JP2012193337A - 難燃性樹脂組成物及び成形体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】熱可塑性樹脂と難燃剤を含む難燃性樹脂組成物であって、前記難燃剤が、少なくとも天然リグニンに所定の処理を施したリグニン誘導体にリン酸を付加してなるリン酸化リグニン誘導体を含むことにより、難燃性能を有した、バイオマス度の高い低環境負荷型の難燃性樹脂材料を得ることができる。また、リグニン誘導体の持つ親水基の作用により、樹脂中へ高い分散性が得られる。更に、リグニン誘導体は高分子物質であるために粘結性を有し、樹脂中の分散状態も安定していることから、使用時のブリードアウトを抑えることができる。
【選択図】なし
Description
特に複写機においては、内部に高温になる定着ユニットがあり、定着ユニット付近にも樹脂材料が使用されている。また、帯電ユニットのような高電圧を発生させるユニットや、電源ユニットは100Vの交流電源ユニットがあり、これらの最大消費電力は数100W〜500Wであり、100V、15A電源系統を利用するユニットで構成されている。
このような複写機、主にマルチファンクションプリンターに代表される複合機は据え置き式の電気電子機器であり、製品機器の安全性規格の一つである樹脂材料の難燃性に関する国際規格(IEC60950)においては、発火源もしくは発火の恐れがある部分をUL94規格(Underwriters Laboratories Inc.,standard)の難燃性「5V」のエンクロージャー部品で覆うことが求められている。UL94規格の「5V」に関する試験方法については、国際規格IEC60695−11−20(ASTM D5048)に「500W試験炎による燃焼試験」として定義されている。
複写機本体に構成させる部品はエンクロージャー部品以外においても、エンクロージャー内の内部部品については、UL94規格の「V−2」以上が求められている。UL94規格の「V−2」以上に関する試験方法については、国際規格IEC60695−11−10 B法(ASTM D3801)に「20mm垂直燃焼試験」として定義されている。
これら難燃剤の難燃機構については、幾つかの文献で既に公知であり、ここでは、特に多用される3種類の難燃機構について説明する。
第1は、臭素系難燃剤に代表されるハロゲン系化合物である。燃焼した炎に対し、ハロゲン系化合物を酸化反応負触媒として働かせることなどにより燃焼速度を低下させる。
第2は、リン系難燃剤、又はシリコーン系難燃剤である。燃焼中に樹脂の表面にシリコーン系難燃剤をブリードさせたり、リン酸系難燃剤を樹脂内で脱水反応を起こさせたりすることにより、表面に炭化物(チャー)を生成させて断熱皮膜の形成などにより燃焼を止める。
第3は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機系難燃剤である。
樹脂の燃焼によってこれらの化合物が分解するときの吸熱反応や、生成した水の持つ蒸発潜熱などにより、樹脂全体を冷却させるなどして燃焼を止める。
なお、生分解性樹脂として、バイオマス由来樹脂ではなく、石油由来樹脂であって生分解する機能を持つ樹脂もある。
現在は石油由来原料が用いられているが、将来はバイオマス由来樹脂へ移行するように研究が進められている。例えばPBS(Poly Butylene Succinate)の主原料の一つであるコハク酸を植物由来で製造することなどが行われている。このようなバイオマス由来樹脂のうち、融点が180℃前後と高く、成形加工性に優れ、かつ市場への供給量も安定しているポリ乳酸を応用した製品が実現し始めている。
その対策として、石油系樹脂であるポリカーボネート樹脂とのポリマーアロイなどによって物性向上を図っている。しかし、石油系樹脂の含有割合が高くなり、バイオマス由来樹脂の含有割合が50%前後になってしまい、その結果、地球温暖化対策などの環境負荷削減のための化石使用量削減や二酸化炭素排出量削減に対する効果は半減してしまうという問題がある。
また、特許文献2では、少なくとも1種の生分解性を示す有機高分子化合物と、リン含有化合物を含有する難燃系添加剤と、少なくとも1種の上記有機高分子化合物の加水分解を抑制する加水分解抑制剤とを含有する樹脂組成物が提案されている。しかし、この提案では、ポリ乳酸等の生分解性を示す有機高分子化合物を難燃化するために、有機高分子化合物140質量部に対して、リン含有化合物を含有する難燃系添加剤30質量部乃至60質量部の添加が必要であり、該リン含有化合物を含有する難燃系添加剤が化石資源を原料としているため、バイオマス度の低下を招いてしまう。
しかし、この提案の方法で得られた有機無機ハイブリッド難燃性セルロース材料は、アセチルセルロースとアルコキシシラン化合物を単に混練させた態様であり、UL94燃焼試験に準ずる方法による試験結果において、試験片の燃焼時間は長くなるものの、試験片は完全に燃え尽きており、難燃性能は不十分なものであった。また、成形性に関しても成形加工が可能になるとの記載はあるが、具体的な実施例については開示されていない。
しかし、この提案の難燃剤は、高分子材料に難燃可能なヘテロ原子とする複素環状化合物を側鎖に有する態様であるが、元となる高分子材料がバイオマス材料ではなく、かつ添加量も多く環境負荷が小さいものではない。このような従来技術は、熱可塑性樹脂に難燃剤を混練している技術である。この方法では、難燃性は発現するものの成形加工して成形品として使用することを考慮した場合、熱可塑性樹脂と難燃剤との親和性の低下により、樹脂の流動性が低下し成形性が悪くなるという問題があり、また物性も低下してしまうことがある。
しかし、この提案のポリエチレンテレフタレートは石油由来の原料からなり、ポリブチレンサクシネートの原料であるコハク酸、ブタンジオールも現在は石油由来の原料からなるため、バイオマス度の点では、従来の難燃剤と大差ないものになってしまう。この従来技術は、熱可塑性ポリエステル樹脂の構造に有機リン化合物が共重合された態様であり、熱可塑性ポリエステル樹脂の主鎖に有機リン化合物が導入されることになる。そして、有機リン化合物による難燃性発現の特長上、リンが脱離することにより難燃性を発現するが、主鎖に導入されていることにより脱離しづらくなる。仮に脱離したとしても、主鎖が切れることになるため、分子量の低下が起こりドリップし易くなってしまい難燃性の確保が困難になる。その結果、低い石油依存へ移行するために、有機リン化合物が共重合されたバイオマス由来の熱可塑性ポリエステル樹脂を用いたとしても、物性と難燃性の全てを満たすという課題は解決できていない。
したがって、石油依存度が低く、バイオマス度が高く、環境負荷も低いと共に、難燃性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物としては、未だ十分満足できる性能を有するものは得られておらず、更なる改良、開発が求められているのが現状である。
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、石油依存度が低く、バイオマス度が高いことで、環境負荷が低く、難燃性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
請求項1に係る難燃性樹脂組成物によれば、難燃性能を有した、バイオマス度の高い低環境負荷型の難燃性樹脂材料を得ることができる。また、リグニン誘導体の持つ親水基の作用により、樹脂中へ高い分散性が得られる。更に、リグニン誘導体は高分子物質であるために粘結性を有し、樹脂中の分散状態も安定していることから、使用時のブリードアウトを抑えることができる。
請求項2に係る難燃性樹脂組成物によれば、難燃性能を有した、バイオマス度の高い低環境負荷型の難燃性樹脂材料を得ることができる。また、リグニン誘導体の持つ親水基の作用により、樹脂中へ高い分散性が得られる。更に、リグニン誘導体は高分子物質であるために粘結性を有し、樹脂中の分散状態も安定していることから、使用時のブリードアウトを抑えることができる。
請求項3に係る難燃性樹脂組成物によれば、安価な原料を使用して、難燃性能を得ることができる。また、燃料としてカスケード利用されているクラフトリグニン(黒液)を高機能材料として使用することができ、環境負荷削減に寄与することができる。
請求項4に係る発明は、前記リグニン誘導体が、フェノール化硫酸リグニンであることを特徴とする。
請求項4に係る難燃性樹脂組成物によれば、今まで、未利用資源であった糖化残渣リグニンを利用することが可能となり、安価な原料を使用して、難燃性能を得ることができる。
請求項5に係る発明は、前記リグニン誘導体が、水熱処理した硫酸リグニンであることを特徴とする。
請求項5に係る難燃性樹脂組成物によれば、今まで、未利用資源であった糖化残渣リグニンを利用することが可能となり、安価な原料を使用して、難燃性能を得ることができる。
請求項6に係る発明は、前記リグニン誘導体が、アルカリリグニンであることを特徴とする。
請求項6に係る難燃性樹脂組成物によれば、今まで、未利用資源であった糖化残渣リグニンを利用することが可能となり、安価な原料を使用して、難燃性能を得ることができる。
請求項7に係る難燃性樹脂組成物によれば、更に難燃性能を高めることができる。
請求項8に係る発明は、前記熱可塑性樹脂が、原料の少なくとも一部にバイオマスを使用している熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
請求項8に係る難燃性樹脂組成物によれば、更に難燃性能を有した、バイオマス度の高い低環境負荷型の難燃性樹脂材料を得ることができる。
請求項9に係る発明は、難燃助剤が、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤、ポリフルオロオレフィンから選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする。
請求項9に係る難燃性樹脂組成物によれば、更に難燃性能を高めることができる。
請求項10に係る発明は、請求項1乃至9のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形してなる成形体であることを特徴とする。
請求項10に係る成形体によれば、難燃性能の高い成形体を得ることができ、電気・電子機器の成形体として使用することができる。
本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と難燃剤を含む難燃性樹脂組成物であって、前記難燃剤が、少なくとも天然リグニンに所定の処理を施したリグニン誘導体にリン酸を付加してなるリン酸化リグニン誘導体を含み、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、難燃性能を有した、バイオマス度の高い低環境負荷型の難燃性樹脂材料を得ることができる。また、リグニン誘導体の持つ親水基の作用により、樹脂中へ高い分散性が得られる。更に、リグニン誘導体は高分子物質であるために粘結性を有し、樹脂中の分散状態も安定していることから、使用時のブリードアウトを抑えることができる。
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、難燃性能を有した、バイオマス度の高い低環境負荷型の難燃性樹脂材料を得ることができる。また、リグニン誘導体の持つ親水基の作用により、樹脂中へ高い分散性が得られる。更に、リグニン誘導体は高分子物質であるために粘結性を有し、樹脂中の分散状態も安定していることから、使用時のブリードアウトを抑えることができる。
前記難燃剤が、少なくとも天然リグニンに所定の処理を施したリグニン誘導体にリン酸を付加してなるリン酸化リグニン誘導体を含んでいる。
前記難燃剤が、少なくとも天然リグニンに所定の処理を施したリグニン誘導体にヒドロキシメチル化処理を施し、次いで、リン酸を付加してなるリン酸化リグニン誘導体を含んでいる。
前記リグニン誘導体が、クラフトリグニンであることにより、安価な原料を使用して、難燃性能を得ることができる。また、燃料としてカスケード利用されているクラフトリグニン(黒液)を高機能材料として使用することができ、環境負荷削減に寄与することができる。
前記リグニン誘導体が、フェノール化硫酸リグニンであることにより、今まで、未利用資源であった糖化残渣リグニンを利用することが可能となり、安価な原料を使用して、難燃性能を得ることができる。
前記リグニン誘導体が、水熱処理した硫酸リグニンであることにより、今まで、未利用資源であった糖化残渣リグニンを利用することが可能となり、安価な原料を使用して、難燃性能を得ることができる。
前記リグニン誘導体が、アルカリリグニンであることにより、今まで、未利用資源であった糖化残渣リグニンを利用することが可能となり、安価な原料を使用して、難燃性能を得ることができる。
前記熱可塑性樹脂は、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、またはカーボネート結合を有するポリマーから選択される少なくとも1種以上を含む。
また熱可塑性樹脂は、原料の少なくとも一部にバイオマスを使用している。
前記芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、芳香族ポリカーボネート樹脂、液晶ポリマー(LCP)、非晶ポリアリレートを使用することができる。
前記芳香族ポリカーボネート樹脂としては、適宜合成されたものでもよいし、市販品を用いることもできる。該市販品としては、例えば帝人化成株式会社のパンライト(商品名)、三菱化学エンジニアプラスチックス株式会社のユーピロン(商品名)などが挙げられる。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸(PLA)、微生物産生ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、脂肪族ポリカーボネート樹脂等を使用することができる。
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂としては、ポリプロピレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート等や、環状構造を持つ脂環式ポリカーボネート等を使用することができる。
前記脂肪族ポリエステルとしては、適宜合成されたものでもよいし、市販品を用いることもできる。
また、上記の樹脂材料には、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて他の樹脂を配合することができる。
本発明の難燃性樹脂組成物は、更に必要に応じて難燃助剤を含有してもよい。
前記難燃助剤としては、特に制限はなく、例えばリン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤、ポリフルオロオレフィンから選択される少なくとも1種以上を含有すればよい。
前記リン系難燃剤としては、特に制限はなく、例えば市販のリン系難燃剤を使用することができる。例えば、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(i−プロピル化フェニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート、ビスフェノールA(ジフェニルホスフェート)、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(βークロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、2,2−ビス(クロロメチル)トリメチレンビス(ビス(2−クロロエチル)ホスフェート)、ポリオキシアルキレンビスジクロロアルキルホスフェート、赤リン等が使用できる。
−窒素化合物系難燃剤−
前記窒素化合物系難燃剤としては、特に制限はなく、例えばリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、等を使用することができる。
前記シリコーン系難燃剤としては、特に制限はなく、例えばシリコーン樹脂、シリコーンゴム、シリコーンオイル、等を使用することができる。
前記シリコーン樹脂としては、SiO2、RSiO3/2、R2SiO、R3SiO1/2の構造単位を組み合わせてできる三次元網状構造を有する樹脂などが挙げられる。ここで、Rはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;フェニル基、ベンジル基等の芳香族基;前記置換基にビニル基を含有した置換基を示す。
前記シリコーンオイルとしては、例えばポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンの側鎖あるいは末端の少なくとも1つのメチル基が、水素原子、アルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、及びトリフロロメチル基から選ばれる少なくとも1つの基により変性された変性ポリシロキサン、又はこれらの混合物などが挙げられる。
前記臭素系難燃剤としては、特に制限はなく、市販の臭素系難燃剤を使用することができる。例えば、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、1,2−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、2,6−or(2,4−)ジブロモフェノール、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモベンジルアクリレート、ペンタブロモベンジルアクリレート、等を使用することができる。
−無機系難燃剤−
前記無機系難燃剤としては、特に制限はなく、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、等を使用することができる。
前記ポリフルオロオレフィンとしては、特に制限はなく、例えば市販のポリフルオロオレフィンを使用することができる。また、ポリフルオロオレフィンがメチルメタアクリレート樹脂で被覆されたものとしては、商品名メタブレンAタイプ(三菱レイヨン)等が使用できる。
前記難燃助剤の含有量は、難燃剤の種類に応じて、最適な添加割合が異なり特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、難燃性樹脂組成物に使用される公知の添加剤の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば相溶化剤、可塑化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、加水分解抑制剤、結晶化核剤などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択した量を使用することができ、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記加水分解抑制剤としては、例えばカルボジイミド変性イソシアネート、有機ホスファイト金属塩化合物、テトライソシアネートシラン、モノメチルイソシアネートシラン、アルコキシシラン、スチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体、2,2−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、などが挙げられる。
前記結晶化核剤としては、例えばタルク系核剤、フェニル基を持つ金属塩系材料からなる核剤、ベンゾイル化合物系からなる核剤などが好適に挙げられる。その他公知の結晶化核剤、例えば乳酸塩、安息香酸塩、シリカ、リン酸エステル塩系などを用いても問題は無い。
(成形体)
本発明の成形体は、本発明の前記難燃性樹脂組成物を成形してなること以外には、特に制限はなく、その形状、構造、大きさ等については目的に応じて適宜選択することができる。
前記成形の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、フィルム成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファ成形、カレンダー成形、熱成形、流動成形、積層成形、などが挙げられる。これらの中でも、成形体を複写機、プリンター等の画像出力機器、家電製品等の電気・電子機器などとして使用する場合には、フィルム成形、押出成形、及び射出成形から選択されるいずれかが好ましく、射出成形が特に好ましい。
例えば複写機の外装カバー等の筐体部品の成形には、350トンの電動射出成形機を用いて水温度調節器で温度設定が可能な金型を用いて、金型温度40℃、射出圧力90MPa、射出速度10mm/sec、の成形条件で成形することにより、外観、寸法を満足する成形品を得ることが可能になる。
−用途−
本発明の成形体は、難燃性を兼ね備えており、例えば複写機、レーザープリンター等の電子写真技術、印刷技術又はインクジェット技術を用いた画像出力機器に使用される部品、家電製品等の電気電子機器、自動車の内装部品などとして好適に使用することができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
本発明の難燃性樹脂組成物については、実施例1〜8及び比較例1〜8に示す。
先ず、実施例1〜4及び比較例1〜4を示す。
(実施例1、2)
<リグニン誘導体の作製>
リグニン誘導体には、クラフトリグニン、フェノール化硫酸リグニンの2種類を使用した。
実施例1のクラフトリグニンは、クラフト法(水酸化ナトリウム水溶液と硫化ナトリウム水溶液を蒸解液とするもの)によってパルプを製造する際に排出される蒸解液(黒液)中に含まれる。実施例1では、Aldrich社製の試薬、Lignin,alkali(370959)を使用した。
実施例2のフェノール化硫酸リグニンは、木材を原料として硫酸を用いて糖化した残渣リグニン(硫酸リグニン)を、フェノールと反応させて反応活性を高めたものを使用した。
前記以外のリグニン誘導体として、水熱処理した硫酸リグニン(木材等の原料から硫酸を用いて糖化した残渣リグニン(硫酸リグニン)を、アルカリ水溶液中で水熱処理し、水溶化させたもの)、アルカリリグニン(稲わら、麦わら等の原料をアルカリ水溶液中で処理し、水溶化させたもの)、酵素糖化残渣リグニンも使用することができる。
前記で用意したリグニン誘導体、クラフトリグニン、フェノール化硫酸リグニンの2種類について、各リグニン誘導体をピリジンに溶解し、塩化ホスホリルを加え、室温で1時間攪拌した。この反応においてピリジンはリグニン誘導体が全て溶解する量を用いた。合成条件の詳細を表1に示す。反応後、生じた沈殿を濾過により回収した。反応生成物のリン含有率をフラスコ燃焼法(滴定法)により測定した結果を表1に付記する。リン含有率が7〜8%台のリン酸化リグニン誘導体が得られていることを確認した。
<分解開始温度測定>
リン酸化リグニン誘導体の分解開始温度の測定方法は、マックサイエンス製 DSC2000Aにて、空気雰囲気下で室温から10℃/minの昇温速度で300℃まで昇温したとき、分解反応である発熱反応の開始温度を分解開始温度と定義し、DSCチャートから分解開始温度を測定し、結果を表1に付記する。
ポリ乳酸80質量部に対して、前記作製した各種リン酸化リグニン誘導体20質量部、ポリフルオロオレフィン0.5質量部を添加した。これらをドライブレンドした後に、2軸混練押出機で170℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
ポリ乳酸には、三井化学株式会社製のレイシアH100Jを使用した。また、ポリフルオロオレフィンには、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンA−3800を使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製したペレットを、棚式の熱風乾燥機を用いて60℃で5時間乾燥処理を施し、その後、型締力100トンの電動式射出成形機を使用して金型温度40℃、シリンダー温度190℃、射出速度20mm/sec、射出圧力100MPa、冷却時間30secの設定で、UL94垂直燃焼試験用の短冊試験片を作製した。作製した短冊試験片は、幅13mm、長さ125mm、厚さ1.6mmである。
<難燃性樹脂組成物の作製>
ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂をポリマーアロイしたPC/ABS樹脂80質量部に対して、実施例2で作製したフェノール化硫酸リグニンをリン酸化した、リン酸化リグニン誘導体15質量部、難燃助剤5質量部、ポリフルオロオレフィン0.5質量部を添加した。これらをドライブレンドした後に、2軸混練押出機で170℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
PC/ABS樹脂には、帝人化成株式会社製のマルチロンT−3714を使用した。また、ポリフルオロオレフィンには、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンで、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンA−3800を使用した。また、難燃助剤には、株式会社ADEKA製のアデカスタブFP−800を使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製したペレットを、棚式の熱風乾燥機を用いて80℃で5時間乾燥処理を施し、その後、型締力100トンの電動式射出成形機を使用して金型温度60℃、シリンダー温度2400℃、射出速度20mm/sec、射出圧力100MPa、冷却時間30secの設定で、UL94垂直燃焼試験用の短冊試験片を作製した。作製した短冊試験片は、幅13mm、長さ125mm、厚さ1.6mmである。
<難燃性樹脂組成物の作製>
3HB−3HV共重合ポリエステルは、3ヒドロキシ酪酸(略称3HB)、3ヒドロキシ吉草酸(略称3HV)の共重合体である。この3HB−3HV共重合ポリエステル80質量部に対して、実施例2で作製したフェノール化硫酸リグニンをリン酸化した、リン酸化リグニン誘導体15質量部、ポリフルオロオレフィン0.5質量部を添加した。これらをドライブレンドした後に、2軸混練押出機で180℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
3HB−3HV共重合ポリエステルは、次の方法により作製されたものを使用した。
バチルス属菌を用いて、ペプトン5.0g/l、イーストエキス5.0g/l、肉エキス5.0g/lを含む培地で16時間培養した培養液を、窒素源を制限した最少培地(グルコースを含む)にプロピオン酸を添加し、45℃で48時間培養することでポリエステルを含む培養菌体を得た。得られた培養菌体を凍結乾燥し、クロロホルムを添加して菌体内物質を抽出した。不溶分を濾別し、濾液にメタノールを加え、菌体抽出物を再析出させ、再び濾過し精製した菌体産生物を得た。菌体産生物をNMR解析することによって、3ヒドロキシ酪酸モノマーユニット(3HB)と3ヒドロキシ吉草酸モノマーユニット(3HV)の含有比(モル比)が約92.3:7.7であった。また、GPC法による重量平均分子量(Mw)は、標準ポリスチレン換算値で1,220,000であった。
また、ポリフルオロオレフィンには、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンで、また、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンA−3800を使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製したペレットを用いて、UL94垂直燃焼試験片を実施例1と同様の条件で作製した。
<難燃性樹脂組成物の作製>
ポリ乳酸80質量部に対して、実施例1、2で使用した原料のクラフトリグニン、フェノール化硫酸リグニンをそれぞれ20質量部、ポリフルオロオレフィン0.5質量部を添加した。これらをドライブレンドした後に、2軸混練押出機で170℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
ポリ乳酸には、三井化学株式会社製のレイシアH100Jを使用した。また、ポリフルオロオレフィンには、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンA−3800を使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製したペレットを用いて、UL94垂直燃焼試験片を実施例1と同様の条件で作製した。
(比較例3)
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
実施例3で使用したPC/ABS樹脂、帝人化成株式会社製のマルチロンT−3714を用いて、UL94垂直燃焼試験片を実施例1と同様の条件で作製した。
(比較例4)
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
実施例4で使用した3HB−3HV共重合ポリエステルを用いて、UL94垂直燃焼試験片を実施例1と同様の条件で作製した。
<UL94垂直燃焼試験>
上述のようにして作製した試験片を、50℃で72時間のエージングした後、湿度20%のデシケータ内で3時間冷却した。次いで、試験片を5本で1セットとし、UL94規格に準拠した垂直燃焼試験を行った。
試験方法について以下に説明する。
各試験片の上端部をクランプし、垂直状態で保持し、各試験片の下端部から300±10mm下方に脱脂綿(0.8g以下、50mm角)を置き、後述する燃焼試験によって溶融物が脱脂綿上に落下することを確認する。各試験片の下端部からバーナーで接炎(1回目)を10±1秒間行い、その後、約300mm/秒の速度でバーナーを試験片から離す。燃焼が消えたら直ちにバーナーをサンプルの下端部に戻し、接炎(2回目)を10±1秒間行った。5本1セットの試験片について、合計10回の接炎を行い、各試験片の燃焼時間を記録した。
ここで、「燃焼時間」とは、離炎後の燃焼継続時間を意味する。1回目の燃焼時間をt1、2回目の燃焼時間をt2、2回目の燃焼後火種継続時間をt3とした。
ここで、「2回目の燃焼後火種継続時間」とは、試験片において炎は消えているが、試験片に赤く火種が残った状態が続く時間を言うものとする。
上述したUL94垂直燃焼試験による判定を下記の方法により行った。
(1)各試験片の、測定された離炎後の燃焼継続がt1、t2であり、これらが10秒以下ならV−0、30秒以下ならV−1もしくはV−2と判定した。V−1、V−2判定上区別する境界については、下記(5)記載の評価による、燃焼時の滴下物でコットン着火するかどうかが基準となる。コットン着火した場合はV−2になり、着火が無い場合には、V−1となる。
(2)5本の試験片全ての燃焼継続時間(t1+t2)が、50秒以下ならばV−0、250秒以下ならばV−1もしくはV−2と判定した。
(3)2回目接炎後の燃焼継続時間と火種継続時間の合計(t2+t3)が、30秒以下ならばV−0、60秒以下ならばV−1もしくはV−2と判定した。
(4)クランプまで燃える燃焼がないことを確認できれば、合格とした。
(5)燃焼物や落下物による脱脂綿の発火について評価した。発火無しならばV−0もしくはV−1と判定し、発火ありならV−2と判定した。
ここで、発火が無い場合のV−0とV−1の境界は、上記(2)、(3)の燃焼継続時間(t1+t2)と(t2+t3)の測定結果が基準となる。t1+t2が50秒以下ならばV−0となり、50秒より大きく250秒以下ならばV−1となる。
また、t2+t3が30秒以下ならばV−0となり、30秒より大きく60秒以下ならばV−1となる。上記(1)〜(5)のそれぞれについて、V−0、V−1、V−2の条件を全て満たすものが実用上合格レベルにあるものと評価した。
熱重量分析の測定方法は、マックサイエンス製TG−DTA2000Aにて、空気雰囲気下で室温から5℃/minの昇温速度で500℃まで昇温したときの、重量残渣を測定した。基準重量は100℃時温度の重量を基準とした割合(%)で評価した。
<結果>
実施例1〜4、及び比較例1〜4に使用した樹脂組成物の配合割合と、UL94垂直燃焼試験、及び熱重量測定の結果を表2、表3に示す。
難燃試験の結果はV−2条件を満たさない場合にはNGと記載した。
ここで、実施例及び比較例に使用した難燃性樹脂組成物の配合割合と試験結果を表2、表3に示す。
A−1:ポリ乳酸 三井化学株式会社 レイシアH−100J
A−2:PC/ABS樹脂 帝人化成株式会社 マルチロンT−3714
A−3:3HB−3HV共重合ポリエステル
B−1:クラフトリグニンのリン酸化物
B−2:フェノール化硫酸リグニンのリン酸化物
B−3:クラフトリグニン
B−4:フェノール化硫酸リグニン
C−1:リン系難燃剤 株式会社ADEKA アデカスタブFP−800
D−1:ポリフルオロオレフィン 三菱レイヨン株式会社 メタブレンA−3800
実施例3は、熱重量分析の500℃残渣重量も10%以上の残渣が見られ、難燃試験の結果もV−1の結果となった。実施例4は、500℃残渣重量が6%以上、難燃試験の結果もV−2を満たした。
特に、実施例3のように混練温度が高い材料にリン酸化リグニン誘導体の分解開始温度が課題となる。実施例1に示すクラフトリグニンのリン酸化物の方が、熱分解温度が230.2℃とやや高く、混練温度が高い材料にも適用可能である。
一方、比較例1〜2のリグニン原料を熱可塑性樹脂に添加した場合は、熱重量分析の500℃残渣も見られず、難燃性試験結果は全焼し、NGとなった。
比較例3は熱可塑性樹脂単体の熱重量分析の500℃残渣は微量の残渣はみられたが、難燃試験結果はNGとなった。
比較例4の熱可塑性樹脂単体は、熱重量分析の500℃残渣もみられず、燃焼試験も全焼し、NGとなり、また、比較例の全てにおいて難燃性がNGとなった。
(実施例5、6)
<リグニン誘導体の作製>
リグニン誘導体には、クラフトリグニン、フェノール化硫酸リグニンの2種類を使用した。
実施例5のクラフトリグニンは、クラフト法(水酸化ナトリウム水溶液と硫化ナトリウム水溶液を蒸解液とするもの)によってパルプを製造する際に排出される蒸解液(黒液)中に含まれる。実施例5では、Aldrich社製の試薬、Lignin,alkali(370959)を使用した。
実施例6のフェノール化硫酸リグニンは、木材を原料として硫酸を用いて糖化した残渣リグニン(硫酸リグニン)を、フェノールと反応させて反応活性を高めたものを使用した。
前記以外のリグニン誘導体として、水熱処理した硫酸リグニン(木材等の原料から硫酸を用いて糖化した残渣リグニン(硫酸リグニン)を、アルカリ水溶液中で水熱処理し、水溶化させたもの)、アルカリリグニン(稲わら、麦わら等の原料をアルカリ水溶液中で処理し、水溶化させたもの)、酵素糖化残渣リグニンも使用することができる。
前記リグニン誘導体について各々8gを1N水酸化ナトリウム水溶液500mlに溶解し、60℃で攪拌した。攪拌開始後、2時間後、4時間後に100mlの37%ホルムアルデヒド水溶液を加え、合計6時間反応させた。反応後、1N塩酸水溶液で酸性化し、生じた沈殿をろ過により回収し、ヒドロキシメチル化したリグニン誘導体を得た。
次いで、各ヒドロキシメチル化したリグニン誘導体をピリジンに溶解し、塩化ホスホリルを加え、室温で1時間攪拌した。この反応においてピリジンはリグニン誘導体が全て溶解する量を用いた。
合成条件の詳細を表4に示す。反応後、生じた沈殿を濾過により回収した。反応生成物のリン含有率をフラスコ燃焼法(滴定法)により測定した結果を表4に付記する。リン含有率が7〜8%台のリン酸化リグニン誘導体が得られていることを確認した。
<分解開始温度測定>
リン酸化リグニン誘導体の分解開始温度の測定方法は、マックサイエンス製 DSC2000Aにて、空気雰囲気下で室温から10℃/minの昇温速度で300℃まで昇温したとき、分解反応である発熱反応の開始温度を分解開始温度と定義し、DSCチャートから分解開始温度を測定し、結果を表4に付記する。
ポリ乳酸80質量部に対して、前記作製した各種リン酸化リグニン誘導体20質量部、ポリフルオロオレフィン0.5質量部を添加した。これらをドライブレンドした後に、2軸混練押出機で170℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
ポリ乳酸には、三井化学株式会社製のレイシアH100Jを使用した。また、ポリフルオロオレフィンには、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンA−3800を使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製したペレットを、棚式の熱風乾燥機を用いて60℃で5時間乾燥処理を施し、その後、型締力100トンの電動式射出成形機を使用して金型温度40℃、シリンダー温度190℃、射出速度20mm/sec、射出圧力100MPa、冷却時間30secの設定で、UL94垂直燃焼試験用の短冊試験片を作製した。作製した短冊試験片は、幅13mm、長さ125mm、厚さ1.6mmである。
(実施例7)
<難燃性樹脂組成物の作製>
ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂をポリマーアロイしたPC/ABS樹脂80質量部に対して、実施例6で作製したヒドロキシメチル化フェノール化硫酸リグニンをリン酸化した、リン酸化リグニン誘導体15質量部、難燃助剤5質量部、ポリフルオロオレフィン0.5質量部を添加した。これらをドライブレンドした後に、2軸混練押出機で170℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
PC/ABS樹脂には、帝人化成株式会社製のマルチロンT−3714を使用した。また、ポリフルオロオレフィンには、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンで、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンA−3800を使用した。また、難燃助剤には、株式会社ADEKA製のアデカスタブFP−800を使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製したペレットを、棚式の熱風乾燥機を用いて80℃で5時間乾燥処理を施し、その後、型締力100トンの電動式射出成形機を使用して金型温度60℃、シリンダー温度2400℃、射出速度20mm/sec、射出圧力100MPa、冷却時間30secの設定で、UL94垂直燃焼試験用の短冊試験片を作製した。作製した短冊試験片は、幅13mm、長さ125mm、厚さ1.6mmである。
<難燃性樹脂組成物の作製>
3HB−3HV共重合ポリエステルは、3ヒドロキシ酪酸(略称3HB)、3ヒドロキシ吉草酸(略称3HV)の共重合体である。この3HB−3HV共重合ポリエステル80質量部に対して、実施例6で作製したヒドロキシメチル化フェノール化硫酸リグニンをリン酸化した、リン酸化リグニン誘導体15質量部、ポリフルオロオレフィン0.5質量部を添加した。これらをドライブレンドした後に、2軸混練押出機で180℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
3HB−3HV共重合ポリエステルは、次の方法により作製されたものを使用した。
バチルス属菌を用いて、ペプトン5.0g/l、イーストエキス5.0g/l、肉エキス5.0g/lを含む培地で16時間培養した培養液を、窒素源を制限した最少培地(グルコースを含む)にプロピオン酸を添加し、45℃で48時間培養することでポリエステルを含む培養菌体を得た。得られた培養菌体を凍結乾燥し、クロロホルムを添加して菌体内物質を抽出した。不溶分を濾別し、濾液にメタノールを加え、菌体抽出物を再析出させ、再び濾過し精製した菌体産生物を得た。菌体産生物をNMR解析することによって、3ヒドロキシ酪酸モノマーユニット(3HB)と3ヒドロキシ吉草酸モノマーユニット(3HV)の含有比(モル比)が約92.3:7.7であった。また、GPC法による重量平均分子量(Mw)は、標準ポリスチレン換算値で1,220,000であった。
また、ポリフルオロオレフィンには、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンで、また、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンA−3800を使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製したペレットを用いて、UL94垂直燃焼試験片を実施例5と同様の条件で作製した。
<難燃性樹脂組成物の作製>
ポリ乳酸80質量部に対して、実施例5、6で使用した原料のヒドロキシメチル化したクラフトリグニン、フェノール化硫酸リグニンをそれぞれ20質量部、ポリフルオロオレフィン0.5質量部を添加した。これらをドライブレンドした後に、2軸混練押出機で170℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
ポリ乳酸には、三井化学株式会社製のレイシアH100Jを使用した。また、ポリフルオロオレフィンには、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンA−3800を使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製したペレットを用いて、UL94垂直燃焼試験片を実施例5と同様の条件で作製した。
(比較例7)
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
実施例7で使用したPC/ABS樹脂、帝人化成株式会社製のマルチロンT−3714を用いて、UL94垂直燃焼試験片を実施例5と同様の条件で作製した。
(比較例8)
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
実施例8で使用した3HB−3HV共重合ポリエステルを用いて、UL94垂直燃焼試験片を実施例5と同様の条件で作製した。
<UL94垂直燃焼試験>
上述のようにして作製した試験片を、50℃で72時間のエージングした後、湿度20%のデシケータ内で3時間冷却した。次いで、試験片を5本で1セットとし、UL94規格に準拠した垂直燃焼試験を行った。
試験方法について以下に説明する。
各試験片の上端部をクランプし、垂直状態で保持し、各試験片の下端部から300±10mm下方に脱脂綿(0.8g以下、50mm角)を置き、後述する燃焼試験によって溶融物が脱脂綿上に落下することを確認する。各試験片の下端部からバーナーで接炎(1回目)を10±1秒間行い、その後、約300mm/秒の速度でバーナーを試験片から離す。燃焼が消えたら直ちにバーナーをサンプルの下端部に戻し、接炎(2回目)を10±1秒間行った。5本1セットの試験片について、合計10回の接炎を行い、各試験片の燃焼時間を記録した。
ここで、「燃焼時間」とは、離炎後の燃焼継続時間を意味する。1回目の燃焼時間をt1、2回目の燃焼時間をt2、2回目の燃焼後火種継続時間をt3とした。
ここで、「2回目の燃焼後火種継続時間」とは、試験片において炎は消えているが、試験片に赤く火種が残った状態が続く時間を言うものとする。
上述したUL94垂直燃焼試験による判定を下記の方法により行った。
(1)各試験片の、測定された離炎後の燃焼継続がt1、t2であり、これらが10秒以下ならV−0、30秒以下ならV−1もしくはV−2と判定した。V−1、V−2判定上区別する境界については、下記(5)記載の評価による、燃焼時の滴下物でコットン着火するかどうかが基準となる。コットン着火した場合はV−2になり、着火が無い場合には、V−1となる。
(2)5本の試験片全ての燃焼継続時間(t1+t2)が、50秒以下ならばV−0、250秒以下ならばV−1もしくはV−2と判定した。
(3)2回目接炎後の燃焼継続時間と火種継続時間の合計(t2+t3)が、30秒以下ならばV−0、60秒以下ならばV−1もしくはV−2と判定した。
(4)クランプまで燃える燃焼がないことを確認できれば、合格とした。
(5)燃焼物や落下物による脱脂綿の発火について評価した。発火無しならばV−0もしくはV−1と判定し、発火ありならV−2と判定した。
ここで、発火が無い場合のV−0とV−1の境界は、上記(2)、(3)の燃焼継続時間(t1+t2)と(t2+t3)の測定結果が基準となる。t1+t2が50秒以下ならばV−0となり、50秒より大きく250秒以下ならばV−1となる。
また、t2+t3が30秒以下ならばV−0となり、30秒より大きく60秒以下ならばV−1となる。上記(1)〜(5)のそれぞれについて、V−0、V−1、V−2の条件を全て満たすものが実用上合格レベルにあるものと評価した。
熱重量分析の測定方法は、マックサイエンス製TG−DTA2000Aにて、空気雰囲気下で室温から5℃/minの昇温速度で500℃まで昇温したときの、重量残渣を測定した。基準重量は100℃時温度の重量を基準とした割合(%)で評価した。
<結果>
実施例5〜8、及び比較例5〜8に使用した樹脂組成物の配合割合と、UL94垂直燃焼試験、及び熱重量測定の結果を表5、表6に示す。
難燃試験の結果はV−2条件を満たさない場合にはNGと記載した。
ここで、実施例及び比較例に使用した難燃性樹脂組成物の配合割合と試験結果を表5、表6に示す。
A−1:ポリ乳酸 三井化学株式会社 レイシアH−100J
A−2:PC/ABS樹脂 帝人化成株式会社 マルチロンT−3714
A−3:3HB−3HV共重合ポリエステル
B−1:ヒドロキシメチル化クラフトリグニンのリン酸化物
B−2:ヒドロキシメチル化フェノール化硫酸リグニンのリン酸化物
B−3:ヒドロキシメチル化クラフトリグニン
B−4:ヒドロキシメチル化フェノール化硫酸リグニン
C−1:リン系難燃剤 株式会社ADEKA アデカスタブFP−800
D−1:ポリフルオロオレフィン 三菱レイヨン株式会社 メタブレンA−3800
実施例7は、熱重量分析の500℃残渣重量も10%以上の残渣が見られ、難燃試験の結果もV−1の結果となった。実施例8は、500℃残渣重量が6%以上、難燃試験の結果もV−2を満たした。
特に、実施例7のように混練温度が高い材料にリン酸化リグニン誘導体の分解開始温度が課題となる。実施例6に示すヒドロキシメチル化フェノール化硫酸リグニンのリン酸化物の熱分解温度が267.1℃と最も高く、混練温度が高い材料など、耐熱性の高い材料への適用範囲の拡大が示唆される難燃材料である。
一方、比較例5〜6のリグニン原料を熱可塑性樹脂に添加した場合は、熱重量分析の500℃残渣も見られず、難燃性試験結果は全焼し、NGとなった。
比較例7は、熱可塑性樹脂単体の熱重量分析の500℃残渣は微量の残渣はみられたが、難燃試験結果はNGとなった。
比較例8の熱可塑性樹脂単体は、熱重量分析の500℃残渣もみられず、燃焼試験も全焼し、NGとなった。また、比較例の全てにおいて難燃性がNGとなった。
Claims (10)
- 熱可塑性樹脂と難燃剤を含む難燃性樹脂組成物であって、
前記難燃剤が、少なくとも天然リグニンに所定の処理を施したリグニン誘導体にリン酸を付加してなるリン酸化リグニン誘導体を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。 - 前記リグニン誘導体が、ヒドロキシメチル化処理されることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
- 前記リグニン誘導体が、クラフトリグニンであることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
- 前記リグニン誘導体が、フェノール化硫酸リグニンであることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
- 前記リグニン誘導体が、水熱処理した硫酸リグニンであることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
- 前記リグニン誘導体が、アルカリリグニンであることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
- 前記熱可塑性樹脂が、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、またはカーボネート結合を有するポリマーから選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
- 前記熱可塑性樹脂が、原料の少なくとも一部にバイオマスを使用している熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
- 難燃助剤が、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤、ポリフルオロオレフィンから選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
- 請求項1乃至9のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
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