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世界一の醤油木樽と、醤油の今~スープ旅・大分臼杵編②

さて、少し間が空いてしまいましたが、大分スープ旅。前回は、臼杵で食べた郷土のぶっかけ飯「黄飯」をご紹介しました。

臼杵を訪れようと思った理由はもうひとつあります。じつは臼杵市は九州でも醤油・味噌醸造が盛んな土地で、ギネスに認定された世界一大きな醤油木樽があるとのこと。これまで、味噌や酢や日本酒の蔵は見学したことがありますが、醤油蔵は初めてです。

今回訪れたのは1社の工場ではありません。「二豊味噌協業組合」の醤油工場。今から約50年前の昭和48年(1973年)、臼杵の38の味噌の製造業者が協力し、より近代的な設備を持った味噌・醤油の製造工場が設立されました。

今回、臼木旅の案内をしてくれた釘宮嘉一郎さんは、臼杵でも歴史ある味噌醤油メーカー・富士甚(ふじじん)醤油の取締役をされた方で、大分の醸造の歴史を教わりつつ、工場まで車で送っていただきました。

山に向かって車で15分ちょっと。大きな工場が現れます。見学は1時間弱のツアーで、事前予約すればだれでも可能です。ここからはフンドーキン醤油の東修さんにバトンタッチ。まずは工場の外側を歩きながら、工場の成り立ちや概要についてレクチャーいただきました。

臼杵は水が良い、大豆や麦の生産に向く土壌、港が近く運搬に適しているなど、醤油を醸造・販売する環境として好立地です。九州でもシェアNo.1、2を誇るフンドーキン醤油や富士甚醤油、大分最古の味噌・醤油醸造の可兒(かに)醤油など、多くの味噌・醤油メーカーがひしめきあっています。

協業工場は小さな醤油メーカーの撤退などもあり、現在は19社の参加となっています。この協業工場には100名ほどの従業員が働いているとのこと。

醤油の作りかた

ここで、醤油の作り方を簡単に説明しておきましょう。
醤油の原料は、大豆、小麦、種麹、塩、水。

主材料は、大豆、小麦、食塩。大豆や小麦は加工品からスタートすることもある

①麹作り
蒸した大豆と炒った小麦種麹を混ぜ、3日ほど麹室で発酵させて麹を作る。種麹は麹を作るためのスターター。
②醪(もろみ)作り
できた麹にを混ぜてタンクに仕込んで約6か月発酵・熟成させる。これが醪(もろみ)になる。
③圧搾・火入れ・瓶詰
醪を布に包んでプレス機で搾り、かすを取り去る。火入れをして瓶詰したら完成!

これが「本醸造方式」と呼ばれる、一番シンプルな醤油の作り方です。

大量生産する場合、大豆の代わりに脱脂加工した大豆の粉を使ったりします。また、醤油によっては醪になった段階でアミノ酸などの発酵調味液を加えてうま味の強い製品にする場合もあります。(いわゆるだし醤油、などと言われるものですね)

醤油の樽いろいろ

醤油作りでいちばん時間がかかるのが、タンクでの熟成です。
この工場にはタンクが80基あり、その多くは、鉄のタンクとステンレスのタンク。鉄のタンク(内側には錆びないよう塗装がかけてある)では6カ月、ステンレスのタンクでは3カ月と、醸造時間が比較的短い醤油を寝かせています。

ステンレスタンク

一方、木樽では3年と、熟成期間の長い醤油を作っています。樽は木材を金属の輪でしっかり留めてあるもので、木の素材はヒバや杉などさまざま。

木樽。樽というより「木のタンク」のイメージです

この下の写真が、ギネスに登録された、醤油の熟成のための木樽です。高さは日本一の木樽と同じ9mですが、直径が圧倒的に大きく、1リットルの瓶で54万本、通常の木樽の倍以上の醤油が仕込めます。素材は吉野杉。

もはや建物

木樽でじっくり熟成期間をかけて作る醤油は、味も違うのでしょうか。実はステンレスや鉄のタンクで同分量、同期間で熟成させた醤油とブラインドで官能評価をしたところ、圧倒的に木樽のものがおいしい、という結果になったとのことです。醤油の成分としての数値は同じでも味に違いが出るのが不思議ですよね。

その結果を受け、木樽では主に熟成期間を長くとった高級で単価も高い醤油を仕込んでいるとのことでした。贈答などに使われることも多いそうです。

こちらが木樽で仕込んだ吉野杉樽天然醸造醤油(都内でも買えます)。余分な添加物は入れずに時間をかけて熟成させる
樽の説明の看板は古い醤油木樽の木材で作られている。顔を近づけると醤油の香りが…

木樽で熟成が終わった醪(もろみ)は、3日間かけてプレスして濾して、醤油になります。ここからは工場の建物内へ。

袋に醪を詰めて、重ねて、プレスして醤油を搾り取ります
袋詰めされ重ねてあるのは搾りかす。これは牛の飼料用として、捨てずに使われるそうです。塩分もとれるし、これを入れると牛が喜ぶそうですよ

この日はあいにく、祝日明けで、作業様子があまり見られなかったのですが、こちらは瓶詰ライン。

この日は祝日の翌日で、瓶詰ラインは稼働していなかった。残念
この額、泣かせますね。弥生子とはフンドーキンの創業者一族を生家に持つ作家・野上弥生子のことと思われます。


醤油の先にあるもの

そういえば、九州の醤油は甘いものが多いんです。糖分を加えてあるからで、その多くにはアミノ酸なども同時に添加されています。九州に限らず、地方に行くとこうした甘い醤油が結構多いことに気づきました。確かに、甘みとうま味が入っていると、料理の味は決まりやすいですよね。(写真でお見せした天然醸造醤油は無添加の醤油です)

最近、家庭の醤油自体の売り上げは減り、反比例してたれやドレッシングの売り上げが伸びているため、どのメーカーでもそうした商品の開発や生産が進んでいます。
二豊工場のあとで、こちらも大手醤油味噌メーカーである富士甚醤油・サンアス工場で、さまざまな醤油やたれの商品なども見学させてもらいました。

めんつゆやたれ、ドレッシングなどの加工調味料が売れるそうで、こちらの工場でも実に多くの商品が作られていました。ドレッシングやめんつゆなどはもちろんのこと、もやしのたれやチキン南蛮の素など、ニッチなつゆやたれがどんどん増えています。もちろんそこには醤油や味噌が使われており、形を変えて食卓に届いているというわけです。

料理の業界にいると、昔ながらの基本調味料から離れていく方向性には批判の声もあるのですが、求める人たちの需要として、より手軽さがあり、かつ目新しいものが求められているということなのだと思います。どんどん細分化していき、これから調味料やだしはどうなっていくのか、味の未来も気になるところです。

と、いうことで臼杵醤油レポートはここまで。黄飯と醤油工場、臼杵を訪ねたふたつの大きな目的を果たすことができて大満足でしたし、母の暮らした土地を訪ねられたのもよかったです。

母の育った家が昔あった場所や墓のある寺などへも足を運んだのでその様子も最後に少しだけ。

もう建て替わっていますが、この場所に母の家がありました。
高い石垣の上で兄弟がチャンバラなどやっていたそうです。


祖母の実家の菩提寺で墓参り

臼杵は小さい街です。ここで紹介した場所に臼杵城跡などを加えても観光としては半日から一日でくるっと回れるぐらい。何があるというわけではありませんが、歩いていると旅情に浸れます。大分を訪れる方、機会があったら少しだけ足を伸ばしてみてください。

かわいい♪

臼杵を後にした私たちは、宮崎へ。その様子はまた!

最後に、お醤油が味の決め手になるスープのレシピをひとつご紹介して、このレポートを締めくくろうと思います。

鶏肉と大根のおでん風ポトフ

鶏もも肉、ごろっと大根、しらたき、ゆでたまご。おでんをほうふつとさせる具材が入った鶏のポトフです。

和だしと醤油でほっとする味わい

▼材料(2人分)
鶏もも肉…1枚
大根…12cm
しらたき…150g ※あく抜き済みのもの
卵…2個
昆布…10cm
塩…少々
醤油…大さじ2 ※できれば淡口醤油がいいです
水…1200mL

▼作り方

鶏もも肉を半分に切り、塩と胡椒をしっかりめにふって30分ほど置いてから出た水分をふきとって半分に切る。
大根は、3cm幅に切り、水から20分ほど下茹でする。かたゆで卵を作り、殻をむく。

鍋に鶏もも肉を入れて水と昆布を加え、中火にかける。アクがたっぷり出たら大きくすくって火を弱め、大根、しらたき、ゆで卵を加えて40~50分、大根がやわらかくなるまで煮込む。

醤油と塩少々で味をつけ、皿に盛りつけ、好みで練りがらしを添える。

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有賀 薫
読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。