小金井ストーカー事件
34ヶ所メッタ刺し 小金井ストーカー事件
いまも消えていない「狂った恋情」
初出 『新潮45』2017年4月号
本記事の「今年」は2017年。情報は2017年3月当時のもの
自分は悪くない
懲役14年6ヶ月の判決が下された翌日、立川拘置所に岩埼(現姓・岩崎)友宏(28)を訪ねた。
「弁護士は12月16日の冨田さんの手記も入れてくれないんです。あいつら本当に口だけで、ほんとハズレでした。判決は10年くらいと言ってたんですよ。殺人未遂は7〜8年が一番多いと言っていて、10年がその次に多いと」「もともと15年だったと思うんですが最後の僕の陳述で、14年6ヶ月になったのかな」
何を言っているのだろう。これほど重い判決が、彼には全く響いていない。
「警察はやっぱりおかしいですよね。今回の事件は武蔵野警察署の失態だと思っていますよ。僕に電話でもいいから、注意してくれていたら会いに行かなかった。だって警察が介入してくると怖いですよね。そこまでしてわざわざ聞きに行かなかったですよ。冨田さんに謝ったって、辞めろ、クビになれ、辞職するべきと。
父親の尋問聞きました? (被害者への弁済に充てる)200万円は返さなくていい、って。えっ!?って思いましたよ、おかしいだろうと。親だから当たり前だと言っていたが、ここで言うことじゃないだろうと。そう思って、自分では親には頼れないと思います」
止まらない不満。反省の色は全くない。
「僕は色々な人に裏切られている。精神鑑定した医師にも、弁護士にも。拘置所の人にもそうですし、10人以上に……」
ひとりの女性の人生をめちゃくちゃにしておいて、いまなお彼は、被害者意識だけを肥大させている。
初めての面会であるにもかかわらず、開口一番、クッキーやラングドシャ、あんぱん、メロンパンなど、甘い食べ物の差し入れを当然のように要求してきた。会ってやっているのだから、その対価だ、ということなのか、それとも、いつでもこのように、他人に求めるばかりの人生だったのか。とにかく判決翌日でも、食欲は旺盛なようだ。
食べ物の他に、本も要求してきた。
「山本周五郎の『日本婦道記』『青べか物語』『さぶ』の3冊の差し入れをお願いします。『日本婦道記』は女性の一代記で、冨田さんにも読んで欲しい本だと思ったんです」
自分の行為で生死の境をさまよい、視野狭窄の障害が残っている女性に対して、本気で、いま本を読んでほしいと思っているのか?
「今も思っちゃいますね。思いますね。目は見えなくなったけど、彼女、機能不全の箇所が1箇所もないんですよ。よかったなと。声だってしっかり出てたじゃないですか。うん。声は変わってないですね。あ(記者さんは)知らないですよね、あれだけ傷つけられても……変わらなかった。あれだけって言ってもわからないですよね。歌うことはできると思う。これからの冨田さんに向けて読んでほしいと思います」
微笑みながらこう嘯く神経には、ただ驚かざるを得ない。
自分は悪くない。事件は警察の怠慢により引き起こされたもので、判決が重かったのは弁護人や父親のせいだ。
彼は本気でそう思っている。
そして、自分が殺そうとした女性も、傷ついていないのだ、と。
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