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JP2006083448A - 微量油潤滑加工用鋼材 - Google Patents

微量油潤滑加工用鋼材 Download PDF

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Abstract

【課題】微量の潤滑油剤を供給しながら切削する微量油潤滑加工用鋼材の提供。
【解決手段】C:0.30〜0.46%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.2〜2.0%、P≦0.08%、S:0.01〜0.12%、N≦0.010%、Al:0.002〜0.03%、Ti:0〜0.03%を含むとともに、少なくとも「Al/N≧2」又は「Ti/N≧3」のいずれかを満たし、残部はFeと不純物の化学組成で、組織がフェライト率が15〜65%のフェライトパーライト組織からなる微量油潤滑加工用鋼材。この鋼材は、下記3群のうちの少なくとも1群から選んだ1種以上の元素を含んでいてもよい。(1)Cr:0.01〜0.8%、V:0.01〜0.3%、(2)Nd:0.005〜0.05%、Nb:0.005〜0.1%、(3)B:0.0005〜0.005%。
【選択図】なし

Description

本発明は、微量油潤滑加工用鋼材に関する。詳しくは、鋼材の機械加工において微量の潤滑油剤(切削油剤)を供給しながら加工する「微量油潤滑加工」用の鋼材に関する。
これまで切削加工用の鋼材は、多量の潤滑油剤を用いる所謂「湿式切削」あるいは潤滑油剤を全く用いない所謂「ドライ切削」を対象として開発されてきた。
しかし近年、エネルギー消費が少ないばかりか環境に優しく、しかも、切削加工効率を高めることができるとともに加工精度も維持することができる新しい切削加工法として、微量の潤滑油剤を供給しながら加工する「微量油潤滑加工」(以下、「微量潤滑油切削」ともいう。)技術の検討が活発になっており、例えば、非特許文献1〜非特許文献6に極微量油潤滑切削(MQL切削)技術に関する報告がなされている。また、特許文献1及び特許文献2には、極微量油潤滑切削に適した加工装置が開示されている。
これらを含む微量油潤滑切削が適用される代表的な加工には、直径10mm以下の細径ドリルを用い、ドリル直径の10倍以上の深さの穴をあける深穴加工がある。従来、こうした深穴加工は、高速度工具鋼(通称「ハイス」)製のツイストドリルあるいは刃先を超硬合金でろう付けしたガンドリルを用いて、潤滑油剤を多量に使用して行っていた。時には多量の潤滑油剤を高圧で塗布して加工することも行われていた。しかしながら、ハイス製のツイストドリルを用いた場合には切削速度を速くすることができず、また、刃先を超硬合金でろう付けしたガンドリルを用いた場合には工具の剛性面から送り量を高くできないなど、いずれの場合も加工能率に限界があった。また、上記の両加工法とも、多量の潤滑油剤を使用するため、その廃棄処理の費用が嵩むものであった。
これに対して、超硬合金製のツイストドリルを用いて微量油潤滑切削すれば、高速切削が可能で送り量も高くすることができる。このため、高能率の切削加工が可能となり、また、潤滑油剤の廃棄処理の問題を解決することもできる。しかしながら、微量油潤滑切削に関しては、従来、工具、油剤、機械及び給油システムについての検討がなされてきたものの、その対象となる被切削材、なかでも鋼材について検討された例はこれまで殆どない。
湿式切削、ドライ切削及び微量油潤滑切削においては潤滑油剤の状態に差があることから、切削現象も変化することが予測される。したがって、従来の湿式切削やドライ切削を対象として開発された切削加工用鋼材である所謂「快削鋼」を用いても、微量油潤滑切削の場合には十分な加工性が確保されない可能性がある。
例えば、特許文献3には、MnS及び鋼中酸化物の組成や形態を調整し、これらの介在物による工具表面の保護及び潤滑効果によって超硬工具による被削性を高めた「超硬工具切削性に優れた機械構造用の快削鋼」が開示されている。しかしながら、この特許文献3で提案された快削鋼の切削は、「速度:200m/分、送り:0.2mm/回転、深さ:2mm」という条件で行われた従来の「旋削」加工でしかない。
また、特許文献4には、Biの存在形態を調整することで切屑処理性を高めた「Bi快削鋼」が開示されている。この特許文献4で提案された技術の基本思想は、BiがPbと同様に低融点介在物であることから、切削加工時の昇温により溶融し、工具面上での潤滑作用を高めることにある。そして、この特許文献4で提案された快削鋼の切削も、「切削速度:150m/min、送り:0.05、0.1、0.2、0.3mm/revの4水準、切込み:0.5、1.0、2.0mmの3水準」という条件で行われた従来の「旋削」加工でしかない。
「MQL切削の技術動向」(稲崎一郎著、トライボロジスト、第47巻第7号(2002年)、519〜525ページ) 「複合ミスト法による旋削加工の動向」(鈴木康夫著、トライボロジスト、第47巻第7号(2002年)、526〜532ページ) 「MQL切削用工作機械の動向」(槇山正著、トライボロジスト、第47巻第7号(2002年)、533〜537ページ) 「MQL切削油供給システムの動向」(鈴木繁著、トライボロジスト、第47巻第7号(2002年)、538〜543ページ) 「MQL切削工具の動向」(狩野勝吉著、トライボロジスト、第47巻第7号(2002年)、544〜549ページ) 「MQL切削用油剤の動向」(須田聡著、トライボロジスト、第47巻第7号(2002年)、550〜556ページ) 特開2002−355735号公報 特開2002−355736号公報 特開2003−55735号公報 特開2000−265243号公報
本発明の目的は、微量の潤滑油剤を供給しながら加工する微量油潤滑切削用の鋼材を提供することである。
具体的には、1時間当たり200cm3以下の潤滑油剤を使用する微量油潤滑切削条件の下で用いられる鋼材を提供することである。
前述の特許文献3及び特許文献4で提案された快削鋼だけではなく、従来の湿式切削やドライ切削を対象として開発された快削鋼は、主に鋼中介在物の形態を調整し、加工中における工具面上での潤滑作用を活用したものである。
しかし、微量油潤滑切削は、その名のとおり工具面上での潤滑効果は既にその給油システムや工具等で確保されている。このため、微量油潤滑切削現象は、従来の湿式切削やドライ切削とは全く異なり、介在物に基づく潤滑効果での切削性の向上は期待できない。
加えて、微量油潤滑切削用の鋼材は、未だ開発されておらず、更に、湿式切削やドライ切削が対象であるPb快削鋼、S快削鋼、その複合快削鋼、並びに、前述の特許文献3及び特許文献4で提案された快削鋼など従来からの種々の快削鋼を用いて、これまでに微量油潤滑切削性について詳細な検討がなされたことはない。
そこで、本発明者らは、従来、機械構造用快削鋼として知られている表1に示す化学組成を有する快削鋼を実験室溶解して、微量油潤滑切削、湿式切削及びドライ切削の各場合における工具寿命の比較を行った。
Figure 2006083448
すなわち、表1に示す各鋼の鋼塊を1250℃に加熱し、熱間鍛造を行って1000℃以上で仕上げ、直径60mmの丸棒を作製した。なお、仕上げ後は空冷して非調質鋼材の製造プロセスを模擬した。
このようにして得た各丸棒の横断面におけるR/2部(R:丸棒の半径)位置の8箇所についてビッカース硬さ(以下、「Hv硬さ」という。)を測定した。なお、試験力は98.07Nで行った。なお、表1には、各丸棒について8箇所測定したHv硬さの平均値を併記した。
表1から明らかなように、いずれの丸棒もHv硬さで240程度の同等の硬さを有するものである。
そこで次に、上記の各丸棒を100mmずつの長さに切断したものを試験片とし、直径(D)が6.0mm、全長が180mm、刃長が130mmで先端角が140゜の油穴付き超硬コーティングドリルを用いて、下記の条件で、従来の湿式切削及びドライ切削、並びに新しい切削法である微量油潤滑切削を施して工具寿命を比較した。
・回転数:5300rpm、
・送り:0.15mm/rev、
・試験片長手方向の加工穴深さ:95mm(約16D)。
なお、各切削法における潤滑条件は下記のとおりである。
・湿式切削:油量を10L/分とし、20倍に希釈した水溶性エマルジョンによる外部給油、
・ドライ切削:無潤滑、
・微量油潤滑切削:生分解性の高い合成エステルを約1cm3/時でドリル油穴から内部給油。
なお、上記の条件で300穴穿孔するまでのドリル外周コーナー摩耗量を工具寿命とした。但し、従来の湿式切削及びドライ切削の場合には、300穴穿孔するまでにドリルが折損して穿孔不能となったため、穿孔不能となるまでの穿孔個数を工具寿命とした。また、全ての加工試験においては、事前に直径が6.05mm、深さが12mmの穴をガイド穴として加工するものとする。したがって、先に述べた加工穴深さとしての95mmには、このガイド穴が含まれている。
表2に、上記のようにして測定した工具寿命を示す。
Figure 2006083448
表2から、従来法である湿式切削及びドライ切削に比べて、微量油潤滑切削が穿孔数において格段に優れていることがわかる。そして、微量油潤滑切削の場合には、従来の切削法、特に、水溶性エマルジョンを用いた湿式切削において有効な快削元素であるPbやSの効果が発揮されていないことから、潤滑油剤の量が少ない微量油潤滑切削が単に従来の切削法の延長線上には無く、全く新しい現象によって切削されていることが示唆される。また、微量油潤滑切削の場合には、被切削材の硬さが同等でも工具寿命に差が生じているので、微量油潤滑加工性は、従来の切削法のように単に室温の硬さだけで整理できるものではないことも明らかである。更に、細径の超硬コーティングドリルを用いた深穴加工の場合には、切削抵抗の上昇による折損が重要な問題であり、切削抵抗の上昇が工具摩耗を進行させることも明らかになった。
上述のことから明らかなように、微量油潤滑切削は従来の切削法とは全く新しい現象に基づくものであり、したがって、微量油潤滑切削用の快削鋼を探索することは極めて重要なことである。
そこで、本発明者らは、先ず、微量油潤滑切削現象に関して詳細な研究を重ねた。その結果、微量油潤滑切削性、特に切削抵抗の支配因子について、下記(a)及び(b)の新たな知見を得た。
(a)微量油潤滑切削法において、細径ドリルを用いた場合の切削抵抗は200〜400℃近傍の強度、なかでも引張特性における0.2%耐力と相関を有する。これは、従来の湿式切削法におけるドリル加工が潤滑油剤(切削油剤)を大量に使用するため加工温度が低いのに対し、微量油潤滑切削法の場合はその名のとおり潤滑油剤が非常に少ないために加工中の冷却能が小さくなったことに基づくものである。
(b)一般に、切削抵抗は「切り屑生成時のせん断変形力」及び「工具と被切削材との間の摩擦力」に区分できる。微量油潤滑切削法の場合、切削抵抗に対する摩擦力の寄与は小さくなると考えられるために、本加工における切削抵抗への寄与は「切り屑生成時のせん断変形力」が支配的となる。このことから、微量油潤滑切削法での細径ドリル加工の場合には、引張試験における破断強さではなく、塑性変形能の目安である0.2%耐力が切削抵抗と大きな相関を有することとなる。
上記の知見(a)及び(b)から、従来提案された快削鋼を用いても、何らかの要因で200〜400℃の引張特性における0.2%耐力が高くなれば、微量油潤滑切削法には適用し難いこととなる。そこで次に、本発明者らは、微量油潤滑切削用の鋼材を得るために、微量油潤滑切削性に及ぼす鋼材の材料因子について研究を重ねた。その結果、下記(c)〜(j)の知見を得た。
(c)鋼に添加される合金元素には、温度が数百度上昇した場合、常温(室温)強度からの強度低下を小さく抑えるものがあり、また、常温強度からの強度上昇を招くものさえある。合金元素のなかでは、N(窒素)がその傾向が最も大きい。したがって、微量油潤滑切削性用の鋼材とするためには、Nをできるだけ固溶状態で存在させないようにするのがよい。
(d)Tiは、炭化物として析出した場合には強化に寄与し、200℃近傍での強度低下を抑制するので微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めてしまう。したがって、微量油潤滑切削用の鋼材とするためには、Tiを炭化物として析出させないことがよい。但し、TiはNとの親和力が大きく、Ti窒化物はTi炭化物よりも先に形成されるので、固溶Nを低減するという意味合いからTiを添加してもよい。
(e)VもTiと同様に炭化物として析出し、200℃近傍での強度低下を抑制するので微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めてしまう。このため、微量油潤滑切削性用の鋼材とするためには、Vは添加しないことが望ましい。しかしながら、Vは非調質鋼材の強度確保には欠かせない元素である。このため、微量油潤滑切削用の鋼材として非調質鋼材を用いる場合には、Vを添加してもよい。
(f)Moは、200℃近傍での強度低下を抑制するので微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めてしまう。このため、微量油潤滑切削性用の鋼材とするためには、Moは添加しないことが望ましい。
(g)CuやNiも200℃近傍での強度低下を抑制して微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めてしまう。このため、微量油潤滑切削用の鋼材とするためには、Cu及びNi添加せず、溶製時に不純物として混入するレベルに抑えることが望ましい。
(h)従来から快削元素として知られているPbやBiは添加しても構わないが、微量油潤滑切削の場合には切削性改善効果はほとんど認められない。同様に、MnS介在物やCa処理などによって形成させた低融点酸化物も微量油潤滑切削の場合には切削性改善効果をほとんど有しない。また、硫化物等の介在物形態が微量油潤滑切削性の改善効果に及ぼす影響も小さい。これは微量油潤滑切削法の場合には、微量の潤滑油剤がすでに存在するためである。
(i)同じ化学組成の鋼材であっても、常温での組織形態が異なれば高温での引張特性も異なってくる。特に、組織がフェライトパーライト組織の場合には、フェライト量の割合を最適化することで200℃近傍での強度、なかでも0.2%耐力の低下が大きくなるので、微量油潤滑切削性を改善することができる。
(j)Crは、セメンタイトを安定させる元素であり、パーライト組織の生成を促進してフェライト量を低減させてしまうので、微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めてしまう。このため、微量油潤滑切削性用の鋼材とするためには、Crは添加しないことが望ましい。しかしながら、Crは非調質鋼材の強度確保には欠かせない元素である。このため、微量油潤滑切削用の鋼材として非調質鋼材を用いる場合には、Crを添加してもよい。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
本発明の要旨は、下記(1)〜(4)に示す微量油潤滑加工用鋼材にある。
(1)質量%で、C:0.30〜0.46%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.08%以下、S:0.01〜0.12%、N:0.010%以下、Al:0.002〜0.03%及びTi:0〜0.03%を含むとともに、少なくとも下記の(1)式又は(2)式のいずれかを満たし、残部はFe及び不純物の化学組成で、組織がフェライト率が15〜65%のフェライトパーライト組織からなることを特徴とする微量油潤滑加工用鋼材。
Al/N≧2・・・(1)、
Ti/N≧3・・・(2)、
なお、(1)式及び(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、Cr:0.01〜0.8%及びV:0.01〜0.3%のうちの1種以上を含有する上記(1)に記載の微量油潤滑加工用鋼材。
(3)Feの一部に代えて、質量%で、Nd:0.005〜0.05%及びNb:0.005〜0.1%のうちの1種以上を含有する上記(1)又は(2)に記載の微量油潤滑加工用鋼材。
(4)Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0005〜0.005%を含有する上記(1)から(3)までのいずれかに記載の微量油潤滑加工用鋼材。
ここで、上記の「フェライトパーライト組織」とは、全体の95%を超える部分がフェライトとパーライトの混合組織からなることを指す。そして、「フェライト率」とは、「フェライトパーライト組織」におけるフェライトの割合をいい、「セメンタイト」と「フェライト」からなる「パーライト」中の「フェライト」は含まない。
なお、或る相の体積割合は面積割合に等しいことが知られており、したがって、上記の「フェライト率」は、例えば、光学顕微鏡による観察のような通常の2次元的な評価方法によって求めたフェライトの割合から決定すればよい。
「微量油潤滑」とは、具体的には、用いる潤滑油剤(切削油剤)の量が1時間当たり200cm3以下であることを指す。
以下、上記(1)〜(4)の微量油潤滑加工用鋼材に係る発明を、それぞれ「(1)の発明」〜「(4)の発明」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の微量油潤滑加工用鋼材は、微量油潤滑切削用として利用することができる。なお、微量油潤滑切削法は、エネルギー消費が少ないばかりか環境に優しく、しかも、切削加工効率を高めることができるとともに加工精度も維持することができる技術である。このため、本発明の微量油潤滑加工用鋼材を用いることで、地球環境の保護やコスト低減を図ることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)鋼の化学組成
C:0.30〜0.46%
Cは、鋼の硬さ(強度)を高めて機械構造部品に所望の高い硬さを付与するのに必須の元素である。Cには、微量油潤滑切削の場合の加工性に影響する後述のフェライト率を適正化する作用もある。しかし、その含有量が0.30%未満では前記の効果が得難い。一方、Cの含有量が0.46%を超えると切削抵抗の上昇を招いて工具摩耗量の増大をきたす。したがって、Cの含有量を0.30〜0.46%とした。なお、Cの好ましい含有量は、0.33〜0.43%である。
Si:0.1〜1.0%
Siは、鋼の脱酸に有効な元素である。しかし、その含有量が0.1%未満ではその効果が期待できない。一方、Siを1.0%を超えて含有させると前記効果が飽和するばかりか、靱性の低下が生じる。したがって、Siの含有量を0.1〜1.0%とした。なお、Siの含有量の上限は0.7%とすることが好ましい。
Mn:0.2〜2.0%
Mnは、強度を高める作用がある。この効果を確実に得るには、Mnは0.2%以上の含有量とする必要がある。しかし、その含有量が2.0%を超えると組織中のフェライト率が低下するので、加工性が低下し、更に、靱性も大きく劣化する。したがって、Mnの含有量を0.2〜2.0%とした。なお、Mn含有量の下限は0.5%とすることが好ましく、また、上限は1.6%とすることが好ましい。
P:0.08%以下
Pは靱性を低下させてしまう。特にその含有量が0.08%を超えると靱性の低下が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.08%以下とした。なお、Pの含有量は0.03%以下とすることが好ましい。
S:0.01〜0.12%
Sは、鋼中でMnSを形成して被削性を改善する作用を有する。その効果は工具との潤滑よりむしろ、切り屑せん断域での変形の起点となることでせん断変形抵抗を小さくすることにある。しかし、その含有量が0.01%未満では前記の効果が得難い。一方、Sを多量に添加すると、MnSが粗大化するとともにその量が多くなるので靱性の異方性が顕著になり、更に、靱性そのものが劣化する。特に、Sの含有量が0.12%を超えると靱性の劣化が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.01〜0.12%とした。なお、Sの含有量は0.03〜0.10%とすることが好ましい。
N:0.010%以下
Nは本発明において重要な意味を持つ元素である。すなわち、Nは、フェライトに固溶していても200℃近傍で時効析出して強度を高め、鋼材の常温硬さ(強度)に関係なく微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めてしまう。このため、微量油潤滑切削性用の鋼材とするには、Nの含有量は極力少なくするのがよい。したがって、Nの含有量を0.010%以下とした。なお、一層好ましいNの含有量は0.008%以下である。Nの含有量は0.006%以下とすれば極めて好ましい。
Al:0.002〜0.03%
Alは鋼の脱酸に有効な元素であり鋼中に酸化物を形成する。また、窒化物を形成し固溶Nを低減させる効果がある。しかし、その含有量が0.002%未満では添加効果に乏しい。一方、Alを多く含有させると硬質な酸化物の量が多くなって工具損傷をきたす場合があり、特に、Alの含有量が0.03%を超えると工具損傷が著しくなる。したがって、Alの含有量を0.002〜0.03%以下とした。
Ti:0〜0.03%
Tiの添加は任意である。添加すれば、窒化物を形成して固溶Nを低減させ、切削抵抗が高くなるのを抑える作用を有する。この効果を確実に得るには、Tiは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Tiを多く含有させると硬質な窒化物の量が増加して工具損傷をきたす場合があるし、Ti炭化物を形成して、常温強度だけではなく高温強度を高めて微量油潤滑切削の場合の切削抵抗が高くなって被削性が低下する場合がある。特に、Tiの含有量が0.03%を超えると、工具損傷が著しくなり、また、微量油潤滑切削の場合の被削性の低下も著しくなる。したがって、Tiの含有量を0〜0.03%とした。
Al/N:2以上又は/及びTi/N:3以上
200℃近傍で固溶Nが時効析出することによる切削抵抗の上昇を抑えて、微量油潤滑切削性を確実に高めるには、AlやTiで固溶Nを窒化物として固定するのがよく、このためには、少なくとも「Al/N」の値を2以上又は「Ti/N」の値を3以上とする必要がある。したがって、前記の(1)式又は(2)式のいずれかを満たすこととした。
上述のことから、前記(1)の発明に係る微量油潤滑加工用鋼材の化学組成を、上述した範囲のCからTiまでの元素を含むとともに、少なくとも前記の(1)式又は(2)式のいずれかを満たし、残部はFe及び不純物からなることと規定した。
なお、本発明に係る微量油潤滑加工用鋼材には、上記の成分元素に加え、必要に応じて、後述する第1群〜第3群のうちの少なくとも1群から選んだ1種以上の元素を任意添加元素として添加し、含有させてもよい。
以下、任意添加元素に関して説明する。
第1群:Cr:0.01〜0.8%及びV:0.01〜0.3%
Crは、鋼材の強度を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Crは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかしながら、その含有量が0.8%を超えると、組織中のフェライト率が大きく低下して、加工性の低下及び靱性の大きな劣化を招く。したがって、添加する場合のCrの含有量は、0.01〜0.8%とするのがよい。なお、微量油潤滑切削性の観点からは、Cr含有量の上限は0.55%とするのが好ましい。
Vも、Crと同様に、鋼材の強度を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Vは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.3%を超えると、強度が過度に高くなるとともに高温強度に対する軟化抵抗が増加して、微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めてしまう。したがって、添加する場合のVの含有量は、0.01〜0.3%とするのがよい。
なお、上記のCr及びVはいずれか1種のみ、或いは2種の複合で添加することができる。
第2群:Nd:0.005〜0.05%及びNb:0.005〜0.1%
Ndは、フェライトの生成核となるMnSを微細に分散させて、フェライトパーライト組織におけるフェライト率を確保し、微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を低減する作用を有する。この効果を確実に得るには、Ndは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかしながら、Ndが0.05%を超えて含有されると、前記の効果が飽和するばかりか、熱間加工性の著しい低下が生じる。したがって、添加する場合のNdの含有量は、0.005〜0.05%とするのがよい。
Nb
Nbも、Ndと同様に、フェライトパーライト組織におけるフェライト率を確保し、微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を低減する作用を有する。Nbには、結晶粒を微細にして靱性を高める作用もある。こうした効果を確実に得るには、Nbは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.1%を超えると、粗大で硬質なNb炭窒化物が未固溶で残留し、却って被削性が低下する。したがって、添加する場合のNbの含有量は、0.005〜0.1%とするのがよい。
なお、上記のNd及びNbはいずれか1種のみ、或いは2種の複合で添加することができる。
第3群:B:0.0005〜0.005%
Bは、粒界を強化し、本発明でいう「フェライトパーライト組織」を有する鋼材に切削加工等の機械加工を施した後で焼入れ処理を施す場合の、焼入れ後に生じる粒界割れに伴う遅れ破壊を抑制する作用を有する。この効果を確実に得るには、Bは0.0005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Bが0.005%を超えて含有されても前記の効果は飽和するので、コストが嵩むばかりである。したがって、添加する場合のBの含有量は0.0005〜0.005%とするのがよい。
上述のことから、前記(2)の発明に係る微量油潤滑加工用鋼材の化学組成は、鋼材の強度を高めることを目的として、前記(1)の発明の鋼のFeの一部に代えて、Cr:0.01〜0.8%及びV:0.01〜0.3%のうちの1種以上を含有するものと規定した。
また、前記(3)の発明に係る微量油潤滑加工用鋼材の化学組成は、フェライトパーライト組織におけるフェライト率を確保し、切削抵抗を低減することを目的として、前記(1)又は(2)の発明の鋼のFeの一部に代えて、Nd:0.005〜0.05%及びNb:0.005〜0.1%のうちの1種以上を含有するものと規定した。
更に、前記(4)の発明に係る微量油潤滑加工用鋼材の化学組成は、切削加工等の機械加工後の焼入れ処理を施す場合の焼入れ後に生じる粒界割れに伴う遅れ破壊を抑制することを目的として、前記(1)から(3)までのいずれかの発明の鋼のFeの一部に代えて、B:0.0005〜0.005%を含有するものと規定した。
なお、本発明に係る微量油潤滑加工用鋼材には、Moを添加しない。これは先の知見(f)で述べたたように、Moが200℃近傍の強度低下を抑制して微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めるからである。
同様に、本発明に係る微量油潤滑加工用鋼材には、Cu及びNiを添加しない。これも先の知見(g)で述べたたように、CuやNiが200℃近傍の強度低下を抑制して微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めるからである。なお、Cu及びNiは、溶製時に不純物元素として混入する場合があり、その範囲においては微量油潤滑切削の場合にも十分許容できる。具体的には、Cu及びNiはいずれも、それぞれ0.15%までは含有していても微量油潤滑切削の場合の加工性には大きく影響しない。
また、知見(h)で述べたたように、従来から快削元素として良く知られているPb及びBiのほか、MnSの形態をコントロールできるCa、TeやSe等は、微量油潤滑切削の場合には切削抵抗を低減することによる切削性改善効果が見られないので、微量油潤滑切削を対象とする本発明に係る微量油潤滑加工用鋼材においては、これらの元素を添加する必要はない。なお、本発明に係る微量油潤滑加工用鋼材には、Pb、Bi、Ca、Te及びSeが含まれていても差し支えない。その場合の上限は、それぞれ、0.25%、0.10%、0.05%、0.05%及び0.5%である。
なお、鋼中に混入する不純物としてのO(酸素)については、その含有量は特に規定しなくてもよいが、良好な靱性を確保するために、できればその含有量を0.015%以下とすることが好ましく、0.010%以下とすれば一層好ましい。
上述の化学組成を有する鋼は、例えば、転炉や電気炉等により溶製することができる。鋼塊の製造は、鋳型に注入する「造塊法」又は「連続鋳造法」のいずれの手段を用いても構わない。
(B)鋼材の組織
本発明の微量油潤滑加工用鋼材は、その組織を、フェライト率が15〜65%のフェライトパーライト組織とする必要がある。
フェライトは軟質相である。このため、微量油潤滑切削の際に優先的に変形して切削加工中の変形抵抗を小さくするので、切削抵抗の低減に寄与する。しかし、フェライト率が15%未満では、上記の効果を十分に得ることができない。一方、フェライト率が65%を超えると、鋼材としての強度が確保し難くなるし、軟質の組織が過剰となって却って鋼材としての延性が増加して微量油潤滑切削の場合の切削抵抗を高めてしまう場合がある。
上述の理由から、本発明の微量油潤滑加工用鋼材は、その組織を、フェライト率が15〜65%のフェライトパーライト組織からなるものとした。
本発明の微量油潤滑加工用鋼材の組織は、フェライト率が20〜45%のフェライトパーライト組織からなるものであることが一層好ましい。
なお、既に述べたように、本発明でいう「フェライトパーライト組織」とは、全体の95%を超える部分がフェライトとパーライトの混合組織からなるものを指す。また、「フェライト率」とは、「フェライトパーライト組織」におけるフェライトの割合を指し、「セメンタイト」と「フェライト」からなる「パーライト」中の「フェライト」は含まない。
また、或る相の体積割合は面積割合に等しいことが知られており、したがって、上記の「フェライト率」は、例えば、光学顕微鏡による観察のような通常の2次元的な評価方法によって求めたフェライトの割合から決定すればよいことも既に述べたとおりである。
なお、本発明の微量油潤滑加工用鋼材における「フェライトパーライト組織」以外の組織としては、例えば、ベイナイトやマルテンサイトなどの第3相を挙げることができるが、第3相が5%以下でありさえすれば、微量油潤滑切削の場合の被削性には実質的な影響がない。したがって、本発明においては上記のとおり、全体の95%を超える部分がフェライトとパーライトの混合組織からなる「フェライトパーライト組織」におけるフェライト率を規定する。すなわち、前述した「フェライト率」とは、より具体的には、{「フェライト」/(「フェライト」+「パーライト」+「第3相」)}×100(%)のことをいう。
なお、前記の所定の組織は非調質処理、つまり最終の熱間加工後に冷却したままでも得られるし、熱間加工後に「焼ならし」、「焼ならし−焼戻し」などの熱処理を行っても得られる。なお、コスト面からは熱処理を行わずに所定の組織が得られる非調質処理とすることが好ましい。この非調質処理の場合には、熱処理を行う必要がないためコスト面で有利であるし、工程が簡素化できるために納期の面でも有利である。
なお、本発明でいう「微量油潤滑」とは、用いる潤滑油剤(切削油剤)の量が1時間当たり200cm3以下であることを指すが、実際の鋼材の加工においては潤滑油剤の量を1時間当たり約50cm3以下として実施することも多い。潤滑油剤の塗布方法は潤滑油をミスト状にしてから空気と混合して噴射する方法が一般的である。場合によってはミスト状の水も混合させる場合がある。本発明においては、特に塗布時の潤滑油剤の形態については限定するものではなく、単に潤滑油剤の単独の量が1時間当たり200cm3以下であればその効果は確保できる。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
表3及び表4に示す化学組成を有する鋼A1〜A24及びB1〜B7を150kgの真空溶解炉を用いて溶製した。表3及び表4における鋼A1〜A24は化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼である。一方、表4における鋼B1〜B7は本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。
Figure 2006083448
Figure 2006083448
次いで、これらの鋼の鋼塊を1250℃に加熱し、熱間鍛造を行って1000℃以上で仕上げ、直径60mmの丸棒を作製した。なお、仕上げ後は空冷して非調質鋼材の製造プロセスを模擬した。
このようにして得た各丸棒について、組織、機械的特性及び微量油潤滑切削性を調査した。
組織は、各丸棒を鍛造長手方向に平行に、その表面から15mmの位置(半径の1/2の位置、以下、「R/2部位置」という。)を含んで切断した面を鏡面研磨してナイタルで腐食した後、倍率が400倍の光学顕微鏡で観察して、R/2部位置におけるフェライト率(面積率)の測定と組織(相)の特定を行った。
機械的特性は、各丸棒のR/2部位置からJIS14A号の引張試験片を採取して室温及び200℃で引張試験を行い、各鋼の高温強度特性を、室温での引張強度に対する200℃での0.2%耐力の比率(以下、「高温降伏比」という。)で評価した。
また、微量油潤滑切削性は、上記の各丸棒を100mmずつの長さに切断したものを試験片とし、直径(D)が6.0mm、全長が180mm、刃長が130mmで先端角が140゜の油穴付き超硬コーティングドリルを用いて、下記の条件で切削して調査した。
・回転数:5300rpm、
・送り:0.15mm/rev、
・試験片長手方向の加工穴深さ:95mm(約16D)、
・潤滑条件:生分解性の高い合成エステルを約1.0cm3/時の割合でドリル油穴から内部給油で塗布。
なお、上記の条件で微量油潤滑切削した際の切削抵抗(スラスト力)の測定値と工具寿命によって微量油潤滑切削性を評価し、工具寿命は、700穴穿孔するまでにドリルが折損して穿孔不能となった場合の、穿孔不能となるまでの穿孔個数で評価した。なお、折損することなく700穴の穿孔を行えた場合には工具寿命は良好であるとした。また、本加工試験においても、事前に直径が6.05mm、深さが12mmの穴をガイド穴として加工するものとする。したがって、先に述べた加工穴深さとしての95mmには、このガイド穴が含まれている。
表5に、上記の各種調査結果をまとめて示す。表5においては、室温での引張強度を「TS(RT)」と表記し、200℃での0.2%耐力を「YP(200℃)」と表記した。また、「工具寿命」欄における「○」印は、折損することなく700穴の穿孔が行え、工具寿命が良好であったことを示す。なお、表5中における「第3相」とは、既に述べたように、「フェライトパーライト組織」以外の組織を指す。
Figure 2006083448
表5から明らかなように、鋼の化学組成が本発明で規定する範囲内にあり、更に、組織も本発明の規定を満足する本発明例の試験番号1〜24の場合、高温降伏比が0.53以下であって、切削抵抗(スラスト力)は小さく工具寿命も良好で微量油潤滑切削性に優れている。
これに対して、試験番号25〜31の比較例は、いずれも高温降伏比が高く、切削抵抗(スラスト力)が1000Nを超える高い値で、また、700穴穿孔するまでにドリルが折損して工具寿命も短く微量油潤滑切削性に劣ることが明らかである。
なお、Sの含有量が本発明で規定する下限を下回る鋼B1を用いた試験番号25の場合、高温降伏比が試験番号1〜24の本発明例に比べて若干高いだけの0.55であるにも拘わらず微量油潤滑切削性が低いのは、切り屑せん断域での変形の起点となるMnSが少なく、せん断変形抵抗が大きいためである。
また、Cの含有量が本発明で規定する上限を超える鋼B4を用いた試験番号28の場合、高温降伏比が試験番号1〜24の本発明例に比べて若干高いだけの0.55であるにも拘わらず微量油潤滑切削性が低いのは、C増量により強度そのものが高くなっているために200℃での0.2%耐力自身が高くなっているためである。
本発明の微量油潤滑加工用鋼材は、微量油潤滑切削用として利用することができる。なお、微量油潤滑切削法は、エネルギー消費が少ないばかりか環境に優しく、しかも、切削加工効率を高めることができるとともに加工精度も維持することができる技術である。このため、本発明の微量油潤滑加工用鋼材を用いることで、地球環境の保護やコスト低減を図ることができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.30〜0.46%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.08%以下、S:0.01〜0.12%、N:0.010%以下、Al:0.002〜0.03%及びTi:0〜0.03%を含むとともに、少なくとも下記の(1)式又は(2)式のいずれかを満たし、残部はFe及び不純物の化学組成で、組織がフェライト率が15〜65%のフェライトパーライト組織からなることを特徴とする微量油潤滑加工用鋼材。
    Al/N≧2・・・(1)
    Ti/N≧3・・・(2)
    なお、(1)式及び(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Cr:0.01〜0.8%及びV:0.01〜0.3%のうちの1種以上を含有する請求項1に記載の微量油潤滑加工用鋼材。
  3. Feの一部に代えて、質量%で、Nd:0.005〜0.05%及びNb:0.005〜0.1%のうちの1種以上を含有する請求項1又は2に記載の微量油潤滑加工用鋼材。
  4. Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0005〜0.005%を含有する請求項1から3までのいずれかに記載の微量油潤滑加工用鋼材。
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