[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/

ノルウェーの米国主導演習への不参加について

1. ノルウェー政府、米国主導の2020年の大規模演習への不参加とミサイル防衛プログラムからの離脱を表明
2.ノルウェーのNATO加盟国としての努力
3. NATOの代替としての北欧諸国による集団防衛

1. ノルウェー政府、米国主導の2020年の大規模演習への不参加とミサイル防衛プログラムからの離脱を表明

2020年の4月から5月にかけて、東欧・中欧(注:筆者はこの地域の安全保障を語るうえでこの地域をこの二つに分離するメリットはないので冷戦期のように「東欧」とひとまとめにして読んでいるのだが)とジョージアにおいて、米国、NATO加盟諸国及びフィンランドなど非NATO加盟国とともに、過去25年間において最大規模の軍事演習が行われることが米国欧州軍により10月7日に明らかにされた。

記事

今回の記事は、これに関するノルウェーの動向である。ノルウェー国防省報道官はこの演習に関して、ノルウェー軍は参加しない旨バレンツオブザーバー紙のインタビューに答えた。ノルウェー軍の2020年におけるもっとも重要なイベントはスウェーデンにて行われる大規模演習Aurora2020であるとも付け加えた。

記事

参加しない理由は、この記事によれば「キャパシティー不足」である。NATOがその活動の主目的を本来の目的であるNATO加盟国の領土の防衛に再定義しそれぞれの防衛力の増強を2014年のウェールズサミットで合意して以来ノルウェー含む各国は防衛力増強に努めてきたわけだが、今回のこの決定はそれらが現段階で不十分であることを露呈したものである。


この状況はノルウェーの国防方針に影響を与えるものとなってしまっている。10月10日の報道によれば、露との国境に近いノルウェー北部の町シルケネス(Kirkenes)にてロシアの代表も主席して行われた赤軍によるフィンマルク県解放75周年を祝うミーティング(露外相、ノルウェー国王などが出席するメイン式典は10月末に行われる)において、ノルウェーは米国、NATOとの間で進めてきたミサイル防衛プログラムから離脱することが表明された。

記事

2.ノルウェーのNATO加盟国としての努力

ノルウェーは、急激に変化したNATOと露との関係に戸惑いつつもNATO加盟国として懸命にその義務にそうよう努力してきた。ノルウェーはムルマンスクなど軍事拠点を抱える露にとって重要なコラ半島に隣接し、NATOの露との対峙状況下において「最前線」に位置する。ゆえに露からの圧力も高く、露との国境に近い半島に設置されたレーダーサイトに対しての露軍機による挑発行為など、ノルウェーのこの地域、いやノルウェー全体がこの地域のNATOの対露防衛の拠点として露からの圧力にさらされてきた。


ノルウェーには米海兵隊が駐留し、2018年にはノルウェー領内にて過去最大規模のNATO演習Trident Juncture 2018が行われた。さらに2019年3月にスウェーデンにて行われた軍事演習Northern Wind 2019にはノルウェー軍・米軍・英軍がスウェーデン領内にて演習に参加した。

これについて以前書いた記事

演習不参加のみであるなら近いうちに国防力を必要なレベルに押し上げられる可能性を見出せるのに対し、ミサイル防衛からの離脱となると、ノルウェーは自国の防衛力の停滞をかなり深刻に受け止めているということを示しているということで、ノルウェーの今回の決定を筆者はかなり深刻に受け止めている。


さらには、この決定は同時にノルウェーが米国ならびにNATOの防衛力にかなり不信を抱いてしまっていることを示していよう。NATOにおけるノルウェーの役割は、対露有事においては、コラ半島・白海周辺地域から予想される露軍の侵攻を食い止めるものである。このためにはノルウェー駐留の米海兵隊のみでは足らず、露軍の侵攻を食い止めつつNATO軍本体(こちらに割けるだけの)の到着を待つことになる。当然ながら米国・NATOが頼りないものであればノルウェー軍による防衛戦(陸のみならず海空においても行われることなる)が頑強なものであってもあとが続かない状況に陥ってしまう。ノルウェーの今回の決定はそうした事態を避け、露軍による侵攻の可能性をできるだけ低減しようという目的であると思われる。

3.NATOの代替としての北欧諸国による集団防衛

こうした目論見は、ノルウェーが集団防衛義務を加盟国すべてが持つことになるNATOの一員である限り、露が他の地域でNATOと戦争状態に入れば必然的にノルウェーも露と戦争状態に入ることになってしまうことを考えれば、なんとも頼りないものに思える。しかし米国の態度がなんとも信頼のおけぬものであれば、ノルウェーは自力で自己を救済するしかなくなる。取り得る手段の中でもっとも信頼性のあるものは、北欧地域全体が一つにまとまった防衛体制であろう。こうしたことは、上のノルウェー国防省報道官の談話でスウェーデンとの演習はきちんと行うことの言及していることからも推察される。


北欧地域全体をイメージした軍事演習はこれまで何度も行われてきた。上記のNATO軍事演習Trident Juncture 2018と同時期にフィンランドでも沿岸防衛軍事演習であるNOCO18が行われたが、これにはNATO加盟国の多くが参加しており、この二つは事実上結合したものとして行われた(フィンランド北部のロヴァニエミ空軍基地からノルウェー上空までフィンランド空軍とNATO加盟国の空軍機が行うといった演習も行われた)。また、上記のスウェーデンでのNorthern Wind 2018はスウェーデン軍とフィンランド軍がアグレッサー役のノルウェー軍・米軍・英軍部隊と戦うというシナリオであったが、これはスウェーデン・フィンランド両軍が侵攻してきた露軍を食い止めている状況下でノルウェー・米・英軍が救援にかけつけるというシナリオも想定していると思われる。こういった演習に積み重ねにより、この地域においては集団防衛義務が生ずる国際条約機構は存在しないにも関わらず、有事には集団でことに当たれる準備を整えている。

しかし、やはりスウェーデン軍、フィンランド軍のみでは陸地の相互防衛で手一杯になるであろう。有事においてスウェーデン海軍・空軍がバルト海での軍事行動で手一杯になるとすればノルウェーは北極海から北海にかけて自国で対処するしかなくなる。英国その他による支援も期待できるにしろ、やはり米国が動かないことには対処は非常に難しいと思われる。


上述のミサイル防衛プログラム脱退は、露の機嫌を宥めて有事に陥らないようただ祈っているだけというような対処法である。ノルウェーが今後どのような有効な国防政策を打ち出せるかについては、刻々と変化する現在の国際状況の中で、確かなことを言えるようになるのはまだ先になるであろう。

いいなと思ったら応援しよう!