私家版ゲームオブザイヤー2024
猛暑が続いたせいか、今年はなんだか時が過ぎるのが早い。
この2024年を振り返って、オタクは訳知り顔で言うかもしれない。「今年のゲームって……パッとしなかったよネ?」とか。あるいはしたり顔で、「話題作は色々あったけど……GOTYって呼べるようなものはなかったよネ?」とか。
くそくらえ。連中、ロクにゲームもやってねえのにいけしゃあしゃあと吐かしやがる。
きっと連中は『フォームスターズ』のことなんてとっくに忘れているし、『COD』の新作には見向きもしない。なんとなれば、手前のゲーム選びのセンスは優れていて、凡作や失敗作を遊ぶようなヘマはしないとタカをくくっているからだ。
くそくらえ。連中、情報を食うのに忙しくてコントローラーを握るヒマすら惜しんでやがる。
AAAが不作だと?ならインディーを探せ。インディーに良作がない?AAAにも目を向けろ。選り好みしている暇があるくらいなら、いいからまずは遊んでみろ。そうすれば、ゲームが不作な年もゲームがつまらない年もあるわけがないと気付けるはずなのに。手前が勝手に老いていくのをジャンルの衰退と混同するハンパ者はいつだって現れる。
俺は強く信じている。ビデオゲームという文化が続き、プレイするという営為が続くかぎり、いつだってゲームの当たり年には違いないと。賢明なあなたになら、わかるだろう?
さあ、クソ退屈な前置きはこの程度にして、本題に移ろう。
NeverAwakeManによる、独りよがりなゲームオブザイヤー2024。様々な切り口からの部門賞と、総合一位としてのGOTYを選出する。したがって、必ずしも面白いゲームだけが選ばれるわけではない。また、選考対象はあくまで俺が2024年に遊んだゲームであり、2024年以前に発売された作品やアーリーアクセスが含まれることにも注意だ。
それでは発表しよう。ドラムロール!
Best "Minimal" Game - 『Kill The Crows』
打ち捨てられた町に、ガンスリンガーが一人。彼女を取り囲むのは、カラス仮面を被った邪教の徒。頼れるのは、たった一丁のリボルバー。必要なのは、たった一撃。一撃で殺すか、一撃で殺されるか。
目の粗いドライなドット絵で描かれる『Kill The Crows』は、暗黒西部のタフな空気を、ごくシンプルなツインスティックシューターという形で描いてみせた。撃って、避けて、リロードする。ただひたすらにそれを繰り返すだけ。一度の被弾も許されない極限の緊張の中、プレイヤーは淡々と引鉄を引き続け、死体の山を築いていく。
あまりのミニマルさで冗長になりそうな本作のプレイフィールを支えるのが、効果音だ。リボルバーの重たい射撃音が一撃必殺の説得力を生み、チャキチャキと響くリロード音が昂ぶる神経を鎮める。微に入り細を穿つ効果音の数々が、おまえは孤高のガンスリンガーなのだと教えてくれる。だが、ゆめゆめ忘れてはならない。ガンスリンガーに永遠の安息など訪れないということを。
引き算の果てに生まれた『Kill The Crows』はアクションゲーマーに与えられた煉獄だ。そこでは、かの『レッド・デッド・リデンプション』すら太刀打ちできないほどに極まったガンスリンガー体験が味わえる。
Best "Memorable" Game - 『未解決事件は終わらせないといけないから』
誤解している人も多いけれど、記憶と記録は違う。記録は完全であることを前提とするけれど、記憶はいつだって不完全で、曖昧で、おぼろげだ。だからだろうか、記憶を思い出すという行為はパズルのピースを繋ぎ合わせることにしばしばなぞらえられる。
『未解決事件は終わらせないといけないから』は、"思い出す"という行為が持つこのパズル性を最大限に引き出したゲームだ。主人公は過去の未解決事件を思い出し、頼りない記憶をひとつ、またひとつと結びつけていく。SNSのようなタイムラインに並ぶ会話を正しく並べ直し、キーワードから新たな記憶を呼び起こすのがプレイヤーの役割だ。
誰が話しているのか?いつ話しているのか?会話の順序は正しいのか?内容は合っているのか?そしてなにより、いったいなにが起こったのか?記憶の世界では、なにもかもが不確かだと誰もが知っている。そしてその不確かさを、誰かが望んだとしたら?
しかし、たとえそうだったとしても。未解決事件は終わらせないといけないから。
バラバラになった記憶のかけらをすべて取り戻したとき、このゲームはきっと、あなたの記憶にずっと残り続ける作品になるだろう。
Best "Hella Fun" Game - 『HELLDIVERS 2』
マルチプレイゲームの醍醐味のひとつは、複数のプレイヤーが絡むことによって生まれる化学反応にある。麻雀から桃鉄、L4D2に至るまで、プレイヤーの相互作用が引き起こすカオスはいつだって俺たちを腹の底から笑わせてきた。
いま、その笑いの最前線に立つゲームが『HELLDIVERS 2』だ。プレイヤー諸君は管理民主主義の尖兵となり、人類に害をなす虫やらロボやらゾンビやらを根絶やしにするという崇高な使命を果たすことになる。合言葉は「民主主義を喰らえ!」だ。
地から湧き、空から降るエイリアンの群れを通常兵器で対処するのは現実的ではない。航空爆撃や軌道レーザーや500キロ爆弾といった多彩な戦略支援を駆使し、敵を跡形もなく吹き飛ばしてこそヘルダイバーは面白い。銃座に乗って高笑いしながらエイリアンの群れを薙ぎ払うのもすこぶる爽快だ。
まあ、防衛線を破られ弾も尽き、敵の群れに死ぬほど追いかけ回されて這いつくばる真の地獄を見るまでは……という但し書きが必要ではあるが。
『HELLDIVERS 2』の最大の特徴は、フレンドリーファイヤーを絶対にオフにできないことだ。だから、味方の要請した空爆が自分に近すぎて爆死するとか、自動砲台の射線に被って蜂の巣にされるなんて、あまりにも日常茶飯事だ。
言うまでもないが、この手のシステムはふつう嫌われる。悲劇と不和を生み、プレイヤーたちをギスらせる。しかし『HELLDIVERS 2』では、あらゆるフレンドリーファイヤーがなんとも破壊的でバカげたユーモアに逆転する。地平線の彼方まで吹き飛んでいく自分の死体と景気のいい爆炎を目の当たりにすると、味方のミスに怒る気など失せてしまうのだ。
ひと笑いしたらもう一度地獄へ飛び込もう。民主主義を喰らわせるために。
Best "Heroic" Game - 『Warhammer 40000: Space Marine 2』
人類に害をなす敵を根絶やしにするゲームだ……とだけ書くと、本作はついさっき紹介した『HELLDIVERS 2』とまるで変わらないように思えるかもしれない。実際、いかついアーマーを着込んでエイリアンの大群を捌くTPSという点で、『スペースマリーン2』はさきほど紹介した『HELLDIVERS 2』と驚くほどよく似通っている。奇しくも、ナンバリングまで同じだ。
だが、『スペースマリーン2』がほかのHorde系シューターと一線を画しているのは、畏怖すら感じるヒロイックさにある。
ヘルダイバーがあくまで捨て駒の一般人であるのに対して、スペースマリーンは白兵戦において宇宙最強と謳われる存在だ。たとえば、同じウォーハンマー40Kの世界を舞台にしたFPS『Warhammer 40000: Darktide』ではボルトガンというすさまじい威力と反動を誇る重火器があるのだけれど、これはスペースマリーンが己の手足のように扱う標準装備だったりするくらいだ。
そんな一騎当千のスペースマリーンなので、当然ながら他のHorde系シューターの主人公とはまるで違う戦い方をする。まず、腰抜けのようにチマチマ引き撃ちしたりなんてしない。ボルトガンを連射しながら、敵陣めがけて猛然と突き進む。それこそがスペースマリーンの本懐であり、最適解だ。
敵の群れに突っ込んだら、今度は格闘戦の間合いだ。チェーンソードを抜き放ち、敵をまっぷたつにしてさらに進む。フィニッシャーやカウンターで体力がモリモリ回復する本作では、普通のTPSよりずっと壮絶でアドレナリン全開な接近戦が促される。文字通り、ちぎっては投げ、投げてはちぎる大乱闘が繰り広げられるのだ。
そうして気付いたときには、青いアーマーを真っ赤な血に染め上げた立派なスペースマリーンになっている。これを楽しいと言わずしてなんと言おう?
Best "Addictive" Game - 『Balatro』
本作の選評を書くにあたって起動したところ、なぜか夜が更けていたため、割愛する。
Best "Liminal" Game - 『HOLE』
数年前から胎動していたリミナルスペース系ゲームのブームは、『8番出口』によってひとつの完成形を見たといっていい。俺も、今年はこの手のゲームにずいぶん楽しませてもらった。
8番出口とそのフォロワー作品により、リミナルスペースというジャンルはものすごい勢いでレッドオーシャンになりつつある。そんな中、ワンコインで買えるFPS『HOLE』はシューターとしてきちんと遊べて、かつリミナルなゲームという直球勝負で勝ちにきた。
本作は脱出シューター、いわゆるタルコフライクだ。フィールドを探索しつつ、仮面をつけた謎の敵を倒したりして得た物資を拠点に持ち帰り、武器やステータスを強化して再挑戦するというプレイループで構成されている。ただ、このフィールドに一癖ある。
無機質なオフィスに、ゴミ袋とドラム缶の散らばる下水道。そして白昼の団地。ついさっきまで誰かが日常生活を送っていたのが、一瞬後に消えてしまったかのような不条理空間。実在感と非実在感の狭間にある、シュールレアリスムの迷路。リミナルスペースといえば二言目には黄色い部屋だのプールだの8番だのと騒がしかったこの年に、『HOLE』は鋭い目線からリミナルスペースを再構築してみせた。
そして、本作をただの一発ネタではなく緊張感あるシューターにしてくれる魔法のスパイスが、弾詰まりだ。撃ちすぎると銃が過熱し、ランダムで弾が詰まって撃てなくなるのだ。そのため、本作ではチャンバーアクション用のボタンが別に設定されている。これは、詰まった弾を強制的に抜いたり、弾倉の最初の一発を込めるのに必要なアクションだ。
死んだら稼ぎがパアになるし、敵は謎めいたモゴモゴボイスで喋りながら撃ちまくってくるし、最悪のタイミングを狙いすましたかのように弾は詰まる。弾が詰まってガチリという音を聞いた一瞬後には、頭を撃ち抜かれているかもしれない。そんなプレッシャーに晒されながらリロードの手順を正しく踏むというのはひどく厄介な代物で、プレイヤーをこのリミナルな戦場に慣れさせてくれない。
小粒でもピリリと辛いハードなシューターを求める人にはうってつけだ。
Best "Good Old" Game - 『シャドウ・オブ・ウォー』
積みゲーとは罪ゲーと見つけたり。指輪物語の世界を舞台にした『シャドウ・オブ・ウォー』が発売されたのは2017年のことだから、どうやら俺は実に7年近くもこのゲームを積み続けてきたらしい。7年といえば、酒でも上物になるのに十分な時間のはずだ。
実際のところ、『シャドウ・オブ・ウォー』は7年の熟成期間を経てもまるで色褪せないゲームだった。仮に今年発売されていても、GOTYに輝くポテンシャルがあると思えるほどに。
『バットマン:アーカム』シリーズに端を発したフリーフローコンバットは、本作で円熟の域を迎えている。主人公タリオンはバットマンのような不殺の誓いなど立てない、むしろその真逆のオークスレイヤーなので、群がるオークを実に痛快かつブルータルに斬り捨てていく。斬殺、炎上殺、毒殺、ドラゴン殺など様々なフィニッシャーで、下賤なオークどもに無慈悲な死と恐怖を与えてやろう。さらには「いくぞてめえら」式の攻城戦まであり、派手さと残虐さにはまず不足しない。
そして、この7年もの間『シャドウ・オブ・ウォー』をオンリーワンの存在にしてきたのが"ネメシスシステム"だ。本作に登場するオークたちにはそれぞれ個性やヒエラルキー、好悪の関係性などがあって、決して一枚岩ではない。ネメシスシステムはオークたちの数奇な運命を司るものだ。
たとえば、タリオンがあるオークと戦っているところに別のオークが奇襲を仕掛けてきて三つ巴になったり。あるいは、過去に殺し損ねたオークが弱点を克服してタリオンに復讐しに来たり。ほかにも、かつて洗脳したはずのオークが城攻めの土壇場で裏切ったりする。オークとタリオンの悲喜こもごもな人間(?)模様を織りなしながら、ネメシスシステムはプレイヤーの因果すら絡んだ唯一無二の物語体験を提供してくれる。
……ただ、実に悲劇的なのは、ネメシスシステムが目下のところ塩漬けにされてしまっていることだ。この7年というもの、『シャドウ・オブ』シリーズの続編やリマスターどころか、ネメシスシステムを流用した新作すら登場していない。もしかして、ワーナーの役員連中は冥王サウロンに脅されながら仕事をしているのか?
Best "Cinematic" Game - 『1000xRESIST』
一本の映画は、一連のシークエンスからなる。シークエンスは、いくつものシーンで構成される。そしてシーンは、たくさんのショットでできている。
優れたショットが無数に見られるという点で、『1000xRESIST』は2024年でもっとも映画的なゲームといえるだろう。本作の映像的センスはビデオゲームという言葉から連想しうるものからおよそかけ離れており、それでいて、ゲームでなければおよそ実現できなさそうな超越した雰囲気を持つ。
基本的なゲームプレイはシンプルで、ウォーキングシミュレーターとノベルゲームの中間のようなものとなっている。独特なのは、テキストボックスを読み終えてボタンを押すたび、次のショットに切り替わるという点だ。キャラクターはほとんど動かない。古臭い例えになってしまうが、古のボラギノールのCMのような感じだ。
こうしたショットからショットへの絶え間ない切り替わりがシーンを生み、シーンからシーンへの移動がシークエンスを形作る。そうして得られるのは、映画鑑賞と読書とゲームプレイが融合したような奇妙な物語体験だ。
1000年という長大なタイムスパンで繰り広げられる世界観、パンデミックに基づく生々しいストーリーテリング、香港とそのディアスポラを巡る非常にデリケートなアイデンティティ問題、母子の確執など、本作にはあまりにも多くのことが詰め込まれている。正直なところ、いまも消化しきれているか不安になるくらいだし、このゲームが万人に合うとも思えない。
けれど、あなたに勇気があって、SFと映画が好きならば。『1000xRESIST』は二度と忘れられないほどの衝撃であなたを揺さぶってくれるかもしれない。
Best "Wonderful" Game - 『Echo Point Nova』
ゲーマーは夢を見る。自分勝手な夢を。「オープンワールドで……壁走りとかできて……グラップリングフックもあって……スローモーションもできて……デカいロボットも登場すると嬉しい!」だのと、なんとも好き勝手な夢を。
『Echo Point Nova』は、このふざけきったゲーマーズドリームをインディー規模で成し遂げた、奇跡のFPSだ。
本作のオープンワールドは無数の空島で構成されており、プレイヤーはホバーボードとグラップリングフックを駆使してこの縦にも横にもバカデカい世界を時速180キロでブッ飛んでいける。移動ギミックは反則的なほどに便利で、ホバーボードで壁を垂直に滑ったり、敵や雲にすらグラップリングできたりする。ボクセルで作られた地形がすべて(このすべてというのは"本当にすべて"という意味で、一切誇張はない)破壊できるというのも、夢にあふれた仕様だ。
はるか遠くに見える白みがかった空島に向かってひたすらグラップリングとグライディングを繰り返し、それが大きな氷山の塊だとわかったとき。砂漠を蛇行する巨大な影が、人知を超えた大きさの要塞ロボットだとわかったとき。弾幕をかいくぐりながら、グラップリングで巨大ロボットに飛びついたとき。弱点を叩き潰されて崩壊するロボットを眼下にスカイダイブするとき。そして、ついに重力の軛から解き放たれるとき。『Echo Point Nova』は、こういうセンス・オブ・ワンダーではちきれんばかりのゲームだ。
ゲームの"自由度"という言葉は曖昧すぎて、しばしば論争のタネになる。だが、言っておこう。『Echo Point Nova』を遊ばないうちは、そんなもの机上の空論ですらないと。
Best "Smart" Game - 『サイレントヒル2 リメイク』
ゲームはテクノロジーに強く依存するメディアのため、古典的名作を正しく評価するのは難しい。発売された当時だからおめでたいゲームだったのか、現在の水準に照らし合わせても頭一つ抜けたなにかがあるのか、容易に判断できない。その判断の難しさゆえに、「昔のゲームは不便なのが逆によかったんだよネ~」などという、聞くだけで脳ミソが錆びつきそうな誤解がしばしば生まれる。
ホラーゲームにおいては、この問題はさらに深まる。つまり、なにがそのゲームをホラーにしていたのか?やっかいな操作性やカメラアングルのせいで恐怖を感じていたのか?のっぺりとしたローポリゴンが怖かったのか?赤白黄のAVケーブルで繋がれたブラウン管テレビに走るノイズが恐ろしかったのか?
『サイレントヒル2 リメイク』は、この難題を美しい陰影で解決してみせた。霧に包まれた町並み、逆光に閉ざされた廊下、蛍光灯が頼りない病棟。血錆と暗闇に満ちた裏世界。歩いているだけでげっそりするような、それでいてただじっと座っていたくなるような、いやにシケった空気感。その影からゆらりと現れる、正気を失うような造形のクリーチャーたち。光と闇の巧みなコントラストにより、本作は「高精細なのにまるで先が見通せない」という一見矛盾したビジュアルを見事に実現している。
サイレントヒル2を古典たらしめたあの息苦しい雰囲気を損なわず、本作は現代的なTPSとしても十分にブラッシュアップされていておもしろい。クリーチャーとの戦闘は適度に歯ごたえがありつつもフェアで、弱点を狙い撃ち攻撃を回避するという基本的な駆け引きをしっかりと備えている。マップ設計も非常に無駄がなく、パズルや弾薬などのためにプレイヤーをあちらこちらへ歩き回らせつつも、無駄な往復自体はほとんどない。
優れたリメイクとは、過去の操作体系やらカメラワークやらをただなぞることではない。むしろ、もっと大胆かつスマートな取捨選択によるものだ。『バイオハザード RE:2』に引き続き『サイレントヒル2 リメイク』もまた、それを証明する傑作となった。
Best "Gorgeous" Game - 『黒神話:悟空』
数年から豪華なトレーラーばかり出てきて本編がいっかな発売されないと思っていたゲームが、ついにやってきた。ほぼ開発実績のない中華ゲームスタジオが手掛けるAAA超大作というおそろしく胡散臭い高いハードルを、『黒神話』はなんとマジで飛び越えてきた。
何年も焦らされてきたにもかかわらず、本作のビジュアルは驚異的というほかない。建物から地形、妖怪変化の数々に至るまで、洋の絢爛とも和の幽玄とも異なる中華のオリジナリティを放っている。それはストーリーについても同じで、単なる「西遊記・ザ・ゲーム」には決してとどまっていない。多くの人が親しんできたあの西遊記をやたらマニアックな領域にまで深堀りしつつ、難解で内省的なダークさを含んだ「その後」を描くことに成功している。
戦闘システムはソウルライクをベースにした堅実なものながらも、如意棒を使った舞闘のようなモーションは独特で、小気味よいテンポとスピード感を味わわせてくれる。変化術や分身術、金剛術といったトリッキーな妖術を使いこなし、いかにも伝奇の孫悟空らしい立ち回りで敵を翻弄できるのも面白いところだ。
悟空がやらねば誰がやる。『黒神話』が纏う圧倒的なゴージャスさからは、AAA級大作ゲームの将来を垣間見ることができるだろう。中華ゲーといってナメてかかる時代はもはや遠い過去だ。
GAME OF THE YEAR - 『プリンス・オブ・ペルシャ:失われた王冠』
横スクロールアクションゲームというジャンルは多くの要素を含んでいる。ざっくり分けただけでも、ジャンプやダッシュをベースとした足場渡りに、遠近の戦闘、それらを応用した謎解きや探索など多岐に渡る。
もし戦闘要素に強みがあるならそれはボスラッシュ的なゲームになるだろうし、謎解きや探索に強みがあるならそれはメトロイドヴァニア的なゲームになるだろう。ほとんどのゲームはどれかの要素に注力することで強みを生み出すわけだが、なんと『プリンス・オブ・ペルシャ:失われた王冠』はどれも強い。
トラップだらけの危なっかしい足場や壁を、リズミカルかつアクロバティックに飛び渡る瞬間。初見ではまるで意味不明なトゲだらけの地形を、二段ジャンプと空中ダッシュの適切な使い分けで突破できた瞬間。どう使えばいいのかわからないような変なスキルが、実はパズルやボスを攻略するカギになっていると気付いた瞬間。こうした瞬間すべてが、ゲーム脳をビキビキに気持ちよくさせてくれる。
戦闘システムは攻撃/回避/パリィの三種の神器をきっちり揃えつつ、デビルメイクライばりのコンボを開発する自由度をも備えているのが嬉しい。大技で挿入されるカットシーンは自分のそれも敵のそれも大迫力で、戦闘の満足感でいうと『スペースマリーン2』に勝るとも劣らないほどだ。
『プリンス・オブ・ペルシャ:失われた王冠』は、メトロイドヴァニア、ひいては横スクロールアクションというジャンルそのものの水準を一段引き上げる偉業を成し遂げた。それを可能にしたのはブッ飛んだ独創性でもなければ、極端な作家性でもない。地道で緻密なゲームデザインの積み重ねにほかならない。意識しなければ気づけないほどにさりげなく、それでいてクリティカルな工夫の数々が、本作をすばらしく上質で遊びやすいゲームへと昇華させたのだ。
神は細部に宿るという言葉を証明するかのような、美しいゲーム。テクノロジーとノウハウ、そして横スクロールアクションというジャンルに対する誠実さが巧みに結実した傑作として、私家版ゲームオブザイヤー2024を『プリンス・オブ・ペルシャ:失われた王冠』に決定する。
未来へ……
いわゆるAAA級大作ゲームは凋落しつつある。冒頭の啖呵と矛盾して聞こえるかもしれないが、ゲーマーの肌感覚としてそう思ってしまうのは否めないところだ。
ゼロ年代から2010年代にかけて天下を取っていた大作ゲームが、フランチャイズ展開の果てに痩せ細り、作る側も遊ぶ側も惰性でやっているような体たらくになってしまった。これはあくまで素人の当て推量にすぎないが、欧米型のAAA級大作シリーズは向こう数年冬の時代というか、反省の時間が訪れるのではないだろうか。
とはいえ、この潮流も大局的に見ればコインの表裏のようなもので、幸いな面もある。すなわち、これまでなら見過ごしてしまっていたようなAA級~インディー級の逸品が、従来のAAA級の不在と凋落を埋めてくれていることだ。『黒神話』の選評でも述べたとおり中華ゲーの躍進は目覚ましいし、ただの懐古趣味にとどまらない優れたリメイクが続々リリースされているのも好ましいと思う。
なんであれ、来年もたくさんのゲームを遊べればいいと切に願……うん?
アアッ……
ワアオ……
ウワオオオオ……!!!!!
…………
……
…