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これがVTuberに関する論考として歴史に残ってしまうのはだいぶ知的にまずいと思います。(論座2021年10月1日)

50年100年後の研究者がこれを参照して(なんといっても日本のクオリティペーパーな新聞社なわけだから)信用して研究をしてしまうのはだいぶまずいよなあと心配しています。

まず記事として構成がおかしい。キズナアイの複数人制は、中の人を入れ替えることが失敗した業界最大規模の実例ですが、それを取り上げた上で、彼はこう論じているわけです(以下引用)

しかしその一方で、アバターと中の人が一対であり不可分な関係性だというのは、VTuberのアバターひとつに中の人ひとりという、現在主流な運用形態から見た言い分に過ぎないということも示している。

 故に本質的にはVTuberのアバターには人格は存在せず、VTuberの人格とは、その時点でしゃべりや操作を担当している中の人の人格でしかないのである(引用ここまで)

以降の記述に、この実例が必然的なものでなくただの偶然であり条件が違えば成功する可能性もあったのだ、と主張が展開するのならこれは正しい書き方ですが、そんな主張はこの後一切出てこない。有料部分もちゃんと読みましたよ。出てこない。何の根拠もなく、ただ彼の主張する本質を述べて上書き(出来ていないが)してるだけの例示なのです。

これは通らないでしょう。たとえるならこうだ。「実験したところ、鉄球の重量に関わらず落下速度はほぼ一定であった。でもこれはただの偶然で、鉄球の落下速度は本質的には重量に比例しているのである」

理工系大学なら一回生の必修授業のあまあま採点でもこのレポートは通してもらえない。僕が先生ならレポート二度読みした後、「君、これ提出するときに途中のページ抜けてないかい? 理屈が繋がってないと思うんだよ」って聞くよ。これで通る学問ってどこにありますか。何を専攻されてる方でしたっけ?

VTuberにおいて中身を入れ替えることが可能だと主張したいのであれば、せめてその実例くらいは挙げるべきだ。僕の知る限りでは存在しないが、僕もこの世の全VTuberを知ってるわけではないので成功例だってあるかもしれないからね。

これがアニメキャラクターなら、成功例はいくらでもあるんですよ。それこそドラえもんだってサザエさんだって代替わりしてるし、もっと若い今ホットなコンテンツだって、声優さんの体調不良とかが理由で交代してもうまくいってる例はあります。あるから例示できます。FGOのマシュとかね。

一方でVTuberで中の人を入れ替えて成功した例って出せますか? 失敗例なら出せるわけですがね。貴方の出したそれが業界最大規模の失敗例だ。キズナアイほどのビッグネームで、国際展開出来るほどのお金を掛けて動いて、それでも失敗してるんですよ。多分貴方の理論を実証するためにそういうこと試してくれる会社は今後そうそう出てこないと思いますよ。

赤木氏がその後有料部分でぐだぐだ(失礼)書いているのは、ようはVTuberに人格があるなどという主張をしたら規制反対派がアニメキャラクターに感指定している主張が崩壊するぞ? という、取引だか恫喝だか分からない提案であって(貴方の主張に同意することがなんの保障になるというのか(笑))。

それは、中の人を入れ替えるのが実際可能かどうかとは関係がないですね? 貴方が無料部分で最初に提案したのはこちらのはずだ。話をすり替えている。入れ替え不可能性が僕らの反規制の主張に不利であるか有利であるかと、入れ替えが可能か不可能かはまるで別の問題だ(※文末に注釈つけました)。馬鹿にしないでいただきたい。自分の都合に合わせて物事の真偽をごまかしたりなどしませんよ、それは知的不誠実というものだ。そんないい加減がまかり通っている界隈に貴方はいらっしゃるので? 私は違います。

VTuberの中身を入れ替えないのは現在主流の運用形態に過ぎないと貴方はおっしゃる。しかし少しでも知ったものからみれば、それが実際どれほど困難かを考えれば、ほぼ必然としか言えませんね。留保を残すのは知的に誠実であるためだけど。少なくとも私は成功例を知りません。

そもそもVTuberのVは何の略だかご存じか。VirtualのV、Virtual Realityを用いたYouTuberのことをVTuberというのです。多くのVTuberが複数のLive2Dや3Dモデルや時に着ぐるみやパペットを着替えて配信をしますが、中の人は同じです。VRとはそういう技術です。自分の見た目を変えることは出来るが、人格を取り替えられるわけではない。

僕に取ってキズナアイとは、僕より若干下手なくらいの腕前で何度もバイオ7に挑戦して(登場人物の口汚さに釣られて)ふぁっくふぁっく毒づいて、これ無理なんじゃないのかと視聴者に不安をよぎらせながらもとうとうクリアを果たした、それを応援した僕らの知るキズナアイその人なのであって、分裂した、と聞いたときには、え、じゃああのキズナアイではないこの同じ姿をした人は誰なの? と、ショックを受けたものです。それでしばらく心の整理がつかなくてキズナアイの動画は観なくなっていましたね。

彼女は現在は一人に戻っていることを宣言していて、それで一度離れた視聴者も戻ってきているのではないかなと思います。僕も、少しずつ心の整理がついてきて、好きなVTuberとコラボしてたりもするし、これからはまた応援しようかなと思っています。——わざわざ宣言する必要があったんですよ。それほどに、分裂は失敗だったのです。キズナアイの活動上最大の。

桐生ココの中の人は今別の名前で個人系YouTuber・VTuberをやっており、そちらは受け入れられています。彼女が元桐生ココであることはいわゆる公然の秘密というやつであり、皆知っています。そういうやり方はまだいくらかは可能です。彼女の人格は姿を入れ替えても連続しているからです。では、桐生ココの姿で別の人に中に入ってもらうことは可能だったか? 会社がそれで成功すると思うならやっていたでしょうね。あれほどの売れっ子なんだから。そうならなかったのが答えですよ。赤木さんのような発想をする人がいなかったとは思えないしそうすることも検討にはのぼったと思いますよ。取り入れられなかった。現場の人はそれは無理だとみな言ったでしょうし、今回は先に失敗例がありましたからね。困難だと判断されたのでしょう。

我々はVTuberの姿ではなく人格のほうに本質的な連続性を感じているのです。VTuberには人格があり、中の人と分かちがたく結びついている。

経営側の専門家とか、あるいはクリエイター側であってもVTuber自体はあまり知らない方であれば、赤木さんと同じ発想で中の人を入れ替えて運用しようとするかも知れない。多分キズナアイのあの「分裂」の際にはそれを誰かがやったんでしょう。中の人の仕事量には限界があり、大規模展開する上で弾数を増やす妙案として、多分その方はあくまで善意の元に。

僕もクリエイター側のはしくれなんで、あまり分かってない分野で企画を立てるとそういう失敗をしてしまうことがあるのは知っています。そういう人が現場の人より権限があることもしばしばありえて、そういうときにはこういうことが起きるものであり、だから心の整理がつかなかったんですよ。別に誰に悪意があったわけでもないでしょうからね。

しかしまあ、自分の主張の最大の失敗例を出しておいて、なんの説明もなくでも僕の主張は正しいはずだとだけ主張するタイプの記事を僕は初めて読みましたので、かなり当惑したということだけは最後に述べておきたいですね。内容以前に形式のレベルで記事として成立していないのでは? 「論座」って編集する方がこういう内容へのツッコミはいれないんですかね? これで月770円取るのはちょっとね……仕方なく契約したけど、この記事絡みの必要がなくなったら解約したい。

(※注釈)そもそもアニメキャラクターとVTuberは人格という点で本質的に違うので有利不利の話にもなっていないのだが。アニメキャラクターと声を当てている声優さんには人格的な連続性は誰も主張しない。たとえば、マシュ役の人がごはんを食べに行った話をしても、それは声優さんがご飯を食べに行ったという話である。マシュは実在しないからね。だが、大空スバルがごはんを食べに行った話をしたら、それは大空スバルがご飯を食べたのだと誰もが解釈するだろう。大空スバルは実在する芸能人の芸名だからだ。大空スバルの中の人は、大空スバル「役」ではないのだ。声優がご飯食べに行った話とVTuberがご飯食べに行った話を見比べてみれば、語の解釈のレベルで扱いが違うと分かるはずだ。

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