JP3972176B2 - 血中吸光物質濃度測定装置および血中吸光物質濃度を演算するための補正関数決定方法 - Google Patents
血中吸光物質濃度測定装置および血中吸光物質濃度を演算するための補正関数決定方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体に光を照射して、その生体からの光を受け、その強度から生体の吸光度の脈動による変化分を求め、これにより血液中の吸光物質濃度を求める吸光物質濃度測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記の装置において、血液中に色素を注入し、その濃度を測定する場合、従来は2波長の光を用いていた。その測定原理を簡単に説明すると、次のようになる。ΔA1、ΔA2を、波長λ1 、λ2 それぞれの生体の減光度の脈動による変化分とし、Φ12を定義する。
Φ12=ΔA1/ΔA2 (1)
【0003】
ΔA1、ΔA2と、生体から受ける波長λ1,λ2 の光の強度I1,I2 とは次の関係にある。
ΔA1/ΔA2=ΔlnI1/ΔlnI2 (2−1)
ここで、
ΔlnIi=ln{Ii /(Ii −ΔIi)} (2−2)
(i=1,2)
である。
【0004】
上記の関係およびシャスターの理論および実験によれば、次式が得られる(特開平8−10245号公報、特開平9−192120号公報等参照)。
【0005】
ここで、Eh1,Eh2 はそれぞれ波長λ1,λ2 の酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを合わせたヘモグロビンの吸光係数である。酸素飽和度をS 、波長λ1,λ2 の酸化ヘモグロビンの吸光係数をEo1 、Eo2 、同じく還元ヘモグロビンの吸光係数をEr1 、Er2 とすると、Eh1,Eh2 は次式で表される。
Eh1=SEo1+(1−S)Er1 (4)
Eh2=SEo2+(1−S)Er2 (5)
また、(3)式において、
Hb;血液中のヘモグロビン濃度
Ed1,Ed2 ;波長λ1,λ2 の注入色素の吸光係数
Cd;血液中の注入色素濃度
F ;散乱係数
である。(3)式において、Eh1 、Eh2 は(4)式および(5)式より酸素飽和度S がわかれば得られる(Eo1 、Eo2 、Er1 、Er2 は既知であるから)。ΔlnI1、ΔlnI2は測定によって求めることができ、F は既知である。また、ヘモグロビン濃度Hbは予め測定しておく。したがって、(3)式は、未知数がS とCdの2つとなり、次のように関数f0で表すことができる。
Cd=f0( Φ12、S ) (3a)
【0006】
また(3)式において、色素を注入しない場合は、Cd=0 であるから、次のようになる。
【0007】
ここでも、Eh1 、Eh2 は(4)式および(5)式より酸素飽和度S がわかれば得られる。ΔlnI1、ΔlnI2は測定によって求めることができ、F は既知である。また、ヘモグロビン濃度Hbは予め測定しておく。したがって、色素を注入しない場合、(6)式の未知数はS のみとなるので、Φ12を測定すれば、このときの酸素飽和度S0を求めることができる。
【0008】
したがって、被験者に色素を注入し、ΔlnI1、ΔlnI2を連続測定し、Φ12を連続して求める。このとき、酸素飽和度を一定と考えて、前回求めた酸素飽和度S0を用いれば(3a)式より、注入色素濃度Cdを求めることができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような方法により、色素濃度Cdを連続測定するならば、酸素飽和度S が変化した場合、色素濃度Cdに誤差が生じる。
【0010】
本発明の目的は、このような酸素飽和度の変化による誤差を無くし、正確に色素濃度を測定することができるようにすることである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
まず、本発明の原理を説明する。本発明では3波長λ1 、λ2 、λ3 の光を生体に照射する。ここで、図1に示すように波長λ1 は、被験者に注入する色素、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンのいずれにも吸光がある波長である。また図1に示すように波長λ2 、λ3 は、互いに異なる波長であるが、いずれも注入色素には吸光は無く、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンのいずれにも吸光がある波長である。
【0012】
まず、色素注入前に、被験者に吸入させる酸素ガスの濃度を変化させてΦ12、Φ32を測定する。すなわち操作者は、例えば最初は通常の酸素濃度(大気の酸素濃度)とし、次に酸素濃度を100%にし、この状態である期間経過後10%にし、この状態である期間経過後、最初の酸素濃度に戻す操作を行い、この操作により変化するΦ12、Φ32を測定する。
ここで、Φ12、Φ32の測定とは、生体から受ける3波長λ1 、λ2 、λ3 の光(透過光または反射光)の強度I1,I2,I3を測定し、その対数lnI1,lnI2,lnI3の脈動による変化分ΔlnI1、ΔlnI2、ΔlnI3を求め、これらと次の式を用いた演算を行ってΦ12、Φ32を求めることである。
Φ12=ΔlnI1/ΔlnI2 (7)
Φ32=ΔlnI3/ΔlnI2 (8)
図2は、Φ12、Φ32の測定結果の一例を示したものである。この図において横軸は時間であり、αを決定するためのα決定期間と、このα決定期間後に、決定されたαを用いてΦ12(補正)を求める測定期間が示されているが、ここで得られるデータΦ12、Φ32は、α決定期間のデータである。
この図に示すように、α決定期間のΦ12、Φ32は、酸素濃度が100%のときには大きい値をとり、酸素濃度が10%のときには小さい値をとる。
そして得られたデータ、
Φ12(10%: 色素注入前) ;色素注入前の吸入酸素が10%のときのΦ12
Φ12(100%:色素注入前) ;色素注入前の吸入酸素が100%のときのΦ12
Φ32(10%: 色素注入前) ;色素注入前の吸入酸素が10%のときのΦ32
Φ32(100%:色素注入前) ;色素注入前の吸入酸素が100%のときのΦ32
を次式に代入して、補正係数αを求める。
【0013】
そして、求めたαを記憶しておく。
【0014】
次に、被験者に色素を注入し、Φ12、Φ32を連続測定する。図2の測定期間のΦ12、Φ32がこのときの測定結果の例である。そしてこの期間のΦ12、Φ32と上記のαとを用いてΦ12を補正する。ここで補正値をΦ12(補正)と記す。この補正には、次式が用いられる。
Φ12(補正)=Φ12−αΔΦ32 (10−1)
これが補正関数である。
【0015】
式(10−1)におけるΔΦ32は、例えば図2に示したように、測定開始直後のある時点をt =t1とし、その時点のΦ32であるΦ32(t1)を基準とし、そのΦ32(t1)とその後の測定時点t =tnのΦ32(tn)との差である。すなわち、ΔΦ32は次式により求められる。
ΔΦ32=Φ32(tn)−Φ32(t1) (10−2)
(10−2)式を(10−1)式に代入した式において、Φ12が連続的に補正され、Φ12(補正)が演算されることになる。図2の測定期間には、Φ12、Φ32の他、このようにして求めたΦ12(補正)も示されている。
【0016】
図2の例を詳細に説明すると、測定期間の開始直後 t=t1からしばらくの間、酸素飽和度S は変化していないので、Φ12、Φ32は t=t1のときの値が維持されて変化していない。しかし、ある時点から例えば、患者自身の容態が変化して酸素飽和度S が変化すると、Φ12、Φ32は変化する。
次に、患者に色素を注入すると、その色素に対して吸光がある波長の光が関与するΦ12は、酸素飽和度S の変化と共に色素の濃度も反映する。一方Φ32は色素に対して吸光がある波長の光は関与していないので、色素濃度の影響は受けない。このため、色素注入後のΦ12、Φ32は図2のように互いに異なる傾向の変化をする。
【0017】
つまり、Φ12は酸素飽和度S の変化の影響を受けた色素濃度を表わしており、Φ32は色素濃度の影響を受けないで、酸素飽和度S の変化のみを表わしている。そこで、時点 t=t1から t=tnの間の変化分であるΔΦ32(tn)を求め、これに上記のαを掛けてα・ΔΦ32(tn)を求める。すなわち、(10−2)式によりΔΦ32(tn)を求める。そして、(10−2)式の、Φ12(tn)−α・ΔΦ32(tn)を計算すると、酸素飽和度S のt =t1からt =tnの変化による影響分が消去されたΦ12(tn)、すなわちΦ12(補正)の値を求めることができる。
したがって、酸素飽和度S が変化しても、その変化の影響を受けないΦ12(補正)が得られる。
【0018】
図3は、Φ12、Φ32およびΦ12(補正)の測定結果の他の例を示すものである。図2に示した例と同様に、αを求めるためのα決定期間と、Φ12(補正)を求める測定期間とがある。図2の例と異なるのは、患者に酸素吸入を行わせたために、Φ12、Φ32が酸素飽和度S の変化の影響を受けた点であり、また、Φ32(tn)がΦ32(t1)よりも大である点である。このような場合にも、図2の例と同様に、Φ12(補正)を求めることができる。
【0019】
次に、このようなΦ12(補正)を求めるならば、注入色素濃度を求めることができる理由を詳細に説明する。
【0020】
上記の(3)式と同様に、Φ12は次式で表される。
【0021】
しかし、波長λ2 では、色素は吸光しないから、Ed2 は0 であり、(11)式は次のように若干簡単になる。
【0022】
この式中のEh1,Eh2 は、(4)式、(5)式からわかるように、酸素飽和度S で決定される値である。したがって、ヘモグロビン濃度Hbがわかっていれば、CdはΦ12とS で決定される。すなわち、これらの関係を関数f1として表せば次のようになる。
Cd=f1( Φ12、S) (12a)
【0023】
一方、Φ32については、波長λ2 、λ3 は共に注入色素に対して吸光は無いのでEd2,Ed3 はゼロであり、次式が成り立つ。
この式中のEh2,Eh3 は、波長λ2 、λ3 それぞれについて、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを合わせたヘモグロビン全体の吸光係数であり、そのときの血液の酸素飽和度S で決定される。したがって、ヘモグロビン濃度Hbがわかっていれば、S はΦ32を測定して求めることできる。すなわち、これらの関係を関数f2として表せば次のようになる。
S =f2( Φ32) (13a)
【0024】
ΔΦ32は、上述の(10−2)式のように、Φ32(tn) −Φ32(t1)であり、これにαをかけたものが、時点t=t1からt=tnの間の酸素飽和度S の変化分によりΦ12(tn)が受ける影響である。したがって、(10−1)式の
Φ12(補正)=Φ12(tn)−αΔΦ32
を求めれば、酸素飽和度S が変化してΦ12(tn)がその影響を受けても、酸素飽和度S をt=t1における値S1としたときのΦ12(tn)に補正された値を求めることができる。
【0025】
つまり、(12)式を参照すれば、
という関係が成り立つ。
【0026】
この式の特徴は、Eh1 、Eh2 は、「時点t=t1」における値Eh1(t1) 、Eh2(t1) で固定されており(これにより酸素飽和度S は時点t=t1の酸素飽和度S1で固定される)、色素濃度Cdは、「時点t=tn」における値Cd(tn)である点である。すなわち時間は経過しても酸素飽和度S の変化の影響を受けない点である。
【0027】
(14)式において、Hb,Ed1,Fは一定であるから、Φ12(補正)とCd(tn)は次の関係となる。
Cd(t) =f3( Φ12(補正)) (15)
【0028】
したがって、Φ12(補正)を連続して求めるなら、(15)式の関係により、色素濃度Cd(t) を酸素飽和度S の変化に影響されずに連続測定することができる。なお、本出願人が、特開平8−10245号公報、特開平8- 322822号公報、特開2000−083933号公報で開示しているように、血液以外の組織が脈動することによる影響を考慮した組織項Exを(7)式〜(15)式に考慮してもよい。
【0029】
以上の原理に基づき、請求項1の発明装置は、第1の血中吸光物質、第2の血中吸光物質および第3の血中吸光物質を含む血液の少なくとも前記第1の血中吸光物質の濃度を演算する血中吸光物質濃度測定装置において、第1の波長の光と、第2の波長の光および第3の波長の光を生体に照射する光源と、前記生体からの各波長の光をそれぞれの強度に応じた信号に変換する受光手段と、この受光手段の出力信号の脈動に基づき、前記第1の波長の減光度の変化分と、前記第2の波長の減光度の変化分の比である第1の比と、第3の波長の減光度の変化分と第2の波長の減光度の変化分の比である第2の比とを求める変化分検出手段と、前記第2の比の変化分と前記第1の比に基づいて、前記第1の比を補正する補正手段と、この補正手段により補正された前記第1の比に基づいて前記生体の血液中の前記第1の血中吸光物質の濃度を演算する濃度演算手段と、を備えた構成とした。
【0030】
請求項2の発明装置は、請求項1記載の装置において、前記補正手段は、前記第2の比の変化分と前記第1の比に関する補正関数に基づいて前記第1の比を補正することを特徴とする。
【0031】
請求項3の発明装置は、第1の血中吸光物質、第2の血中吸光物質および第3の血中吸光物質を含む血液の少なくとも前記第1の血中吸光物質の濃度を演算する血中吸光物質濃度測定装置において、第1の波長の光と、第2の波長の光および第3の波長の光を生体に照射する光源と、前記生体からの各波長の光をそれぞれの強度に応じた信号を変換する受光手段と、この受光手段の出力信号の脈動に基づき、前記第1の波長の減光度の変化分と、前記第2の波長の減光度の変化分の比である第1の比と、第3の波長の減光度の変化分と第2の波長の減光度の変化分の比である第2の比とを求める変化分検出手段と、補正関数を決定するか、前記第1の血中吸光物質の濃度を測定するかのモードを指示するモード切換手段と、前記モード切換手段が補正関数を決定するモードを指示したときに動作し、前記生体が吸引する気体の濃度が異なる場合のそれぞれの前記第1の比と前記第2の比に基づいて、前記補正関数を求める補正関数決定手段と、前記モード切換手段が前記第1の血中吸光物質の濃度を測定するモードを指示したときに動作し、前記補正関数決定手段により決定された補正関数を用いて前記第1の比を補正する補正手段と、この補正手段により補正された前記第1の比に基づいて前記生体の血液中の前記第1の血中吸光物質の濃度を演算する濃度演算手段と、を備えた構成とした。
【0032】
請求項4の発明装置は、請求項2または請求項3に記載の装置において、前記補正関数は、前記第1の比から前記第2の比の変化分に所定の補正係数を掛けたものを差し引いて前記第1の比を補正する関数であることを特徴とする。
【0033】
請求項5の発明装置は、請求項1乃至請求項4のうちいずれか1つに記載の装置において、前記第1の波長の光は、前記第1の血中吸光物質、前記第2の血中吸光物質および前記第3の血中吸光物質に吸光される光であり、前記第2および前記第3の波長の光は、前記第1の血中吸光物質には吸光されず前記第2の血中吸光物質および前記第3の血中吸光物質に吸光される光であること、を特徴とする。
【0034】
請求項6の発明装置は、請求項1乃至請求項5のうちいずれか1つに記載の装置において、前記第1の血中吸光物質は、体内に注入する色素であり、前記第2の血中吸光物質は、酸化ヘモグロビンであり、前記第3の血中吸光物質は、還元ヘモグロビンであり、前記濃度演算手段における演算に用いる前記第2の比の変化分は、前記色素を注入する前の前記第2の比を基準とし、それに対する前記色素の注入後の前記第2の比の変化分であることを特徴とする。
【0035】
請求項7に記載の発明装置は、請求項6に記載の血中吸光物質濃度測定装置において、前記色素はインジゴカルミンであり、前記第1の波長は620nmまたはその近傍の波長であることを特徴とする。
【0036】
請求項8に記載の発明装置は、請求項6に記載の血中吸光物質濃度測定装置において、前記色素はインドシアニングリーンであり、前記第1の波長は800nmまたはその近傍の波長であることを特徴とする。
【0037】
請求項9に記載の発明方法は、第1の血中吸光物質、第2の血中吸光物質および第3の血中吸光物質を含む血液の少なくとも前記第1の血中吸光物質の濃度を演算するための補正関数を、光源と受光部とCPUを備えた装置が決定する方法において、第1の波長の光と、第2の波長の光および第3の波長の光を前記光源により発生するステップと、生体からの各波長の光を前記受光部によりそれぞれの強度に応じた信号に変換するステップと、この変換された信号の脈動に基づき、前記第1の波長の減光度の変化分と前記第2の波長の減光度の変化分の比である第1の比と、第3の波長の減光度の変化分と第2の波長の減光度の変化分の比である第2の比とを前記CPUにより求めるステップと、前記生体が吸引する気体の濃度が異なる場合のそれぞれの前記第1の比と前記第2の比に基づいて、前記第1の血中吸光物質の濃度を求めるための補正関数を前記CPUにより決定するステップとを含む方法である。
【0038】
請求項10の発明方法は、請求項9記載の方法において、前記補正関数は、前記第1の比から前記第2の比の変化分に所定の補正係数を掛けたものを差し引いて前記第1の比を補正する補正関数であることを特徴とする。
【0039】
請求項11の発明方法は、請求項9または請求項10に記載の方法において、前記第1の波長の光は、前記第1の血中吸光物質、前記第2の血中吸光物質および前記第3の血中吸光物質に吸光される光であり、前記第2および前記第3の波長の光は、前記第1の血中吸光物質には吸光されず前記第2の血中吸光物質および前記第3の血中吸光物質に吸光される光であること、を特徴とする。
【0040】
請求項12の発明方法は、請求項9乃至請求項11のうちいずれか1つに記載の補正関数決定方法において、前記第1の血中吸光物質は、体内に注入する色素であり、前記第2の血中吸光物質は、酸化ヘモグロビンであり、前記第3の血中吸光物質は、還元ヘモグロビンであり、前記第2の比の変化分は、前記色素を注入する前の前記第2の比を基準とし、それに対する前記色素の注入後の前記第2の比の変化分であることを特徴とする。
【0041】
請求項13の発明方法は、請求項12に記載の方法において、前記色素はインジゴカルミンであり、前記第1の波長は620nmまたはその近傍の波長であることを特徴とする。
【0042】
請求項14の発明方法は、請求項12に記載の方法において、前記色素は、インドシアニングリーンであり、前記第1の波長は800nmまたはその近傍の波長であることを特徴とする。
【0043】
【発明の実施の形態】
本実施の形態の全体構成を図4に示す。本装置は、被験者にインジゴカルミンを注入しその血液中の濃度を連続測定する装置である。この装置において、3波長光源1は、異なる3波長λ1 =620nm 、λ2 =870nm 、λ3 =730nm の光を発生し、生体組織2に照射する光源であり、それぞれの光を発生するLED 、およびそれらを駆動する駆動回路により構成されている。
【0044】
図5に示すように、波長λ1 =620nm は、インジゴカルミンの吸光係数が際立って大きい波長であり、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンのいずれにも吸光する波長である。また、波長λ2 =870nm 、λ3 =730nm はいずれも、インジゴカルミンの吸光はないが、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンのいずれにも吸光する波長である。
【0045】
受光部3は、生体組織2を透過した光を受け、その光の強度に応じた電気信号に変換するもので、フォトダイオードを備えている。受光部3の出力信号は、増幅器4で増幅され、A/D変換器5でデジタル信号に変換されてデジタルコンピュータ6に至るようにされている。
【0046】
デジタルコンピュータ6は、外部との信号の授受を行うI/Oポート7と、与えられたデータを演算処理し、また各部の制御を行うCPU8と、このCPU8が行う処理に必要なプログラムやデータが格納されたROM9と、CPU8が行う処理の過程で用いられるRAM10から成る。
【0047】
キー入力部11は、デジタルコンピュータ6に各種の指示やデータを入力するものであり、表示部12はデジタルコンピュータ6の処理結果を表示するものである。
【0048】
次にこのように構成された装置の動作を図6〜図8を参照して説明する。図6はこの動作の全体を示したものである。本装置が動作開始となるとCPU8は、補正関数決定モードか、色素濃度測定モードかを判断する(ステップ101)。この判断は、キー入力部11から指示されるモードにより決定される。ここで、CPU8は補正関数決定モードであると判断すれば補正関数決定の処理を行い(ステップ102)、色素濃度測定モードであると判断すれば色素濃度測定の処理を行い(ステップ103)、動作を終了する。
【0049】
次に、上記の2つの処理について具体的に説明する。最初に、補正関数決定処理について説明する。図7に示すように、まずCPU8は、データ取り込み処理を行う(ステップ201)。この処理は、キー入力部11から取り込み処理終了の指示があれば終了する。ここで、データは、3波長光源1から発生し、被験者の生体組織2を透過した光の強度I1,I2,I3であって、受光部3の出力信号から得られるデータである。
【0050】
この処理において操作者は、データ取込み開始の指示を装置に与えてから、データ取り込み終了の指示を与えるまでの間に、被験者に吸入させる酸素濃度を変化させる。例えば酸素濃度を当初100%とし、次に10%とする。この酸素濃度を変化させる際、変化の前後それぞれにおいて、生体組織中の血液がそれぞれの酸素濃度に対応する酸素飽和度に安定するまでの時間をとることは必要である。
【0051】
CPU8は取り込んだデータに基づいて補正係数αを求める(ステップ202)。すなわち、CPU8は3波長の透過光の強度I1、I2、I3から、上記の(7)式、(8)式に基づいて、酸素濃度が100%のときの色素注入前のΦ12とΦ32、すなわちΦ12(100%:色素注入前) とΦ32(100%:色素注入前) と、酸素濃度が10%のときの色素注入前のΦ12とΦ32、すなわちΦ12(10%: 色素注入前) とΦ32(10%: 色素注入前) を求める。そして、これらを上記の(9)式に代入して、αを計算する。
【0052】
ここで、測定したΦ12およびΦ32が酸素濃度が100%のときの値か10%のときの値かは、測定したΦ12、Φ32をそれぞれに設定した基準値と比較して判断するようにしても良いし、操作者が被験者に吸入させる酸素をそれぞれの濃度としているとき、またはその濃度を変えたときにキー入力部11からその旨を指示し、CPU8がその指示された時点を参照して判断するようにしても良い。さらに、吸入酸素濃度が100%のときのΦ12、Φ32の値、10%のときのΦ12、Φ32の値は、それぞれある1つの時点の値でも良いし、それぞれの吸入酸素濃度のときの値の平均値をとっても良い。
【0053】
次に、CPU8は求めたαから補正関数、すなわち,
Φ12(補正)=Φ12−α・ΔΦ32
を決定し、この補正関数をRAM10に記憶すると共に表示部12に表示する(ステップ203)。
【0054】
次に図8を参照して色素濃度測定の処理について説明する。この処理において、補正関数は上記の補正関数決定処理により、すでにRAM10に記憶されているものとする。
【0055】
この測定では、被験者には特に酸素吸入をさせることなく通常の酸素呼吸を行わせる。そして操作者は、本装置を動作開始させ、ある時間経過した後、被験者にインジゴカルミンを注入する。動作開始となると、図8に示すようにCPU8はデータI1,I2,I3の取り込みを開始し(ステップ301)、次にデータI1,I2,I3に基づいて、1回分の脈動のデータが得られる毎に、Φ12=ΔlnI1/ΔlnI2、Φ32=ΔlnI3/ΔlnI2を求め、記憶する(ステップ302)。次に、ステップ302で求めたΦ32が測定開始してから最初のΦ32かを判断し(ステップ303)、最初であれば、その最初の脈動の終了時点t=t1のΦ32であるΦ32(t1)と、式(13a)の関係により、酸素飽和度S1を求め(ステップ304)、ステップ302へ戻る。
【0056】
CPU8は、ステップ303において、ステップ302で求めたΦ32が最初のデータでないと判断すると、補正関数を用いた演算を行う(ステップ305)。すなわち、最新のΦ32と最初のΦ32との差ΔΦ32をとり、これとステップ302で求めた最新のΦ12とを補正関数に代入した演算を行い、Φ12(補正)を求める。
【0057】
次に、色素濃度Cd(tn)を求める(ステップ306)。すなわち、ステップ304で求めたS1と、ステップ305で求めたΦ12(補正)と、(15a)式を用いて色素濃度Cd(tn)を求め、その結果を表示部12に表示させる。次に、キー入力部11から測定終了の指示があったかをチェックし(ステップ307)、測定終了の指示がなければステップ302に戻り、以下の処理を続け、測定終了の指示があれば本測定は終了する。この測定によって、図9に示すような色素濃度図が得られる。なお、以上の説明は、本装置を色素濃度測定中に患者に酸素吸入を行わせない場合に用いた例であり、例えば図2に示したように患者自身の容態変化により酸素飽和度が不安定になってもその酸素飽和度の変化による影響を受けないΦ12(補正)を求め、これにより色素濃度を測定することができる。これに対し、色素濃度測定中に患者に酸素吸入を行わせた場合であっても、本装置によれば、図3に示したように酸素飽和度の変化による影響を受けないΦ12(補正)を求め、これにより色素濃度を測定することができる。
【0058】
本装置によれば、各脈動データが得られる毎にΦ12、Φ32を求め、ほぼリアルタイムで色素濃度Cdを測定することができる。これに対し、まず、必要なデータI1,I2,I3をすべて測定し、その後、それらのデータに基づいてΦ12−α・ΔΦ32およびCdを演算し、全体の色素濃度図を求めるようにしても良い。なお、上記の例では生体の透過光を測定する構成としたが、反射光を測定する構成でも良い。
【0059】
また、補正係数αを求めるまでの処理の過程や、色素濃度Cdを求めるまでの処理の過程では、式を用いて計算によっても良いし、予め作成し記憶した表を使っても良い。
【0060】
また、本装置において、色素濃度を複数回測定する場合、補正関数は、色素濃度を測定する前に必ず決定しそれを用いるようにしても良いし、一度補正関数を決定したなら、以後それを用いるようにしても良い。さらに前者の場合には、学習機能を備えさせ、頻度の高い補正係数の補正関数を用いるようにしても良いし、平均値をとってこれを用いるようにしても良い。あるいは、臨床的データから統計的に決定された補正係数を用いた補正関数を装置に予め記憶させておいても良い。
【0061】
また、上記補正関数決定処理では、操作者は被験者に吸入させる酸素の濃度を100%と10%としたが、これは他の異なる2つの濃度でも良い。
【0062】
また、本装置では、各脈動毎にΦ12、Φ32を求めたが、所定の時間経過毎に求めても良い。
【0063】
また、本装置は、補正関数を決定する手段と、その補正関数を用いて色素濃度を測定する手段の両方を備えた構成であるが、いずれか一方だけの手段を持つ装置としても良い。この場合、いずれの装置の構成も、図4に示したように、3波長光源1と、受光部2と、増幅器3と、A/D変換器4と、デジタルコンピュータ6と、キー入力部11と、表示部12とを備えるが、補正関数決定専用装置では、CPU8は図6のフローチャートの処理を行い、色素濃度専用測定装置では、CPU8は図7のフローチャートの処理を行うように構成されている。なお、色素濃度専用測定装置では補正関数はキー入力部11によって設定できるようになっている。また、上記の両手段を備えた装置であっても、補正関数はキー入力部11によっても設定できるようにしても良い。
【0064】
上記は色素をインジゴカルミンとした例であるが、色素をインドシアニングリーンとした場合も同様にして求めることができる。この場合は、波長λ1 =620nm の代わりに、インドシアニングリーンに対し吸光が大きい波長λ4 =800nm (図5参照)を用いると同様にして、色素濃度が得られる。
【0065】
以上は、被験者に注入した色素の濃度を求める例であるが、被験者の体内で作られる血中吸光物質であっても、同様にして、その濃度を酸素飽和度の影響を受けないようにして測定できる。例えば一酸化炭素ヘモグロビンは、その吸光係数特性は図10に示すようになっている。そこで、図10に示すように、3波長λ1 、λ2 、λ3 を選択すれば、Φ12、Φ32を測定し、ΔΦ32を求め、予め決定した補正係数αと、(10−1)式を用いて、すなわち、
Φ12(補正)=Φ12(tn)−α・ΔΦ32
により、Φ12(補正)を求めるならば、酸素飽和度の変化に影響されずに、一酸化炭素ヘモグロビン濃度を求めることができる。
【0066】
一酸化炭素ヘモグロビン濃度が測定される場合、被験者は救急で病院に運ばれた一酸化炭素中毒の患者であることが多い。このような患者は、通常、病院に着いたとき各種ヘモグロビン(酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、一酸化炭素ヘモグロビン)濃度を測定するために採血される。ΔΦ32を求めるための基準のΦ32は、ほぼこの採血時のΦ32とするのが好ましい。なお、補正関数の係数αは、例えば、採血によって各種ヘモグロビン濃度を実際に測定することにより決定しても良いし、一酸化炭素ヘモグロビンが含まれていないときの被験者の測定データによっても良い。
【0067】
【発明の効果】
本発明によれば、酸素飽和度が変化してもその影響を受けず、精度良く血中吸光物質の濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理を説明するための吸光係数と波長との関係を示す図。
【図2】本発明の原理を説明するためのΦ12とΦ32の変化の一例を示す図。
【図3】本発明の原理を説明するためのΦ12とΦ32の変化の他の例を示す図。
【図4】本発明の実施の形態の血中色素濃度測定装置の全体構成を示す図。
【図5】本発明の実施の形態で用いる光の波長と吸光係数との関係を示す図。
【図6】本発明の実施の形態の動作を説明するためのフローチャートを示す図。
【図7】本発明の実施の形態の動作を説明するためのフローチャートを示す図。
【図8】本発明の実施の形態の動作を説明するためのフローチャートを示す図。
【図9】本発明の実施の形態の測定結果の例を示す図。
【図10】一酸化炭素ヘモグロビン濃度の測定のために用いる光の波長を示す図。
【符号の説明】
1 3波長光源
3 受光部
6 デジタルコンピュータ
8 CPU
9 ROM
10 RAM
11 キー入力部
Claims (14)
- 第1の血中吸光物質、第2の血中吸光物質および第3の血中吸光物質を含む血液の少なくとも前記第1の血中吸光物質の濃度を演算する血中吸光物質濃度測定装置において、
第1の波長の光と、第2の波長の光および第3の波長の光を生体に照射する光源と、
前記生体からの各波長の光をそれぞれの強度に応じた信号に変換する受光手段と、
この受光手段の出力信号の脈動に基づき、前記第1の波長の減光度の変化分と、前記第2の波長の減光度の変化分の比である第1の比と、第3の波長の減光度の変化分と第2の波長の減光度の変化分の比である第2の比とを求める変化分検出手段と、
前記第2の比の変化分と前記第1の比に基づいて、前記第1の比を補正する補正手段と、
この補正手段により補正された前記第1の比に基づいて前記生体の血液中の前記第1の血中吸光物質の濃度を演算する濃度演算手段と、
を備えた血中吸光物質濃度測定装置。 - 請求項1記載の血中吸光物質濃度測定装置において、
前記補正手段は、前記第2の比の変化分と前記第1の比に関する補正関数に基づいて前記第1の比を補正することを特徴とする血中吸光物質濃度測定装置。 - 第1の血中吸光物質、第2の血中吸光物質および第3の血中吸光物質を含む血液の少なくとも前記第1の血中吸光物質の濃度を演算する血中吸光物質濃度測定装置において、
第1の波長の光と、第2の波長の光および第3の波長の光を生体に照射する光源と、
前記生体からの各波長の光をそれぞれの強度に応じた信号を変換する受光手段と、
この受光手段の出力信号の脈動に基づき、前記第1の波長の減光度の変化分と、前記第2の波長の減光度の変化分の比である第1の比と、第3の波長の減光度の変化分と第2の波長の減光度の変化分の比である第2の比とを求める変化分検出手段と、
補正関数を決定するか、前記第1の血中吸光物質の濃度を測定するかのモードを指示するモード切換手段と、
前記モード切換手段が補正関数を決定するモードを指示したときに動作し、前記生体が吸引する気体の濃度が異なる場合のそれぞれの前記第1の比と前記第2の比に基づいて、前記補正関数を求める補正関数決定手段と、
前記モード切換手段が前記第1の血中吸光物質の濃度を測定するモードを指示したときに動作し、前記補正関数決定手段により決定された補正関数を用いて前記第1の比を補正する補正手段と、
この補正手段により補正された前記第1の比に基づいて前記生体の血液中の前記第1の血中吸光物質の濃度を演算する濃度演算手段と、
を備えた血中吸光物質濃度測定装置。 - 請求項2または請求項3に記載の血中吸光物質濃度測定装置において、前記補正関数は、前記第1の比から前記第2の比の変化分に所定の補正係数を掛けたものを差し引いて前記第1の比を補正する関数であることを特徴とする血中吸光物質濃度測定装置。
- 請求項1乃至請求項4のうちいずれか1つに記載の血中吸光物質濃度測定装置において、
前記第1の波長の光は、前記第1の血中吸光物質、前記第2の血中吸光物質および前記第3の血中吸光物質に吸光される光であり、
前記第2および前記第3の波長の光は、前記第1の血中吸光物質には吸光されず前記第2の血中吸光物質および前記第3の血中吸光物質に吸光される光であること、
を特徴とする血中吸光物質濃度測定装置。 - 請求項1乃至請求項5のうちいずれか1つに記載の血中吸光物質濃度測定装置において、
前記第1の血中吸光物質は、体内に注入する色素であり、
前記第2の血中吸光物質は、酸化ヘモグロビンであり、
前記第3の血中吸光物質は、還元ヘモグロビンであり、
前記濃度演算手段における演算に用いる前記第2の比の変化分は、前記色素を注入する前の前記第2の比を基準とし、それに対する前記色素の注入後の前記第2の比の変化分であること
を特徴とする血中吸光物質濃度測定装置。 - 請求項6に記載の血中吸光物質濃度測定装置において、
前記色素はインジゴカルミンであり、
前記第1の波長は620nmまたはその近傍の波長であることを特徴とする血中吸光物質濃度測定装置。 - 請求項6に記載の血中吸光物質濃度測定装置において、
前記色素はインドシアニングリーンであり、
前記第1の波長は800nmまたはその近傍の波長であることを特徴とする血中吸光物質濃度測定装置。 - 第1の血中吸光物質、第2の血中吸光物質および第3の血中吸光物質を含む血液の少なくとも前記第1の血中吸光物質の濃度を演算するための補正関数を、光源と受光部とCPUを備えた装置が決定する方法において、
第1の波長の光と、第2の波長の光および第3の波長の光を前記光源により発生するステップと、
生体からの各波長の光を前記受光部によりそれぞれの強度に応じた信号に変換するステップと、
この変換された信号の脈動に基づき、前記第1の波長の減光度の変化分と前記第2の波長の減光度の変化分の比である第1の比と、第3の波長の減光度の変化分と第2の波長の減光度の変化分の比である第2の比とを前記CPUにより求めるステップと、
前記生体が吸引する気体の濃度が異なる場合のそれぞれの前記第1の比と前記第2の比に基づいて、前記第1の血中吸光物質の濃度を求めるための補正関数を前記CPUにより決定するステップと
を含む血中吸光物質の濃度を求めるための補正関数決定方法。 - 請求項9記載の補正関数決定方法において、前記補正関数は、前記第1の比から前記第2の比の変化分に所定の補正係数を掛けたものを差し引いて前記第1の比を補正する補正関数であることを特徴とする補正関数決定方法。
- 請求項9または請求項10に記載の補正関数決定方法において、
前記第1の波長の光は、前記第1の血中吸光物質、前記第2の血中吸光物質および前記第3の血中吸光物質に吸光される光であり、
前記第2および前記第3の波長の光は、前記第1の血中吸光物質には吸光されず前記第2の血中吸光物質および前記第3の血中吸光物質に吸光される光であること、
を特徴とする補正関数決定方法。 - 請求項9乃至請求項11のうちいずれか1つに記載の補正関数決定方法において、
前記第1の血中吸光物質は、体内に注入する色素であり、
前記第2の血中吸光物質は、酸化ヘモグロビンであり、
前記第3の血中吸光物質は、還元ヘモグロビンであり、
前記第2の比の変化分は、前記色素を注入する前の前記第2の比を基準とし、それに対する前記色素の注入後の前記第2の比の変化分であること
を特徴とする補正関数決定方法。 - 請求項12に記載の補正関数決定方法において、
前記色素はインジゴカルミンであり、
前記第1の波長は620nmまたはその近傍の波長であることを特徴とする補正関数決定方法。 - 請求項12に記載の補正関数決定方法において、
前記色素は、インドシアニングリーンであり、
前記第1の波長は800nmまたはその近傍の波長であることを特徴とする補正関数決定方法。
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