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自民の改憲案が通ると、いったい何がどうなるの?

コロナ危機に乗じて改憲案を持ち出したがる自民の政治家

 ひとつ前の記事では「今の憲法ではコロナ対策のための私権制限ができないから、改憲しなければ」という主張がデタラメであることを説明しました。


 それはともかくとしても、コロナ対策と改憲を結びつけたがる議論が自民党の政治家からよく出てくるのは事実です。

 自民党はこれまで様々な改憲の提案をしてきました。このうち最も新しいのが、2018年に作成した改憲議論のための「たたき台素案」です。(2012年の憲法改正草案が非常に有名ですが、これとは別のもので、これよりは変更内容が限定されたものです。)

 この「たたき台素案」についてもこのnoteでは過去に何度か触れてきましたが、憲法記念日ということもあり、またコロナ危機に便乗した粗悪な改憲論も目立ってきていますので、きわめて簡単にわかりやすく、改めてその問題点を説明しておきます。

国会抜きで政権が刑罰条項を勝手に決められる!

それでは、条文案を具体的に見てみましょう。

第73条の2
 (第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。

 この条文案のとおりになると何が起こるのか、いろいろな議論が可能ですが、一つわかりやすい例としては

 国会が審議して法律を制定しなくても、内閣(=政権)の独断で、刑罰条項を決めることができる

ということが挙げられるでしょう。

 なぜこういう結論が出てくるのか、ピンとこない人もいると思うので説明しておきます。

本来なら、刑罰には国会の決める法律がまず必要なのに・・

 そもそも刑罰を決めるには、法律が必要です。法律で定めていないことを「罪」にして、市民に「刑罰」を与えることはできません。「罪刑法定主義」という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。)

 そして法律とは国会で審議して決めるわけですから、結局のところ、公権力が市民に刑罰を加えることができるためには、まず、国会で審議を行い、「何を犯罪として扱って、どのような刑罰を与えるか」を決めた法律を作らなければならないわけです。

 これが原則なのですが、自民党の改憲案は、この原則を破棄するものだということができるでしょう。つまり「緊急事態で、国会の審議による法律の制定を待っている暇がないから、法律の代わりになる政令を内閣が勝手に作れるようにする」ということだからです。

 要するに、本来は国会が作る法律でなければ決めることができない刑罰の条項を、政権の一存で、政令によって設けることができるようにするということに他なりません。

 (条文だけ見るとはっきりわからないかも知れませんが、ここでいう「政令」は、現在のような法律の下位の効力しかない政令ではなく、国会の作る法律とまったく同じ強さの効力をもち、法律の完全な代用になる「政令」を意味しています。そうでなければわざわざ改憲する意味はありません。)

★わかりやすい例としては、最近、コロナ特別措置法の改正の審議で、その罰則が国会で議論になりましたが、自民改憲案によれば、コロナ特別措置法のような法律も、その罰則も、国会抜きで、内閣だけで決めることが可能になります。

国会の事後承認が必要とはされているが・・

 ところで、自民の改憲案には、これについての歯止めがまったくないかというと流石にそういうわけでもなく、次のような条文案もあります。

第73条の2
 (第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。

 これにより、内閣が、例えば国民を処罰する政令を独断で作ることはできますが、そのままではなく、国会の事後承認を受けなければならないことになっています。

 そうであればあまり問題がないようにも見えますが、実は致命的な落とし穴が作られています。国会が休会中だったらどうなるのでしょうか。緊急の事態が起こって大きな問題になることが予想されるは、だいたい国会が休会中の場合でしょう。

自民政権には、国会を召集しなかった前科がある!

 そもそも、国会を召集するのは誰でしょうか。形式的には天皇ですが、実質的に召集を決めるのは内閣です。つまり結局は内閣が国会を召集するわけですが、いつまでも召集しないままだったら、内閣が勝手に決めた刑罰の政令は、どうなるのでしょう。
 国会が召集されない限り、国会で不承認の決議をすることもできませんから、いつまでも内閣が勝手に決めた刑罰の政令は残り続けることになります。

 「内閣が国会を召集しないわけがないじゃないか」という人がいるかも知れませんが、2017年、安倍政権が臨時国会召集の義務を果たさず、3ヶ月以上放置し、やっと召集したと思ったら何も審議せずにすぐ衆議院を解散した前科があることを忘れてはいけません。

 さらにいえば安倍政権は2020年のコロナ危機の真っただ中でも、臨時国会の召集の義務を果たさずに2ヶ月近く放置した挙句に辞職しています。

 このように、自民党の改憲案がとおれば、政権の独断で、勝手に政令を作って、国会を通さずに刑罰を決めて市民を処罰し、さらに国会の召集をサボタージュして、必要な事後の審議をいつまでも遅らせて放置しておくということがありうるのです。

 (ちなみに国会の事後承認を得られなかった場合に、内閣が決めた政令による刑罰がどうなるのかについても、何の規定もありません。)

だいたい「緊急事態」かどうかって誰が決めるの?

 これに対しては「それは本当に国の存亡にかかわる緊急事態の例外的なときだけのことであって、滅多に起こる心配はないではないか」という人もいるかも知れません。

 それでは、国の存亡にかかわる緊急事態なのかどうか、誰が決めるのでしょうか。先ほどの改正案の73条の2の第1項を見ると、文脈からいって、緊急の事態かどうかを決めるのは内閣の主観次第としか考えられず、他に判断する機関は何も書いてありません。(例えば「国会が決議して認めたときは」とはされていません。)

 そうなると、政権が好きなときに「緊急だから、国会による法律の制定を待っている暇がない」と言えば、勝手に政令を作って勝手に刑罰を決めて勝手に市民を処罰し、国会の召集を(これまで何度もやってきたように)いつまでもサボって遅らせて審議させないようにすることも可能だということになるのです。

選挙そのものを延期させてしまうことも可能!

 最後に、以上の議論に対して、「でもそんなことをやりすぎたら、国民の支持を失い、次の選挙で議席を減らすから、それによって解決されるのではないか。民主主義自体を捨てる改憲案というわけではないんだから」という人がいるかも知れません。

 しかしその発想が通用しないのが、自民党の改憲案なのです。次の条文案を見てください。

第64条の2
  大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。

 いかがでしょうか。国会議員の選挙が困難だと判断される場合、出席議員の2/3以上の多数の承認があれば、任期の特例=つまり選挙の延期と任期の延長を決めることができることになっています。

 特に上限は定められていませんから、その気になれば無限に議員の任期を延長して選挙を行わないようにさせることが可能となります。政権を選挙で降ろすことはできません。

まとめ - そもそもまともな議論に値するのか?

以上、まとめると、自民党の改憲案(2018年)では

①国会抜きで、内閣の一存で刑罰条項を決めて市民を取り締まることができる。
②国会の事後承認が必要とはされているが、国会そのものを召集しないことが可能であり、現に安倍政権では国会召集義務を意図的にサボった前科がある
③そのような横暴に対して、選挙で国民の意思を示そうとしても、選挙自体を延期して国会議員の任期を延長できる

という特徴があります。

 さて、このような自民党の改憲案は、まともな議論に値するのでしょうか。
 「この改憲案に問題があるなら、国会で審議して修正すれば良い」という人もいますが、国会でいったん憲法改正案の審議を始めた場合、議席数の状況からいって、どのようなことが起こるでしょうか。(ちなみに最近、安倍前総理は「最後は多数決で憲法改正案を決めてしまえば良い」という趣旨の発言しています。)

 現在、最も警戒しなければならないのは、このような馬鹿げた改憲案を通さなければコロナ対策ができないかのような主張をする論者たちです。

 これまで読んできた方はもうわかると思いますが、このような改憲案を通さなければコロナ対策ができないなどというのは、まったくのデタラメというか、悪質な便乗改憲商法とでも言うほかないでしょう。




 

 

 

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