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JP2019215435A - 真空紫外光偏光素子 - Google Patents

真空紫外光偏光素子 Download PDF

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Abstract

【課題】 光配向等の処理に使用できる真空紫外光偏光素子のより適切な構成を提示する。【解決手段】 真空紫外光に対して透明な基板上1に設けられたグリッド2は、平行に延びる多数の線状部3より成り、各線状部3の間は空間であって充填物が設けられていない。各線状部3の材料は、第3族又は第4族の元素の酸化物であって、PE=T2×log10(ER)の式(但し、Tはグリッドによる透過率、ERはグリッドによる消光比)で得られるPEが真空紫外域で最も高くなる組合せにおいてPEが0.2以上となる材料である。【選択図】 図1

Description

本願の発明は、波長200nm以下の真空紫外光を偏光させる真空紫外光偏光素子に関するものである。
各種偏光素子の中でも、透明基板上に微細な縞状のグリッドを設けた構造のグリッド偏光素子は、比較的大きな照射エリアに対して偏光光を照射できることから、利用が広がっている。このうち、部材中の分子構造に一定の方向性を与える配向処理の分野では、偏光光の照射によりこれを行うことが実用化されており、一般に光配向と呼ばれる。
光配向では、よりエネルギーの高い波長を照射して処理の効率化を図るべく、偏光光の波長はより短いものになっている。即ち、当初は、可視の短波長域であったが、最近では紫外光が多く使用されるようになっており、365nmのような近紫外光も使用されるようになってきている。
このような短波長化のため、グリッド偏光素子も、以前はアルミのような金属をグリッド材料とした反射型のもの(ワイヤーグリッド偏光素子)が使用されていたが、短波長域での光の吸収を利用した吸収型のグリッド偏光素子が開発され、使用されている。
尚、グリッド偏光素子において、グリッドは、互いに平行に延びる多数の線状部より成る縞状である。各線状部の間の間隔(ギャップ幅)を光の波長に対して適切に短くすると、グリッドからは、各線状部の長さ方向に垂直な方向に電界成分を持つ直線偏光光が専ら出射する。このため、グリッド偏光素子の姿勢を制御し、グリッドの各線状部の長さ方向が所望の方向に向くようにすることで、偏光光の軸(電界成分の向き)が所望の方向に向いた偏光光が得られることになる。
以下、説明の都合上、電界がグリッドの各線状部の長さ方向に向いている直線偏光光をs偏光光と呼び、長さ方向に垂直な方向に電界が向いている直線偏光光をp偏光光と呼ぶ。通常、入射面(反射面に垂直で入射光線と反射光線を含む面)に対して電界が垂直なものをs波、平行なものをp波と呼ぶが、各線状部の長さ方向が入射面に対し垂直であることを前提とし、このように区別する。
このような偏光素子の性能を示す基本的な指標は、消光比ERと透過率Tである。消光比ERは、偏光素子を透過した偏光光の強度のうち、s偏光光の強度(Is)に対するp偏光光の強度(Ip)の比である(Ip/Is)。また、透過率Tは、入射するs偏光光とp偏光光の全エネルギーIinに対する出射p偏光光のエネルギーの比である(T=Ip/Iin)。理想的な偏光素子は、消光比ER=∞、透過率T=50%ということになる。
特開2015−125280号公報 特許4778958号公報
グリッド偏光素子は、光配向のような光処理に用いられる場合が多く、上記のように処理の効率化のため、より短波長化してきている。したがって、近紫外域よりもさらに短い真空紫外光(波長200nm以下)について偏光できるようにすることも考えられる。しかしながら、200nm以下の波長域ともなると、あまりにもエネルギーが高くなり過ぎ、対象物の分子構造を破壊してしまう等、所望の処理をする以前の問題を生じてしまう可能性がある。真空紫外光は、有害な有機物等を光照射により分解して除去する光洗浄の分野においてしばしば使用される波長域であり、このことからも、真空紫外光は、光配向のような光処理には使用できないと考えられる。
このようなことから、真空紫外光を偏光させるグリッド偏光素子は、これまでのところ意図されておらず、研究はされていない。このため、真空紫外光を偏光させるグリッド偏光素子については、適切なグリッド材料や特性等の点も含めて、具体的な教示をした文献は存在しない。
発明者は、このような状況ではあるものの、適切な照射条件を設定すれば、真空紫外光ではあっても光配向等の処理に使用でき、その高いエネルギーによってより効率的に処理ができるのではないかと考えた。このような考えの下、真空紫外光偏光素子の適切な構成について鋭意研究し、この出願の発明を想到するに至った。したがって、この発明が解決しようとする課題は、光配向等の処理に使用できる真空紫外光偏光素子のより適切な構成を提示することである。
上記課題を解決するため、この出願の請求項1記載の発明は、波長200nm以下の真空紫外光を偏光させる真空紫外光偏光素子であって、
真空紫外光に対して透明な基板と、基板上に設けられたグリッドとを備えており、
グリッドは、平行に延びる多数の線状部より成るものであり、
各線状部の間には充填物が設けられていない構造であり、
各線状部の材料は、第3族又は第4族の元素の酸化物であって、且つPE=T×log10(ER)の式(但し、Tはグリッドによる透過率、ERはグリッドによる消光比)で得られるPEが真空紫外域で最も高くなる組合せにおいてPEが0.2以上となる材料であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記真空紫外域は、波長172nmを含むという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項1又は2の構成において、前記各線状部を形成する材料は、前記第3族又は第4族の元素の一部が他の元素に置換されており、置換の割合は、前記PEが真空紫外域で最も高くなる組合せにおいて前記PEが0.2となる割合以下であるという構成を有する。
以下に説明する通り、この出願の請求項1記載の発明によれば、各線状部が第3族又は第4族の元素の酸化物で形成されているので、真空紫外線によるオゾンのような高い酸化作用を持つ種が存在する環境下においても偏光特性の変化が小さく抑えられる。また、T×log10(ER)で表されるPEが0.2以上となるようにグリッドの材料が選択され、またグリッドの各部の寸法が選定されるので、真空紫外の当該波長域において好適に使用することができる。
また、請求項2記載の発明によれば、上記効果に加え、波長172nmの真空紫外光を放射する光源を利用することができ、光源との組み合わせにおいて真空紫外光の偏向光を得る構成としてより実用的なものとすることができる。
また、請求項3記載の発明によれば、上記効果に加え、加工性を向上させたり屈折率を調整したりすべく他の元素で置換した際にも、真空紫外域において高い偏光性能を得ることができる。
実施形態に係る真空紫外光偏光素子の斜視概略図である。 第3族及び第4族の主要な元素の酸化物のエリンガム図である。 各社から販売されている近紫外光用のグリッド偏光素子の偏光性能を調べた結果の図である。 各社から販売されている近紫外光用のグリッド偏光素子の偏光性能を調べた結果の図である。 PE≧0.2がどのような屈折率n,吸光係数aにより成立するのかを検討したシミュレーション実験の結果を示す図である。 第3族及び第4族の元素の酸化物について、真空紫外域におけるn及びaの値をグラフ化したものである。 酸化ハフニウムにおいてハフニウムを一部シリコンで置換した場合のnとkの変化が示されており、(1)は波長対nのグラフ、(2)は波長対kのグラフである。 酸化ハフニウムにおいてハフニウムの一部をアルミニウムで置換した場合のnとkの変化が示されており、同様に(1)は波長対nのグラフ、(2)は波長対kのグラフである。 実施形態の真空紫外光偏光素子の製造方法について示した概略図である。 実施形態の真空紫外光偏光素子を搭載した光配向装置の正面概略図である。
次に、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、実施形態に係る真空紫外光偏光素子の斜視概略図である。図1に示す真空紫外光偏光素子は、透明基板1と、透明基板1上に設けられたグリッド2とを備えている。
透明基板1は、対象波長(偏光素子を使用して偏光させる光の波長)に対して十分な透過性を有するという意味で「透明」ということである。この実施形態では、200nm以下の真空紫外域の波長を対象波長として想定しているので、透明基板1の材質としては石英ガラス(例えば合成石英)が採用されている。透明基板1は、グリッド2を安定して保持する機械的強度や、光学素子としての取り扱いの容易性等を考慮し、適宜の厚さとされる。厚さは、例えば0.5〜10mm程度である。
グリッド2は、図1に示すように、平行に延びる多数の線状部3より成る縞状のものである。グリッド偏光素子は、光学定数が異なる領域が交互に且つ平行に配置されることで偏光作用を為すものである。各線状部3の間の空間4はギャップと呼ばれ、各線状部3と各ギャップ4とで偏光作用が得られる。各線状部3の幅wとギャップ4の幅とは、対象波長の光について偏光作用が得られるよう適宜定められる。具体的には、ギャップ4の幅は、概ね、対象波長以下とされる。尚、この実施形態では、ギャップ4には特に充填物は設けられない。従って、ギャップ4の屈折率は、偏光素子が置かれた雰囲気の屈折率となる。通常は、空気(屈折率1)である。
実施形態の真空紫外光偏光素子は、吸収型のモデルで動作するものとなっている。即ち、s偏光光についてはグリッド2を形成する各線状部3の誘電率により電界が分断されて各線状部3内に局在して吸収により減衰しながら伝搬する一方、p偏光光については電界の分断、局在化は実質的に生じないので、大きく減衰することなく伝搬する。このため、透明基板1からは専らp偏光光が出射し、偏光作用が得られる。吸収型のグリッド偏光素子の動作モデルについては、特許文献1に詳説されているので、省略する。
このような実施形態の真空紫外光偏光素子において、各線状部3の材料には、真空紫外光の偏光のために特に最適化された材料が選定されている。以下、この点について説明する。
真空紫外光偏光素子の各線状部3の材料についてまず検討を要するのは、耐酸化性である。周知のように、真空紫外光は、空気中の酸素分子に多く吸収され、酸素ラジカル、オゾン、ヒドロキシラジカルといった高い酸化作用を持つ種を豊富に作り出す。このため、各線状部3の材料の耐酸化性が低いと、真空紫外光の偏光用に用いた場合、短期間のうちに各線状部3が酸化し、特性が変化してしまう。特性の変化は、透過率や消光比といった偏光特性が期待されたように得られなくなる、即ち劣化として現れる。
実施形態の真空紫外光偏光素子は、この点を考慮し、まず耐酸化性の高い材料をグリッド材料(各線状部3の材料)として選定する。この際、この実施形態では、吸収型のグリッド偏光素子であることを考慮して耐酸化性を捉え直している。即ち、吸収型のグリッド偏光素子では、対象波長の光を適度に吸収する材料がグリッド材料として使用され、紫外域では、酸化チタンのような金属酸化物がしばしば使用される。この点を考慮し、耐酸化性を、“酸化されにくい”という性質ではなく、“それ以上は酸化されない”という性質と捉え直している。つまり、酸化状態の安定性(酸化安定性)を耐酸化性として捉えている。
発明者の研究によると、一般的には、+2価〜+4価となり易い第3族、第4族の遷移金族が安定な酸化物を形成し易く、グリッド材料用の酸化物を形成する元素として適している。ただ、実際には、透明基板との関係も考慮する必要がある。石英、ジルコニア結晶、酸化マグネシウム結晶のような酸化物結晶も光透過性を有するので、グリッド偏光素子の透明基板の材料として使用され得る。この場合、透明基板を形成する酸化物に比べて酸化安定性が低いと、透明基板の側に酸素が取られて還元され易く、その後に雰囲気中の酸化種(酸素、酸素ラジカル、オゾン等)によって再酸化されることになり易い。このような透明基板の材料による還元と、空気中の酸化種による酸化が不安定に生じる結果、光学特性も変化し易くなる。このため、このような材料をグリッド材料とすることは好ましくない。
金属酸化物の酸化安定性は、いわゆるエリンガム図として知られている。図2は、第3族及び第4族の主要な元素の酸化物のエリンガム図である。この実施形態では、透明基板1は石英製であるので、比較のため、酸化シリコンの標準化学ポテンシャルも書き加えられている。図2の横軸は絶対温度、縦軸は、標準ギプスエネルギーである。
図2に示すように、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウムは、酸化シリコンに比べて標準ギブスエネルギーが低くなっており、酸化安定度が高いことがわかる。したがって、これらの材料が、真空紫外光偏光素子のグリッド材料の候補となり得る。
一方、真空紫外光偏光素子のグリッド材料としては、単に酸化安定度が高いだけではだめで、偏光素子としての基本性能(透過率及び消光比)が十分に発揮される必要がある。この点を検討する指標として、発明者は、PE=T×log10(ER)なる式で合わされる量PEを想到するに至った。以下、この点について詳説する。
グリッド偏光素子では、一般的に、透過率と消光比とはトレードオフの関係にある。透過率を高くしようとすると消光比は低くなり、逆に消光比を高くしようとすると透過率は低下する。この点は、実施形態のような吸収型のグリッド偏光素子でも同様である。対象波長の光に対して吸収の大きい材料を使用すると消光比は高くなるが、全体としての透過率は低下してしまう。吸収の小さい材料を使用すると透過率は高くなるが、消光比は低下する。
したがって、グリッド偏光素子の全体としての性能(以下、PEで表す。)は、透過率Tと消光比ERの積で表されるべきである。この場合、消光比ERは、線幅やギャップ幅、アスペクト比といったパラメータ(以下、グリッド寸法)による変化が大きいので常用対数を取るべきで、PEは、透過率をT、消光比をERとして、T×log10(ER)で表されるべきである。
紫外光用の偏光素子としては、200nm〜400nmの近紫外光用のグリッド偏光素子が幾つかの会社から販売されている。発明者は、近紫外光用のグリッド偏光素子としてほぼ同等の性能として評価されている幾つかの会社の製品を入手し、透過率と消光比とを測定した。この結果が、図3及び図4に示されている。図3及び図4は、各社から販売されている近紫外光用のグリッド偏光素子の偏光性能を調べた結果の図である。
図3及び図4において、横軸は常用対数で示した消光比、縦軸は透過率である。図3及び図4に示すように、各社のグリッド偏光素子の性能は、消光比と透過率の組み合わせにおいて若干のバラツキがあるが、似通った性能となっている。ここで興味深いのは、消光比と透過率とがトレードオフの関係にあるとはいっても、各社のグリッド偏光素子の性能をプロットとした点は、図3に示すようにT×log10(ER)のラインにはなぜか乗らない。発明者は、それではと、T×log10(ER)のラインを書き入れてみたところ、図4に示すようにそのラインにはほぼ乗ることが判明した。
この結果が意味するところは、グリッド偏光素子の偏光性能を全体として評価する際には、T×log10(ER)の値で評価するのではなくて、T×log10(ER)の値で評価することが望ましいということである。発明者は、この知見を踏まえ、さらに鋭意研究を続けたところ、T×log10(ER)の値(以下、全体の偏光性能としてPEで表す)は、実用的には0.2以上であることが好ましいことが判ってきた。
PE≧0.2とは、例えば透過率が0.2(20%)であれば、消光比は10以上必要ということであり、逆に例えば消光比が10であれば、透過率は、√(0.2)≒0.45(45%)程度以上の透過率が必要ということになる。
発明者は、このような偏光素子としての基本性能を前提として、真空紫外光偏光素子のグリッド材料の候補として選定した酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウムの各材料についてさらに研究を進めた。以下、この点について説明する。
消光比や透過率は、対象波長、材料の光学定数(n,k)及びグリッド寸法がわかればシミュレーションにより求められる。逆に言えば、光学定数及びグリッド寸法を仮想的に定めることで、各波長における消光比や透過率が求められ、PE≧0.2がどのような光学定数により成立するのかも、求められる。この検討をシミュレーション実験として行った結果を示すのが、図5である。
この検討では、真空紫外光偏光素子として典型的と思われるグリッド寸法を前提とした。具体的には、線幅w=20nm、グリッド高さh=100nm、ピッチp=100nmとした。したがって、アスペクト比(h/w)は5、ギャップ幅は80nmである。
図5に結果を示すシミュレーション実験では、上記寸法のグリッドを前提とし、n,kを次々に変更して色々な組み合わせを採用した上で透過率T及び消光比ERを計算した。計算はFDTD(Finite-Difference Time-Domain)法に基づいており、使用したソフトウェアは、Mathworks社(米国マサチューセッツ州)のMATLAB(同社の登録商標)である。
種々のn及びk組み合わせにおいて、PE=T×log10(ER)が0.2以上となるn及びkを調べた。この結果が、図5に示されている。図5(1)の縦軸は屈折率(の実部)n、横軸は波長である。また、図5(2)の縦軸は消衰係数kから求めた吸光係数a、横軸は波長である。吸光係数aは、a=4πk/λ(λは波長)で求められる。図5(1)において、PE=0.2となるラインを破線で示し、PEが最大値となるラインを実線で示す。また、図5(2)においても、PE=0.2となるラインを破線で示し、PEが最大値となるラインを実線で示す。
図5(1)(2)に示す結果は、波長200nm以下においてnがある程度以上高く、aがある範囲内に入っていれば、真空紫外光偏光素子のグリッド材料として採用可能なことを示している。尚、aの値に上限及び下限があるのは、ある程度の吸収がないと偏光性能が発揮されない反面、あまりkが大きすぎると、吸収が多くなって透過率があまりにも小さくなるからであると推測される。
発明者らは、図5に示す結果を基にさらに研究を進め、PE≧0.2を満足する材料を調べた。この結果を示したのが、図6である。図6は、前述した第3族及び第4族の元素の酸化物について、真空紫外域におけるn及びaの値をグラフ化したものである。同様に、図6(1)は波長対n(屈折率実部)、図6(2)は波長対a(吸光係数)を示す。
図6に示すように、真空紫外域において、酸化ハフニウム、酸化イットリウムがPE≧0.2を満足するn及びaを有していることがわかる。酸化ハフニウムの場合、180nm程度以上ではaについてPE=0.2を下回っている。しかし、後述するように真空紫外光のスペクトルとして重要な172nmでは、PE=0.2を上回っているので、有力なグリッド材料であるとすることができる。酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ランタンについては、n又はaのいずれかがPE=0.2のラインを下回っており、真空紫外域のグリッド材料としては不適であることがわかる。
したがって、以上の実験、調査の結果から、酸化ハフニウム及び酸化イットリウムが真空紫外域のグリッド材料として有力であると結論づけられる。
このようなグリッド材料は、加工性の向上や屈折率の調整等の目的から、他の元素で一部置換されることがあり得る。この場合も、PE=0.2を下回らないようにすることが望ましい。以下、この点について、酸化ハフニウムを例にして説明する。
図7は、酸化ハフニウムにおいてハフニウムの一部をシリコンで置換した場合のnとkの変化が示されており、(1)は光子エネルギー対nのグラフ、(2)は光子エネルギー対kのグラフである。また、図8には、酸化ハフニウムにおいてハフニウムの一部をアルミニウムで置換した場合のnとkの変化が示されており、同様に(1)は光子エネルギー対nのグラフ、(2)は光子エネルギー対kのグラフである。
図7に示すように、シリコンの置換量を多くしていくと、真空紫外域においてn、kとも低下していく。この場合の置換量とは、組成比のことであり、Hf1−xSiにおけるxの値である。
図7には、評価のため、PE=0.2のラインが書き加えられている。図7(1)において、x=0.6の場合に、屈折率nがPE=0.2のラインを下回るのは光子エネルギーが7eV程度の場合である。光子エネルギーEと波長λとの間は、λ=1240/Eの関係があるから、これは波長180nm程度の場合である。また、消光比kについては、x=0.6の場合、7.8eV程度でPEが0.2を下回る。これは、160nm程度に相当する。したがって、xが0.6以上の場合、160〜180nm程度より短波長側でPEが0.2以上となるから、酸化ハフニウムにおいてハフニウムが置換される場合、シリコンの組成比は0.6以下とすることが好ましいということになる。また、x=0.4の場合、PEが0.2以上となる波長域はより長波長側まで広がるから、より好ましい。尚、珪酸化ハフニウムについては、酸化数が4の場合(HfSiO)や1の場合(HfSiO)もあるが、いずれについて同様の結果であった。
また、アルミニウムで置換した場合(ハフニウム・アルミネートの場合)について示した図8においても、PE=0.2のラインが評価のため書き加えられている。図8(1)に示すように、アルミニウムの組成比xが1/3の場合、光子エネルギーが6.8eV(≒182nm)〜7.4eV(≒168nm)程度の範囲でPEが0.2を上回る。消衰係数kについては、xが1/3の場合、光子エネルギーが7.2eV程度より大きい場合(≒波長が172nm程度より短い場合)、PEが0.2を上回る。したがって、xを0.3以下としておくと、n、k双方について180〜150nm程度の範囲でPEが0.2以上となると推測される。即ち、アルミニウムで置換する場合、その組成は0.3以下とすることが好ましい(Hf1−xAl、0≦x≦0.3)。
尚、イットリウムについても、シリケート化したりアルミネート化したりして他の元素で置換されることがあり得るが、真空紫外域においてPE≧0.2を達成する添加比にすることが良好な偏光性能を得る観点から好ましい。
また、酸化ハフニウムと酸化イットリウムとの比較では、酸化ハフニウムの方が加工性が良いとの優位性を有している。酸化ハフニウムや酸化イットリウムのような遷移金属酸化物は、金属・ハロゲン化合物となった際の揮発性が低く、また金属・酸素間結合が強いため、一般に難加工材として知られている。それでも、酸化ハフニウムは、半導体デバイスにおけるゲート絶縁膜の材料としても検討がされており、BCl系プラズマによりエッチングが可能である。今後、半導体デバイス製造用の装置として酸化ハフニウムエッチング装置が開発されれば、それを転用することも可能になると考えられる。一方、酸化イットリウムは、フルオロカーボンプラズマに対して高い耐性を示すとの報告もあり、プラズマエッチング装置内でプラズマに晒される部位の保護膜としての利用も検討されている。このため、加工性の点で酸化ハフニウムに比べて劣る状況は今後も続くと推測される。
次に、このような真空紫外光偏光素子の製造方法について説明する。
図9は、実施形態の真空紫外光偏光素子の製造方法について示した概略図である。実施形態の真空紫外光偏光素子を製造する場合、中間的な構造として犠牲層を形成するプロセスが好適に採用される。図9は、このプロセスの一例となっている。
実施形態の真空紫外光偏光素子を製造する場合、透明基板1上にまず犠牲層用の膜51を作成する(図9(1))。犠牲層の材料としては、グリッド材料に対するエッチング選択比が高い材料が好適に採用され、例えばシリコンが犠牲層の材料として採用される。犠牲層用の膜51の作成方法としては種々のものを採用し得るが、例えばプラズマCVDが採用される。
次に、犠牲層用の膜51の上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによりパターン化してレジストパターン52を形成する。レジストパターン52は、グリッド偏光素子の製造であるので、縞状(ラインアンドスペース状)である。但し、レジストパターン52のピッチ(図9(1)にp’で示す)は、最終的なグリッドのピッチの倍である。
次に、レジストパターン52をマスクにして膜51をエッチングし、その後レジストパターン52をアッシングして除去する。これにより、図9(2)に示すように、犠牲層53が形成される。エッチングは、透明基板1に対して垂直な方向の異方性エッチングである。犠牲層53も縞状であり、平行に延びる多数の線状部で形成されている。
次に、グリッド用の膜54の作成工程を行う。グリッド用の膜54は、犠牲層53の各線状部の各側面及び各上面に形成される。膜54の作成は、ALD(Atomic Layer Deposition)によることが好ましい。例えば、酸化ハフニウム膜を膜54として作成する場合、プリカーサガスとしてTEMAH(テトラキスエチルメチルアミノハフニウム)が使用され、酸化剤として水(水蒸気)が使用される。透明基板1が載置されたサセプタの温度を200〜400℃(例えば250℃)程度とし、水蒸気と予め75〜95℃程度に加熱されたプリカーサとを200〜500ミリ秒のパルス間隔でチャンバー内に導入して酸化ハフニウム膜を作成する。チャンバー内の圧力は100mTorr〜500mTorr程度である。酸化剤としてオゾンが導入される場合もある。キャリアガスやパージガスとしては、窒素又はアルゴン等が使用される。図9(3)に示すように、グリッド用の膜54は、犠牲層53の各線状部の各側面及び各上面に形成される。
このようにして膜54を作成した後、図9(4)に示すように、膜54を部分的にエッチングする。「部分的」とは、犠牲層53の各上面に載っている部分と透明基板1に直接堆積している部分(ギャップの底部)のみを除去するエッチングである。このエッチングは、前述したように酸化ハフニウムの場合にはBCl系のプラズマエッチングにより行われる。例えばアルゴンをバッファガスとして使用したBClのECRプラズマ又はIC(容量結合)プラズマにより、膜54の部分エッチングが行われる。この際、基板バイアスを印加して透明基板1に垂直な電界を設定し、異方的にエッチングする。これは、犠牲層53の各側面に堆積した部分をエッチングしないようにするためである。尚、BClガスに酸素ガス又は塩素ガスを添加してプラズマエッチングを行う場合もある。これによりグリッド2を構成する各線状部3が形成される。
その後、犠牲層53を除去するエッチングを行う。この際、犠牲層53の材料のみを選択的にエッチングする。例えば、犠牲層53がシリコンである場合、CF等のガスを使用したプラズマエッチングにより選択的に犠牲層53のみをエッチングして除去することができる。犠牲層53の除去により、図9(5)に示すように、実施形態の真空紫外光偏光素子が出来上がる。出来上がった偏光素子における各線状部3のピッチpは、レジストパターンのピッチp’の半分となる。
尚、上記製造方法において、中間において形成される犠牲層53の高さは、最終的なグリッドの高さを決めるものとなるので、特に精度が必要である。また、犠牲層53のアスペクト比がグリッドのアスペクト比を決める要因になり、高アスペクト比化のためには犠牲層53も高アスペクト比とする必要がある。このようなことから、犠牲層用の膜51の上にマスク層としてカーボン等の膜を形成してフォトリソグラフィによりパターン化し、このマスク層をマスクにして犠牲層用の膜51をエッチングする場合もある。マスク自体が高アスペクト比化するため、長時間の異方性エッチングに耐えることができ、均一な高さの犠牲層53を形成することができる。
このような真空紫外光偏光素子は、光配向の用途に好適に使用される。以下、この点について説明する。
図10は、実施形態の真空紫外光偏光素子を搭載した光配向装置の正面概略図である。図10に示す光配向装置は、液晶ディスプレイ用の光配向層を得るための装置であり、対象物(ワーク)10に真空紫外光の偏光光を照射することで、ワーク10の表面に光配向層を形成する装置である。
この装置は、真空紫外光を放射する光源61を含むランプハウス6と、真空紫外光の照射領域Rにワーク10を搬送するワーク搬送系7とを備えている。光源61としては、エキシマランプや低圧水銀ランプ等が使用できる。特に、エキシマランプは、単一波長とみなせる光を放射するランプであり、不必要にワーク10を加熱したり、反応を生じさせたりすることがないので好適である。例えば、キセノンを放電ガスとして封入した波長172nmのエキシマランプが使用される。
尚、光源61の背後にはミラー62が配置されている。光源61は、紙面垂直方向に長い棒状のものであるので、ミラー62は略樋状のものとされる。光源61やミラー62を強制冷却するための機構が設けられる場合もある。
真空紫外光偏光素子8は、ランプハウス6の光出射側に搭載される。例えば、真空紫外光偏光素子8は、フレーム81に保持されてユニット化され、ランプハウス6の光出射口に嵌め込まれることで搭載される。
ワーク10は、この例では透明な板状であり、ステージ71の上に載置されて搬送される。したがって、ワーク搬送系7は、照射領域Rを通してステージ71を搬送する機構を備えたものとされる。ワーク10としては、表面に光配向層となる膜材が被着したものが使用されることもある。ワーク10は、照射領域Rを通過するように搬送され、搬送の際に真空紫外光の偏光光が照射されて光配向処理がされる。ワーク搬送系7は、ステージ71の直線移動をガイドするリニアガイド72や不図示の直線駆動源等を備えている。
尚、ランプハウス6内は、真空紫外光の吸収を抑えるため、窒素ガスパージされる場合がある。窒素ガスは、真空紫外光偏光素子8の冷却や真空紫外光偏光素子8へのシロキサン等の異物付着防止の目的で流されることもある。
また、真空紫外光偏光素子8からワーク10までの照射距離(図10にLで示す)は、1〜40mm程度とすることが好ましい。40mmより長いと、雰囲気(空気)による真空紫外光の吸収のため、照度が限度以上に低下してしまう恐れがある。1mmより短いと、ワーク搬送系7による搬送位置に非常に高い精度が要求されてしまう等の問題が生じる。
尚、ワーク10の幅(図10の紙面垂直方向の長さ)より長い照射領域Rに真空紫外光の偏光光が照射されるが、ワーク10への照射量は、搬送方向の照射領域Rの長さと照射領域Rを通過する際の速度、及び照度によって決まる。この照射量は、40mJ/mm〜4000mJ/mm程度とすることが好ましい。40mJ/mmより少ないと照射量が不足して光配向が不十分となる恐れがある。4000mJ/mmより多いと、真空紫外光の高いエネルギーによってワーク10が劣化してしまう恐れがある。
上記実施形態において、真空紫外光偏光素子の構造としては、グリッド2の入射側に反射防止層や保護層が形成されたものが使用されることもある。例えば、グリッド2を覆うようにして保護層として酸化シリコン層が形成される場合もある。保護層は、シロキサン等の異物の付着を考慮して設けられる場合もあり、異物を拭き取り等の方法で除去できるように保護層が設けられる。
また、光配向装置については、シート状の膜材がワークとなる場合もある。この場合には、ロールツーロールの搬送方式によりワークを搬送する機構がワーク搬送系として採用され得る。
1 透明基板
2 グリッド
3 線状部
4 ギャップ
53 犠牲層
6 ランプハウス
61 光源
7 ワーク搬送系
8 真空紫外光偏光素子

Claims (3)

  1. 波長200nm以下の真空紫外光を偏光させる真空紫外光偏光素子であって、
    真空紫外光に対して透明な基板と、基板上に設けられたグリッドとを備えており、
    グリッドは、平行に延びる多数の線状部より成るものであり、
    各線状部の間には充填物が設けられていない構造であり、
    各線状部の材料は、第3族又は第4族の元素の酸化物であって、且つPE=T×log10(ER)の式(但し、Tはグリッドによる透過率、ERはグリッドによる消光比)で得られるPEが真空紫外域で最も高くなる組合せにおいてPEが0.2以上となる材料であることを特徴とする真空紫外光偏光素子。
  2. 前記真空紫外域は、波長172nmを含むことを特徴とする請求項1記載の真空紫外光偏光素子。
  3. 前記各線状部を形成する材料は、前記第3族又は第4族の元素の一部が他の元素に置換されており、置換の割合は、前記PEが真空紫外域で最も高くなる組合せにおいて前記PEが0.2となる割合以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の真空紫外光偏光素子。
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