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JP2005116232A - 電子放出素子及びその製造方法 - Google Patents

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JP2005116232A JP2003346091A JP2003346091A JP2005116232A JP 2005116232 A JP2005116232 A JP 2005116232A JP 2003346091 A JP2003346091 A JP 2003346091A JP 2003346091 A JP2003346091 A JP 2003346091A JP 2005116232 A JP2005116232 A JP 2005116232A
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幸久 武内
Tsutomu Nanataki
七瀧  努
Iwao Owada
大和田  巌
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Abstract

【課題】誘電体にて構成されたエミッタとなる物質を有する電子放出素子において、低い駆動電圧で電子放出を行うことができるようにする。
【解決手段】電子放出素子10A1は、板状のエミッタ部14と、該エミッタ部14の表面に形成されたカソード電極16と、エミッタ部14の裏面に形成されたアノード電極とを有する。そして、カソード電極16の外周縁部42とエミッタ部14の表面との間には、隙間50が形成されている。この隙間50は、エミッタ部14の表面と外周縁部42の下面51とが接触してトリプルジャンクションAとして構成される基端54から、外周縁部42の先端56に向かって拡開するようにして形成されている。
【選択図】図13

Description

本発明は、エミッタとなる物質に形成された第1の電極と第2の電極とを有する電子放出素子及びその製造方法に関する。
近時、電子放出素子は、カソード電極及びアノード電極を有し、フィールドエミッションディスプレイ(FED)やバックライトのような種々のアプリケーションに適用されている。FEDに適用する場合、複数の電子放出素子を2次元的に配列し、これら電子放出素子に対して、複数の蛍光体を、所定の間隔をもってそれぞれ配置するようにしている。
このような電子放出素子の従来例としては、例えば、特許文献1〜5があるが、いずれもエミッタ部に誘電体を用いていないため、対向電極間にフォーミング加工若しくは微細加工が必要となったり、電子放出のために高電圧を印加しなければならず、また、パネル製作工程が複雑で製造コストが高くなるという問題がある。
そこで、エミッタ部を誘電体で構成することが考えられているが、誘電体からの電子放出として以下の非特許文献1〜3にて諸説が述べられている。
特開平1−311533号公報 特開平7−147131号公報 特開2000−285801号公報 特公昭46−20944号公報 特公昭44−26125号公報 安岡、石井著「強誘電体陰極を用いたパルス電子源」応用物理、第68巻、第5号、p546〜550(1999) V.F.Puchkarev, G.A.Mesyats, On the mechanism of emission from the ferroelectric ceramic cathode, J.Appl.Phys., vol. 78, No. 9, 1 November, 1995, p. 5633-5637 H.Riege, Electron emission ferroelectrics - a review, Nucl. Instr. and Meth. A340, p. 80-89(1994)
上述した従来の電子放出素子においては、誘電体の表面、誘電体と上部電極との界面、誘電体内部の欠陥準位に拘束された電子を誘電体の分極反転によって放出するようにしている。つまり、誘電体にて分極反転さえ起きれば、印加電圧パルスの電圧レベルに依存せず、放出電子量はほぼ一定となる。
しかしながら、電子放出が安定せず、電子放出回数はたかだか数万回程度までであり、実用性に乏しいという問題がある。このように、従来においては、誘電体にて構成されたエミッタ部を有する電子放出素子の効果を見出すまでには至っていない。
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、誘電体にて構成されたエミッタとなる物質の表面に第1の電極と第2の電極とが形成された電子放出素子及びその製造方法に関して、前記第1の電極と前記第2の電極との間に駆動電圧を印加して、前記エミッタとなる物質から電子放出を行う場合に、より低い駆動電圧で電子放出を行うことができる電子放出素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る電子放出素子は、誘電体で構成されたエミッタとなる物質と、前記エミッタとなる物質の第1の面に接して形成された第1の電極と、前記エミッタとなる物質の第2の面に接して形成された第2の電極とを有し、少なくとも前記第1の電極の外周縁部と、前記エミッタとなる物質の前記第1の面との間には隙間が設けられ、前記エミッタとなる物質の前記第1の面と、該第1の面に対向する前記外周縁部の下面との接触によって基端が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、前記エミッタとなる物質の分極反転を発生させるための駆動電圧が印加されることによって、前記外周縁部の先端と前記基端とに電界集中が発生して、電子が放出されることを特徴とする(請求項1)。
この電子放出素子では、第1の面と第1の電極と該電子放出素子の周囲の媒質(例えば、真空)との接触箇所においてトリプルジャンクションが形成され、第2の面と第2の電極と前記媒質との接触箇所に他のトリプルジャンクションが形成される。そのため、第1の電極と第2の電極との間に駆動電圧が印加されると、上記したトリプルジャンクションにおいて電界集中が発生する。
ここで、トリプルジャンクションとは、第1又は第2の電極とエミッタとなる物質と真空との接触により形成される電界集中部として定義される。なお、前記トリプルジャンクションには、第1又は第2の電極とエミッタとなる物質と真空が1つのポイントとして存在する3重点も含まれる。
また、駆動電圧は、例えば、パルス電圧あるいは交流電圧のように、時間によって電圧の極性が反転する電圧として定義される。
前記駆動電圧の印加によって、前記エミッタとなる物質の内部では、前記第1の電極と第2の電極との間の電界分布に基づいて分極が発生する。特に、前記エミッタとなる物質のうち、電界集中が発生している前記トリプルジャンクション近傍の前記エミッタとなる物質の内部では、大きな分極が発生する。
このような分極が発生する場合において、駆動電圧の極性を反転させると、前記トリプルジャンクション近傍の前記エミッタとなる物質の内部において、大きな分極反転が発生する。これにより、少なくとも第1の電極から電子が引き出され、その電子の一部は、前記エミッタとなる物質の表面に衝突する。前記衝突した電子は前記表面において反射するか、あるいは前記表面から2次電子を放出させる。あるいはまた、引き出された電子の一部は、エミッタとなる物質に衝突することなく電子放出素子の外部に放出される。このようにして、電子放出素子から電子が放出される。
この場合、エミッタとなる物質の内部において大きな分極が発生している程、駆動電圧の極性を反転した際に大きな分極反転が得られる。これによって、第1又は第2の電極から引き出される電子数も多くなり、エミッタとなる物質からの放出電子数も増加する。従って、トリプルジャンクションを設けるだけで、電子放出素子の電子放出効率を向上させることができる。
本発明に係る電子放出素子では、上記したトリプルジャンクションを、(1)第1の電極の外周縁部と前記エミッタとなる物質の第1の面と真空との接触箇所、(2)第2の電極の外周縁部と前記エミッタとなる物質の第2の面と真空との接触箇所に、それぞれ形成している。
そのため、前記基端の近傍で大きな分極反転が発生し、且つ、前記先端の近傍まで分極反転のしみ出しが起こることにより、第1の電極の表面のうち、前記トリプルジャンクションの近傍から前記先端の近傍までの部分から電子を引き出すことができ、第1の面のうち、前記基端の近傍から前記先端の近傍に対向するに至る範囲において、電子を放出することができる。
このように、この電子放出素子では、隙間を形成することにより、エミッタとなる物質の第1の面の電子放出面積を増大することができる。従って、電子放出素子の電子放出効率が向上する。
しかも、外周縁部を剥離することにより電子放出面積が向上するので、該外周縁部の距離を増加するだけで電子放出効率が向上する。従って、例えば、リング状やくし歯状のように、外観が複雑な電極が好適である。なお、前記外周縁部以外の前記第1の電極の大部分はエミッタとなる物質と密着させる役割を果たす。
また、前記外周縁部の前記先端を先鋭状とすれば(請求項2)、該先端の電界集中はより一層強化され、さらに大きな分極及び分極反転を得ることができる。
さらに、前記エミッタとなる物質の前記第1の面と、前記外周縁部の前記下面との接触によって形成される角度は、90°以下であることが好ましい(請求項3)。
また、本発明に係る電子放出素子は、誘電体で構成されたエミッタとなる物質と、前記エミッタとなる物質の第1の面に接して形成された第1の電極と、前記エミッタとなる物質の第2の面に接して形成された第2の電極とを有し、前記第1の面に前記第1の電極を投影し、前記第2の面に前記第2の電極を投影し、前記第1の電極の投影像と前記第2の電極の投影像とを比較した場合、前記第2の電極の投影像が前記第1の電極の投影像からはみ出していることを特徴とする(請求項4)。
この電子放出素子では、第1の電極の投影像からはみ出した第2の電極の投影像の一部に対応するエミッタとなる物質の箇所において大きな分極及び分極反転が得られるので、第1の電極からの電子の引き出しが容易になり、電子放出効率を向上させることができる。
この場合、前記第2の電極の投影像の外周縁部のうち、前記第1の電極の投影像の外周縁部からはみ出している部分は、該第1の電極の投影像の外周縁部の先端から最大で1〜500μmはみ出していることが好ましい(請求項5)。1μm未満であると大きな分極が得られる箇所が少なくなるので、電子放出効率が低下する。一方、500μmを超えてはみ出していると、エミッタとなる物質の露出箇所が必要以上に増加するので、トリプルジャンクションにおいて電界集中が発生していても、大きな分極が得られない箇所も増加するので、電子放出素子の電子放出効率が却って低下する。
上述した全ての電子放出素子において、少なくとも第1の電極はサーメットから構成されていることが好ましい(請求項6)。この場合、前記サーメットは、例えば、金、白金又は銀と、圧電/電歪材料とから構成されることが好ましい(請求項7)。そして、前記圧電/電歪材料は、体積比で10〜40%であることが好ましい(請求項8)。10%未満では第1の電極とエミッタとなる物質との密着性が向上せず、前記第1の電極が前記エミッタとなる物質から剥離するおそれがある。一方、40%を超えると、金、白金又は銀が第1の電極から分離するおそれがある。
また、第1の電極と第2の電極との間に駆動電圧を印加した際に発生する前記エミッタとなる物質の分極反転による疲労を抑制するために、少なくとも前記第1の電極は金属酸化物から構成されていることが好ましい(請求項9)。このような材料としては、例えば、RuO2、IrO2、SrRuO3又はLa1-xSrxCoO3がある(請求項10)。
また、エミッタとなる物質は高融点の誘電体で構成することが好ましい(請求項11)。この場合、前記誘電体はPbを含まない材料であることが好ましく(請求項12)、このような材料には、例えば、BaTiO3又はBa1-xSrxTiO3がある(請求項13)。
また、エミッタとなる物質は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に駆動電圧を印加した際に発生する前記エミッタとなる物質の分極反転による疲労を抑制する材料で構成されていることが好ましい(請求項14)。この場合、前記分極反転による疲労を抑制する材料としては、例えば、タンタル酸ビスマス酸ストロンチウムがある(請求項15)。
また、上述した電子放出素子は基板上に形成されていてもよい。この場合、前記第2の電極が基板の上面に複数形成され、前記複数の第2の電極を覆うように前記エミッタとなる物質が前記基板の上面に形成され、前記エミッタとなる物質の上面に、前記第2の電極に対向して前記第1の電極が形成されている場合に、前記エミッタとなる物質の間には、前記基板の上面を露出させるスリットが形成されている(請求項16)。
また、上述した電子放出素子を基板上に形成する他の形態では、誘電体が基板の上面に複数形成され、前記第2の電極が前記複数の誘電体の上面にそれぞれ形成され、前記第2の電極の上面と前記誘電体の上面とに前記エミッタとなる物質が形成され、前記各エミッタとなる物質の上面に、前記第2の電極に対向して前記第1の電極が形成されている場合に、前記基板の上面に配線パターンが形成され、前記第2の電極の一部と前記配線パターンとが接続されていることを特徴とする(請求項17)。
また、上述した電子放出素子に対して、前記エミッタとなる物質の上方のうち、少なくとも第1の電極に対向した位置に第3の電極が配置され、該第3の電極の表面には蛍光体が形成されているようにしてもよい(請求項18)。この場合、エミッタとなる物質から放出された電子が蛍光体に衝突して該蛍光体を励起することにより、該蛍光体から光を発光させることができる。このように、本発明に係る電子放出素子は、例えば、ディスプレイの電子放出源として利用することが可能である。
本発明に係る電子放出素子の製造方法は、誘電体で構成されたエミッタとなる物質の上面に接して上面電極を形成し、前記エミッタとなる物質の下面に接して下面電極を形成し、前記上面電極と前記下面電極との間に高電圧を印加して、少なくとも前記上面電極の外周縁部と前記エミッタとなる物質の上面との間に隙間を設けることを特徴とする(請求項19)。
ここで高電圧とは、交流あるいはパルスのような極性が反転する高電圧であればよい。このような高電圧を印加すると、上面電極の外周縁部とエミッタとなる物質の上面との間で、非常に大きな電子放出が起こる。大きな電子放出が発生する箇所においては、プラズマが発生する場合もある。このような電子放出により、上面電極の外周縁部は溶融して捲れ上がり、捲れ上がった外周縁部はエミッタとなる物質から剥離するので、前記外周縁部と前記エミッタとなる物質との間には隙間が形成される。なお、前記高電圧には、電子放出素子から電子放出を行うために上面電極と下面電極との間に印加される駆動電圧も含まれる。
このような隙間の発生により、上面電極で覆われていないエミッタとなる物質の一部の他に、前記隙間を形成するエミッタとなる物質の一部も電子放出部として利用することができる。また、駆動電圧を第1の電極と第2の電極との間に印加すると、外周縁部の先端と基端とに電界集中が発生し、エミッタとなる物質の内部において大きな分極及び分極反転を発生させることができる。従って、第1の電極からの電子の引き出しが容易になり、電子放出効率の高い電子放出素子を提供することができる。
前記隙間を設ける際に、前記外周縁部の先端を先鋭状に形成すれば(請求項20)、駆動電圧を印加した際の該先端での電界集中がより一層強化され、エミッタ部となる物質における分極反転の際に前記先端からの電子の引き出しが容易になるので好ましい。
また、前記エミッタとなる物質の上方のうち、少なくとも前記上面電極に対向した位置に他の電極を配置し、前記他の電極の表面に蛍光体を形成し、前記上面電極と前記下面電極との間に前記高電圧を印加し、且つ、前記他の電極に他の電圧を印加することにより、少なくとも前記エミッタとなる物質の上面から放出された電子を前記蛍光体に衝突させて、該蛍光体を励起して発光を行わせる場合に、前記発光の際の前記蛍光体の輝度を測定することにより、前記隙間の完成度を判定するようにしてもよい(請求項21)。
ここで、他の電圧とは、放出された電子を加速させて蛍光体に衝突させるための電圧であり、例えば、電子の加速に用いられるコレクタ電圧も含まれる。
この場合、蛍光体の輝度は、電子放出素子の電子放出部であるエミッタとなる物質の上面からの放出電子数あるいは該電子放出素子の電子放出効率に対応する。すなわち、蛍光体の輝度を測定することにより、製造された電子放出素子の電子放出効率を調べることが可能となる。従って、隙間の周辺部を直接観察して該隙間の完成度を判定するような煩雑な作業は必要なく、輝度を測定しながら電圧を調整するだけで隙間を容易に形成することができる。これにより、所望の電子放出効率を有する電子放出素子を得ることができる。
さらに、上記した電子放出素子の製造方法は、(1)電源から抵抗を介して前記高電圧を印加する場合に、前記抵抗の抵抗値を低減することにより、前記隙間を形成する(請求項22)、(2)前記高電圧の電圧値を大きくすることにより、前記隙間を形成する(請求項23)、(3)前記高電圧の周波数を高くすることにより、前記隙間を形成する(請求項24)のいずれか又は複数の工程を適宜組み合わせることにより、隙間を形成することができる。
また、上記した電子放出素子の製造方法の応用例としては、例えば、ディスプレイの電子放出源として用いる場合である。すなわち、出荷前の最終検査において、作業者が蛍光体の輝度を見ながら第1の電極と第2の電極との間に印加される高電圧を調整して、前記輝度を所定の輝度に調整することにより隙間を形成すれば、所望の輝度を有するディスプレイを出荷することができる。
あるいは、ディスプレイを長期間にわたり使用しているうちに輝度が低下した場合には、作業者が、上記した電子放出素子の製造方法を、前記ディスプレイの輝度を向上させるというメンテナンス作業として利用することも可能である。
あるいはまた、ディスプレイの内部に上記した電子放出素子の製造方法の機能を有する装置を予め組み込んでおき、輝度が低下したときに消費者が前記装置を使用することにより該ディスプレイの輝度を所望の輝度に調整できるようにすることにも利用可能である。
また、本発明に係る電子放出素子の製造方法は、基板の上面に複数の下面電極を形成し、前記複数の下面電極を覆うように誘電体を前記基板の上面に形成し、前記誘電体の上面に前記各下面電極と対向して上面電極を形成し、前記上面電極及び前記下面電極に挟まれていない前記誘電体の一部を除去することにより、前記上面電極と前記下面電極とに挟まれた前記誘電体の残部をエミッタとなる物質として構成することを特徴とする(請求項25)。
また、本発明に係る電子放出素子の製造方法は、基板の上面に複数の誘電体を形成し、誘電体で構成されたエミッタとなる物質と、前記エミッタとなる物質の上面に形成された上面電極と、前記エミッタとなる物質の下面に形成された下面電極とを有する複数の電子放出素子を、前記下面電極の下面と前記複数の誘電体の上面とが接するように、前記各電子放出素子を前記各誘電体にそれぞれ配置し、前記基板の上面に配線パターンを形成してから前記下面電極と該配線パターンとを接続することを特徴とする(請求項26)。
本発明に係る電子放出素子では、第1の電極の外周縁部とエミッタとなる物質の上面との間に隙間が形成されているので、前記第1の電極と第2の電極との間に駆動電圧を印加した際に、前記外周縁部の基端と先端とにおいて大きな電界集中が発生する。これにより、前記基端近傍のエミッタとなる物質の内部において、大きな分極及び分極反転が発生し、且つ前記先端に対向するエミッタとなる物質の内部にまで分極反転のしみ出しが起こり、低い駆動電圧であってもエミッタとなる物質から電子放出を行うことが可能となる。
また、本発明に係る電子放出素子の製造方法では、第1の電極の外周縁部とエミッタとなる物質の上面との間に隙間を形成して電子放出素子を製造するので、前記電子放出素子の前記第1の電極と第2の電極との間に駆動電圧を印加した際に、前記外周縁部の基端と先端とにおいて大きな電界集中が発生する。これにより、前記基端近傍のエミッタとなる物質の内部において、大きな分極及び分極反転が発生し、且つ前記先端に対向するエミッタとなる物質の内部にまで分極反転のしみ出しが起こり、低い駆動電圧であってもエミッタとなる物質から電子放出を行うことが可能となる。
以下、本発明に係る電子放出素子及びその製造方法の実施の形態例を、図1〜図31を参照しながら説明する。
先ず、本実施の形態に係る電子放出素子は、ディスプレイとしての用途のほか、電子線照射装置、光源、LEDの代替、電子部品製造装置、電子回路部品に適用することができる。
電子線照射装置における電子線は、現在普及している紫外線照射装置における紫外線に比べ、高エネルギーで吸収性能に優れる。適用例としては、半導体装置では、ウェハーを重ねる際における絶縁膜を固化する用途、印刷の乾燥では、印刷インキをむらなく硬化する用途や、医療機器をパッケージに入れたまま殺菌する用途等がある。
光源としての用途は、高輝度、高効率仕様向けであって、例えば超高圧水銀ランプ等が使用されるプロジェクタの光源用途等がある。本実施の形態に係る電子放出素子を光源に適用した場合、小型化、長寿命、高速点灯、水銀フリーによる環境負荷低減という特徴を有する。
LEDの代替用途としては、屋内照明、自動車用ランプ、信号機等の面光源用途や、チップ光源、信号機、携帯電話向けの小型液晶ディスプレイのバックライト等がある。
電子部品製造装置の用途としては、電子ビーム蒸着装置等の成膜装置の電子ビーム源、プラズマCVD装置におけるプラズマ生成用(ガス等の活性化用)電子源、ガス分解用途の電子源等がある。また、テラHz駆動の高速スイッチング素子、大電流出力素子といった真空マイクロデバイス用途もある。他に、プリンタ用部品、つまり、感光ドラムを感光させる発光デバイスや、誘電体を帯電させるための電子源としても好ましく用いられる。
電子回路部品としては、大電流出力化、高増幅率化が可能であることから、スイッチ、リレー、ダイオード等のデジタル素子、オペアンプ等のアナログ素子への用途がある。
そして、第1の実施の形態に係る電子放出素子10Aは、図1に示すように、板状のエミッタ部(エミッタとなる物質)14と、該エミッタ部14の表面に形成された第1の電極(カソード電極)16と、エミッタ部14の裏面に形成された第2の電極(アノード電極)20と、カソード電極16とアノード電極20との間に、抵抗R1を介して駆動電圧Vaを印加するパルス発生源22とを有する。
図1の例では、アノード電極20を抵抗R2を介してGND(グランド)に接続することにより、該アノード電極20の電位をゼロにした場合を示しているが、もちろん、ゼロ電位以外の電位にしてもかまわない。なお、カソード電極16とアノード電極20との間への駆動電圧Vaの印加は、例えば、図2に示すように、カソード電極16に延びるリード電極17とアノード電極20に延びるリード電極21を通じて行われる。
そして、この電子放出素子10Aをディスプレイの画素として利用する場合は、図1に示すように、カソード電極16の上方に、例えば透明電極にて構成されたコレクタ電極24が配置され、該コレクタ電極24には蛍光体28が塗布される。なお、コレクタ電極24にはバイアス電圧源102(バイアス電圧Vc)が抵抗R3を介して接続される。
また、第1の実施の形態に係る電子放出素子10Aは、当然のことながら、真空空間内に配置される。この電子放出素子10Aには、電界集中部Aが存在するが、この電界集中部Aは、カソード電極16/エミッタ部14/真空の接触により形成されるトリプルジャンクションとして定義することができる。なお、前記トリプルジャンクションには、カソード電極16/エミッタ部14/真空が1つのポイントとして存在する3重点も含まれる。
そして、雰囲気中の真空度は、102〜10-6Paが好ましく、より好ましくは10-3〜10-5Paである。
このような範囲を選んだ理由は、102Paを超える低真空では、(1)空間内に気体分子が多いため、プラズマを生成し易く、プラズマが多量に発生され過ぎると、その正イオンが多量にカソード電極16に衝突して損傷を進めるおそれや、(2)放出電子がコレクタ電極24及び蛍光体28に到達する前に気体分子に衝突してしまい、コレクタ電位(Vc)で十分に加速した電子による蛍光体28の励起が十分に行われなくなるおそれがあるからである。
一方、10-6Pa未満の高真空では、電界集中部Aから電子を放出し易いものの、高真空空間を保持するためにディスプレイパネル等の構造体の支持部が大型化したり、外部から高真空空間を密封する真空シール部が大型化し、ディスプレイの小型化にとり不利になるという問題があるからである。
ここで、エミッタ部14は誘電体にて構成される。誘電体は、好適には、比誘電率が比較的高い、例えば1000以上の誘電体を採用することができる。このような誘電体としては、チタン酸バリウムの他に、ジルコン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛等、又はこれらの任意の組み合わせを含有するセラミックスや、主成分がこれらの化合物を50重量%以上含有するものや、前記セラミックスに対してさらにランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン等の酸化物、若しくはこれらのいずれかの組み合わせ、又は他の化合物を適切に添加したもの等を挙げることができる。
例えば、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)とチタン酸鉛(PT)の2成分系nPMN−mPT(n、mをモル数比とする)においては、PMNのモル数比を大きくすると、キュリー点が下げられて、室温での比誘電率を大きくすることができる。
特に、n=0.85〜1.0、m=1.0−nでは比誘電率が3000以上となり好ましい。例えば、n=0.91、m=0.09では室温での比誘電率15000が得られ、n=0.95、m=0.05では室温での比誘電率20000が得られる。
次に、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、チタン酸鉛(PT)、ジルコン酸鉛(PZ)の3成分系では、PMNのモル数比を大きくする他に、正方晶と擬立方晶又は正方晶と菱面体晶のモルフォトロピック相境界(MPB:Morphotropic Phase Boundary)付近の組成とすることが比誘電率を大きくするのに好ましい。例えば、PMN:PT:PZ=0.375:0.375:0.25にて比誘電率5500、PMN:PT:PZ=0.5:0.375:0.125にて比誘電率4500となり、特に好ましい。さらに、絶縁性が確保できる範囲内でこれらの誘電体に白金のような金属を混入して、誘電率を向上させるのが好ましい。この場合、例えば、誘電体に白金を重量比で20%混入させるとよい。
また、エミッタ部14は、圧電/電歪層や反強誘電体層等を用いることができるが、エミッタ部14として圧電/電歪層を用いる場合、該圧電/電歪層としては、例えば、ジルコン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、マグネシウムタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛等、又はこれらのいずれかの組み合わせを含有するセラミックスが挙げられる。
主成分がこれらの化合物を50重量%以上含有するものであってもよいことはいうまでもない。また、前記セラミックスのうち、ジルコン酸鉛を含有するセラミックスは、エミッタ部14を構成する圧電/電歪層の構成材料として最も使用頻度が高い。
また、圧電/電歪層をセラミックスにて構成する場合、前記セラミックスに、さらに、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン等の酸化物、若しくはこれらのいずれかの組み合わせ、又は他の化合物を適宜添加したセラミックスを用いてもよい。また、前記セラミックスに、SiO2、CeO2、Pb5Ge311、もしくは、これらのいずれかの組み合わせを添加したセラミックスを用いてもよい。具体的には、PT−PZ−PMN系圧電材料に、SiO2を0.2wt%、もしくはCeO2を0.1wt%、もしくはPb5Ge311を1〜2wt%添加した材料であることが好ましい。
例えば、マグネシウムニオブ酸鉛とジルコン酸鉛及びチタン酸鉛とからなる成分を主成分とし、さらにランタンやストロンチウムを含有するセラミックスを用いることが好ましい。
圧電/電歪層は、緻密であっても、多孔質であってもよく、多孔質の場合、その気孔率は40%以下であることが好ましい。
エミッタ部14として反強誘電体層を用いる場合、該反強誘電体層としては、ジルコン酸鉛を主成分とするもの、ジルコン酸鉛とスズ酸鉛とからなる成分を主成分とするもの、さらにはジルコン酸鉛に酸化ランタンを添加したもの、ジルコン酸鉛とスズ酸鉛とからなる成分に対してジルコン酸鉛やニオブ酸鉛を添加したものが望ましい。
また、この反強誘電体層は、多孔質であってもよく、多孔質の場合、その気孔率は30%以下であることが望ましい。
さらに、エミッタ部14にタンタル酸ビスマス酸ストロンチウム(SrBi2Ta29)を用いた場合、分極反転疲労が小さく好ましい。このような分極反転疲労が小さい材料は、層状強誘電体化合物で、(BiO22+(Am-1m3m+12-という一般式で表される。ここで、金属Aのイオンは、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Pb2+、Bi3+、La3+等であり、金属Bのイオンは、Ti4+、Ta5+、Nb5+等である。
また、圧電/電歪/反強誘電体セラミックスに、例えば鉛ホウケイ酸ガラス等のガラス成分や、他の低融点化合物(例えば酸化ビスマス等)を混ぜることによって、焼成温度を下げることができる。
また、圧電/電歪/反強誘電体セラミックスで構成する場合、その形状はシート状の成形体、シート状の積層体、あるいは、これらを他の支持用基板に積層又は接着したものであってもよい。
また、エミッタ部14に非鉛系の材料を使用する等により、エミッタ部14を融点若しくは蒸散温度の高い材料とすることで、電子若しくはイオンの衝突に対し損傷しにくくなる。
ここで、カソード電極16とアノード電極20との間のエミッタ部14の厚さh(図1参照)の大きさについて説明すると、カソード電極16とアノード電極20との間の電圧(パルス発生源22から出力される駆動電圧Vaがカソード電極16とアノード電極20との間に印加されることによって、該カソード電極16とアノード電極20との間に現れる電圧)をVakとしたとき、E=Vak/hで表される電界Eで分極反転が行われるように、前記厚さhを設定することが好ましい。つまり、前記厚さhが小さいほど、低電圧で分極反転が可能となり、低電圧駆動(例えば100V未満)で電子放出が可能となる。
カソード電極16は、以下に示す材料にて構成される。すなわち、スパッタ率が小さく、真空中での蒸発温度が大きい導体が好ましい。例えば、Ar+で600Vにおけるスパッタ率が2.0以下で、蒸気圧1.3×10-3Paとなる温度が1800K以上のものが好ましく、白金、モリブデン、タングステン等がこれに該当する。
また、高温酸化雰囲気に対して耐性を有する導体、例えば金属単体、合金、絶縁性セラミックスと金属単体との混合物、絶縁性セラミックスと合金との混合物等によって構成され、好適には、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム、モリブデン等の高融点貴金属や、銀−パラジウム、銀−白金、白金−パラジウム等の合金を主成分とするものや、白金とセラミック材料とのサーメット材料によって構成される。さらに好適には、白金のみ又は白金系の合金を主成分とする材料によって構成される。
また、電極として、カーボン、グラファイト系の材料、例えば、ダイヤモンド薄膜、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブも好適に使用される。なお、電極材料中に添加されるセラミック材料の割合は、5〜30体積%程度が好適である。
さらに、焼成後に薄い膜が得られる有機金属ペースト、例えば白金レジネートペースト等の材料を用いることが好ましい。また、分極反転疲労を抑制する酸化物電極、例えば、酸化ルテニウム(RuO2)、酸化イリジウム(IrO2)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、La1-xSrxCoO3(例えばx=0.3や0.5)、La1-xCaxMnO3(例えばx=0.2)、La1-xCaxMn1-yCoy3(例えばx=0.2、y=0.05)、若しくはこれらを例えば白金レジネートペーストに混ぜたものが好ましい。
さらにまた、カソード電極16は、圧電/電歪材料を含有するサーメット電極を使用することにより、エミッタ部14を構成する圧電/電歪材料との密着性が強化し、耐久性が向上する。この場合、白金の厚膜ペーストに圧電/電歪材料を混入してサーメット電極を構成することが好ましい。前記圧電/電歪材料を混入する割合は、体積比で10〜40%が好ましい。10%未満であるとカソード電極16とエミッタ部14との密着性が向上しない。一方、40%を超えると、白金がカソード電極16から分離するおそれがある。
カソード電極16は、上記材料を用いて、スクリーン印刷、スプレー、コーティング、ディッピング、塗布、電気泳動法等の各種の厚膜形成法や、スパッタリング法、イオンビーム法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)、めっき等の各種の薄膜形成法による通常の膜形成法に従って形成することができ、好適には、前者の厚膜形成法によって形成するとよい。
カソード電極16の平面形状は、図2に示すように、楕円形状としてもよいし、図3に示す第1の変形例に係る電子放出素子10Aaのように方形状にしてもよい。または、図4に示す第2の変形例に係る電子放出素子10Abのように、リング状にしてもよい。あるいは、図5に示す第3の変形例に係る電子放出素子10Acのように、くし歯状にしてもよい。
カソード電極16の平面形状を方形状にすれば、方形の4つの頂点において特に大きな電界集中を得ることができるので、電子放出効率を向上させることができる。
また、カソード電極16の平面形状をリング状やくし歯状にすることによって、電界集中部Aでもあるカソード電極16/エミッタ部14/真空のトリプルジャンクションが増える。また、真空に露出するエミッタ部14の部分が増加するので、エミッタ部14のうち、電子放出部に対応する箇所の静電容量が増加し、それ以外の箇所の静電容量は減少する。これにより、電子放出効率がさらに向上し、より低い消費電力で駆動する電子放出素子10Aを実現することができる。
カソード電極16の厚みtc(図1参照)は、20μm以下であるとよく、好適には5μm以下であるとよい。従って、カソード電極16の厚みtcを100nm以下にしてもよい。特に、図6に示す第4の変形例に係る電子放出素子10Adのように、カソード電極16の厚みtcを極薄(10nm以下)とした場合には、該カソード電極16とエミッタ部14との界面から電子が放出されることになり、電子放出効率をさらに向上させることができる。
一方、アノード電極20は、カソード電極16と同様の材料及び方法によって形成されるが、好適には上記厚膜形成法によって形成する。アノード電極20の厚さも、20μm以下であるとよく、好適には5μm以下であるとよい。
エミッタ部14、カソード電極16及びアノード電極20をそれぞれ形成するたびに熱処理(焼成処理)することで、一体構造にすることができる。なお、カソード電極16及びアノード電極20の形成方法によっては、一体化のための熱処理(焼成処理)を必要としない場合もある。
エミッタ部14、カソード電極16及びアノード電極20を一体化させるための焼成処理に係る温度としては、500〜1400℃の範囲、好適には、1000〜1400℃の範囲とするとよい。さらに、膜状のエミッタ部14を熱処理する場合、高温時にエミッタ部14の組成が不安定にならないように、エミッタ部14の蒸発源と共に雰囲気制御を行いながら焼成処理を行うことが好ましい。
また、エミッタ部14を適切な部材によって被覆し、該エミッタ部14の表面が焼成雰囲気に直接露出しないようにして焼成する方法を採用してもよい。
次に、電子放出素子10Aの電子放出原理について、図1、図7〜図12Bを参照しながら説明する。
先ず、パルス発生源22から出力される駆動電圧Vaは、図7に示すように、第1の電圧Va1が出力される期間(準備期間T1)と第2の電圧Va2が出力される期間(電子放出期間T2)を1ステップとし、該1ステップが繰り返される交流パルスの波形を有する。第1の電圧Va1は、カソード電極16の電位がアノード電極20の電位よりも高い電圧であり、第2の電圧Va2は、カソード電極16の電位がアノード電極20の電位よりも低い電圧である。駆動電圧Vaの振幅Vinは、第1の電圧Va1から第2の電圧Va2を差し引いた値(=Va1−Va2)で定義することができる。
準備期間T1は、図8に示すように、カソード電極16とアノード電極20との間に第1の電圧Va1を印加してエミッタ部14を分極する期間である。第1の電圧Va1としては、図7に示すように、直流電圧でもよいが、1つのパルス電圧若しくはパルス電圧を複数回連続印加するようにしてもよい。ここで、準備期間T1は、分極処理を十分に行うために、電子放出期間T2よりも長くとることが好ましい。例えば、この準備期間T1としては100μsec以上が好ましい。これは、第1の電圧Va1の印加時の消費電力及びカソード電極16の損傷を防止する目的で、分極を行うための第1の電圧Va1の絶対値を、第2の電圧Va2の絶対値よりも小さく設定しているからである。
また、第1の電圧Va1及び第2の電圧Va2は、各々正負の極性に分極処理を確実に行う電圧レベルであることが好ましく、例えばエミッタ部14の誘電体が抗電圧を有する場合、第1の電圧Va1及び第2の電圧Va2の絶対値は、抗電圧以上であることが好ましい。
電子放出期間T2は、カソード電極16とアノード電極20との間に第2の電圧Va2が印加される期間である。カソード電極16とアノード電極20との間に第2の電圧Va2が印加されることによって、図9に示すように、少なくともエミッタ部14の一部が分極反転される。ここで、分極反転される部位は、カソード電極16の真下部分はもちろんのこと、真上にカソード電極16を有しておらず、表面が露出した部分についても、カソード電極16の近傍では、同様に分極反転が行われる。つまり、カソード電極16の近傍で、エミッタ部14の表面が露出した部分は、分極のしみ出しが起きているからである。この分極反転によって、カソード電極16とその近傍の双極子モーメントの正極側とで局所的な電界集中が発生することにより、カソード電極16から1次電子が引き出され、カソード電極16から引き出された前記1次電子がエミッタ部14に衝突して、該エミッタ部14から2次電子が放出される。
この第1の実施の形態のように、カソード電極16とエミッタ部14と真空とによる電界集中部A(トリプルジャンクション)を有する場合には、カソード電極16のうち、トリプルジャンクションの近傍部分から1次電子が引き出され、このトリプルジャンクションから引き出された1次電子がエミッタ部14に衝突して、該エミッタ部14から2次電子が放出される。なお、カソード電極16の厚みが極薄(〜10nm)である場合には、該カソード電極16とエミッタ部14との界面から電子が放出されることになる。
ここで、第2の電圧Va2が印加されることによる作用をさらに詳細に説明する。
先ず、カソード電極16とアノード電極20との間に第2の電圧Va2が印加されることによって、上述したように、エミッタ部14から2次電子が放出されることになる。すなわち、分極が反転あるいは変化されたエミッタ部14のうち、カソード電極16の近傍に帯電する双極子モーメントが放出電子を引き出すこととなる。
つまり、カソード電極16のうち、エミッタ部14との界面近傍において局所的なカソードが形成され、エミッタ部14のうち、カソード電極16の近傍の部分に帯電している双極子モーメントの+極が局所的なアノードとなってカソード電極16から1次電子が引き出され、その引き出された電子のうち、一部の電子がコレクタ電極24(図1参照)に導かれて蛍光体28を励起し、外部に蛍光体発光として具現されることになる。また、前記引き出された電子のうち、一部の電子がエミッタ部14に衝突して、エミッタ部14から2次電子が放出され、該2次電子がコレクタ電極24に導かれて蛍光体28を励起することになる。
ここで、2次電子の放出分布について説明する。図11に示すように、2次電子は、ほとんどエネルギーが0に近いものが大多数であり、エミッタ部14の表面から真空中に放出されると、周囲の電界分布のみに従って運動することになる。つまり、2次電子は、初速がほとんど0(m/sec)の状態から周囲の電界分布に従って加速される。このため、図1に示すように、エミッタ部14とコレクタ電極24間に電界Eaが発生しているとすると、2次電子は、この電界Eaに沿って、その放出軌道が決定される。つまり、直進性の高い電子源を実現させることができる。このような初速の小さい2次電子は、1次電子のクーロン衝突でエネルギーを得て、エミッタ部14の外へ飛び出した固体内電子である。
ところで、図11からもわかるように、1次電子のエネルギーE0に相当するエネルギーをもった2次電子が放出されている。この2次電子は、カソード電極16から放出された1次電子がエミッタ部14の表面近くで散乱したもの(反射電子)である。そして、本明細書内で述べている2次電子は、前記反射電子やオージェ電子も含んで定義するものとする。
カソード電極16の厚みが極薄(〜10nm)である場合、カソード電極16から放出された1次電子は、カソード電極16とエミッタ部14の界面で反射してコレクタ電極24に向かうことになる。
ここで、図9に示すように、電界集中部Aでの電界の強さEAは、局所的なアノードと局所的なカソードとの間の電位差をV(la、lk)、局所的なアノードと局所的なカソードとの間の距離をdAとしたとき、EA=V(la、lk)/dAの関係がある。この場合、局所的なアノードと局所的なカソードとの間の距離dAは非常に小さいことから、電子放出に必要な電界の強さEAを容易に得ることができる(電界の強さEAが大きくなっていることを図9上では実線矢印によって示している)。これは、電圧Vakの低電圧化につながる。
そして、カソード電極16からの電子放出がそのまま進行すれば、ジュール熱によって蒸散して浮遊するエミッタ部14の構成原子が前記放出された電子によって正イオンと電子とに電離され、この電離によって発生した電子がさらにエミッタ部14の構成原子等を電離するため、指数関数的に電子が増え、これが進行して電子と正イオンが中性的に存在すると局所プラズマとなる。なお、2次電子も前記電離を促進させることが考えられる。前記電離によって発生した正イオンが例えばカソード電極16に衝突することによってカソード電極16が損傷することも考えられる。
しかし、この第1の実施の形態に係る電子放出素子10Aでは、図10に示すように、カソード電極16から引き出された電子が、局所アノードとして存在するエミッタ部14の双極子モーメントの+極に引かれ、カソード電極16の近傍におけるエミッタ部14の表面の負極性への帯電が進行することになる。その結果、電子の加速因子(局所的な電位差)が緩和され、2次電子放出に至るポテンシャルが存在しなくなり、エミッタ部14の表面における負極性の帯電がさらに進行することになる。
そのため、双極子モーメントにおける局所的なアノードの正極性が弱められ、局所的なアノードと局所的なカソード間の電界の強さEAが小さくなり(電界の強さEAが小さくなっていることを図10上では破線矢印によって示している)、電子放出は停止することになる。
すなわち、図12Aに示すように、カソード電極16とアノード電極20間に印加される駆動電圧Vaとして、第1の電圧Va1を例えば+50V、第2の電圧Va2を例えば−100Vとしたとき、電子放出が行われたピーク時点P1におけるカソード電極16とアノード電極20との間の電圧変化ΔVakは、20V以内(図12Bの例では10V程度)であってほとんど変化がない。そのため、正イオンの発生はほとんどなく、正イオンによるカソード電極16の損傷を防止することができ、電子放出素子10Aの長寿命化において有利となる。
この電子放出素子10Aでは、電子放出期間T2に続く、次サイクルの準備期間T1において、カソード電極16の電位が再びアノード電極20の電位よりも高くなる(エミッタ部14の表面に双極子モーメントの−極が再び現れる)ので、電子放出停止を引き起こしたエミッタ部14の表面における負極性帯電が消去することになる。従って、交流パルスを印加することによって、毎回の電子放出期間T2において、十分な電界強度EAを確保することができ、安定に電子放出を行うことができる。
ここで、エミッタ部14の絶縁破壊電圧として、少なくとも10kV/mmを有していることが好ましい。この例では、エミッタ部14の厚さh(図1参照)を例えば20μmとしたとき、カソード電極16とアノード電極20間に−100Vの駆動電圧を印加しても、エミッタ部14が絶縁破壊に至ることはない。
ところで、エミッタ部14から放出された電子が再びエミッタ部14に衝突したり、エミッタ部14の表面近傍での電離等によって、該エミッタ部14が損傷を受け、結晶欠陥が誘発し、構造的にも脆くなるおそれがある。
そこで、エミッタ部14を、真空中での蒸発温度が大きい誘電体で構成することが好ましく、例えばPbを含まないBaTiO3やBa1-xSrxTiO3等にて構成するようにしてもよい。これにより、エミッタ部14の構成原子がジュール熱によって蒸散しにくくなり、電子による電離の促進を妨げることができる。これは、エミッタ部14の表面を保護する上で有効となる。
また、コレクタ電極24のパターン形状や電位を適宜変更したり、エミッタ部14とコレクタ電極24との間に図示しない制御電極等を配置することによって、エミッタ部14とコレクタ電極24間の電界分布を任意に設定することにより、2次電子の放出軌道を制御し易くなり、電子ビーム径の収束、拡大、変形も容易になる。
次に、第1の実施の形態に係る電子放出素子10Aの第1の具体例に係る電子放出素子10A1について説明する。この第1の具体例に係る電子放出素子10A1は、図13に示すように、カソード電極16の外周縁部42とエミッタ部14の表面との間に隙間50が形成されている。
この場合、隙間50は、エミッタ部14の表面と外周縁部42の下面51とが接触してトリプルジャンクションAとして構成される基端54から、外周縁部42の先端56に向かって拡開するように形成されている。
そして、外周縁部42の先端56は先鋭状に形成されていることが好ましい。また、隙間50の最大間隔dgは、0.1μm〜10μmであることが好ましい。また、前記外周縁部42の下面51とエミッタ部14の表面とのなす角度θは、90°以下であることが好ましい。
この電子放出素子10A1においてカソード電極16とアノード電極20との間に駆動電圧Vaを印加すると、準備期間T1では、先端56に電界集中が発生すると共に、トリプルジャンクションAである基端54にも電界集中が発生し、図14Aに示すように、基端54の近傍と外周縁部42の先端56の近傍において電界の集中が発生している。
この電界により、準備期間T1では、図14Bに示すような、基端54の近傍のエミッタ部14の内部において、大きな分極が発生する。また、先端56が先鋭状に形成されていれば、先端56に集中する電界は大きくなる。
これにより、準備期間T1においては、トリプルジャンクションAの基端54近傍におけるエミッタ部14から、先端56に対向するエミッタ部14の近傍まで分極のしみ出しが発生する。従って、トリプルジャンクションAを形成する基端54及び電極形状により電界の集中する先端56の近傍から容易に電子を引き出すことができる。
そして、引き出された電子は、(1)エミッタ部14の表面で反射して反射電子としてエミッタ部14の表面から蛍光体28に向かって放出されるか、(2)エミッタ部14の表面に衝突して該表面から2次電子を発生させ、該2次電子を蛍光体28に向かって放出させるか、(3)直接蛍光体28に向かって放射されるか、のいずれかの動作を行う。
また、(1)〜(3)についても、(A)図15Aに示すように、引き出された電子がエミッタ部14の表面を反射しながら進行していく場合や、(B)図15Bに示すように、引き出された電子あるいは2次電子がエミッタ部14の表面を反射しながら、進行する過程で新たに2次電子を発生させて、電子増倍を行う場合もあり得る。
上述した電子放出作用により電子放出素子10A1から電子が放出される。
このように第1の具体例に係る電子放出素子10A1では、カソード電極16の外周縁部42とエミッタ部14との間に隙間50が形成されているので、隙間50の下面に対向するエミッタ部14の一部についても、分極反転を行う電子放出部として利用することができる。これにより、電子放出素子10A1の電子放出面積が増大する。
さらに、トリプルジャンクションAとしての基端54に加え、外周縁部42の先端56にも電界集中が発生する。基端54近傍のエミッタ部14から、先端56に対向するエミッタ部14の近傍まで、分極反転のしみ出しが起きることと、先端56の電界集中が発生することとにより、基端54近傍だけでなく、先端56に対向するエミッタ部14からも電子を放出することが可能となる。
また、外周縁部42の外周距離を大きくするだけで電子放出素子10A1の電子放出面積を増大させることができるので、図2〜図5に示すような電極構造を好適に用いることができる。
次に、上記した電子放出素子10A1において隙間50を形成する方法(第1及び第2の製造方法)について説明する。
第1の製造方法は、図16に示すように、エミッタ部14に接して形成されたカソード電極16とアノード電極20との間に高電圧Vkを印加することにより隙間50を形成する方法である。
ここで、高電圧Vkとは、図17に示すように、時間Tk毎に電圧が正電圧Vkpと負電圧Vknとに変化する周波数fを有する交流パルスであり、駆動電圧Vaも高電圧Vkに含まれる。
この場合、エミッタ部14の表面に形成されたカソード電極16に抵抗Rkを介してパルス発生源52の一端を接続し、アノード電極20は接地する。パルス発生源52の他端は接地する。
このような配置で、先ず、図16及び図18のフローチャートに示すように、コレクタ電極24にバイアス電圧Vcを供給した状態で、パルス発生源52からカソード電極16に高電圧Vkを供給する(ステップS1)。これにより、カソード電極16のトリプルジャンクションAから電子が引き出され、エミッタ部14から蛍光体28に向かって電子が放出される。前記放出電子が蛍光体28に到達すると、該蛍光体28が励起されて光を発光する。その際の蛍光体28の輝度を測定する。この状態を初期状態と定義する。
なお、この初期状態は、電子放出素子10A1を通常使用している状態も含まれる。また、前記電子放出素子10A1を内蔵するディスプレイにおいて、該ディスプレイの通常時の使用状態も初期状態に含まれる。
この場合、例えば、抵抗Rkを200kΩ、高電圧パルスVkを±100V(正電圧Vkp=100V、負電圧Vkn=−100V)、高電圧パルスVkの周波数fを60Hz、コレクタ電圧Vcを3kVとすれば、蛍光体28の輝度は10cd/cm2である。なお、ここでは、周波数fを商用周波数の60Hzとしたが、他の商用周波数である50Hzとしてもよい。
次いで、蛍光体28の輝度が所定の輝度であるかを判定する(ステップS2)。前記所定の輝度として400cd/cm2に設定する。ここで、蛍光体28の輝度が所定の輝度であれば、隙間50が形成されていると判定してステップS4に移り、隙間50を形成する作業を終了し、初期状態に戻す。一方、所定の輝度になっていない場合には、次のステップS31〜33に移る。
次いで、下記の3つの工程のいずれかあるいは併用により、カソード電極16の外周縁部とエミッタ部14の表面との間で、非常に大きな電子放出が起きる。大きな電子放出が発生する箇所においては、プラズマが発生する場合もある。このような電子放出により、カソード電極16の外周縁部42が溶融して捲れ上がり、捲れ上がった外周縁部42はエミッタ部14の表面から剥離し、前記外周縁部42とエミッタ部14の表面との間には隙間50が形成される。
第1の工程は、図19Aに示すように、抵抗Rkの抵抗値を、初期状態の抵抗Rk1から、抵抗Rk1より低い抵抗値を有する抵抗Rk2に変更した状態で、高電圧Vkをカソード電極16に印加し、蛍光体28の輝度を測定しながら隙間50を形成するという工程である(ステップS31)。
この場合、抵抗Rkが低減されるので、電子放出素子10A1のカソード電極16とアノード電極20との間に印加される電圧のレベルが増加する。これによりカソード電極16とエミッタ部14との間の電子放出及びプラズマの生成が増加して、エミッタ部14からカソード電極16の外周縁部42が剥離するので、隙間50を形成することができる。
ここで、抵抗Rkは可変抵抗であってもよいし、複数の抵抗Rk1、Rk2を並列に接続して、スイッチ等を用いて切り替えるという方法であってもよい。抵抗Rk1、Rk2の抵抗値については、例えば、Rk1=200kΩ、Rk2=50kΩとすればよい。
第2の工程は、図19Bに示すように、パルス発生源52から供給される高電圧Vkについて、初期状態の高電圧Vk1から高電圧Vk2に増加して、その際の蛍光体28の輝度を測定しながら、隙間50を形成する工程である(ステップS32)。
この場合、電圧Vkが増加するので、電子放出素子10A1のカソード電極16とアノード電極20との間に印加される電圧のレベルが増加する。これによりカソード電極16とエミッタ部14との間の電子放出及びプラズマの生成が増加して、エミッタ部14からカソード電極16の外周縁部42が剥離するので、隙間50を形成することができる。
ここで、高電圧Vkは、例えば、Vk1=±100VからVk2=±200Vに増加すればよい。電圧の変更としては、例えば、変圧器を用いてVk1からVk2に昇圧すればよい。
第3の工程は、図19Cに示すように、高電圧Vkの周波数fを、初期状態の周波数f1から該周波数f1より高い周波数f2に変更した状態で、高電圧Vkをカソード電極16に印加して、その際の蛍光体28の輝度を測定しながら、隙間50を形成する工程である(ステップS33)。
この場合、電圧Vkの周波数が周波数f2に変化することにより、カソード電極16とエミッタ部14との間の電子放出及びプラズマの生成が増加する。これにより、エミッタ部14からカソード電極16の外周縁部42が剥離して隙間50が形成される。
ここで、高電圧パルスVkの周波数fは、例えば、f1=60Hzからf2=840Hzに変更すればよい。周波数fの変換には、例えば、発振器を用いて変更すればよい。
次いで、ステップS2に戻り、隙間50の形成により蛍光体28の輝度が初期状態の輝度よりも大きくなり、所定の輝度に増加したかを判定する。このステップS2で所定の輝度に達したと判定されれば、ステップS4に移り隙間50の形成作業を終了し、電子放出素子10A1を初期状態に戻す。所定の輝度に達していない場合には、ステップS31〜S33の工程を再度行う。
なお、上記した第1の製造方法では、カソード電極16の外周縁部42をエミッタ部14の表面から剥離させて隙間50を形成する方法について述べたが、アノード電極20の外周縁部をエミッタ部14の表面から剥離させることにより、該アノード電極20に隙間を形成することもできる。
この第1の製造方法では、蛍光体28の輝度は、電子放出素子10A1の隙間50に対向するエミッタ部14の表面近傍(電子放出部)から放出される電子数あるいは電子放出素子10A1の電子放出効率に対応する。すなわち、蛍光体28の輝度を測定することにより、電子放出素子10A1の電子放出効率を調べることが可能となる。従って、隙間50の周辺部を直接観察して該隙間50の完成度を判定する必要はなく、蛍光体28の輝度を測定しながらカソード電極16に供給される電圧を調整して隙間50を形成すればよい。これにより、所望の電子放出効率を有する電子放出素子10A1を得ることができる。
また、上記した第1の製造方法の用途としては、例えば、電子放出素子10A1をディスプレイの電子放出源として用いる場合における輝度調整である。この場合、工場からの出荷前の最終検査において、最終検査の作業者が高電圧Vkをカソード電極16に印加して隙間50を形成することにより、蛍光体28の輝度を所望の輝度に調整する。これにより、出荷前のディスプレイに対する輝度調整を容易に行うことができる。
また、他の用途としては、電子放出素子10A1を内蔵するディスプレイを長期間使用している状態において、その輝度が低下したときの対策として行うものである。すなわち、第1の製造方法の実行機能を具備するメンテナンス装置を用いて、輝度が低下しているディスプレイに対して、メンテナンス作業者が第1〜第3の工程を行うことにより、該ディスプレイの輝度調整を行う。また、ディスプレイに予め第1〜第3の工程を行う機能を具備させて、該ディスプレイの輝度が低下したときに、前記ディスプレイの使用者が適宜第1〜第3の工程を行うようにしてもよい。
第2の製造方法は、エミッタ部14にカソード電極16を形成する製造工程の中に、隙間50を形成する工程を含める方法である。この製造方法には、エッチングによる方法(第1の方法)とリフトオフによる方法(第2の方法)とがある。
第1の方法は、先ず、図20Aに示すように、エミッタ部14となる誘電体58の表面にわたって、カソード電極16となる白金ペースト60をスクリーン印刷法のような公知の方法で形成する。
次いで、図20Bに示すように、フォトレジスト62をスピンコート法により前記白金ペースト60上に薄膜状に引き伸ばして配置する。
次いで、図20Cに示すように、フォトレジスト62を露光し現像することにより、白金ペースト60の一部を露出部64として露出させたフォトレジストパターン66を形成する。
次いで、図20Dに示すように、等方性エッチングにより露出した白金ペースト60の露出部64が削り取られてエミッタ部14の表面の一部が露出する。また、フォトレジストパターン66の直下のうち白金ペースト60、露出部64近傍の部分も削り取られる。
次いで、図20Eに示すように、有機溶剤を用いての超音波洗浄によりフォトレジスト62を取り除いた後、エミッタ部14となる誘電体58及び白金ペースト60を一体に焼成する。これにより、エミッタ部14とカソード電極16とを有する電子放出素子10A1が得られる。この場合、前記削り取られた白金ペースト60の部分が外周縁部42として形成され、該外周縁部42とエミッタ部14との間に隙間50が形成される。
第2の方法は、先ず、図21Aに示すように、エミッタ部14となる誘電体68の表面の一部を露出部70として露出させるように、フォトレジスト72を前記誘電体68の表面に形成する。
次いで、図21Bに示すように、例えば、スクリーン印刷法により、露出部70の表面及びフォトレジスト72の表面に白金ペースト74を形成する。
次いで、図21Cに示すように、有機溶剤を用いての超音波洗浄により、フォトレジスト72を除去する。これに伴い、フォトレジスト72上の白金ペースト74が除去され、露出部70の表面の白金ペースト74が残る。
次いで、図21Dに示すように、エミッタ部14となる誘電体68及び白金ペースト74を一体に焼成する。これにより、エミッタ部14とカソード電極16とを有する電子放出素子10A1が得られる。この場合、白金ペースト74の外周縁部が、外周縁部42として形成される。
第2の製造方法では、カソード電極16の形成工程に隙間50の形成工程を含めるようにしたので、該隙間50の製造工程が簡素化される。また、パターニング処理により隙間50を形成するので、該隙間50の形成をより正確に行うことができる。
なお、上述した第2の製造方法では、エミッタ部14及びカソード電極16の製造工程について示したが、上述した第2の製造方法をエミッタ部14に対するアノード電極20の形成方法に適用できることはもちろんである。また、上述した第2の製造方法により、エミッタ部14とアノード電極20との間に隙間50を設けることも可能である。
次に、第2の具体例に係る電子放出素子10A2について説明する。この第2の具体例に係る電子放出素子10A2は、図22及び図23Aに示すように、上述した第1の実施の形態に係る電子放出素子10Aの構成と類似しているが、カソード電極16をエミッタ部14に投影したときの投影像16Aと、アノード電極20をエミッタ部14に投影したときの投影像20Aとを比較したとき、前記アノード電極20の投影像20Aが前記カソード電極16の投影像16Aからはみ出している点で異なる。
この場合、アノード電極20の投影像20Aのはみ出しは、図23Aに示すように、カソード電極16の投影像16Aの外周縁部42Aから全体的にはみ出している場合もあれば、図23Bに示すように、部分的にはみ出している場合であってもよい。
そして、アノード電極20の投影像20Aの一部又は全部がカソード電極16の投影像16Aからはみ出しているとき、アノード電極20のはみ出している方向に関するカソード電極16の投影像16Aの幅W1と、アノード電極20のはみ出している方向に関する該アノード電極20の投影像20Aの幅W2とから、カソード電極16の投影像16Aからアノード電極20の投影像20Aがはみ出している量を突出量W(=(W2−W1)/2)と定義すると、W=1〜500μmであることが好ましい。なお、図23Cに示すように、アノード電極20のはみ出し部分が多数存在している場合には、最もはみ出している部分の突出量Wを以って当該アノード電極20の投影像20Aの突出量Wと定義する。
なお、図23B及び図23Cでは、カソード電極16をエミッタ部14の表面に接して形成して、該カソード電極16とその投影像16Aとが図面上で一致するようにしている。また、アノード電極20をエミッタ部14の表面に接して形成して、該アノード電極20とその投影像20Aとが図面上で一致するようにしている。
この電子放出素子10A2では、カソード電極16からはみ出すようにアノード電極20を形成しているので、図24A及び図24Bに示すように、カソード電極16に覆われていないエミッタ部14の内部において、分極(図24A)及び分極反転(図24B)が容易に得られる。そのため、図24Bに示すように、分極反転が発生した際には、電界集中の発生しているカソード電極16のトリプルジャンクションAから容易に電子を引き出すことができ、電子放出素子10A2の電子放出効率を向上させることができる。
なお、突出量Wが1μm未満であるとエミッタ部14における電子放出面積が減少するので上記した分極及び分極反転の効果が得られにくい。また、突出量Wが500μmを超えると、トリプルジャンクションAによる電界集中の影響を受けにくいエミッタ部14の箇所も増えるので、電子放出素子10A2の電子放出効率が却って低下する。
次に、第2の実施の形態に係る電子放出素子10Bについて説明する。
この第2の実施の形態に係る電子放出素子10Bは、図25に示すように、1つの基板12に複数の電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)が形成されている点以外は、上述した第1の実施の形態に係る電子放出素子10Aとほぼ同様の構成を有する。
すなわち、電子放出素子10Bは、1つの基板12の表面にそれぞれ独立して各アノード電極20a、20b、20cが形成され、該アノード電極20a、20b、20cの上面にエミッタ部14a、14b、14cが形成され、さらに、エミッタ部14a、14b、14cを間に挟んでカソード電極16a、16b、16cが形成されている。そして、各電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)の間には、スリット80が設けられている。
次に、電子放出素子10Bの製造方法について、例えば、エッチング工程による製造方法について説明する。
先ず、図26Aに示すように基板12となる材料(例えば、ガラス板)12A上に白金ペースト82を、例えばスクリーン印刷法により形成してから、白金ペースト82上にフォトレジスト84を形成する。
次いで、図26Bに示すように、フォトレジスト84に対してマスクパターンを投影し現像することにより、所定のフォトレジストパターン86を形成する。
次いで、図26Cに示すように、エッチングを行って白金ペースト82のうち、フォトレジストパターン86で覆われていない白金ペースト82の部分を除去し、さらに、有機溶剤を用いて超音波洗浄を行い、フォトレジストパターン86を除去する。これによりアノード電極20a、20b、20cとなる白金ペースト82a、82b、82cが形成される。
次いで、図26Dに示すように、白金ペースト82a、82b、82cを覆うように、誘電体90を材料12A上に配置する。
次いで、図26Eに示すように、誘電体90上に白金ペースト92を、例えばスクリーン印刷法により形成し、さらに、白金ペースト92上にフォトレジスト94を形成する。
次いで、図27Aに示すように、フォトレジスト94に対してマスクパターンを投影し現像することにより、所定のフォトレジストパターン96を形成する。
次いで、図27Bに示すように、エッチングを行って白金ペースト92のうち、フォトレジストパターン96で覆われていない白金ペースト92の部分を除去し、さらに有機溶剤を用いて超音波洗浄を行い、フォトレジストパターン96を除去する。これによりカソード電極16a、16b、16cとなる白金ペースト92a、92b、92cが形成される。
次いで、図27Cに示すように、白金ペースト92a、92b、92c及び誘電体90上にフォトレジストを形成し、さらに、前記フォトレジストに対してマスクパターンを投影する。これにより、白金ペースト92a、92b、92cの間の誘電体90の表面を露出するフォトレジストパターン98が形成される。この場合、フォトレジストパターン98は、白金ペースト92a、92b、92cをそれぞれ覆うようなパターンとする。
次いで、図27Dに示すように、エッチングにより露出した誘電体90の一部を除去して、エミッタ部14a、14b、14cとなる誘電体90a、90b、90cを形成し、さらに、有機溶剤を用いて超音波洗浄を行うことにより、フォトレジストパターン98を除去する。これにより、誘電体90a、90b、90cの間にスリット80が形成される。
次いで、図27Dに示す材料12A、誘電体90a、90b、90c及び白金ペースト82a、82b、82c、92a、92b、92cを一体焼成する。これにより、図25に示す電子放出素子10Bが形成される。
この製造方法では、電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)の間にスリット80が形成されている。この場合、電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)の間には静電結合が存在する。また、誘電率の高いエミッタ部14となる誘電体90の一部を除去して真空からなるスリット80を形成することにより、静電結合が激減され、これにより電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)間のクロストークを除去することができる。また、1つの基板12に対して複数の電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)を形成することができるので、例えば、大画面のディスプレイの画素の部品として好適である。
上記した基板12を構成する材料について説明する。基板12は、配線等を考慮して、電気的な絶縁材料で構成するのが好ましい。従って、基板12を、ガラス、又は高耐熱性の金属、あるいはその金属表面をガラス等のセラミック材料によって被覆したホーローのような材料により構成することができるが、セラミックスで構成するのが最適である。
基板12を構成するセラミックスとしては、例えば、安定化された酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、スピネル、ムライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、ガラス、これらの混合物等を使用することができる。その中でも、酸化アルミニウム及び安定化された酸化ジルコニウムが、強度及び剛性の観点から好ましい。安定化された酸化ジルコニウムは、機械的強度が比較的高いこと、靭性が比較的高いこと、カソード電極16及びアノード電極20との化学反応が比較的小さいこと等の観点から特に好適である。なお、安定化された酸化ジルコニウムとは、安定化酸化ジルコニウム及び部分安定化酸化ジルコニウムを包含する。安定化された酸化ジルコニウムでは、立方晶等の結晶構造をとるため、相転移が生じない。
一方、酸化ジルコニウムは、1000℃前後で単斜晶と正方晶との間を相転移し、このような相転移の際にクラックが発生するおそれがある。安定化された酸化ジルコニウムは、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウム、酸化セリウム、希土類金属の酸化物等の安定剤を、1〜30モル%含有する。なお、基板12の機械的強度を向上させるために、安定化剤が酸化イットリウムを含有すると好適である。この場合、酸化イットリウムを、好適には1.5〜6モル%、さらに好適には2〜4モル%含有し、さらに0.1〜5モル%の酸化アルミニウムを含有することが好ましい。
また、結晶相を、立方晶+単斜晶の混合相、正方晶+単斜晶の混合相、立方晶+正方晶+単斜晶の混合相等とすることができるが、その中でも、主たる結晶相を、正方晶又は正方晶+立方晶の混合相としたものが、強度、靭性及び耐久性の観点から最適である。
基板12をセラミックスから構成した場合、比較的多数の結晶粒が基板12を構成するが、基板12の機械的強度を向上させるためには、結晶粒の平均粒径を、好適には0.05〜2μmとし、さらに好適には0.1〜1μmとするとよい。
基板12の上にエミッタ部14を形成する方法としては、スクリーン印刷法、ディッピング法、塗布法、電気泳動法等の各種厚膜形成法や、イオンビーム法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)、めっき等の各種薄膜形成法を用いることができる。
また、電子放出素子10Bの焼成処理としては、上述したようにエミッタ部14、カソード電極16及びアノード電極20となる材料を積層してから一体構造として焼成するようにしてもよいし、エミッタ部14、カソード電極16及びアノード電極20をそれぞれ形成するたびに熱処理(焼成処理)して基板12と一体構造にするようにしてもよい。なお、カソード電極16及びアノード電極20の形成方法によっては、一体化のための熱処理(焼成処理)を必要としない場合もある。
基板12と、エミッタ部14、カソード電極16及びアノード電極20とを一体化させるための焼成処理に係る温度としては、500〜1400℃の範囲、好適には、1000〜1400℃の範囲とするとよい。さらに、膜状のエミッタ部14を熱処理する場合、高温時にエミッタ部14の組成が不安定にならないように、エミッタ部14の蒸発源と共に雰囲気制御を行いながら焼成処理を行うことが好ましい。
また、エミッタ部14を適切な部材によって被覆し、エミッタ部14の表面が焼成雰囲気に直接露出しないようにして焼成する方法を採用してもよい。この場合、被覆部材としては、基板12と同様の材料を用いることが好ましい。
次に、第2の実施の形態の変形例に係る電子放出素子10B1は、図28に示すように、基板12の表面に誘電体100a、100b、100cがそれぞれ形成され、該誘電体100a、100b、100cの表面にアノード電極20a、20b、20cがそれぞれ形成されている。
そして、アノード電極20a、20b、20cの一部を露出するように、エミッタ部14a、14b、14cがアノード電極20a、20b、20c及び誘電体100a、100b、100cの表面に形成されている。さらに、エミッタ部14a、14b、14cの表面にカソード電極16a、16b、16cが形成されている。
これにより、エミッタ部14a、14b、14cとカソード電極16a、16b、16cとアノード電極20a、20b、20cとを有する3つの電子放出素子(1)、10(2)、10(3)が基板12上に構成される。この場合、各電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)間には基板12が露出するスリット80が設けられ、該スリット80には配線パターン102a、102b、102cが形成されている。そして、アノード電極20a、20b、20cのうち、露出している部分と配線パターン102a、102b、102cとがそれぞれ接続されている。この場合、誘電体100a、100b、100cとエミッタ部14a、14b、14cとは同じ材質の誘電体であることが好ましい。
この電子放出素子10B1を製造するには、先ず、図29Aに示すように、基板12となる材料(例えば、ガラス板)12A上に誘電体100a、100b、100cとなる誘電体100を配置してから、該誘電体100上にフォトレジスト106を形成する。
次いで、図29Bに示すように、フォトレジスト106に対してマスクパターンを投影して現像し、誘電体100の一部が露出するフォトレジストパターン108を形成する。
次いで、図29Cに示すように、エッチングを行ってから、有機溶剤を用いて超音波洗浄を行うことにより、誘電体100の露出部分が材料12Aの表面から削り取られる。さらに、材料12A及び残余の誘電体100を焼成することにより、基板12及び誘電体100a、100b、100cが形成される。また、誘電体100a、100b、100cの間にもスリット80が形成される。
次いで、図29Dに示すように、予め別個に製造した電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)を誘電体100a、100b、100c上にそれぞれ配置し、例えば、熱処理(焼成処理)によって、該電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)を誘電体100a、100b、100cに固着する。この場合、エミッタ部14a、14b、14cの下面の一部及びアノード電極20a、20b、20cの下面が、誘電体100a、100b、100cの上面に接するように配置する。これにより、電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)の製造方法は、例えば、図20及び図21に示した第1の具体例に係る電子放出素子10A1の製造方法を用いればよい。
次いで、配線パターン106a、106b、106cを基板12に形成して、アノード電極20a、20b、20cの露出部分と接続し、図28に示す電子放出素子10B1を得る。
この電子放出素子10B1では、予め製造した電子放出素子10(1)、10(2)、10(3)を誘電体100a、100b、100cを介して基板12に配置するので、この場合も大画面のディスプレイの画素の部品として好適である。
次に、第3の実施の形態に係る電子放出素子10Cについて図30を参照しながら説明する。
この第3の実施の形態に係る電子放出素子10Cは、図30に示すように、上述した第1の実施の形態に係る電子放出素子10Aとほぼ同様の構成を有するが、例えばセラミックスで構成された1つの基板110を有する点と、アノード電極20が基板110上に形成され、エミッタ部14が基板110上であって、且つ、アノード電極20を覆うように形成され、更にカソード電極16がエミッタ部14上に形成されている点で異なる。
基板110の内部には、各エミッタ部14が形成される部分に対応した位置に、後述する薄肉部を形成するための空所112が設けられている。空所112は、基板110の他端面に設けられた径の小さい貫通孔114を通じて外部と連通されている。
前記基板110のうち、空所112の形成されている部分が薄肉とされ(以下、薄肉部116と記す)、それ以外の部分が厚肉とされて前記薄肉部116を支持する固定部118として機能するようになっている。
つまり、基板110は、最下層である基板層110Aと中間層であるスペーサ層110Bと最上層である薄板層110Cの積層体であって、スペーサ層110Bのうち、エミッタ部14に対応する箇所に空所112が形成された一体構造体として把握することができる。基板層110Aは、補強用基板として機能するほか、配線用の基板としても機能するようになっている。なお、前記基板110は、基板層110A、スペーサ層110B及び薄板層110Cの一体焼成で形成してもよいし、これら層100A〜110Cを接着して形成するようにしてもよい。
薄肉部116は、高耐熱性材料であることが好ましい。その理由は、エミッタ部14を有機接着剤等の耐熱性に劣る材料を用いずに、固定部118によって直接薄肉部116を支持させる構造とする場合、少なくともエミッタ部14の形成時に、薄肉部116が変質しないようにするため、薄肉部116は、高耐熱性材料であることが好ましい。
また、薄肉部116は、基板110上に形成されるカソード電極16に通じる配線とアノード電極20に通じる配線との電気的な分離を行うために、電気絶縁材料であることが好ましい。
従って、薄肉部116の材料としては、高耐熱性の金属あるいはその金属表面をガラス等のセラミック材料で被覆したホーロウ等の材料であってもよいが、セラミックスが最適である。
薄肉部116を構成するセラミックスとしては、上述した第2の実施の形態に係る電子放出素子10Bの基板12を構成するセラミックスとほぼ同様の材料を用いることができる。従って、ここでは、薄肉部116の材料についての重複説明を省略する。
一方、固定部118は、セラミックスからなることが好ましいが、薄肉部116の材料と同一のセラミックスでもよいし、異なっていてもよい。固定部118を構成するセラミックスとしては、薄肉部116の材料と同様に、例えば、安定化された酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、スピネル、ムライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、ガラス、これらの混合物等を用いることができる。
特に、この電子放出素子10Cで用いられる基板110は、酸化ジルコニウムを主成分とする材料、酸化アルミニウムを主成分とする材料、又はこれらの混合物を主成分とする材料等が好適に採用される。その中でも、酸化ジルコニウムを主成分としたものが更に好ましい。
なお、焼結助剤として粘土等を加えることもあるが、酸化珪素、酸化ホウ素等のガラス化し易いものが過剰に含まれないように、助剤成分を調節する必要がある。なぜなら、これらのガラス化し易い材料は、基板110とエミッタ部14とを接合させる上で有利ではあるものの、基板110とエミッタ部14との反応を促進し、所定のエミッタ部14の組成を維持することが困難となり、その結果、素子特性を低下させる原因となるからである。
即ち、基板110中の酸化珪素等は重量比で3%以下、更に好ましくは1%以下となるように制限することが好ましい。ここで、主成分とは、重量比で50%以上の割合で存在する成分をいう。
また、前記薄肉部116の厚みとエミッタ部14の厚みは、同次元の厚みであることが好ましい。なぜなら、薄肉部116の厚みが極端にエミッタ部14の厚みより厚くなると(1桁以上異なると)、エミッタ部14の焼成収縮に対して、薄肉部116がその収縮を妨げるように働くため、エミッタ部14と基板110との界面での応力が大きくなり、はがれ易くなる。反対に、厚みの次元が同程度であれば、エミッタ部14の焼成収縮に基板110(薄肉部116)が追従し易くなるため、一体化には好適である。具体的には、薄肉部116の厚みは、1〜100μmであることが好ましく、3〜50μmが更に好ましく、5〜20μmがより一層好ましい。一方、エミッタ部14は、その厚みとして5〜100μmが好ましく、5〜50μmが更に好ましく、5〜30μmがより一層好ましい。
そして、基板110上にエミッタ部14を形成する方法としては、スクリーン印刷法、ディッピング法、塗布法、電気泳動法等の各種厚膜形成法や、イオンビーム法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)、めっき等の各種薄膜形成法を用いることができる。
また、電子放出素子10Cの焼成処理としては、基板110上にアノード電極20となる材料、エミッタ部14となる材料及びカソード電極16となる材料を順次積層してから一体構造として焼成するようにしてもよいし、アノード電極20、エミッタ部14、カソード電極16をそれぞれ形成するたびに熱処理(焼成処理)して基板110と一体構造にするようにしてもよい。なお、カソード電極16及びアノード電極20の形成方法によっては、一体化のための熱処理(焼成処理)を必要としない場合もある。
基板110と、エミッタ部14、カソード電極16及びアノード電極20とを一体化させるための焼成処理に係る温度としては、500〜1400℃の範囲、好適には、1000〜1400℃の範囲とするとよい。さらに、膜状のエミッタ部14を熱処理する場合、高温時にエミッタ部14の組成が不安定にならないように、エミッタ部14の蒸発源と共に雰囲気制御を行いながら焼成処理を行うことが好ましい。
また、エミッタ部14を適切な部材によって被覆し、エミッタ部14の表面が焼成雰囲気に直接露出しないようにして焼成する方法を採用してもよい。この場合、被覆部材としては、基板110と同様の材料を用いることが好ましい。
この第3の実施の形態に係る電子放出素子10Cにおいては、焼成時においてエミッタ部14が収縮することになるが、この収縮時に発生する応力が空所112の変形等を通じて開放されることから、エミッタ部14を十分に緻密化させることができる。エミッタ部14の緻密化が向上することにより、耐電圧が向上すると共に、エミッタ部14での分極反転並びに分極変化が効率よく行われることになり、電子放出素子10Cとしての特性が向上することになる。
上述した第3の実施の形態では、基板110として3層構造の基板を用いたが、その他、図31の変形例に係る電子放出素子10Caに示すように、最下層の基板層110Aを省略した2層構造の基板110aを用いてもよい。
上述した第1〜第3の実施の形態に係る電子放出素子10A〜10Cにおいては、図1及び図25に示すように、コレクタ電極24に蛍光体28を塗布してディスプレイの画素として構成した場合、以下のような効果を奏することができる。
(1)CRTと比して超薄型(パネルの厚み=数mm)にすることができる。
(2)蛍光体28による自然発光のため、LCD(液晶表示装置)やLED(発光ダイオード)と比してほぼ180°の広視野角を得ることができる。
(3)面電子源を利用しているため、CRTと比して画像歪みがない。
(4)LCDと比して高速応答が可能であり、μsecオーダーの高速応答で残像のない動画表示が可能となる。
(5)40インチ換算で100W程度であり、CRT、PDP(プラズマディスプレイ)、LCD及びLEDと比して低消費電力である。
(6)PDPやLCDと比して動作温度範囲が広い(−40〜+85℃)。ちなみに、LCDは低温で応答速度が低下する。
(7)大電流出力による蛍光体の励起が可能であるため、従来のFED方式のディスプレイと比して高輝度化が可能である。
(8)圧電体材料の分極反転特性(若しくは分極変化特性)及び膜厚により駆動電圧を制御可能であるため、従来のFED方式のディスプレイと比して低電圧駆動が可能である。
このような種々の効果から、以下に示すように、様々なディスプレイ用途を実現させることができる。
(1)高輝度化と低消費電力化が実現できるという面から、30〜60インチディスプレイのホームユース(テレビジョン、ホームシアター)やパブリックユース(待合室、カラオケ等)に最適である。
(2)高輝度化、大画面、フルカラー、高精細度が実現できるという面から、顧客吸引力(この場合、視覚的な注目)に効果が大であり、横長、縦長等の異形状ディスプレイや、展示会での使用、情報案内板用のメッセージボードに最適である。
(3)高輝度化、蛍光体励起に伴う広視野角化、真空モジュール化に伴う広い動作温度範囲が実現できるという面から、車載用ディスプレイに最適である。車載用ディスプレイとしての仕様は、15:9等の横長8インチ(画素ピッチ0.14mm)、動作温度が−30〜+85℃、斜視方向で500〜600cd/m2が必要である。
また、上述の種々の効果から、以下に示すように、様々な光源用途を実現させることができる。
(1)高輝度化、低消費電力化が実現できるという面から、輝度仕様として2000ルーメンが必要なプロジェクタ用の光源に最適である。
(2)高輝度2次元アレー光源を容易に実現できることと、動作温度範囲が広く、屋外環境でも発光効率に変化がないことから、LEDの代替用途として有望である。例えば信号機等の2次元アレーLEDモジュールの代替として最適である。なお、LEDは、25℃以上で許容電流が低下し、低輝度となる。
なお、本発明に係る電子放出素子及びその製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
第1の実施の形態に係る電子放出素子を示す構成図である。 第1の実施の形態に係る電子放出素子の電極部分を示す平面図である。 第1の実施の形態に係る電子放出素子の第1の変形例における電極部分を示す平面図である。 第1の実施の形態に係る電子放出素子の第2の変形例における電極部分を示す平面図である。 第1の実施の形態に係る電子放出素子の第3の変形例を示す構成図である。 第1の実施の形態に係る電子放出素子の第4の変形例を示す構成図である。 パルス発生源から出力される駆動電圧を示す波形図である。 第1の実施の形態において、カソード電極とアノード電極間に第1の電圧を印加した際の電子放出作用を示す説明図である。 カソード電極とアノード電極間に第2の電圧を印加した際の電子放出作用を示す説明図である。 エミッタ部の表面での負極性帯電に伴って電子放出の自己停止の作用を示す説明図である。 放出された2次電子のエネルギーと2次電子の放出量の関係を示す特性図である。 図12Aは、駆動電圧の一例を示す波形図であり、図12Bは、第1の実施の形態に係る電子放出素子におけるアノード電極とカソード電極間の電圧の変化を示す波形図である。 第1の具体例に係る電子放出素子を示す構成図である。 図14Aは図13の電子放出素子における電界集中のポイントを示す図であり、図14Bは図13の電子放出素子における電子放出を示す図である。 図15Aはカソード電極から引き出された電子の放出を示す図であり、図15Bはカソード電極から引き出された電子及び2次電子の放出を示す図である。 第1の具体例に係る電子放出素子の製造方法(第1の方法)を示す構成図である。 第1の方法において電子放出素子に印加される高電圧を示す波形図である。 第1の方法を示すフローチャートである。 図19Aは第1の方法の第1の工程を示す構成図であり、図19Bは第1の方法の第2の工程を示す構成図であり、図19Cは第1の方法の第3の工程を示す構成図である。 図20A〜図20Eは第1の具体例に係る電子放出素子の製造方法(第1の方法)を示す工程図である。 図21A〜図21Dは第1の具体例に係る電子放出素子の製造方法(第2の方法)を示す工程図である。 第2の具体例に係る電子放出素子を示す構成図である。 図23A〜図23Cは第2の具体例に係る電子放出素子を示す平面図である。 図24Aは図22の電子放出素子においてエミッタ部内部の分極を示す図であり、図24Bは図22の電子放出素子においてエミッタ部内部の分極反転及び電子放出を示す図である。 第2の実施の形態に係る電子放出素子を示す構成図である。 図26A〜図26Eは第2の実施の形態に係る電子放出素子の製造方法を示す工程図(その1)である。 図27A〜図27Dは第2の実施の形態に係る電子放出素子の製造方法を示す工程図(その2)である。 第2の実施の形態の変形例に係る電子放出素子を示す構成図である。 図29A〜図29Dは第2の実施の形態の変形例に係る電子放出素子の製造方法を示す工程図である。 第3の実施の形態に係る電子放出素子を示す構成図である。 第3の実施の形態に係る電子放出素子の変形例を示す構成図である。
符号の説明
10A〜10C…電子放出素子 12…基板
14…エミッタ部 16…カソード電極
20…アノード電極 22…パルス発生源
24…コレクタ電極 28…蛍光体
42…外周縁部 50…隙間
51…下面 54…基端
56…先端

Claims (26)

  1. 誘電体で構成されたエミッタとなる物質と、
    前記エミッタとなる物質の第1の面に接して形成された第1の電極と、
    前記エミッタとなる物質の第2の面に接して形成された第2の電極とを有し、
    少なくとも前記第1の電極の外周縁部と、前記エミッタとなる物質の前記第1の面との間には隙間が設けられ、
    前記エミッタとなる物質の前記第1の面と、該第1の面に対向する前記外周縁部の下面との接触によって基端が形成され、
    前記第1の電極と前記第2の電極との間に、前記エミッタとなる物質の分極反転を発生させるための駆動電圧が印加されることによって、前記外周縁部の先端と前記基端とに電界集中が発生して、電子が放出される
    ことを特徴とする電子放出素子。
  2. 請求項1記載の電子放出素子において、
    前記外周縁部の前記先端は先鋭状である
    ことを特徴とする電子放出素子。
  3. 請求項1又は2記載の電子放出素子において、
    前記エミッタとなる物質の前記第1の面と、前記外周縁部の前記下面との接触によって形成される角度は、90°以下である
    ことを特徴とする電子放出素子。
  4. 誘電体で構成されたエミッタとなる物質と、
    前記エミッタとなる物質の第1の面に接して形成された第1の電極と、
    前記エミッタとなる物質の第2の面に接して形成された第2の電極とを有し、
    前記第1の面に前記第1の電極を投影し、前記第2の面に前記第2の電極を投影し、前記第1の電極の投影像と前記第2の電極の投影像とを比較した場合、
    前記第2の電極の投影像が前記第1の電極の投影像からはみ出している
    ことを特徴とする電子放出素子。
  5. 請求項4記載の電子放出素子において、
    前記第2の電極の投影像の外周縁部のうち、前記第1の電極の投影像の外周縁部からはみ出している部分は、該第1の電極の投影像の外周縁部の先端から最大で1〜500μmはみ出している
    ことを特徴とする電子放出素子。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子放出素子において、
    少なくとも前記第1の電極はサーメットから構成されている
    ことを特徴とする電子放出素子。
  7. 請求項6記載の電子放出素子において、
    前記サーメットは金、白金又は銀と、圧電/電歪材料とから構成されている
    ことを特徴とする電子放出素子。
  8. 請求項7記載の電子放出素子において、
    前記圧電/電歪材料は、体積比で10〜40%である
    ことを特徴とする電子放出素子。
  9. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子放出素子において、
    前記第1の電極と前記第2の電極との間に駆動電圧を印加した際に発生する前記エミッタとなる物質の分極反転による疲労を抑制するために、
    少なくとも前記第1の電極は金属酸化物から構成されている
    ことを特徴とする電子放出素子。
  10. 請求項9記載の電子放出素子において、
    前記金属酸化物から構成される前記第1の電極は、RuO2、IrO2、SrRuO3又はLa1-xSrxCoO3から構成される
    ことを特徴とする電子放出素子。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子放出素子において、
    前記エミッタとなる物質は高融点の誘電体で構成する
    ことを特徴とする電子放出素子。
  12. 請求項11記載の電子放出素子において、
    前記誘電体はPbを含まない材料である
    ことを特徴とする電子放出素子。
  13. 請求項12記載の電子放出素子において、
    前記Pbを含まない材料は、BaTiO3又はBa1-xSrxTiO3から構成される
    ことを特徴とする電子放出素子。
  14. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子放出素子において、
    前記エミッタとなる物質は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に駆動電圧を印加した際に発生する前記エミッタとなる物質の分極反転による疲労を抑制する材料で構成されている
    ことを特徴とする電子放出素子。
  15. 請求項14記載の電子放出素子において、
    前記分極反転による疲労を抑制する材料は、タンタル酸ビスマス酸ストロンチウムである
    ことを特徴とする電子放出素子。
  16. 請求項1〜15のいずれか1項に記載の電子放出素子において、
    前記第2の電極が基板の上面に複数形成され、
    前記複数の第2の電極を覆うように前記エミッタとなる物質が前記基板の上面に形成され、
    前記エミッタとなる物質の上面に、前記第2の電極に対向して前記第1の電極が形成されている場合に、
    前記エミッタとなる物質の間には、前記基板の上面を露出させるスリットが形成されている
    ことを特徴とする電子放出素子。
  17. 請求項1〜15のいずれか1項に記載の電子放出素子において、
    誘電体が基板の上面に複数形成され、
    前記第2の電極が前記複数の誘電体の上面にそれぞれ形成され、
    前記第2の電極の上面と前記誘電体の上面とに前記エミッタとなる物質が形成され、
    前記各エミッタとなる物質の上面に、前記第2の電極に対向して前記第1の電極が形成されている場合に、
    前記基板の上面に配線パターンが形成され、
    前記第2の電極の一部と前記配線パターンとが接続されている
    ことを特徴とする電子放出素子。
  18. 請求項1〜17のいずれか1項に記載の電子放出素子において、
    前記エミッタとなる物質の上方のうち、少なくとも前記第1の電極に対向した位置に第3の電極が配置され、該第3の電極の表面には蛍光体が形成されている
    ことを特徴とする電子放出素子。
  19. 誘電体で構成されたエミッタとなる物質の上面に接して上面電極を形成し、
    前記エミッタとなる物質の下面に接して下面電極を形成し、
    前記上面電極と前記下面電極との間に高電圧を印加して、少なくとも前記上面電極の外周縁部と前記エミッタとなる物質の上面との間に隙間を設ける
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
  20. 請求項19記載の電子放出素子の製造方法において、
    前記隙間を設ける際に、前記外周縁部の先端を先鋭状に形成する
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
  21. 請求項19又は20記載の電子放出素子の製造方法において、
    前記エミッタとなる物質の上方のうち、少なくとも前記上面電極に対向した位置に他の電極を配置し、
    前記他の電極の表面に蛍光体を形成し、
    前記上面電極と前記下面電極との間に前記高電圧を印加し、且つ、前記他の電極に他の電圧を印加することにより、少なくとも前記エミッタとなる物質の上面から放出された電子を前記蛍光体に衝突させて、該蛍光体を励起して発光を行わせる場合に、
    前記発光の際の前記蛍光体の輝度を測定することにより、前記隙間の完成度を判定する
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
  22. 請求項19〜21のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法において、
    電源から抵抗を介して前記高電圧を印加する場合に、
    前記抵抗の抵抗値を低減することにより、前記隙間を形成する
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
  23. 請求項19〜22のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法において、
    前記高電圧の電圧値を大きくすることにより、前記隙間を形成する
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
  24. 請求項19〜23のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法において、
    前記高電圧の周波数を高くすることにより、前記隙間を形成する
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
  25. 基板の上面に複数の下面電極を形成し、
    前記複数の下面電極を覆うように誘電体を前記基板の上面に形成し、
    前記誘電体の上面に前記各下面電極と対向して上面電極を形成し、
    前記上面電極及び前記下面電極に挟まれていない前記誘電体の一部を除去することにより、前記上面電極と前記下面電極とに挟まれた前記誘電体の残部をエミッタとなる物質として構成する
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
  26. 基板の上面に複数の誘電体を形成し、
    誘電体で構成されたエミッタとなる物質と、前記エミッタとなる物質の上面に形成された上面電極と、前記エミッタとなる物質の下面に形成された下面電極とを有する複数の電子放出素子を、
    前記下面電極の下面と前記複数の誘電体の上面とが接するように、前記各電子放出素子を前記各誘電体にそれぞれ配置し、
    前記基板の上面に配線パターンを形成してから前記下面電極と該配線パターンとを接続する
    ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。

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