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VRchatで同性(男性)とお砂糖してリアル女性に寝取られた話

出会い

 露出度の高いアバターがミラーの前に集まって、バーチャルセックスの相手を品定めし合うjust H partyで、俺は「彼」に出会った。

 後に教えてもらうディスコードのユーザー名をもじって、俺は彼に「ウサギさん」というあだ名をつけた。
 あの頃のウサギさんは毎日のように違うアバターを着ていた気がする。見るたびに顔が違うなんて、怪盗ルパンとか怪人二十面相みたいなやつだ。まぁ、アバターも衣装もかわいいのがバンバン新発売されるから、気持ちはわかる。

 ウサギさんはどうだか知らないが、俺はあのワールドでバーチャルセックスの相手を探していたワケじゃなかった。そんな勇気もコミュ力もないし、ミラーの前にたむろするエロアバターを眺めて、非現実感を味わうだけで満足だった。
 小さくてかわいいアバターに手を振ってみたら、向こうも振り返してきたのが始まりだった気がする。あるいは逆だったか。なにせ数年前のことだから、細かいところはあんまり記憶に残っていない。
 
 これ以上忘れないために、俺は生き恥を物語として残している。

お砂糖の始まりとバーチャルフ〇ラ

 さて。そういう縁で、ウサギさんと俺は二人でjust H partyを抜け出した。そうして彼に案内されるまま、色んなワールドを遊び歩いた。

 お互いに無言勢だったから筆談だったが、妙に会話が弾んだ。

 自慢じゃないが俺はコミュ障だ。ネットでそれを自称する奴は多いが、ファッション感覚でコミュ障を名乗る奴とは一味違う。
 リアルの友達なんて一人もいないし。職場でも浮いている。家族ともうまくいっていない(というかトラブルで裁判沙汰になりかけた)。現代社会を広大な海とするならば、俺はありとあらゆる水滴と反発する一滴の油のようなものだ。

 そんな俺が、ウサギさんにだけは一発で懐いた。理由は今でもわからない。とにかく、俺たちは意気投合した。晩飯も忘れて何時間も遊びまくって、空腹が限界にきて慌てて近くのコンビニに駆け込んだ。

 翌日も、翌々日も、俺はウサギさんと遊んだ。三日目くらいにお砂糖、つまりゲーム内の恋人関係を相手から申し込まれて、承諾した。
 
 ウサギさんは面白かったり綺麗だったりするワールドをたくさん知っていて、彼に連れ回されるのは楽しかった。たまにホラーワールドに連れ込まれたりするのは勘弁して欲しかったが、今となってはいい思い出だ。

 ジェットパックみたいなのを背負って空を飛べるワールドで、ウサギさんが巧みに宙を舞っていたのを覚えている。ふわりと滞空しながら俺の頭を撫でる姿はアニメのワンシーンのように華麗だった。事前練習でもしたんだろうか。
 俺も彼に感心されたくて、深海に潜るワールドに遊びに行く前に、ネットで深海魚の知識を予習したりしたのを覚えている。

 あと印象深いのはアレだ。良い雰囲気になった時に、ウサギさんが俺のアバターの股間に顔を埋めて、フ〇ラの真似を始めたのが忘れられない。

 正直困惑した。俺が男であることはまだ言ってなかったので、もしかしたらク〇ニのつもりだったのかもしれない。バーチャルセックスの存在は知識として知っていたが、実際にやったことはなかった。

 現実でシていいと言われたので、とりあえずシコる。当時の俺の装備は初代VIVEと両足と腰のトラッカー3点。重たいVR機材を身に着けたまま、仁王立ちしてオナニーするのは難しかった。全然イけそうにない。

 早くイかないと相手に悪い。そう焦れば焦るほど息子は萎えるばかり。いっそイったふりをするべきだろうか。しかし、あまりに早かったり遅かったりすれば不自然だ。平均的な男性は何分くらいでイくものだろうか。

 そういえば、男性と女性で自慰にかかる時間は違うのだろうか。男よりもじっくり時間をかけるものなのだろうか。だとすると、あまりに早くイったふりをするとリアル男だと見抜かれる可能性がある。
 それは困る。女性は何分くらいでイくんだろうか。童貞の俺にはわからない。検索するヒマもない。

 俺が軽いパニックに陥っているのを察したのだろうか。結局相手は行為を途中で切り上げて、変なことしてごめんねと謝ってきた。
 俺は初のバーチャルセックス(セックスではないが)に失敗した。

地声を聞く

 付き合ってから一週間くらいだろうか。ゆっくり二人で過ごしていると、ウサギさんは急に「嫌いにならないでね」とペンで書いて、なにかを準備し始めた。

 地声を出そうとしている、と俺は察した。それは困る。正直に言って、当時の俺は女の子のアバターを使っているくせにおじさんの声で喋る人があんまり好きではなかった。(今はこれっぽっちもなんとも思わない。慣れた)

 俺はゆかりねっとというソフトを使って合成音声で喋っていたし、仲良くなる相手も同類の無言勢が多かった。外見がどうであっても、男の声で喋るやつは男だ。友達になることはできても、恋愛対象にはならない。ウサギさんのことを無言勢だと思っていたから、お砂糖になることも承諾したのだ。

 止める暇もなく、ウサギさんは地声でしゃべり始めた。男性にしてはやわらかな声ではあったが、まぎれもない男の声だ。

 その時の記憶はあまりない。バーチャルフ〇ラされた時以来の衝撃だった。

「嫌いになった?」

 とかなんとか聞かれて、そんなことない、と返事した気がする。パニック状態で上擦りまくった声でも、ゆかりねっとは綺麗な合成音声に変換してアバターの口から流してくれる。ゆかりねっとは素晴らしいソフトだ。

「受け入れてくれて嬉しい」

 そう言ってウサギさんはハグしてきた。耳元で男の声が愛を囁いてくる。今すぐVRchatからログアウトして、ウサギさんをブロックして、全てをなかったことにしようかと思った。
 とりあえず、コミュ障だから地声での会話は苦手であり、できれば今まで通り筆談して欲しいとお願いした。ウサギさんは了承してくれた。

 正直、ひどいことを頼んだと後悔している。アバターは好きだけど現実のお前は要らないと言っているのと変わらない。それでも、当時の俺は男の声でしゃべる相手とイチャつくのはどうしても生理的にムリだった。

 今はウサギさんの声が大好きだ。もうあまり聞かせてはくれないが。

指輪

 二週間くらいして、ウサギさんは自作の指輪モデルを渡してきた。ブレンダーとかいうソフトで造ったらしい。多才だ。ますます惚れた。

 ペアリングを自作したい、という相談は前からされていた。ハート型に盛り上がった形状にしたいと言われて、あんまりそういうのは趣味じゃないな、と内心思いながらも楽しみだと返事しておいた。

 渡された指輪は、ごくシンプルなものだった。ハート型にするのは時間がなくて断念したらしい。
 二匹の猫が寄り添っているデザインで、肉球の足跡がリングをグルリと一周していた。

 なんというか、指輪が輝いて世界を照らしているような気がした。

 俺のために時間を割いて、俺のためにゼロから創りあげたものがここにある、という事実が信じられなかった。基本的に嫌われ者の俺は友達から贈り物をされるという経験がなかったから、なおさら嬉しかった。

 同時に、性別なんて小さなことにこだわっていた自分を恥じた。男の声がするからなんだと言うのだろうか。愛情をこんな素敵な形にして渡してくれるウサギさんは、世界で一番のパートナーだ。世界中の金銀財宝を掻き集めたって、彼一人の方が何百倍も価値がある。本気でそう思った。

 今でもそう思っている。

 一人の時でも、その指輪は何時間でも眺めていられることができた。私はそのころ小説家になりたくて、働きながらちまちま文章を書いていたが、夢など叶えなくても心から幸福になれることを知った。
 こんなところに幸せは転がっていた。自己実現を果たして幸せになろうなんて、遠回りなことを考えていたものだと、自分で自分がおかしかった。

 苦手だったウサギさんの声が好きになった。酔っ払って地声で絡んできた時も、なんて可愛らしい生き物だろうとしか思わなかった。
 ウサギさんがマイクラのスレンダーマンみたいな人外アバターを使っている時でも、もはや好意は変わらなかった。もはや女の子の要素はなく、おじさんの声で話しているモンスターがそこにいるだけだとしても、大好きだった。

 当時スーパーで働いていた俺は、研修施設に放り込まれたりもした。同期と打ち解けられない俺には地獄だったが、ウサギさんとメッセージのやり取りをしていれば平気だった。現実でも、見えない指輪が薬指にあるような気がした。

お塩

 別れを告げられたのは、付き合ってから二か月後のことだった。

 一生好きだとかなんだとか調子のいいことを言っていたくせに、向こう側からお砂糖を申し込んできたくせに、ひどい話だ。

 他に好きな人ができた、とのことだった。相手はリアル女性で、アバターと合成音声を使って女のまがい物をしている俺では逆立ちしても敵わない。

 そういえば、ウサギさんは「童貞なのを気にしている」みたいなことを言っていた。俺は経験があるのか、と聞かれ、内緒だと答えておいた。絶対経験あるじゃん、とかなんとか疑われたが、もちろん俺は童貞だ。ウサギさんのように、自分が童貞であることをネタにする勇気もない童貞だ。

 リアル女性とお砂糖すれば、卒業のチャンスがあると思ったのだろうか。それとも、性別なんて関係なくて、単に俺が人間的魅力で負けていたのだろうか。

 前者だと思いたいけれど、きっと後者だろう。

 ディスコードで別れを告げられ、せめてVRchatで会って話したいと懇願した。「おk」という返事がかえってきた。死ねと思った。こんな裏切りをやってのけておいて「おk」はないだろう。今でもウサギさんとディスコードでやり取りしていると、癖なのかよく「おk」を使ってくる。
 
 正直トラウマになってるから使わないでほしい。

 海に浮かんだ部屋のワールドで、ウサギさんと俺は顔を合わせる。しかし言葉が出てこない。ウサギさんは首をかしげて。

「最後になにか言いたいことがあるんじゃなかったの?」

 と不思議そうに言う。薄情なものだ。

「あなたはそうやって、私を捨てるんですね」

 そう言ったのはよく覚えている。あとの会話はあんまり覚えてない。泣きじゃくりながら怒り、恨みをぶつけ、別れないで欲しいとみっともなく懇願したが、どうしようもなかった。

 両親がモメにモメた末、離婚した俺はよく知っている。正式な婚姻ですら人の心は縛り付けられない。ましてや、ゲームのシステムですらないお砂糖関係なんて脆いものだ。相手が飽きればそれまでなのだから。

 俺をブロックするか、新しく好きになった相手をブロックするか選べと迫った。そんなもの俺をブロックするに決まっているが、これからも友達でいたいとぬかすウサギさんへのせめてもの抵抗だった。

「じゃあ私が消える。アカウント消してくる」

 ウサギさんはそう言って、VRchatからログアウトした。そして、ツイッターやディスコード、steamなど、フレンドになっていたありとあらゆるアカウントで俺をブロックし始めた。

 つながりを一つ一つ断たれるのは、本当につらかった。崖から落ちそうになってしがみついた指を、一本一本へし折られるような感覚だ。

 このままVRchatのアカウントも消されたら、いよいよ連絡を取る手段がなくなってしまう。焦った俺は共通のフレンドに仲介を頼んだ。
 友達に戻っても良いから、完全に関係を絶たないで欲しい。そうフレンドに伝言してもらって、どうにか関係を繋ぎ止めることができた。

 ちなみに、その頼ったフレンドこそが、ウサギさんが新しく好きになった相手だった。そいつとウサギさんはすぐに付き合い始めることになる。当時は知らなかったとはいえ、お砂糖を寝取られた相手に仲介を頼んでしまうとは皮肉だ。

 そうして、表面的にウサギさんと俺は仲直りした。仲直りのハグをした時、ウサギさんは

「温かいね」

 とかなんとか抜かしてた。冗談じゃない。俺の魂は芯まで冷えている。一生会話することもできなくなるのが嫌だから、泣く泣く別れ話に合意しただけだ。

 一か月後くらいに、ウサギさんは新しく好きになった相手と付き合い始めた。

 自撮りを上げれば数百いいねは付く人気者で、リアル女性。性格もいい。声もかわいい。勝てるワケがない。完敗だ。

 そいつは将棋の腕前がそこそこ自慢らしく、俺とも何度かバーチャル対局したことがあるのだが、二戦して二勝できた。幼少期に覚えた雁木戦法のおかげだ。
 百戦やったって右四間飛車で粉砕してやれる自信がある。

 それだけが、ヤツに唯一勝てたことだ。他の全ては負けている。

その後


 結局、ウサギさんは新しいお砂糖とも一年足らずで別れた。

「なんで好きになったのかわからなくなった」

 とかウサギさんは末期に愚痴っていた。今のお砂糖の愚痴を元お砂糖に話すとか正直どうかと思う。

 別れた後、ウサギさんを寝取った女が私にDMを送ってきた。別れたことの報告と、今まで苦しめてすまなかったという謝罪だった。

「死ね。独りよがりな謝罪なら壁にでも言ってろ」

 と返信しておいた。

「そもそも私はなにも悪くない」

 と返ってきた。それはそうだ。だったら最初から謝るな。

 いや、そうじゃない。相手なりに荒れてる俺を気遣ってくれたのだ。そういうところをウサギさんは好きになったのだろう。自分だって別れた直後で辛いだろうに、他人を気遣えるというのは俺が三回くらい生まれ変わっても獲得できない精神性だ。
 もし性別が逆だったとしても、やっぱりウサギさんは俺を見限って、あいつのことを選んでいた気がする。

 それからウサギさんとは絶縁したり、復縁したりを繰り返した。復縁といっても友達としてであって、お砂糖関係に戻れたことは一度もない。

 今はなぜか格ゲーを一緒に遊んでたりする。ボコったりボコられたりするうちに、多少は胸のわだかまりも消えた気がする。
 河原で殴り合って生まれる友情的なアレは、格闘ゲームであっても発生するのだろうか。

 当時の恨みつらみを込めて、俺は練習したコンボをウサギさんのキャラに叩き込む。どれだけ練習してもミスをする。コンボの途中で落として無敵技で反撃されたり、投げを食らったりする。反射神経が終わってるから溜めダストも立ちガードできない。

 なにをやっても俺はダメだ。


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