーク比は1.50であり、発光効率は9.9cd/Aであり、発光寿命は350時間であった。
(実施例16)
実施例16の有機EL素子が実施例12の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
電子制限層6は膜厚7nmを有し、第1の電子制限層と第2の電子制限層とが積層された構成を有する。第1の電子制限層は膜厚5nmを有し、DBzAにtBuDPNが2重量%添加されることにより形成される。第2の電子制限層は、膜厚2nmのAlq3からなる。
実施例12と同じ条件で、実施例16の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例16の有機EL素子の駆動電圧は5.5Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.29,0.37)であり、青/橙ピーク比は1.90であり、発光効率は9.4cd/Aであり、発光寿命は370時間であった。
(実施例17)
実施例17の有機EL素子が実施例12の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
電子制限層6は、膜厚10nmを有し、DBzAにAlq3およびtBuDPNを30重量%および2重量%それぞれ添加することにより形成される。
実施例12と同じ条件で、実施例17の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、実施例17の有機EL素子の駆動電圧は5.3Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.30,0.37)であり、青/橙ピーク比は1.70であり、発光効率は10.3cd/Aであり、発光寿命は340時間であった。
(比較例6)
比較例6においては、電子制限層6の膜厚を10nmとし、電子輸送層7を設けなかった点を除いて、実施例12と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例12と同じ条件で、比較例6の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、比較例6の有機EL素子の駆動電圧は6.9Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.24,0.37)であり、青/橙ピーク比は2.80であり、発光効率は8.6cd/Aであり、発光寿命は420時間であった。
(比較例7)
比較例7においては、電子制限層6を設けなかった点を除いて、実施例12と同じ構造を有する有機EL素子を作製した。
実施例12と同じ条件で、比較例7の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、比較例7の有機EL素子の駆動電圧は4.7Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.38,0.43)であり、青/橙ピーク比は0.71であり、発光効率は11.2cd/Aであり、発光寿命は230時間であった。
(参考例)
参考例の有機EL素子が実施例12の有機EL素子と異なるのは以下の点である。
電子制限層6は、膜厚10nmを有し、DBzAにtBuDPNを2重量%添加することにより形成される。電子輸送層7は設けられていない。
実施例12と同じ条件で、参考例の有機EL素子の駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命を測定した。
その結果、参考例の有機EL素子の駆動電圧は4.9Vであり、CIE色度座標は(x,y)=(0.36,0.41)であり、青/橙ピーク比は0.88であり、発光効率は10.4cd/Aであり、発光寿命は260時間であった。
(評価)
表7に、実施例12〜17、比較例6,7および参考例の有機EL素子の各層の条件を示す。表8に、実施例12〜17、比較例6,7および参考例における駆動電圧、CIE色度座標、青/橙ピーク比、発光効率および発光寿命の測定結果を示す。
また、図8に、有機EL素子の発光スペクトルの一例として、実施例12、実施例13、比較例6および比較例7の有機EL素子の発光スペクトルを示す。図8において、横軸は波長を示し、縦軸は相対強度を示す。また、図9に実施例13、実施例15、実施例16および実施例17の有機EL素子のCIE色度座標のx値と電流密度との関係を示す。なお、図9において、縦軸はCIE色度座標のx値を示し、横軸は電流密度を示す。
表8に示すように、実施例12〜17の有機EL素子の駆動電圧は、比較例6の有機EL素子に比べて低下している。また、実施例12〜17の有機EL素子の発光効率は、比較例6の有機EL素子に比べて向上している。これらのことから、実施例2〜9の場合と同様に、複数の発光層により白色発光が得られる有機EL素子においても、DBzAからなる電子輸送層7を設けることにより駆動電圧が低下するとともに発光効率が向上することが分かる。
また、実施例12〜17の有機EL素子の発光寿命は、比較例7の有機EL素子に比べて向上している。このことから、実施例2〜9の場合と同様に、複数の発光層により白色発光が得られる有機EL素子においても、電子制限層6を設けることにより発光寿命が向上することが分かる。
なお、参考例の有機EL素子においては、電子制限層6が電子制限層としての役割と電子輸送層としての役割を担うが、表8に示すように、実施例12〜17の有機EL素子に比べて発光寿命が短くなっている。このことから、電子制限層と電子輸送層とは別個の層として設けることが好ましいことが分かる。
また、表8に示すように、実施例12および実施例13のCIE色度座標および青/橙ピーク比は異なっている。このことから、電子輸送層7としてDBzAを用いた場合も、実施例10および実施例11の有機EL素子と同様に、電子制限層6の膜厚を調整することにより所望の白色光が得られることが分かる。
また、表8に示すように、実施例14および実施例15のCIE色度座標および青/橙ピーク比は異なっている。このことから、電子制限層6として、電子輸送性材料に電子トラップ材料が添加された層すなわち複数の有機材料から構成される層を用いた場合にも、実施例12および実施例13の有機EL素子と同様に、電子制限層6の膜厚を調整することにより所望の白色光が得られることが分かる。
また、図9に示すように、実施例15の有機EL素子のCIE色度座標のx値は、低電流密度で大きく変化しているが、実施例13、実施例16および実施例17の有機EL素子のCIE色度座標のx値は、電流密度が変化してもほぼ一定に保たれている。特に、表8に示すように実施例16および実施例17の有機EL素子の発光寿命は長い。
このことから、電子輸送性材料に電子トラップ材料が添加された層(本例では、DBzAにtBuDPNが添加された層)と電子移動度の低い層(本例では、Alq3)とにより電子制限層6を形成する場合、または複数の有機材料の混合層(本例では、DBzA、Alq3およびtBuDPNの混合層)により電子制限層6を形成する場合には、有機EL素子の電流密度に対する色度変化を抑制しつつ発光寿命を向上させることができることが分かる。このような有機EL素子は、フルカラーディスプレイに有効に利用することができる。なお、実施例15の有機EL素子のように色度が変化する場合であっても、白色照明などの用途においては問題なく利用することができる。