【翻訳記事】ゲームを謎めかせるものはなにか【前編】
GMTKの以下の動画より翻訳。30分近い大ボリュームのため前後編に分割。いずれは公式字幕がつくはずだが、それまでの代わりとでも思ってもらえればいい。
ゲームを遊んでいてここ数年でもっとも記憶に残った瞬間のひとつは、『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』の冒頭近くの出来事だ。始まりの台地でチュートリアルをすべて終わらせてハイラルに降り立ち、私は探索を始めた。それからしばらくして、丘を登ってみると夜空におかしなものが見えることに気づいたのだ。
「いったい、なんなんだあれ?」巨大な燃え盛る龍のような姿をしたそれは、月の翳った空にくねくねと舞っていた。敵か?味方か?何もわからなかった。私はそれに向かって走り出していた──危険かどうかなど気にしていなかった。それが何者なのか、とにかく知りたかった。
だが、龍に近づくや否や、赤い月が上った。これはプレイヤーを足止めし、ゲーム内のエネミーをすべて復活させるメカニクスだ。赤い月のイベントが終わったとき、ドラゴンはもう去ってしまっていた。すっかりいなくなってしまったのだ。これはまるで、UFOに遭遇したような体験だった。これは現実か?本当にあんなことが起きたというのか?
この体験がゲームにもたらしてくれたのは、そう、すさまじく謎めいた感覚だった。これは、ゲームが与えうる中で、私がもっとも好きな気持ちのひとつである。つまり、謎、未知、未踏、秘密……そういった感覚だ。
この数年で、ミステリアスな感覚を心の底から呼び起こしてくれる素晴らしいゲームがいくつか登場した。『Tunic』に『Outer Wilds』、『Animal Well』や『The Witness』。これらは、未知をなにもかも解き明かすチャンスをプレイヤーに与えてくれるゲームだ。
さて、本動画ではこれらを含む多くのゲームに目を向け、良い謎をどうやって生み出すかという謎を解決する手助けを行いたい。もしこの未知への旅に相乗りしてくれるなら、自己紹介しよう。私はマーク・ブラウン。このチャンネルの名はGame Maker's Toolkitだ。
※以下にはゲームのネタバレが一部含まれる。致命的なものはないはずだが、十分に気をつけるように。
ゲームを謎めかせるものはなにか?
まずはこの問いから始めなければならない。『なにが謎をもたらしてくれるのか?』
私が思うに、プレイヤーから遠ざけられているもの、説明されないもの、知らされないもの、前人未踏のものがそれにあたる。
TVドラマシリーズ『LOST』を生み出したJ・J・エイブラムスによると、謎をもたらしてくれるのは「情報を与えないことであり、意図的にそうすることで、謎はより魅力的になる」という。ゲームについていうなら、プレイヤーの目からは多くのものが隠されうるということだ。
1.鍵のかかった扉
典型的な謎といえば、きっとそれは鍵のかかった扉のことだろう。
ここでは『Tunic』を例に取ろう。これは、ちょっとした冒険に出かける子狐が主人公の、可愛らしいゼルダライクのアドベンチャーゲームだ。ローポリで描画された風景の中には、鍵のかかった扉や閉ざされた門、その他諸々の通り抜けられない障害物が存在する。たとえば、墓場は暗すぎて探索できないし、敵と戦うにも強すぎるといった具合に。そして、本作でもっとも高い場所、雪深い山の頂上には、巨大な石門が主人公の前に立ちはだかっている。この門には鍵穴もなければ、取っ手もないように見える。
鍵のかかった扉とは、本質的に謎めいたものだ。なぜなら、その扉の先になにがあるのか、そしてどうすれば鍵を開けられるのかをプレイヤーに考えさせるからだ。
謎解き系のゲームでは、いたるところに鍵のかかった扉が見られる。『ダークソウル』におけるセンの古城の印象的な入口や、『スーパーメトロイド』における黄金像、『ホロウナイト』における黒卵、『スペランキー』におけるモアイの頭など。プレイするにつれて、そのどれもが頭にひっかかるようになる──この扉の先になにがあるのか?どうすれば開けられるのか?という未解決の問題が。
『Tunic』のゲームデザイナーを努めたアンドリュー・ショウルディスはこれらを「暗がりへの道」と呼び、以下のように説明した。
とはいえ、プレイヤーが鍵のかかった扉をいくつ処理するかという想定は慎重に行わなければならない。扉のひとつひとつが精神的な負荷になるし、あまりにも謎が多すぎると圧倒されてしまうからだ。たとえば、『Lorelei and the Laser Eyes』は、気にかけなければいけない物事がとてもたくさん──鍵のかかった扉に、鍵のかかった箱、鍵付きの金庫に、鍵付きの時計まで──あるため、謎解きの洪水に呑み込まれてしまいそうになるかもしれない。
『Animal Well』のデザイナーであるビリー・バッソにとって、それは大きな懸念事項だった。彼はこう述べている。
そのためビリーは、プレイヤーが頭の中に留めていられる未解決事項の数を意図的に抑えるようにした。そうして、ゲームとワールドマップを通じて緩やかに謎が与えられるようにしたのだ。また、彼はいくつかの賢い仕掛けも行っている。たとえば、ふたつの部屋の間に鍵のかかった扉を置くかわりに、右側からのみ爆破できる壁を設置したりといったことだ。この方法であってもプレイヤーはふたつのエリアをつなぐショートカットを手に入れるわけだが、左側から見たときには、そこに通り道があるなどとはまるで思いつかない。
2.ゲームルール
ゲームのルールそのものも、プレイヤーの目から隠されることがある。
ここでは『Rain World』を例に取ろう。なめくじのような、ふにゃふにゃとした形の猫が都市の厳しい環境下で生き抜こうとするゲームだ。食料を取って腹を満たし、冬眠をする方法はチュートリアルで教えてくれるが、そのほかはわざと曖昧なままにされる。ほかはすべて謎のまま、プレイヤーは放り出されるのだ。たとえば、この記号は何なのか?何を意味しているのか?これらの扉をどうやって開けるのか?この生き物はいったい何なんだ?という具合に。
本作のデザイナーであるヨア・ヤコブセンが影響を受けたのは、交換留学で韓国を訪れた経験だ。それは、標識を読むことも会話をすることもままならない場所にいるという、すなわち「異星の客」の経験だった。わざと気配りをしないことで──ゲームのほとんどのルールを説明しようとしないことで──『Rain World』はこの感覚を美しく捉えている。
こうして本作のプレイフィールは、まるで未知の生き物だらけの異星の風景を探検しているようなものとなった。ほかのゲームであればチュートリアルとかポップアップ表示でメカニクスやルールやシステムを逐一教えてくれるであろうところを、本作は黙ったままでいる。プレイヤーに暗中模索させたほうがゲームはより謎めいてみえるとわかっているからだ。
当然ながら、これは『Rain World』以外のゲームにも当てはまることだ。フロム・ソフトウェアのソウルシリーズもまた、謎めいたゲームプレイでその名を轟かせている。たとえば、不可解なステータスや、一見しただけでは何に使うのかわからないアイテム、断片的で要領を得ないNPCの発言など。あるいは、『デモンズソウル』におけるキャラと世界のソウル傾向といった、ゲーム全体のシステムに至るまで。実のところ、それがどう機能しているか私はいまだによくわかっていない。
特筆すべきもうひとつの例として、『Starseed Pilgrim』が挙げられる。これは、種を植えて足場を作るゲームだ。これだけは明らかなのだが、しかし、ほかはすべて説明されないままにされる。別の種がどういう効果を持つのか?それぞれの足場がどのように機能するのか?ハートを拾ったらどうなるのか?どうすればループから抜け出せるのか?そして、なにより大事なこと──ゲームクリアの条件はいったい何か?──もわからないのだ。
本作の開発者のDroqen曰く、
しかし忘れてはならない。興味をそそるということとわけがわからないということの間には、明確な違いがある。注意を怠ればどうなるか──『Rain World』が作中のもっとも基本的なルールの説明を冷たく拒否するということは、一部のプレイヤーは反発してゲームを投げ出してしまうということでもある。プレイヤーは道しるべとなるものを見つけ出すか、さもなくばプレイを完全にやめてしまうかだ。そう、認めよう。私が本作をようやく理解するまえに、少なくとも二回は出だしで失敗したということを。
したがって重要になるのは、なにを説明しないかの選択をとても強く意識することだ。ゲームデザイナーのルネ・ヨハンセンはこう述べている。
任意選択にするという手もある。たとえば、『スーパーメトロイド』において壁蹴りやボムジャンプのやり方が明確に説明されることはないけれど、ゲームクリアのためにこれらの難しい操作が必要とされることもない、というふうに。
あるいは、本質的に未知であるべきものに集中してみるという手もある。『Rain World』において、プレイヤーはさまざまな捕食者の動きを注意深く観察し、彼らについて学ばなければならない。だが、動物がなにを考えているかすぐに把握できないというのは、道理にかなっていることだ。『ブレスオブザワイルド』でファンタジーな素材を調理鍋でいろいろ混ぜてみた結果、なにが起こるかわからないということにも納得がいくだろう。夜空に浮かぶ謎の龍の生態もまた、わからなくて当然だ。
3.風景
ゲーム内の風景もまた、謎になりうる。
『エルデンリング』について考えてみよう。ヘビメタのアルバムカバーが千枚は作れるほどの、巨大で幻想的な大陸を冒険するゲームだ。ケイリッドの朱く腐敗した沼と不毛の地、ストームヴィル城の威圧的な石壁、死したる巨人が玉座に座る地下世界。あえて批判的にいうならば、このゲームは水平線の向こうにあるものをほとんど教えてくれない。それどころか、次の曲がり角にあるものも、あの洞窟の中になにが待ち受けているかもわからない。
他のゲームなら詳細な地図やコンパスをプレイヤーに使わせて目的地まで案内するところだ。あるいは、壁だの障害物だので進むのを制限されることもある。その一方で、『エルデンリング』はただひたすらプレイヤーに探索をさせる。
本作のディレクターを努めた宮崎英高曰く、
念のためにいっておくと、この考えは『エルデンリング』にのみ当てはまるものではない。ゼルダシリーズのDNAにもこの考えは刻まれている。生みの親である宮本茂が、日本の田舎を探検していた幼少期の思い出を捉えようとしたことから、このシリーズは始まったのだ。
『Riven』もまた、見知らぬ世界を探索することに主軸をおいたゲームだ。テキストや会話さえ、人工のファンタジー言語で表現されている。
繰り返すが、プレイヤーに探検のための空間を与えるか、プレイヤーをまるきり迷子にして混乱させてしまうかの間にはデリケートなバランスが存在する。とはいえ、詳細なマップに先になんでも書いてしまうかわりに、プレイヤーを冒険を紡ぐ者のひとりとして迎え入れることを考えてみてもいい。マップ上にピンを打ち、スタンプをつけ、スクリーンショットやメモを残せるようにする──まるで、見知らぬ異世界に本当にやってきたかのように。
また、見えるものすべてを過剰に説明してくれる仲間キャラのせいで、プレイヤーが持つ不思議の感性と好奇心が失われてしまわないかどうかも、気をつけなければならない。『タロス・プリンシプル』の1作目における不気味な静けさと、その続編における騒々しい冒険者一行を比べてみよう。
ありがとう!そんなこと見りゃわかるよ!
4.謎
ついに、ゲームの物語に関する情報を封じるときだ。
『Outer Wilds』を例に取ろう。本作は、20分経つと太陽の爆発と同時にリセットされるタイムループにとらわれながら、シミュレートされた太陽系を冒険するゲームだ。
最序盤から、このゲームは興味をそそる疑問をいくつも投げかけてくる。どうして自分はタイムループにとらわれているのか?旧文明になにが起こったのか?宇宙の中心になにがあるのか?そして、プレイヤーが惑星から惑星に飛び移り、銀河を探索するにつれて、さらなる謎が明らかになっていく。テレポートする量子の月といった天文学的に巨大な謎から、行方不明の探検家といったより小規模でありふれた謎に至るまで。
本作のナラティブ・デザイナーを努めたケルシー・ビーチャムはこう述べている。
その他に謎をテーマにしたゲームとしては、『The Forgotten City』が当てはまる。これもまたタイムループもののアドベンチャーゲームで、こちらは、古代ローマの下に眠る秘密都市へのタイムトラベルを扱っている。あるいは『Her Story』──警察の取り調べ動画のデータベースをくまなく探す、犯人探し系の推理ゲーム──も、そのひとつだ。
これらのゲームは、興味ぶかい疑問を提示することと、クリアによってその答えが間違いなく得られることを物語の核心にしている。こうして、ゲーム全体がひとつの長いミステリーになり、プレイヤーの行動すべてがその謎を徐々に解き明かすことにつながるというわけだ。
ただ、ゲームデザイナーはプレイヤーがゲームの謎を解き明かせることを保証し、そのケアもしなければならない。というのも、『Outer Wilds』の終盤は、探索に出かけたいという驚くほど強いモチベーションをプレイヤーに与えられていると思われる一方で、デザイナーのアレックス・ビーチャムはそれが必ずしもうまくいかないことを認めている。彼曰く、
したがって、アレックスはプレイヤーの好奇心を輝かせるためにあらゆる手を尽くす必要があった。たとえば、量子の月のようなとくに奇妙なものや、爆発する宇宙ステーションのようなとくに目を引くものにばかりプレイヤーが惹きつけられていたことから、(謎や仕掛けが)目立たなさすぎてはならないことに彼は気がついた。
また、物語が身近で、自分自身に向けられたものであると感じたときにこそプレイヤーがもっとも強いモチベーションを得ることも彼は発見した。博物館でノマイ像がプレイヤーのことを見つめてきたり、博物館のキュレーターのホーンフェルが宇宙でやりたいことをプレイヤーに聞いてきたりする──宇宙になにがあるのかをただ説明するのではなく──のは、そのためだ。
Full Indie Summitにて、アレックスはプレイヤーに好奇心を抱かせるために使った仕掛けをすべて解説してくれている。以下の動画を参考にしてほしい。