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「マチで暮らす人を幸せにするために、オーナーさんを幸せに」。レジェンドSVがオーナー第一主義を掲げる理由

   売り上げの高い店舗、競合がひしめく店舗、道路沿いの店舗、住宅街の店舗、市街地にある店舗、田舎にある店舗⋯⋯さまざまな店舗に貢献してきた伝説的スーパーバイザー(以下、SV)、石田浩彦さん。大学卒業後にローソンに入社して以来、計25年もの間、SVとして活躍してきました。61歳となった現在はアクティブシニア制度でSVを継続し、なおも現場の最前線で「絶対にオーナーには不幸になってほしくない」と想いを語ります。詳しく伺いました。

株式会社ローソン 中四国カンパニー 中四国営業部 広島西支店 スーパーバイザー/石田 浩彦
1963年、大阪生まれ。1986年に西日本ローソン株式会社入社。大阪、和歌山をはじめ、横浜、静岡、新潟、岡山、島根でSVを歴任。また30代での管理職を経て、総務やトレーニング部門も経験した後、2012年からは広島でSVに着任し、現在に至る。本人いわく趣味は「仕事」と言いたいところだが、本当はパチスロ(お小遣いの範囲で)。引退後は中型バイクの免許を取得したい。
 
※スーパーバイザー(略称SV)本部と加盟店をつなぎ、加盟店の経営コンサルティングを行う。複数の店舗を担当し、マーケティングの知識・店舗勤務経験を活かして売上アップを目指す他、本部施策のサポート、クルーさん育成のアドバイスなど、業務範囲は多岐に渡る。

オーナーに感謝してもらうため
課題を見つけて解決へ

──長年に渡ってSVとして活躍されていますね。
 
 今までのローソン人生が38年。山あり谷ありで他の部署も経験しましたが、25年ほどSVしてますんで、SVばっかりやってますね。でも入社時から、SVを見据えていろんな店を経験したいって言ってました。俯瞰して物事を考えるタイプだったんです。もしかすると、少し変わってるのかもしれません。
 
 私が若い頃は「プロのSVになれ」って言われました。プロですから、自分だけの武器を持てということですね。今の時代は何でも情報が共有できますが、当時は今みたいに情報が手に入らないし、店ごとに問題点もバラバラでした。
 
 だから、自分で課題を見つけ出して、解決しなければなりませんでした。効率は悪かったかもしれませんが、工夫してうまくいくと、オーナーさんから感謝されるのが何より嬉しくて。やり甲斐っていうか良かったなと思う一番のところですね。

「SVは指導員ではなく相談員」
 オーナーの店らしさを尊重

──SVのこだわりを教えてください。
 
 私は、SVは指導員ではなく、相談員だと思っているんです。もちろん専門知識をもって話し合いや助言はできるけれども、あくまで決断するのはオーナーさんです。利益が出れば何でも良いわけでなくて、そこには経費や労力など多くの手間がかかるわけです。「そこまでしたくない」となればそれでいいんです。思うことがあれば何でも言ってほしいし、オーナーさん自身の「お客様のためにこうしたいんだ」という考えを尊重したいんです。
 
 ただ、やっぱりオーナーさんの本音を聞き出そうと思ったら、こちらもさらけ出さないとあかんじゃないですか。でも私ずっと大阪弁ですし、慣れない人にはキツく聞こえるんですね。だから、最初に言います。「ごめんなさいね、私こんなんなんです」って。だからこそ、お店に顔を出してコミュニケーションを取ることを大切にしています。

オーナーは縁あって出会った大切な人
安定した生活をしてほしい

 何かのこ゚縁で担当オーナーさんと知り合ったのですから、私はその人が不幸になる姿は絶対に見たくない。だから、究極はローソンを経営していくことがその人にとっていいか悪いかまで考えます。別の道に進んだほうが成功しそうな人も過去にはいましたから。オーナーさんには、なるべく苦労を減らして、できるだけ余裕をもって楽しく暮らしてほしいんですよ。
 
 以前、あるご夫婦のオーナーが、しばらく売り上げが厳しくて休まず働いてたんですが、近くの競合店が閉店して売り上げが上がったんですね。だから私は「二人の働く時間をこのぐらい削ってもこのぐらい利益が出る。身体を壊されたら嫌やから、休める時は休んでほしい」と進言しました。
 
そしたら、休んでくれました。二人からはかえって、私の評価に響かないのかって気遣われましたけどね。そんなもんはどうでもええんです。一番はオーナーさんが安定した生活を送り、お客様のために頑張っていただけることですから。

フランチャイズビジネスだからこそ、
守るべきはオーナーや従業員


──石田さんは本部と加盟店を繋ぐ存在です。会社、オーナー、そしてお客様とで優先順位はありますか?
 
 お客様の利便性を第一に考えて仕事をするのはもちろんです。ただ、そのお客様と直接向き合うのは、加盟店です。だからこそ私はオーナーさんを一番大切にしたいです。オーナーさんがいなければ、フランチャイズビジネスは成り立たなかった。だから最も大切な存在は、オーナーさんで然るべきと思うんです。
 
 お客様のことを考え、ニーズを汲み取ってお店に反映することが、結局はオーナーさんのためにもなると考えています。
 
 会社や上の人はその次です。ここには私、言いたいことを全部言いますよ。守るべきはお客様と直接向き合っているオーナーさんやその従業員ですし、上の人には私が何かを守る必要もないですからね。
 
 お客様を幸せにするには、その前にオーナーさんに幸せになってもらわないとダメじゃないですか。自分に余裕がなければ、他の人のことを考えられないですよね? 人間はまず自分に余裕がないとだめだと思います。
 
 だから、担当したオーナーさんがローソンを経営したことで、「生活が良くなった」とか「人生が充実した」って言われるようにするのが、私の仕事やと思っています。

本部嫌い、SV嫌い
毎週深夜の話し合い


 なかには、本部やSVを敵対視する方もおられます。あるオーナーさんが、毎月のように「社長直行便」(※)で不平不満を送ってたんですが、その方はずっと深夜働いておられたんですね。だから私は担当になって毎週土曜の深夜に巡回に行くことにしました。一緒におにぎりを並べながら、いろんな話をしましたよ。数か月後、「社長直行便」にお褒めの言葉が届きました。
 
※社長直行便=加盟店オーナーが、直接社長にメッセージを送ることができる制度。
 
──アクティブシニア制度を活用してSVを続けるのは体力や精神的に大変でしょうか。
 
 私はそうは思いません。長年の経験もあるし、昔より働きやすい環境になってますから。もちろん、仕事ですから大変なことはありますけど、どんな仕事でもしんどいことは当然あります。どういう種類のしんどさを選ぶかってことだけだと思うんですよね。
 
 確かに、自分が入社した頃は60歳になったら楽隠居するもんと思ってましたけど、61歳の自分はまだまだ若いなと自負してますしね。
 
 それに、これだけ経験があるんで、「こういう場合はこうしたことあるよ」って話ができるし、知識だけでなく失敗の経験も豊富なので、いろんなものを提示できるのかなと思うわけです。
 
 でも……正直に言いますと、私は結婚が遅かったし、上の子はいま専門学校生、下は高校3年生なんで、まだまだ学費もかかるんですね。だから、60歳で辞めるという選択肢はありませんでした。やっぱり定期的に健康診断も受けられるし、この制度はありがたいんです。


──笑顔がこぼれています。今も楽しく働いてらっしゃるのでしょうか?
 
 楽しいというか、要は気の持ちようですよね。どうせなら楽しく過ごしたいじゃないですか。毎朝起きて「今日も嫌な仕事にいかないと」って感じて、帰ったら「やっと仕事終わったわ」って思うのは嫌でしょ?  私も過去にはそんな頃もありましたけど、人生で寝る時間以外に一番多いのは仕事してる時間です。一番時間が長いところをイヤイヤ過ごしたくない。自分次第と思ってるんです。
 
──武勇伝もいろいろお持ちだとか。
 
 若い頃の話です。一回りや二回りも年上のオーナーと言い合いの末、バナナとかキャベツとか卵を投げつけられたこともありましたね(笑)。「お前みたいな小僧に何でそんなん言われなあかんねん!」ってね。今はそんなことないですよ。私も丸くなりましたしね。でも振り返ると、衝突した方とは後で関係が深まりました。
 
 私がカッとなったのは、間違った情報で責められたからです。言われて当然のことだったり、指摘が正しかったら何も怒りません。間違ったことを「間違いだ」って指摘してくれる人がいないと、人間はダメになりますから。そこは今も変わりません。
 

肩書きだけで判断する人はどうなんだろう?

 
 逆に、ある別のオーナーさんは、若い時分のSVの私が言った提案は否定して、全く同じ提案を上長のマネジャーが言ったら受け入れたということがありました。要するに、肩書きが違うだけで態度が変わったわけです。
 
 正直、私は肩書きでものを言う人間をあまり信用していません。それは当時から今も変わりません。なぜなら新入社員が言おうと、良い話は良い話ですし、社長が言ったとしても間違っていることはあるかもしれないわけです。
 
 今も若いSVが私のことを崇めたような言い方をしてきたら、「それは違うよ」って言います。「年上でも肩書きが上でも、僕は偉いわけでも人間的に優れてるわけでもない。ただ、あなたより少し先に生まれて入社して経験してきただけです。だから、間違ったことも言うかもしれないし、おかしいと思ったら逆におかしいって言ってくれなきゃダメだよ」って。
 
 むしろ若い人には「今こんな時代なんだから、石田さんみたいなそんな昔の考え方はダメですよ、今はこうなんですよ!」って言われたいですね。その方が、会社の未来にとっても良くなると思っていますから。
 
取材・文/松山ようこ