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【特集】第50回衆院選(2024年)自民党――過半数割れのリアル

 今年10月の衆院選で自民は大きく議席を減らし、公明を合わせた与党としても過半数を割ることとなりました。この明らかな敗北と言うよりほかにない結果は、他方で野党の勝利とも呼ぶことができるのでしょうか。ここでは自民に焦点をあてつつ、衆院選の総括を行います。

 なお、先の選挙からまだ日が浅いため、ここでは第50回衆院選(2024年)を今回の選挙、第49回衆院選(2021年)を前回の選挙とも表記していきます。


自公、少数与党に

 まず議席数から概観してみましょう。下の図は今回の選挙で確定した議席配分で、括弧内は選挙前からの増減を表します(選挙前とは、今回の解散が行われた時点にあたります。3年前の前回選挙との比較も後ほど表2でとりあげていきます)。

図1. 第50回衆院選(2024年)の議席配分(NHKの開票速報による)

 なお、ここでは政党の公認を受けていない議員は全て無所属に数えていることに留意してください。無所属12人のうち6人は与党側の立ち位置で、自民党の会派に所属する広瀬建氏、三反園訓氏に加え、裏金問題で離党した世耕弘成氏や、非公認とされた萩生田光一氏、西村康稔氏、平沢勝栄氏の6人が含まれます。野党系の無所属には、会派「有志の会」の福島伸享氏、北神圭朗氏、緒方林太郎氏、吉良州司氏と、会派に所属していない中村勇太氏、松原仁氏の合わせて6人が挙げられます。

 選挙の結果、自民党は191議席(選挙前から-56)、公明党は24議席(-8)となりました。与党全体では215議席(-64)で、与党系の無所属6人を加えても過半数には12議席ほど届きません。

 他方で野党は、立憲民主党が148議席(+50)、国民民主党が28議席(+21)、れいわ新選組が9議席(+6)と、それぞれ議席を増しています。日本維新の会は38議席(-6)、日本共産党は8議席(-2)で、こちらは議席をやや減らしました。社民は1議席(±0)を維持し、今回はじめて衆院選に臨んだ日本保守党は3議席(+3)、参政党もおなじく3議席(+2)を確保しています(参政党が衆院選に臨んだのははじめてですが、教育無償化を実現する会に所属していた鈴木敦氏が選挙前に入党しているので、増減は+2となっています)。

 自公は少数与党となったため、法案を通すためには野党の一部の賛成を得ることが必要になりました。野党はそのほとんどが協力すれば内閣不信任案を可決させられる状態です。

 また、立憲と共産、あるいは立憲とれいわのいずれの組み合わせでも衆院の3分の1を占めることとなり、これら2党の反対によって特別多数決を拒むことが可能となりました。特別多数決は過半数を超える基準で採決をとることで、衆議院では3分の2の賛成をもって、憲法改正の発議や議員の除名、法案の再可決、秘密会の開催ができることとされています。


支持率「10ポイント減」の負荷

 自民が大幅に議席を失ったのはどうしてなのでしょうか。各社の世論調査を平均したところ、前回から今回の衆院選にかけて支持率が10.1ポイント落ちていたことが明らかになりました。

図2. 自民党の支持率の推移(各社世論調査にもとづいて計算)

 各社の世論調査は方法などの違いによって、特定の政党について高めの数字が出やすかったり、低めの数字が出やすかったりする固有の傾向をもっています。上の図2では、そうした傾向を打ち消すように補正をかけて平均を求めました。太い緑の線で示したのが自民党の支持率の平均で、一つ一つの世論調査を補正した結果を以下の一覧の点で示しました。

表1. 世論調査の凡例

 政党支持率は単なる有権者の気分にとどまるものではなく、選挙に対する具体的な効力をもっています。たとえば支持率が前回選挙よりも高ければ議席が増える見通しが立ち、逆に低いと減る見通しが立てられます。そしてそれは直近の話題に左右された細かな増減ではなく、前回から今回までの間の様々な出来事によって蓄積した落差が問題となるのです。

 政治的な出来事とともに振り返るならば、自民党の支持率には第26回参院選(2022年)の後、旧統一協会との関係性が問題となった際に一定の下落がみられました。2023年5月の広島サミットまでは岸田氏の求心力による歯止めがかかっていたとみられますが、その後は再び下降をはじめ、同年11月に裏金問題の告発が報じられると急落が起きています。

 2024年6月に通常国会が閉会すると、追及や批判的な報道の減少にともなう復元力が働き、支持率はやや回復へ転じました。同年8月に岸田氏が退任表明をしてからは総裁選への動きも始まり、さらなる上昇を見せています。しかしながら総裁選の時のピークでも前回衆院選並みの水準に届くことはなく、石破氏の選出から日が開くにつれて支持率はまた低下へと向かいました。

 これらの出来事の蓄積として、前回衆院選の投票日に平均38.3%あった自民党の支持率は、今回は28.2%となりました。この3年で10.1ポイント落ちていたわけです。


自民の敗北は「裏金以前の問題」

 ところで政権を奪還して以降の自民党は、批判を受ける事態となっても、報道が下火になるとやがて支持率を持ち直してきました。たとえば森友問題や加計問題、公文書改竄などで支持率が落ちても、選挙までには回復し、勝利をおさめてきたのです。今回の敗因を裏金問題や旧統一協会との関係性といった個々の事柄に求めるならば、それらがもたらした支持率の低下がなぜ蓄積したのかということに回答しなければなりません。

 ここで異なる角度から支持率を見てみましょう。次の図3は、自民党の支持率とドル円相場を重ねてみたものです。ただしドル円は一般の表記とは上下を逆にして、上ほど円高に、下ほど円安になるように軸をとりました。

図3. 自民党の支持率とドル円相場の推移
(ドル円相場はみずほ銀行の外国為替相場情報による)

 なお、こうした異なる分野の統計を見比べる際には十分な注意が必要となります。支持率は固有の政治的な出来事――たとえば反対の多い法案の強行採決や閣僚のスキャンダルなどのほか、首脳会談やサミットなどの外交にも左右されています。他方でドル円には金利差や為替介入、地域紛争といった別の要因が働きます。それぞれの出来事に必ずしも繋がりがあるわけではないことを忘れると、異なるものを過剰に結びつけてしまう危険性があるのです。

 けれども円安は物価高の一因となっており、パンからiPhoneの値段にまで広く影響をおよぼします。ですからドル円は人々の生活感覚の一端を反映する指標であり、長い目で支持率への影響を考える意味はあるはずです。

 物価との関係をより直接的に描くと次のようになります。以下の図4は自民党の支持率に消費者物価指数を重ねたもので、消費者物価指数は一般の表記と上下を逆にして、下ほど物価高になるように軸をとっています。

図4. 自民党の支持率と消費者物価指数(2020年基準)の推移
(消費者物価指数は総務省の2020年基準消費者物価指数(総合)による)

 消費者物価指数は、基準にとった「ある時」と比べて物価が何倍にあるのかを示す指標です。図4のデータでは2020年が基準の100とされているので、仮にこれが110となれば、その時の物価は2020年当時の1.1倍であるわけです。物価には食料品、生活用品、電気代、家賃、教育費など様々なものがありますが、ここではそれらをまとめた「総合」指数を代表として用いました。

 図4に見られる物価高の進行は、有権者にかかる経済的な負担を象徴するものにほかなりません。今年の10月には日経新聞によって、家計の消費支出に占める食費の割合である「エンゲル係数」が42年ぶりの高水準にあることが報じられました。誤解を恐れずに言うならば、日本は42年間で最も貧しくなったのです。

 どうにもお金がない、暮らしが良くなる見通しがない、未来の展望が描けない――たとえ実感や気持ちといった消極的なレベルでも、有権者はその責任を最大与党に求めないわけにはいきません。自民党の支持率にかかる潜在的な負荷は次第に蓄積したでしょう。

 裏金問題も敗北の原因となった一時的なトピックのように捉えるのではなく、このように人々の暮らしが苦しくなっていることが根底にあり、そうしたなかで露見したお金をめぐる問題が批判を集めたというふうに理解する必要があるのではないでしょうか。


なぜ解散を急いだのか

 石破氏は総裁選の討論の際、衆院解散の時期について「すぐやるとはならない」「国会論戦の後」などと述べてきましたが、総裁になると一転して戦後最短の日程で解散することを選びました。その際に党幹部らといかなるやりとりがなされたのかは記者が解き明かすことですが、以上をふまえて次のような解釈を与えることは可能です。

 まず、支持率が落ちた背景に物価高や生活苦があるならば、それを改善できない限り、自民党にとって根本的な選挙情勢の好転は見込めません。しかしながら、図4からは物価高が進行の一途をたどっていることがうかがえます。そうである以上、選挙を先送りしたところで裏金問題に対する批判は沈静化しないでしょう。総裁選で上がった支持率は、報道量の増加と新総裁への根拠のない期待感によっています。それは一時的なものであり、やがては元に戻るのです。また、選挙までの余裕があれば、新興政党の参政党や日本保守党はより多くの候補を揃えてくるかもしれません。それは自民党の票の流出を招き、さらなる痛手となるはずです。

 このようなことから、自民党側からみて、早期の解散に一定の合理性があったと考えることはできるのです。


大勢を決した「小選挙区の2党」

 ここからは小選挙区と比例代表のそれぞれについて、各政党と政治団体が得た議席や票を前回と比較し、選挙のポイントを明らかにしていきます。

 まずはそれぞれが得た議席の数を表2に示しました。この表では左が小選挙区、右が比例代表と大きく分かれており、それぞれに前回、今回、増減が記載されています。増減には変化の大きさに応じて色をつけたので、濃いところを重視して見てください。

表2. 各政党・政治団体の獲得議席数(総務省の速報結果を一部変更して表示)

※総務省は第50回衆院選(2024年)の日本保守党の議席を小選挙区0、比例代表2としています。これは河村たかし氏の議席を日本保守党として数えていないためですが、この表では数える方が解釈しやすいと考え、日本保守党を小選挙区1、比例代表2として扱っています。

※第49回衆院選(2021年)の自民党の議席は、総務省にしたがって小選挙区187、比例代表72としています。当時のNHK開票速報は小選挙区189、比例代表72と異なりますが、これは自民党系の無所属2名の扱いの差によります。

※なお政党・政治団体は、第50回の比例代表の得票数が多い順に上から並んでいます。第49回と第50回のいずれかで比例代表に候補を立てた諸派には名前を記載し、小選挙区のみに立てた場合は「その他の諸派」にまとめました。

 表2からは、議席数の大きな動きが、小選挙区の自民と立憲の間で起きていることが読み取れます。これは最大与党と最大野党の間で議席が動きやすい小選挙区制の特徴です。自民党の支持率の低下は小選挙区での大幅な議席減としてあらわれ、他方で立憲の倍増近い伸びをもたらしたわけです。


立憲の小選挙区の票はむしろ減少

 先の表2に掲載した議席数の動きからは、自民の敗北と立憲の勝利が明らかであるように見えます。しかし得票数を検討すると見方は大きく変わるのです。

 全国の小選挙区と比例ブロックについて、それぞれ合計した得票数を表3に示しました。これは概数で、単位は万票となっています。1票単位のものも表5に載せたので必要に応じて参照してください。

表3. 各政党・政治団体の得票数の概数(総務省の速報結果を四捨五入して表示)

 前回から今回にかけて、小選挙区で自民は676万票も減らしました。しかし最大野党の立憲も147万票減らしていたため、自民は「わずか55議席減」で済んだのです(注:55議席減は小選挙区の分を前回と比べた数字……表2参照)。言い換えるなら、立憲が議席を増やすことができたのは、最大野党として自民の失点の恩恵を受ける立ち位置にいたからにほかなりません。

 表3からは、小選挙区の共産の票が増加したことが読み取れます。前回の選挙で立憲は、共産をはじめ社民やれいわなどと広く協力したものの、今回は限られた地域でしか協力が実現しませんでした。野党間の連携の後退によって、統一できたかもしれない票が分散したことが示唆されます。

 比例代表では、自民が533万票減となる中で、立憲の増加は7万票にとどまる結果でした。前回選挙の立憲について、共産と協力したから比例票が伸びなかったのだという主張が一部で見られましたが、そうした主張を行った論者は、なぜ今回の選挙でこれだけしか伸びていないのかということに回答するのが誠実な態度でしょう。「安倍氏との約束」と言って立憲の代表選に出馬し、「同じ政権と一緒に担えるかというと、それはできないと思う」として共産との距離をとった野田氏でも、特に保守票を取り込んだようにはみられないのが現実です。より正確を期して言うならば、比例代表では新たに取り込んだ分とほぼ同じだけが出ていって、小選挙区では取り込んだ以上に出ていったほうが多かったわけです。


維新、共産は擁立を増やすも党勢が追いつかず

 比例代表は党の基礎体力を表すバロメーターとみなすことができますが、小選挙区の票は擁立した候補者の数に左右されるため、候補者の調整や分裂がかかわる場合には直に党勢が反映されるとは限りません。そこで、次の表4に候補者の数をまとめました。

表4. 各政党・政治団体の候補者数(総務省の速報結果による)
重複立候補はそれぞれに1人ずつと数えます

 比例代表に関しては、主な政党は全てのブロックに擁立するので無視しても議論に支障はありません(11ある各ブロックに1人でも立っていれば有効票が入るため)。けれども小選挙区の候補者数には留意する必要があります(289ある小選挙区のうち、立っていないところでは有効票が入らないため)。

 表4からは、小選挙区における自民と立憲の候補者数の変化が小さいことが確認できます。他方で共産の候補は2倍に増えています。その結果、共産は小選挙区で106万票増えますが、他方の比例代表で80万票を減らしました。維新も類似した傾向で、擁立を大幅に増やした小選挙区で125万票積み増した一方、比例代表は295万票減っています。小選挙区の候補者が増えたのにもかかわらず比例票が減ったのは、擁立の増加によってでは党勢の低迷を補えなかったことを示しているといえるでしょう。

 今回の衆院選にはじめて臨んだ参政党が小選挙区で多くの候補を立てたのは、自民の票を奪う一因となった可能性があるかもしれません。他方で日本保守党が小選挙区に立てたのはわずか4人なので、自民に対する影響はほぼ比例代表に限られます。

 国民は小選挙区の候補者を倍増させ、それに応じて票も積んでいます。比例の伸びが358万票と大きいのは党勢を反映したものです。この国民の伸びが自民に与えた影響は特に大きいかもしれず、後に検討を加えます。れいわが比例で伸びたのも党勢の反映といってよさそうです。

 公明は小選挙区での議席減が目立ちますが、これは大阪で維新に敗北した部分が大きく、比例票にみられる党勢の低下はまだ緩やかといえそうです。とはいえ公明の比例票は小選挙区で自民に乗るため、公明の党勢の低下が自民に影響することは避けられません。自民は比例代表が533万票減だったのに対し、小選挙区は676万票減と、小選挙区の方が147万票だけ余計に減っています。対して公明の比例票の減少は115万票です。与党全体では、比例代表が648万票減のところ、小選挙区も690万票減で、加えて裏金問題で非公認とされた候補者の分もあるので、基本的には党勢の低下がダイレクトに小選挙区にあらわれているということができます。


得票数の詳細、相対得票率、絶対得票率

 以下には参考までに、1票単位の得票数と、相対得票率、絶対得票率の一覧を示しました。

 投じられた有効票のうち、特定の勢力が獲得した割合を「相対得票率」といいます。他方で、棄権者も含めた全有権者のうち、特定の勢力が獲得した割合が「絶対得票率」です。相対的な票の量で当落が決まるため議席を論じる際には相対得票率が適しますが、長期にわたる根本的な集票力を見る際は絶対得票率が有効となります。

表5. 各政党・政治団体の得票数の詳細(総務省の速報結果による)
表6. 各政党・政治団体の相対得票率(総務省の速報結果から計算)
表7. 各政党・政治団体の絶対得票率(総務省の速報結果から計算)


小選挙区の攻防のライン、互角に

 もう一歩踏み込んで、一つ一つの小選挙区を考慮して大勢を見てみましょう。小選挙区は区割りが変更されたため行える検討が限られます。しかし個々の小選挙区の事情はあっても、289もある以上、全体の傾向を概観することは可能であるはずです。

 そこで与野党のせめぎ合いを考えるために次のような図を作りました。これは小選挙区の当選者が2番手の候補にどれだけリードしていたのかを表す289本の棒を、与党を左側、野党を右側に寄せる形で大きい順に並べ、隙間なく敷き詰めたグラフです。つまり、以下の図では1本の棒が1つの小選挙区にあたります。無所属は与党系と野党系で分け、リードの計算は相対得票率で行いました。図5は前回の、図6は今回の選挙の結果です。

図5. 第49回衆院選(2021年)小選挙区のリード(NHKの開票速報をもとに計算・相対得票率)

無所属は柿沢未途氏、細野豪志氏、田野瀬太道氏、平沼正二郎氏、西野太亮氏、三反園訓氏を与党側に、米山隆一氏、福島伸享氏、北神圭朗氏、緒方林太郎氏、吉良州司氏、仁木博文氏を野党側に集計。ただし仁木博文氏は2023年に自民党に入っています。
図6. 第50回衆院選(2024年)小選挙区のリード(相対得票率)

無所属は世耕弘成氏、萩生田光一氏、西村康稔氏、平沢勝栄氏、広瀬建氏、三反園訓氏を与党側に、福島伸享氏、北神圭朗氏、緒方林太郎氏、吉良州司氏、中村勇太氏、松原仁氏を野党側に集計。

 前回の与党の当選者は202人、野党は87人だったところ、今回は与党が142人、野党が147人となりました。与野党が拮抗するポイントは前回は7:3ほどのところにありましたが、今回はほぼ1:1までシフトしたことがわかります。


逃がした魚の「魚拓」をとる

 さらに見方をかえて、与党側の候補が何ポイント差で当選または落選したのかを表示してみましょう。まずは前回選挙の結果を図7に示しました。「与党リード」と記載した202人が当選者で、「与党ビハインド」と記載した87人が落選者にあたります。

図7. 第49回衆院選(2021年)小選挙区の与党側のリード(相対得票率)

 ところで、これは地形の断面図のように解釈することが可能です。つまり次の図8において、横軸を距離、縦軸を海抜高度、当選者を陸、落選者を海と考えるわけです。

図8. 第49回衆院選(2021年)小選挙区の与党側のリード(相対得票率)

 前回から今回の選挙にかけて、与党は大きく票を減らしているのでした。このことは、図8において、海面上昇(=陸の沈降)が起きたというふうにみなすことができるでしょう。

 表6に立ち返ると、前回から今回にかけて、自民党は全国の小選挙区の集計で相対得票率を9.62ポイント減らし、公明党は0.17ポイント減らしています。また表6では無所属が0.72ポイント増加となっていますが、これには裏金問題で非公認とされた候補が含まれるので、与党系の無所属の票がわずかに増えていることを考慮に加えましょう。この増加は0.28ポイントです。これも合わせることにすると、

  - 9.62自民の減少 - 0.17公明の減少 + 0.28無所属与党の増加 = - 9.51与党全体の減少

 となり、与党全体としては9.51ポイント減っている計算です。

 ここで、いま考えているのは相対得票率の与党のリードです。与党と野党の合計は常に100%となるため、与党が9.51ポイント減ったとともに野党が9.51ポイント増えたと考えると、与党のリードは2倍の19.02ポイントの減少となります。図9にそのラインを示しました。

図9. 第49回衆院選(2021年)小選挙区の与党側のリード(相対得票率)

 この「海面上昇」した状態を、改めて0ポイントまで平行移動して、元のやりかたで描きなおしてみます。

図10. 第49回衆院選(2021年)小選挙区の与党側のリード(相対得票率)
与党を19.02ポイント沈めた場合

 この図10は、前回から今回にかけて自民が減らした相対得票率に応じて、前回選挙の結果を動かしてみたものです(もちろんこれは大胆な単純化を行ったモデルですから、結果は一つの参考にとどめておくべきです。ここでは各小選挙区が全国的に一律な変動(uniform national swing)をすることが仮定されています)。

 図7で202あった与党がリードする小選挙区は、図10では106となりました。与党は96議席を失い、野党は同じだけ得ることとなります。

 実際の今回の結果と見比べてみましょう。

図11. 第50回衆院選(2024年)小選挙区の与党側のリード(相対得票率)

 今回の選挙で、与党は142の小選挙区でリードを保っているのでした。図10と図11では与党の議席に36の差があり、したがって与野党の議席差は2倍の72となります。この差は何に由来するのでしょうか。

 その原因に、小選挙区の野党の候補が割れていたことが関わっているのは言うまでもありません。

 いわば図10は、「自民が弱った今回の選挙で、もしも野党が前回並みの闘いをできていたら」という、逃がした魚の大きさを描いた「魚拓」にあたるのです。


それは勝利か、敗北か

 今回の選挙で自民は大きく議席を減らし、他方で立憲は大幅に伸ばしました。多くの小選挙区で野党の候補が割れてもなおそのような結果となったことについて、野党間の協力が不要であるといった主張がしばしばされています。

 連合の芳野友子会長は28日の記者会見で、立憲民主党が衆院選で議席を大きく伸ばしたことに関し「共産党と共闘しなくても勝てるわけだ。それが明らかになった」と述べ、立民と共産の候補者調整を進める必要がないことが証明されたとの認識を示した。(時事通信)

 しかしながら、最大野党である立憲の議席は自民党との関係で大きく動いているのでした(表2など)。

 ここで、自民党の結党時から現在までの集票力を確認してみましょう。次に示す図12は、過去66年間の衆院選について全国で計算した絶対得票率の推移で、左端が結党の当初に、右端が今回の結果にあたります。

図12. 自民党の絶対得票率の推移

 今回の自民党の絶対得票率は小選挙区で20.09%、比例代表で14.04%で、それぞれの制度で過去最低となっています。これは、小選挙区では有権者の5人にひとりしか、比例代表では7人にひとりしか自民党に入れていないことを示す数字です。

 それほどまでに票を減らした今回の選挙で、自民党はなお第一党の座を維持しました。この端的な事実をもって、今回の衆院選は、史上最弱の自民党に対して野党が勝ちきれなかった選挙であると評価するよりほかにないのです。

 その最弱の自民党を前にして、もしも立憲をはじめとする野党が前回並みの闘いをしていれば、結果は異なっていたでしょう。今回の選挙で立憲の議席が増えたという事実は、それが最善のやりかたであったことを意味するわけではありません。

 図12からは、前回の第49回衆院選(2021年)の自民党が、政権を奪還した第46回(2012年)以降で最も高い水準にあることも読み取れます。前回、野党は多くの小選挙区で候補者を一本化して選挙に臨みましたが、このとき相手にした自民は近年では強いものでした。そのなかで候補者の一本化に有効性があったことは、あまり広くは理解されなかったようです。

 次期参院選では宮城をはじめ、岩手、秋田、山形、新潟などの多くの一人区で激戦が見込まれます。参院選の一人区には、衆院の小選挙区と同じ一人しか当選しない制度でありながら、別格の広大な選挙区を相手に、あらゆる票をかき集めなければならない厳しさがあります。野党間の協力を軽んじることになれば、今回の選挙の結果が次の失敗の元となることも否定できません。

 立憲は今回の選挙で議席を伸ばしました。国会でできることが大幅に増えるので、それは獲得した大きな果実にほかなりません。しかし他方で、その果実を得たのは自民の失点の恩恵を受ける立ち位置にいたからであり、自らの票を伸ばせていないことも忘れるわけにはいきません。生活苦におかれた人々が待っているのだから、本来であれば前回以上の闘いをしなければならなかったはずなのです。果たしてこれで勝ったといえるのかということは、幾度も慎重に振り返る必要があるのではないでしょうか。


 以上では大局的に今回の選挙を概観してきました。ここからは、大幅に減った自民党の票がどこに消えたのかということを地域分析で検討します。また、郵政解散から現在までの自民党の票の分布も地図として収録しました。今後の衆参同日選などの考察も行います。

 みちしるべでは様々なデータの検討を通じて、今の社会はどのように見えるのか、何をすれば変わるのかといったことを模索していきます。特にこれからしばらくは衆院選の分析と、来年の参院選への備えに取り組みます。今後も様々な成果をお見せできるように頑張っていくので、参加してもらえたらとてもうれしいです。


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