メッセージの伝え方
電車の中吊り広告に書かれている「名言チックな文章」が不適切だとして叩かれてるのを見た。
炎上の中心になった文章は
毎月50万円貰って毎日生き甲斐の無い生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方が無いという生活と、どっちがいいか
というものだったのだけど、まあこれが燃えるのは一般的な電車ユーザの境遇を考えると納得できる。
他にも、
私たちの目的は、お金を集めることじゃない。地球上で、いちばんたくさんのありがとうを集めることだ。
とかも燃料になったらしい。
僕はこれらの文章が「メッセージが伝えたいこととメッセージの文章が乖離している」という視点でセンスが無いなと思っている。
例えば1つ目の文章。これが伝えたいことを好意的に解釈すると、「毎日楽しく働けるといいよね」ということだと思う。伝えたいことをそう解釈するならば、50万円とか30万円とかはただの修辞だ。でも、実際の受け取られ方は修辞の方がメインになって「楽しく働けるなら多少給料が低くてもいいよね」になってしまっており、さらに「30万も貰ってねえよ」みたいな余計な突っ込みどころを生んでしまっている。
文章の構造から見てみると、
・それぞれの文の先頭を修辞にしてしまい、そちらが対比の対象として受け取られるような書き方になっている
・対比する文の中で定量的に比較できる要素が修辞部分だけになっている
という点でセンスが無い。
僕のセンスで書き換えるとするなら、
お金だけ貰って毎日無為に生きるよりも、毎日働くのが楽しくて仕方が無い生活の方が幸せだと思う。
みたいな感じか。金額に対する対比をあやふやにしておき、生活の描写の対比をメインに出してみた。
2つ目については、「どうせ書いたやつはお金目的なんだろ」「やりがい搾取の肯定か」みたいな読み方ができてしまうのでよくない。「僕らはありがとうを集める仕事をしているんだ、かっこいいでしょ!」みたいなメッセージであるべきなのに、とても勿体無い。
文のどこが問題かというと、「目的」=「金稼ぎではなくありがとうを集めること」という誰が読んでも欺瞞としか受け取れない係り受けにしてしまってることだ。
大抵の労働者は、「仕事の目的はお金を稼ぐこと」であることを知っている。「ありがとうを集めること」は「金稼ぎの手段」にはなるが、それ自体が目的ではないことも知っている。そこを逆転させるようなメッセージは響かないだろう。
もっと正直に書けばいい、という視点で書き直してみると、こんな感じか。
私たちは、地球上でいちばんたくさんの「ありがとう」を集めることで、地球上でいちばんお金を稼げるような仕事をしたい。
目的と手段が分かりやすくなった。聞き心地のいい手段を先に書くことで、パッと見のインパクトも増えていると思う。
メッセージの基本は「伝えたいことだけ伝えること」である。抑揚や韻を考えることで「頭に残りやすいメッセージ」に加工することはできるし、それも重要なのだけど、そのために余計な言葉を足すと「伝えたいこと」がブレる。
余計なことは言わないようにするのがいい。「口は災いの元」という言葉が何故昔から伝わってきているのかを考えてみれば、先人たちが同じ失敗を既にしていることが分かる。わざわざ失敗を繰り返す必要はない。