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中国HTML5ゲームはなぜ巨大市場になったのか -微信小游戏前夜と微信小游戏後-

大家好。Gaoqiao(ガオチャオ)です。

中国では春節の休みが終わったばかりですが、まだまだ正月ムード。なんならクリスマスの飾りもまだ残ったままです。

私はというと春節はずっと中国で過ごしていたものの、遠隔で仕事をしつつ日本で某メーカーと協業で作っていたHTML5ゲームのプラットフォームが先週ローンチして一息ついています。

私の会社では2015年に日本のYahoo!かんたんゲームプラスという広告マネタイズ主体のゲームプラットフォームにHTML5ゲームをリリースして以来、継続的にHTML5ゲームの開発に取り組んでいます。

HTML5ゲームとはどういうものかというと、例えば下記のようなWebブラウザで起動してプレイできるゲームのことです。

ひっぱりマッピー大作戦 - Yahoo!ゲーム
http://yahoo-jp.portal.connectedgamestore.com/game?gameId=0148-bn_mappy

このようなゲームのことを昔はブラウザゲームと呼んでいました。

なぜこれをHTML5ゲームと呼ぶようになったかは定かではありませんが、以前のブラウザゲームはFlashというアニメーションツールを使ったものが多かったのでそれと区別するため、またゲーム配布形態としてのアプリ(本稿ではAPKなどのパッケージをストアからダウンロードすることでスマホに導入できるものをアプリと書くことにします)と区別するためにHTML5ゲームと呼ぶようになったようです。

ここで日本のスマホアプリ流通の歴史を振り返ってみます。

ちなみにここから先の資料がちょっと古い内容になっているのは、以前勉強会で使った資料を再利用しているからです。

「日本文化の中華圏進出事例を野次馬的に眺める」ための材料なのでざっくりですが、もしまたこの辺をテーマに勉強会をやることがあれば最新版に更新しておきます。

国内スマホアプリ流通の歴史は当初ガラケー向けのソーシャルゲームとの開発リソースの共有をしていたため、Webベースのものがメインになっていました。

しかし、その後の2012-2013年頃にはUnityの登場と普及とFlashの衰退によって一気にWebゲーム技術者、Flash技術者がUnity技術者にジョブチェンジしていく流れがあり日本においてはWebゲームの開発の歴史が途絶えてしまいました。

ソーシャルゲームブームの頃、Web業界からゲーム業界に参入した企業がたくさんありました。そういう企業ではWebゲーム技術者が圧倒的で新作ゲームをHTML5で作る会社も多くありました。

しかし、この頃はまだゲームに使える良いフレームワークが少なく、Unityで簡単に作れるようなリッチなアニメーションや物理シミュレーションを利用したゲームをフルスクラッチで作っていった結果、プロジェクトが大幅に遅延したり、ユーザーが求める画面のリッチ化の流れに対応できず結局Unityで作り直すということがたくさん起こりました。

その後Unityで作られたリッチなゲームアプリが市場に溢れて市場が飽和してくると、巨大Webポータル企業を中心にApp StoreやGoogle Playに頼らずに自社でストアを作ろうという流れが生まれます。

しかし、iPhoneではApp Store以外からアプリをダウンロードすることはできず、AndroidではGoogle Play以外からアプリをダウンロードする際には「提供元不明のアプリ」をインストールできるように設定を変える必要があります。この際に多くの企業が取った選択肢がWebゲームに回帰するというものでした。

現状様々なHTML5ゲームプラットフォームがありますが、国内では覇権はまだ決まっていないといえます。よくいえば成長過程、悪くいえばAppStoreとGooglePlayには勝てていない現状が続いています。ただ全体に言えるのはターゲットを絞ってコンテンツの種類を選択して運営しているところほど収益は出ているようです。


ここから中国HTML5ゲームマーケットの話になります。といっても中国市場に関してはあまり詳しくないので中国の記事を引用しながらざっくりと眺めていきます。

360游戏《2016中国手游行业趋势报告》正式发布 靠复制逆袭时代正在终结
http://bbs.360.cn/thread-14879336-1-1.html

白鹭时代陈书艺:2017年H5游戏规模将达30~50亿
http://www.techweb.com.cn/network/system/2017-06-24/2541491.shtml

中国では度々H5ゲームと呼ばれているHTML5ゲーム。市場規模は2015-2016年に急速に拡大しました。原因は日本と同じくたくさんのアプリが市場に溢れてしまったこともありますが、中国市場ならではの理由もあります。


ここからは以下の2つの視点で中国のH5ゲーム市場を眺めてみます。

1. ペイメントネットワークの普及とプラットフォームの拡大
・WeChatPay、Alipayなどのペイメントネットワークが普及
・WeChatやWeiboといったSNSでシェアされやすく、バイラルマーケティングを前提に作られたH5ゲームプラットフォームがたくさん生まれた

2. 優秀なゲームエンジンとデベロッパー支援
・使いやすいゲームエンジンが複数開発される。
・デベロッパーがゲームを収益化しやすい仕組みが生まれる。


1. ペイメントネットワークの普及とプラットフォームの拡大

日本でゲームに課金する際には携帯電話利用料と一緒に支払うキャリア課金やApp Store、Google Playが提供する課金システムを利用する必要があります。

これらは手数料が30%程度取られるためゲーム会社からすると手数料が低かったりメリットが大きいストア(Amazonなど)でゲームをダウンロードしてもらった方がありがたいわけです。

中国でもこの状況はあまり変わりませんでしたが日本と違うところは中国ではAndroidゲームのプラットフォームが無数に存在していて、これらに配信するにはそれぞれのプラットフォームに対応した課金SDKを導入する必要があったりと手がかかります。

それがWeChat上で配信すればログインから課金まで簡単に導入でき、複数プラットフォームに出したとしても課金先を変えるだけなので比較的簡単です。また、WeChatPay、Alipayの手数料は無料〜数%ととても低かったため、これを利用したゲームプラットフォームが一気に生まれてきました。

ゲームプラットフォームといっても特別なサイトを用意するわけではなく、SNSの公衆号(公式アカウント)として設置します。

一番左の画像が公衆号に入った時に表示される画面です。普通にチャット画面が表示されていますが、下部にボタンを設置することができます。

「游戏中心(ゲームセンター)」というボタンを押すと真ん中にあるようなプラットフォームらしい画面が表示されます。

ここからはWeChat内のWebブラウザを使って表示されており、ここでゲームのアイコンを押すとそのままゲームの画面が表示されます。

中国のH5ゲームはMMORPGのような見た目が多く、このフォーマットだと画面に多くの要素があってもプレイされる傾向があります。

また友達との対戦要素もあります。日本のスマホゲーム業界では対戦より協力プレイが人気だと言われていますが、中国では直接的な対戦も受け入れられる傾向があります。

一方、日本や中国以外の国で作られたHTML5ゲームはパズルゲームのようなもっとシンプルなゲーム性のものが多いです。これはターゲットが違うせいだとも言えますが、先に書いたように私は中国には使いやすいゲームエンジンがあったためだと考えています。


2. 優秀なゲームエンジンとデベロッパー支援

2010年にCocos2d-xが開発されました。Cocos2d-xはUnityと人気を二分した大ヒットゲームエンジンでした。これを開発したChukong Technologiesという会社は北京にあります。

Chukong Technologiesは2008年からゲームコミュニティを運営していて、ゲームパブリッシャー(ゲームを売る会社)でもあります。ゲームエンジンを無料で提供する事で優秀なゲームデベロッパー(ゲームを作る会社)を囲い込むビジネスモデルで世界中に支社を持つほどに成長していきました。

中国では商用使用料が有料のUnityではなくオープンソースで使用料が無料のCocos 2d-xを使う会社が多くありました。

2012年には同じ会社によってCocos 2d-html5、後のCocos 2d-jsが開発されます。Cocos 2d-jsはアプリのみならずH5ゲームも開発できるため、H5ゲームブームの初期はほとんどこれで開発されていました。

2014年には北京でEgret Technologyという会社が創業し、HTML5に特化したゲームエンジンEgret Engineを開発します。Egret TechnologyはEgret Engineに対応したゲーム開発ツールを立て続けにローンチします。

例えばIDE(ソフトウェア開発を楽にするツール)のEgret Wingやアニメーション制作ツールのDragonBonesなどはFlashでゲームを開発していた人にも使いやすいインタフェース、さらに使用料が無料だったため利用者を増やしていきます。

Cocos 2d-jsとEgretのどっちがいいかという論争は今も続いていますが、当事者が語っている熱い投稿があったので、興味のある人はご覧ください。
https://www.zhihu.com/question/24614447

Egret Technologyはゲームプラットフォーム(ゲームを配布できるストア)を運営しており、プラットフォームを他社へOEMする事業も行なっていました。ゲームデベロッパーにとってはEgretでゲームを作るといろんなプラットフォームに配信されるというメリットがあります。

Egret TechnologyはH5ゲームブームに乗って資金力をつけながらEgret Engineを開発していき3Dにも対応できるようになりました。その結果、2016年の時点で中国のH5ゲームの半数がEgretで作られる事態になっています。

HTML5游戏引擎深度测评 - 简书
https://www.jianshu.com/p/0469cd7b1711

Chukong Technologiesはゲームエンジンをオープンソースコミュニティ(コミュニティで開発し、基本的に給料は出ない。中核を作る一部を社員にすることもある。)で作り、ゲームパブリッシャー機能で収益をあげるビジネスモデルでした。

一方Egret Technologyはそのビジネスモデルを進化させ、ゲームエンジンをプロプライエタリ(企業が開発し、給料も出る)で作り、ゲームプラットフォーム機能で収益をあげるビジネスモデルとしたことで、より収益性を高めて、エンジンの機能追加を急速に展開することが可能になったと言えます。

余談ですが、元Chukong TechnologiesでCocos2d-html5の書籍を書いていた 陳さんは今私が滞在している厦門でゲーム開発会社を経営していて、中国でCocos 2d-xの創始者と呼ばれている王さんも厦門に拠点を置いて活動しています。

技術者の方々の中にはCocos 2d-jsを聞いたことはあっても、Egret Engineを知らないという方もいると思います。理由は簡単でEgret Engineのツールには中国語版しかないものが多く、マニュアルも一部しか英語化されていないためです。日本語の技術情報にいたっては皆無です。

以前、日本の会社にEgret Engineでゲームを作ってもらった時にはEgret Technologyの担当者に頼んでまだ制作中だった英語版マニュアルを急遽提供してもらいました。たぶん日本ではこの会社以外にEgret Engineでゲームを作っている会社はないと思います。

今では一通りゲームを開発できるチュートリアル程度のマニュアルが英語でも整備されていますので、興味のある方は試してみてください。

Egret Developer
http://developer.egret.com/en/


昨年末、このH5ゲーム市場を大きく変える出来事がありました。

2017年12月、WeChatを運営する騰訊(テンセント)が微信小游戏(WeChatミニゲーム)をローンチしました。実は騰訊は2016年12月の時点でH5ゲームプラットフォーム参入を発表し、いくつかのカジュアルゲームを配信していました。

微信小游戏は騰訊の強みを最大限に生かしたプラットフォームです。例えば一番人気の「跳一跳」を見てみます。

一番左の画像はWeChatを起動した時に表示される画面ですが、微信小游戏がローンチされたあと、ここの一番上にゲームのアイコンが表示されるようになりました。普段は閉じているので画面全体を下にフリックすると表示されます。アイコンを押すとすぐにゲームが始まります。

ゲーム自体はとてもシンプルなカジュアルゲームが多いです。ゲームが終わると自分のスコアと友達のスコアのランキングが表示されます。単純なゲーム性ではあるものの対戦ゲームになっているということになります。

これがどのくらいヒットしているかというと今までゲームをやらなかった義理の母が友人の中でのランキングの上位に来るくらいです。幅広い層にプレイされています。

FacebookメッセンジャーにもFacebookインスタントゲームという似たようなゲーム機能がありますが、あまり盛り上がっていません。これは中国H5ゲームの特徴の部分で触れたように、対戦ゲームへの意欲の違いだと思います。

また、ゲームデベロッパーとしてはどこで収益をあげているのか気になるところですが、KOFという日中で有名なゲームのアイコンが見えるようにこの機能は他のゲームのマーケティングとして使われるようになるのだと思います。

WeChatのステッカー(スタンプ、中国語で表情)はどれも無料で配布されています。これはステッカーを無料で配布してキャラクターIPの認知度と共に価値を高めて、グッズや派生商品で収益をあげるビジネスモデルを採用しているためです。人口の多い中国では無料であってもたくさんの人に届くということ自体が他国の感覚の何倍もの価値を持ちます。

この微信小游戏ですが、H5ゲームと遊び方は似ていても技術的には少し違いがあります。とはいえ騰訊の提供するAPIを使うという部分だけが違うのみで開発ツールはH5ゲーム用のメジャーな開発ツールで作れるため、H5ゲームの技術者には作りやすいでしょう。

下記のCocos 2d-jsの創始者と呼ばれている王さんの記事がとてもわかりやすかったです。中国ゲーム業界の人は必読だと思います。

开发者该如何抓住微信小游戏的风口?听Cocos创始人王哲详解 | 课堂笔记 - 游戏葡萄
http://youxiputao.com/articles/13835


最近では開発ツールが使いやすくて、簡単に遊べるという点が注目されて、広告にも利用されています。昔のJavaアプレットやFlashみたいですね。H5ゲームの広告への利用に関しては下記のまっつんさんの記事が詳しいです。しかも日本語です。

中国SNSを席巻する"遊べる"広告「H5」って何だ? - 中国メディアビジネス日記
http://www.kikibrero.com/entry/2018/02/15/214003

H5ゲームや微信小游戏を自動で作れるプラットフォームなんていうのも登場しました。儲かるとなると市場の参加者が一気に増えてカオスになっていくのが中国らしい感じがします。

H5游戏制作_微信HTML5游戏开发平台_H5微信小游戏免费制作-开心推
http://www.kxtui.com/

本稿ではHTML5ゲームの黎明期から現在を日本市場と中国市場で比較しながら見てきました。中国のH5ゲームは日々進化していて、市場もどんどん広がっています。

春節明けから私は中国のパートナー会社と一緒にH5ゲームの開発プロジェクトを始めました。彼らのオフィスにいくと中国語が飛び交っていますが、会話の内容は日本のゲーム会社と同じような内容なのですぐに理解ができます。ここに来ると一息ついている暇はありません。これからまたゲーム市場の大海原にダイブしてきます。

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Gaoqiao(ガオチャオ)
中学時代からソフト開発販売、路上ライブ情報配信、地域情報動画配信で起業。2年のMBA生活+7年弱のサラリーマン生活を経てゲーム会社グラティーク創業。代表取締役将軍。中国でのゲーム開発をきっかけに月の半分厦門で生活しています。