以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係わるエレベータの点検装置が組込まれたエレベータの全体構成を示すブロック図である。
建屋内に設けられた昇降路11の上側に巻上機12、制御盤13、及び点検装置14が設けられている。さらに、この点検装置14は、電話回線等の通信回線15を介して、このエレベータの動作を遠隔監視する監視センター16に接続されている。巻上機12には、一端にかご17が取付けられ、他端に釣り合い錘18が取付けられた主ロープ19が掛けられている。そして、駆動部25で巻上機12を回転駆動することにより、かご17が昇降路11内を上下移動する。
かご17内には、ドア20及びかご呼び登録装置21が設けられ、建屋の各階のエレベータホールには、ドア22及び乗場呼び登録装置23が取付けられている。かご呼び登録装置21で登録されたかご呼び及び各階の乗場呼び登録装置23で登録された乗場呼びは、制御盤13内の通常運転部24へ入力される。通常運転部24は、このエレベータに故障が発生した場合や、自動点検運転期間以外の正常状態において、入力されたかご呼び、乗場呼びの指定する階へかご17を移動させる指令を駆動部25へ送出する。駆動部25は巻上機12を駆動して、かご17を指定階へ移動させる。
この実施形態における通常運転部24は、駆動部25に対して、エレベータのかご17に対する移動指示の他に、かご17のドア20の開閉指示、各階のエレベータホールのドア22の開閉指示、かご17内や各階における表示器の表示内容指示等のエレベータ運転に係わる各種の指示を駆動部25等に出力すると共に、点検装置14の点検データ収集部33へその同一指示内容を通知する。
例えば、コンピュータで構成された点検装置14内には、HDD等で形成された記憶部26、現在時刻を計時する時計回路31、監視センター16と通信回線15を介して各種情報交換を行う通損部32の各ハード構成部材が設けられている。
さらに、記憶部26内には、点検項目テーブル27、点検データファイル28、指定点検項目点検周期メモリ29、送信点検データバッファ30等が形成されている。
点検項目テーブル27内には、図2に示すように、このエレベータを構成する各部の動作状態を点検する場合における、点検項目と、この点検項目に対する点検結果である点検データを収集する収集周期TAが記憶されている。
例えば、点検項目として、かご17を移動する動作時に生じる巻上機12のモータ電流を示す「巻上機モータ電流」が設定されており、この「巻上機モータ電流」の点検データの収集周期TAは、「24時間」と設定されている、すなわち、エレベータのかご17は、1日何十回も動作されるが、巻上機モータ電流は1日に1回だけ例えば「10A」等の点検データが収集できればよい。また、各階のドア22の開閉時間を示す「ドア開閉時間」の点検項目については、収集周期TAは1時間と設定されている。
一般的に、頻繁に動作し、故障が発生しやすい部材については、上記収集周期TAは短く設定されている。なお、各点検項目における収集周期TAは監視センター16にて測定開始前に初期設定されている。
点検データファイル28内には、図3に示すように、点検データ収集部33で収集された各点検項目における点検データが収集時刻を付して書込まれる。例えば、前述した「巻上機モータ電流」の点検項目に対しては、点検データとして、15A(1日)、13A(2日)、…が書込まれる。
指定点検項目点検周期メモリ29内には、点検項目テーブル27内に設定された各点検項目のうち、監視センター16にて指定された点検項目、及び点検周期TBが記憶される。
ここで、監視センター16が指定する各点検項目毎の各収集周期TAと点検周期TBと各点検データの収集タイミングの関係を図5を用いて説明する。
収集周期TAは、前述したように、点検項目毎に定まる周期であり、点検周期TBは、監視センター16が当該エレベータの各点検項目の点検データをまとめて受信して診断等の処理を実施するための周期である。この実施形態においては、点検周期TBは例えば1ヶ月に設定されている。そして、各点検周期TBの開始、終了時刻は月の変わり目の深夜24時00分に設定されている。
したがって、各収集周期TAは、点検項目2に示すように、点検周期TBに等しいか、又は、点検項目1、3に示すように、点検周期TBの整数分の1に設定されている。さらに、点検項目4、5に示すように、収集周期TAが設定されていない場合もある。
点検データは、点検項目1、2、3に示すように、各収集周期TA内の実際に当該点検データの発生時刻に1個の点検データが収集される。また、点検項目4、5に示すように、収集周期TAが設定されていない場合においては、点検周期TB内に多数の点検データが収集される。
送信点検データバッファ30には、一つの点検周期TBが終了する毎に監視センター16へ送信される当該点検周期TB内で収集された指定点検項目点検周期メモリ29に記憶された指定点検項目の点検データが書込まれる。
さらに、点検装置14内には、アプリケーションプログラム上に形成された、点検データ収集部33、指定点検項目受信部34、点検データ修正部35、統計部36、指定点検データ抽出部37、不足点検項目判定部38、自動点検運転部39、点検データ送信部40等が設けられている。
次に、各部の動作を順番に説明していく。点検データ収集部33は、通常運転部24が通常運転を実施している状態で、この通常運転部24から前述した各部に対する同一指示内容を受領すると、この指示内容の部分の動作データを例えば駆動部25を介して取込む。例えば、指示内容がかご17の移動の場合、巻上機12が動作するので、動作データはモータ電流となり、「巻上機モータ電流」の点検項目における点検データとなる。そして、この点検項目の収集周期TAは24時間となる。
そして、この取込んだ動作データが、点検項目テーブル27に設定されている点検項目の点検データに相当する場合、この動作データを図3に示す点検データファイル28の当該点検項目の欄に点検データとして、時計回路31の現在時刻を収集時刻として書込む。この場合、同一欄に既に書込まれている点検データが存在し、この点検データの収集時刻が点検項目テーブル27に設定されている該当点検項目の収集周期TAにおける同一周期内に入る場合は、今回の点検データを点検データファイル28に書込まない。したがって、点検データファイル28の各点検項目の点検データの欄には、同一収集周期TA内に複数の点検データが書込まれることはない。
指定点検項目受信部34は監視センター16から通信回線15を介して通信部32で受信した、点検項目テーブル27内に設定された各点検項目のうち、監視センター16にて指定された点検項目、及び点検周期TBを指定点検項目点検周期メモリ29に書込む。
統計部36は、図5に示すように、現在時刻tが一つの点検周期TBの終了時刻teになると、点検項目3、4、5に示すように、一つの点検周期TBで多くの点検データが存在する場合には、一つの点検周期TB内に存在する点検データの最大値、最小値、平均値、最新点検データからなる統計値を算出する。
このように多数の点検データが存在する場合には、統計値を採用することにより、監視センター16における診断処理を効率的に実施できる。
さらに、点検データ修正部35は、統計部36で上述した統計値を算出するに際して、同一点検周期TB内で収集された各点検データのうち他の点検データと著しく異なる場合は、当該点検データを外して、前記統計値を算出する。これは、エレベータの各部が正常に動作するかを監視センター16で診断するための点検データを、エレベータを実際の利用客が利用している状態で収集するために、利用客の予期せぬ利用方法(例えば、閉じかけたドアを手で押さえる、かご17内で飛び跳ねる、定員を大幅に超えてかごに乗込む)等に起因する明らかに故障に起因しない異常な点検データを排除する必要があるからである。
指定点検データ抽出部37は、図5に示すように、現在時刻tが一つの点検周期TBの終了時刻teになると、点検項目テーブル27内に設定された各点検項目のうち、指定点検項目点検周期メモリ29に記憶された点検項目の点検データを点検データファイル28から読出して、送信点検データバッファ30へ書込む。
なお、指定点検データ抽出部37は、図5の点検項目3で示すように、指定された点検項目の各収集周期TAの点検データのうち、他の点検データと著しく異なる場合は、当該点検データを外して、送信点検データバッファ30へ書込む。そして、不足点検項目判定部38へ点検項目を指定した点検データの欠落を通知する。
不足点検項目判定部38は、図5の点検項目1で示すように、点検データファイル23内の指定された点検項目の各収集周期TAの点検データに欠落が存在すると、自動点検運転部部39へ当該点検項目に対する自動点検指示を送出する。
なお、不足点検項目判定部38は、図5の点検項目2で示すように、収集周期TAが点検周期TBに等しい場合で、この収集周期TA内で点検データが全く収集されていない場合も、自動点検運転部39へ当該点検項目に対する自動点検指示を送出する。
さらに、不足点検項目判定部38は、指定点検データ抽出部37から点検項目を指定した点検データの欠落が通知されると、自動点検運転部部39へ当該点検項目に対する自動点検指示を送出する。
このように、不足点検項目判定部38は、通常運転部24におけるエレベータに対する通常運転の動作で得られなかった点検データの点検項目を判定して、自動点検運転部部39へこの点検項目に対する自動点検運転の実行指示を出力する。
自動点検運転部39は、図5に示すように、現在時刻tが一つの点検周期TBの終了時刻teになると、通常運転部24の運転を停止させて、不足点検項目判定部38で指定された点検項目に対する自動点検運転を実行して、各点検項目の不足の点検データを得て、送信点検データバッファ30に書込む。
なお、自動点検運転の実行開始時刻は、月の変わり目の深夜24時00分であるので、一般の利用者に迷惑が及ぶことは最小限に抑制される。さらに、自動点検運転部39の自動点検運転の所要時間TCは、監視センター16から指定された全部の点検項目に対する自動点検運転の所要時間に比較して格段に短くなる。
点検データ送信部40は、自動点検運転部39で不足又は欠落している点検データが書込まれた、送信点検データバッファ30に記憶されている各点検項目の各点検データを通信部32を介して、監視センター16へファイル転送する。
コンピュータからなる監視センター16において、条件設定部41は、オペレータの操作指示に基づいて、診断に使用する点検項目の指定、各点検項目毎の収集周期TA、全体の点検周期TBを設定して、通信部42を介して、エレベータの点検装置14へ送信する。
また、通信部42はエレベータの点検装置14の点検データ送信部40から受信した各点検項目の各点検データを一旦点検データメモリ43へ書込む。診断部44は、点検データメモリ43に書込まれた各点検項目の各点検データを用いて、エレベータを構成する各部の故障発生の兆候の有無、寿命に対する診断を行い、診断結果を表示部45に表示出力すると共にデータベース46に書込む。
図4は、点検装置14が行う点検処理の全体動作を示す概略の流れ図である。エレベータの通常運転時において、動作データが発生すると(ステップS1)、この動作データが点検項目テーブル27に設定されている点検項目の点検データの場合(S2)、点検データファイル28を検索する(S3)。現在時刻が所属する収集周期TAに、既に点検データが存在する場合は(S4)、今回の点検データを破棄し、点検データが存在しない場合は、今回の点検データを点検データファイル28に書込む(S5)。
また、S6にて、監視センター16から、点検項目、及び点検周期TBを受信すると、これらを指定点検項目点検周期メモリ29に書込む(S7)。そして、現在時刻tが一つの点検周期TBの終了時刻teになると(S8)、点検項目テーブル27内に設定された各点検項目のうち、指定点検項目点検周期メモリ29に記憶された一つの点検項目の一つの点検データ(又は一つの収集周期TAの点検データ)を点検データファイル28から読出す(S9)。
次に、この点検データと、この点検データの一つ前の点検データ(又は一つ前の収集周期TAの点検データ)とを比較する(S10)。比較結果が大きく離れている場合は、この点検データは異常値であるので(S11)、この場合、該当点検データの点検項目を自動点検項目として、自動点検運転部39へ設定する(S12)。比較結果が許容範囲の場合は、この点検データは正常値であるので(S11)、該当点検データを送信点検データバッファ30の対応する点検項目の領域へ書込む(S13)。
点検データファイル28における一つの指定された点検項目の各点検データの正常、異常の判定を含む送信点検データバッファ30への書込み処理が終了すると、S9へ戻り、次の点検項目の各点検データの送信点検データバッファ30に対する書込処理を行う。
そして、S14にて、指定された全部の点検項目の点検データの送信点検データバッファ30への書込み処理が終了すると、送信点検データバッファ30内に、指定された全部の点検項目の点検データが存在するか否かを調べる(S15)。指定された点検項目自体が欠落している場合、また点検データが欠落している場合は、この点検項目を自動点検項目として、自動点検運転部39へ設定する(S16)。
そして、自動点検運転部39にて欠落している点検項目に対する自動点検運転を実行し(S17)、各点検項目の不足の点検データを得て、送信点検データバッファ30に書込む(S18)。最後に、送信点検データバッファ30に記憶されている各点検項目の各点検データを通信部32を介して、監視センター16へファイル転送する(S19)。
このように構成されたエレベータの点検装置14においては、エレベータの点検装置14においては、通常運転部24におけるエレベータに対する通常運転の動作で得られる各動作データのなから、各部に対する点検項目の点検データとして採用可能なものを抽出している。そして、通常運転部24におけるエレベータに対する通常運転の動作で得られなかった点検項目の点検データのみを、各点検周期TBの終了直後に自動点検運転を実施することによって補充している。
したがって、自動点検運転部39の利用者が利用でできない実際のエレベータの自動点検運転時間を図6に示す従来装置の監視部に比較して大幅に短縮できる。その結果、エレベータの各機器及び各制御動作の詳細な点検を正確に実施できるとともに、効率的に多くの点検データを収集でき、故障発生の兆候を検出でき、エレベータの故障発生を未然に防止できるとともに、エレベータの利用者に対するサービスを向上できる。
11…昇降路、12…巻上機、13…制御盤、14…点検装置、15…通信回線、16…監視センター、17…かご、21…かご呼び登録装置、23…乗場呼び登録装置、24…通常運転部、25…駆動部、26…記憶部、27…点検項目テーブル、28…点検データファイル、29…指定点検項目点検周期メモリ、30…送信点検データバッハ、31…時計回路、33…点検データ収集部、34…指定点検項目受信部、35…点検データ修正部35、36…統計部、37…指定点検データ抽出部、38…不足点検項目判定部、39…自動点検運転部、40…点検データ送信部