爪の白い部分
「爪の白い部分が大きいほど健康なんだって」
中学生の頃だったか、友人が言っていた。
私の爪の白い部分は、他の子たちと比べたら小さかった。
私は小さいころから虚弱体質で、体温も35度台が常。爪の白い部分が小さいのも納得だった。
この話をきっかけに、私は気づけば自分や、周りの人たちの爪をチェックするようになっていた。
「あ、今日は少し大きくなったかな?」
「今日はほとんど見えないくらい小さくなってしまっている。疲れてるのかな」
「この人はめちゃくちゃ健康だ」
といった感じで。
本当に取るに足らないことなのだけど、気づけばそんな癖がついていた。
夫とお付き合いを始めたころ、初めてつないだ彼の手は私の手をすっぽりと覆うほど大きくて、温かかった。
彼の爪の白い部分は今まで見た人の中で一番大きくて、「この人ならきっとずっと元気でいてくれる」と妙に安心したのを覚えている。
その後結婚し、息子が生まれた。
今度は私の手にすっぽりと入る息子の小さな手の爪は、綺麗なピンク色で、爪の白い部分が大きかった。このまますくすく、大きくなあれ、と思った。
時は流れた。
私は遠方の地へ引越し、子育てに悩み、仕事に悩み、精神を病んだ。
休職中の1年間、ほとんど誰とも会わない生活を過ごした。
そして、退職し、心機一転、子供と向き合いながら自分の夢を再び追いかける生活が、今年の一月から始まった。
ふと、キーボードを打っているとき、自分の爪に目がいった。
久しぶりにまじまじと見た私の爪は、艶が戻っていた。白い部分は、昔よりも大きくなっていた。
「あ、私、今、元気なんだ」
今自分のいる場所が間違っていないのだという、なんともいえない安心感で心が満たされた。嬉しかった。
そして先日。
実家で色々な雑談をしていたら、母から一言。
「そういえば爪の白い部分が大きいと健康っていうの、まったく根拠がないらしいよ」
#今年学んだこと