【全文無料】オフィス出社の義務化は無能を守るセーフティネットである
来ましたね、出社回帰の流れ。
外資系企業各社がオフィス出社を義務付けたのに従って、日本企業も次々と出社義務をアナウンスしはじめました。
特にLINEヤフーは、まずは月1の出社義務でも、いずれ週3出社に回帰しますと社外秘で宣言したそうで、遠方在住のまま採用された人が激怒する事態となっています。
ではなぜ、オンライン会議もチャットも普及した現代で、今更オフィス出社を義務付けるのか。その理由は、リモートワークでみんな働けるほど優秀ではないからです。
「対面だと話が早い」という神話
昔から営業の世界では「対面だと話が早い」と言われました。メールや電話だと齟齬が生まれるが、対面だとサクサク話が進むわけです。それはなぜかというと、対面では五感すべてを使ってコミュニケーションできるのに対し、電話や文章では聴覚や視覚など、一部の機能しか使えないからです。
実際、オンライン会議での営業活動は、対面よりも成約率が25%落ちたとおっしゃる会社もありました。たとえば、初対面でのアイスブレイクひとつとっても「今日のお召し物、素敵ですね。どこで普段は買い物されていらっしゃるんですか?」でスタートできる対面と、顔のアップで始まるオンラインでは情報量が全く異なります。対面に比べて、オンライン会議や電話はハンデ戦だ、というわけです。
しかし、私にはこれが疑問でした。というのも、弊社は2017年からフルリモート。30~40名のメンバーと仕事をしていますが、私が対面でお会いしたことがあるのは10名程度です。
そもそもリモート前提で参画してもらっていますから、チームの居住地は全世界に散らばっており、一堂に会することは不可能。ですが弊社の業務はチャット99.9%と、緊急時だけ行うZoom会議で回っています。この差は何……? と思うわけです。
自分の業務を言語化できない人が多数いる魔境、それが会社です
そこで、さまざまな法人へインタビューを実施してみたところ「そもそも自分の業務を言語化して伝達できない」人が多数いることがわかりました。つまり、表情や「あの件、どうなった?」といった指示語で会話を済ませるしかない人が結構いらっしゃる。何なら、こちらの忙しそうなふるまいや、苦悩の表情で状況を察してさりげなく助けてくれ、という人もいる。
けれどもそれは、テキスト中心でのコミュニケーションでは成り立ちません。助けてほしいなら「〇〇の件で〇〇が詰まっていて、どう進めたらいいのかわからないのですが、これって〇〇であってますか?」と言語化する必要が出てきます。
こうした、業務の言語化のトレーニングを受けてこなかった人がいる。びっくりするくらいいる。大企業にもいる。だからコロナ禍で在宅命令が出ると、あっという間に成果を出せない側になってしまっているのです。
とんでもないことですが、とんでもないまま会社は回っています。そして、かれら・彼女らがいないと会社が機能不全に陥るのです。
逆に弊社で誰もがテキストで会話できるのは、弊社がライターの集団という、特殊な組織だからです。文章を書くことが得意なメンバーだから、仕事が回っているのでしょう。
「勤務時間に監視されなくても仕事をする」スキルがない人たち
さらに、リモート勤務は多数のサボリを生みました。どうやったらサボれるんだよ……!? と私は思うタイプですが、それは自分がジョブ型雇用で生きていたゴリラだから。
自分のジョブ(業務)が明文化されていない雇用形態だと、仕事をしているフリが簡単にできてしまいます。自分がサボったところで、「なんとなく周りが拾ってくれちゃう」からです。何なら、自分ひとりがサボっても成果は部署単位で評価されるからと、成果次第で昇給するまでありえます。
頑張らなければ頑張らないほど得をする仕組みのなかで、自分を律して労働できる人間がどれほどいるでしょうか。
何なら、自分のサボリ具合が給与に影響するとしても、在宅では頑張れない人がたくさんいます。よく、会社をいきなり辞めたフリーランスが家で仕事をしようにも、脳が休日モードになってしまい全く働けない……という相談を伺います。当人は、本気で悩んでいるのです。
人間の中には、一定割合「誰かから監視されないとはたらけない」人がおり、そういう方はリモートワークで成果を出せないのです。
たとえば私はいっとき、宮崎でワーケーションを試みたことがあります。
こんな白浜のビーチを目の前にして、ワーケーションをしていました。たまに誰もいない砂浜で足だけ海に浸し、膝にパソコンを乗せて原稿を書いていました。最高に気持ちよかった!
ただ、このワーケーションに同行してくれた約10名のうち、私と一緒にはたらけたのはわずか2名でした。みな、目の前の海にテンションがぶち上がってしまって、仕事を放り出して有給申請したのです。
なお、私と一緒にはたらいた2名はいずれも会社員をやめ、フリーランスや起業で稼いでいます。会社から離れても仕事を淡々とできるほど仕事好きであること、あるいは自律できる人間であることが、いかに難しいか悟らされたのです。
対面で働くことを「頑張り」とみなす人がいる
さらに、オフィスに張り付いて仕事をする人を「頑張ってんな」と評価する人がいます。成果主義の敵です。ただ、無能側にとってはうれしい相手です。
たとえば、P&Gに入りたてのころ、私は圧倒的に無能でした。あまりに仕事ができないので、深夜3時までオフィスに残り、朝8時からはたらいていました。そして、その命がけではたらく姿を免罪符にして、存在を許されていました。
「あいつ、バカだけど頑張ってんな」で許されていたのです。
新卒なんて、どんなに優秀でも入社時はレベル1からのスタートです。誰もがポンコツから始まります。そこで上司より早く出社し、上司より遅く帰るからミスを拾っってもらい、フォローしてもらえる。これが誰よりも早く帰る部下ならそうはいきません。
さすがに2年目にもなってポンコツのままだとレイオフされるので、こちらも必死で学習するわけですが、とはいえ1年もの間、成果主義の外資で無能でも生かされる。私は無能ですが、誰よりも長く出社して「頑張りを見せる」ことで、セーフティネットに守られていました。
営業であれば取引先とも似た関係にあるでしょう。どんなにポンコツでも、足しげく会社へ訪問してペコペコ頭を下げてくれるから「あいつは悪いやつじゃない」と契約を維持してもらえる。これが、オンラインだったら即契約終了です。
外資ですらそうだったのですから、JTCはもっとでしょう。この世は最終的に、感情論で回っているのです。
無能を守るセーフティネットとしての出社義務
ここまで、3つの論点で、なぜ出社回帰が起きるのかを示しました。以下にまとめます。
対面でないと意図を伝えられないほどコミュニケーションスキルが低い社員がゴロゴロいるので、出社して対話させざるをえない
誰かに監視されていないと自律的に仕事ができない人が多いので、相互監視する箱(オフィス)に閉じ込める必要がある
無能な人間であっても足を運ぶことで頑張りが評価され、社内外で生存を許される
対面でしか成果を出せない人間は、DX社会における無能側の人間かもしれません。しかし、私たちの何割が有能側でいられるでしょうか? そして、有能な人間しかサバイブできない環境に身を置きたいと考えるでしょうか?
仕事は感情で回ります。そして、人間は合理性だけではたらけるほど、強くも優秀でもないのです。
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