スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が、各国の男女平等の実現度をランク付けした、今年の「ジェンダー・ギャップ報告」を発表した。日本は146カ国中116位。前年の120位、前々年の121位からは順位を上げたものの、低順位の「常連」になっている。
ランキングは政治、経済、教育、健康の四つの分野で算出される。性差によって生まれる格差、不平等を、指数にして可視化したものだ。指数が1になれば「完全平等」で、0に近いほど男女の格差が大きいことを意味する。
116位は4分野の結果を総合した順位で、先進7カ国(G7)、東アジア太平洋地域諸国のいずれでも最下位だ。日本は特に政治、経済両面での女性の進出が依然として低調。分野別に現状を探るとともに、先進的に取り組む他国の例も紹介する。(共同通信=岩原奈穂、城和佳子、宮川さおり)
【政治】139位(前年147位)
前年から順位は上がったものの、指数の数字は0・061から変わらないまま。7月10日投開票の参院選では、候補者に占める割合が戦後初めて3割を超え、当選者も35人で女性比率は28%となった。
ただ、ジェンダー・ギャップ報告で使うのは一院制または下院のデータ。日本の場合は衆院のみとなる。その衆院では9・9%と低迷し続け、各国議会でつくる「列国議会同盟」の各国平均の26%を大きく下回る。
一方、ランキング上位常連の北欧諸国を中心に、女性議員の比率が高い国々の多くは、選挙の候補者や議席の一定比率を女性に割り当てる「クオータ制」を導入している。
日本で女性比率を上げるためには、最大与党の自民党が鍵を握るが、現職は男性が多い。党には現職優先の原則があり「女性を候補にするので次から男性現職は公認しない」というわけにいかず、女性を増やすハードルは高い。
指数には閣僚に占める女性の割合も反映されている。岸田内閣の閣僚19人中、女性はたった2人。フランスのマクロン大統領やカナダのトルドー首相は自ら主導して内閣の男女同数を実現した。日本ではそもそも女性議員の数が少なく、女性閣僚を一気に増やすのは容易ではない。
【経済】121位(前年117位)
今回唯一、順位を下げた。企業の役員・管理職に占める割合の低さが足を引っ張っている。22年度の男女共同参画白書によると、日本は管理職の女性割合が13%。上場企業の一部では改善も見られており、どう波及させるかが課題だ。海外では30%を超える国が多く、フィリピンは50%超、米国やスウェーデンは40%超となっている。企業役員に占める女性の割合を一定以上とするよう法整備し、経済分野でもクオータ制を取り入れた国も少なくない。
米国カリフォルニア州では、州内に本社を置く企業に対し、役員に占める女性の割合を一定以上にするよう義務付けたところ、女性役員が増えたという。
賃金の差もある。経済協力開発機構(OECD)がまとめたデータによると、日本の女性の非正規労働者を含むフルタイムの賃金は、男性の77%。非正規割合の高さや、出産・育児で離職するなど勤続年数が短い人の多さが要因とみられる。米国は82%、イギリスは87%だ。
欧州を中心に、海外では男女別賃金の開示ルールがすでに整備されており、日本でも今夏から、男女の賃金差公表を企業に義務付けた。企業に自主的な見直しを促す狙いで、管理職割合と賃金における格差解消を両輪で進めていく必要がある。
【教育】1位(前年92位)
一見すると、前年から大幅改善したように見えるが、これにはからくりがある。詳しい理由は分からないが、高等教育(日本では大学)の就学率を「算出できない」として数値が反映されていないためだ。試しに日本の大学進学率をみると、21年度は女子が51・7%で、男子より6・4ポイント低かった。もしデータが反映されていれば、順位は下がっていた可能性がある。
また、指数には反映されないものの、日本では理系進学での男女差も目立つ。特に、STEM(科学・技術・工学・数学)分野で女性が少ない。大学入学者に占める女性比率を分野別に調べると、日本は「自然科学・数学・統計学」27%、「工学・製造・建築」16%で、OECD加盟国では最下位だ。
こうした現状の背景には「男子は理系、女子は文系」といった性別に基づいた固定観念や偏見が根強くあり、教員や保護者が理系への進学を勧めないことで、女子が理系分野への進学を選択肢から除外してしまうという指摘もある。
危機感を持った日本政府は実態調査を進め、女性のSTEM人材育成に本格的に乗り出す方針。
【健康】63位(前年65位)
前年から横ばい。生まれる子どもの男女割合と、元気に暮らせる「健康寿命」の男女差がものさしとなっている。健康分野は、医療が発達した先進国の間では差がつきにくい。健康寿命は日本が男性72・68歳、女性75・38歳。女性の状況が変わらなくても、男性の健康寿命が変動すると、計算上では指数が悪化したように見えることもある。
【専門家はこう見る】
今回のジェンダー・ギャップ指数の結果を受け、専門家2人に話を聞いた。
(1)東京工業大の治部れんげ准教授(男女平等政策)の話
日本は、文化的に共通項のあるアジアの中でも、改善が遅れている現状を直視するべきだ。経済分野を見ると、年金基金などの機関投資家では、ジェンダー多様性を重視する動きが広がっている。現状を放置すれば、女性役員や管理職が少ない上場企業は株主から見放されてしまうだろう。
政治分野では、当選圏に届く候補者を出せる与党の取り組みが不可欠だ。男女格差解消の優先度が低くなっている現状を変えるためには、投票で関心の高さを示すなど、有権者側も行動することが必要だ。
この指数には、乳児や妊産婦死亡率など健康、人権に関する指標が少ない。他の国際機関の調査とも比較し、複合的に分析すれば、「意思決定層に女性が足りない」という日本の課題がより理解できるはずだ。
(2)各国の女性施策に詳しい笹川平和財団の堀場明子主任研究員の話
日本の順位がなかなか上がらないのは、簡単に言うと他の国が日本以上に頑張っているからだ。
ヨーロッパの一部の国や国連などが発展途上国に経済援助をする際、ジェンダー平等、意思決定層への女性の参画に取り組むことを条件にしている。このため、発展途上国では政府や企業などで意思決定層への女性の参画がかなりのスピードで進んでいる。外圧がない日本は「座して待っている」状態で「気が付いたら万年最下位グループ…」というわけだ。
今後、政治、経済で日本の格差改善を促進するためには、クオータ制導入などで、ある程度強制的に男女均等にしていく必要がある。そうしないとなかなか変わらない。