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ヘンタイ三景

■脛とつま先■

 その日、私はつま先がキンキンに尖ったヒールを履いており、さらにはミニスカートに網タイツという出で立ちだったので、ヘンタイを寄せ付ける程度に煽情的ではあったのだろう。

 電車に乗って座り、脚を組んで読書にふけっていると、男性用のズボンが私の視界に入ってきた。車内は混んでいないし、なんだったら私の両隣も一人分づつ空いているのだから座ればいいのに、わざわざ真正面。しかも距離がやたら近い。

 つま先が当たってしまったので、組んだままの足をスッと斜めにして足先の位置をずらし、読書に集中しようとした。

 すると、男性が私のつま先が当たる位置にまで微妙に移動。自分の脚の脛を、私のつま先に押し付けてきた。「あふっ」という吐息が聞こえた気がしたが、気のせいだろうと、再び組んだままで足の位置をずらした。

 そして読書に集中しようと思ったのだが、またまたギューッとこちらのつま先が男性の脛に押される。うぜえ。

 そこで初めて目の前の人物を見上げると、つり革に半ばぶら下がった状態のオッサンが恍惚とした表情で脛をこちらに押しやっていた。

「ふっ…あああっ…あふっ…ああっ…」

 電車の揺れにシンクロしながら小さくあえぐオッサンを見て「これはヘンタイには違いなかろうがはたして痴漢と言えるのか、何らか犯罪にはあたらないのか」と私は考えを巡らせていた。

 考えがまとまるまで今度は足先を動かさず、多少こちらも力を入れてオッサンが脛を押し付けやすいようにしてあげた。

 しばらく観察してから、犯罪かなんかわからんがともかく立派なヘンタイやでこれという結論にいたり、さてこのオッサンがオーガズムに達する前にやはり注意すべきなのではないかと新たな悩みが浮上したところで…

「オッサンなにしとんねん!」と横から若い声が。一つあけて隣に座っていた高校生らしき少年が立ち上がった。オッサン逃走。

 きれいな瞳で心配そうに「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる少年に「大丈夫やでヘンタイ観察めっちゃおもろいやで」と言うわけにもいかず。「助かりました。本当にありがとう」と普通にお礼を言っておいた。汚れた大人たちでごめんよ少年。

 今思えば、オッサンの行為は刑法にはひっかからなくても、迷惑防止条例に違反していたのではなかろうか。なんにせよ絶妙に高度なヘンタイであった。

■富士山■

 不特定多数の男性の着衣の股間を写真に撮り続けている女性の知人がいる。

 男性たちも着衣のままということもあってか、ノリで気軽に撮影させてくれることも少なくないそうだ。中にはズボンの前を開けようとする男性もいるそうだが、そのサービスはお断りするという。彼女はただひたすらズボンの隆起を撮る。ジャージなどはダメだそうで、ファスナーとベルトは必須とのこと。

 一度彼女のコレクションを見せてもらったことがある。ズラっとならんだ画像を見ても、パワフルなもっこり感があるものは実際の所は少なく、私にはどこらへんが良いのかさっぱりわからない。これで性的に興奮するのかと彼女に尋ねたところ、なんと彼女も「もうわからない」という。

 かつては、それらはたしかにオカズだったそうだ。ベルトを外しファスナーをおろし、ぐらいまでの想像ですごく良かったらしい。何がだ。

 それがいつしか、居酒屋の座敷などで見知らぬ男性に声をかけて撮らせてもらえるか、ハンティングに純化されてしまったとのこと。

 「でもこんなに撮ったのよ…」と感慨深げに彼女がいうもんだから、私が「股間の富嶽百景やな」とテケトーに話をあわせたところ、それがたいそうお気に召したらしい。その場でフォルダ名が「富嶽百景」に変えられた。百景どころじゃねーだろ。

 害のないヘンタイだが、これはこれで相当ハイレベルだろう。

■塩サウナ■

 実家近くのスーパー銭湯に行った。あまりサウナは好きでないのだけど、「塩サウナ」の文字にひかれて中へ。すでに2名の女性が中にいてじっと座っている。何がどう「塩」なのかと見渡すと、真ん中に塩がたんまりと入った壺があり、どうやらそれを体にこすり付けるだけであとは普通のサウナとかわらないらしい。

 なんだつまらんと、少しだけ塩をすくって脚だけマッサージしていると、漫☆画太郎の漫画から抜け出たかのような女性が入ってきて、壺にまっしぐら。

 彼女は両手に山もり塩をすくった。それをところどころ穴が開いた椅子の上に置き、おもむろにその上に座って腰をぐりぐりぐりぐり…。椅子の下に塩が落ちる落ちる。

 これはなんたる奇行!脚マッサージしてる場合じゃねえぜ!と、私はすぐさま塩を捨ておいて、ぐりぐりレディから少し離れた位置に座って観測体制に入った。

 ひとしきりぐりぐりした彼女は、すくっと立ち上がり、サウナの熱源に近づき背を向けた。と思ったら、いきなりの前屈、「ぁぉおぉぅん!」とせいうちのように鳴き出したのだ。

 せいうちのように鳴いてる彼女と、それをつぶさに観察してる私以外の人たちは塩サウナから出ていった。

 彼女は前屈のまま、たまに膝をまげて尻をつきだしたりしつつ、鳴きつづける。

「ぉおぉぅん!おっおっおっ…」

 彼女の鳴き声は徐々に激しく、声も細やかなリズムを刻むようになっていった。私は日頃はサウナに5分もいることができないのだが、もうこうなったら彼女が絶頂に達するのを見届けなければなるまい。いざ勝負!

 と、私が覚悟を決めたところで、まっすぐの姿勢に戻った彼女は真顔で出て行った。塩と熱をまさに「マン喫」したのだろう。

 なみなみならぬヘンタイのおかげで、私には人生で最も長い時間サウナに入っていた記録が残った。

 以上のように、ヘンタイ三景を書いてはみたものの、私もまた何らかヘンタイに親和性を持つ者の気がしてならないが、気のせいだろう。ヘンタイ、あかん!