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”冤罪の年”2024年の刑事司法を振り返る

”冤罪の年”2024年の刑事司法を振り返る

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西 愛礼
刑事司法の一隅を照らす西 愛礼

2024年は、今世紀最大に冤罪が問題視された年だったのではないかと思います。その2024年を振り返ってみたいと思います。

3月

法務委員会で、取調べにおけるメモ取りを禁止する法的根拠はないということが明らかになりました。実際にこの国会答弁後、メモを取ることができたという報告を聞いています。そもそも取調べでメモを取ることができないこと自体おかしいのですが、国会議員が質問をすることで実務が動いたということで、国会における動きも重要だと改めて認識しました。取調べにおいては録音も禁止する法的根拠はないと考えており、この点についても国会答弁を期待しているところです。

4月

生後5か月の長男を骨折させた傷害の罪に問われた男性について、無罪判決が確定しました。このような冤罪事件が単なる勘違いではなく、医師の保身のために生まれた可能性があるとして問題視されました。

死刑の即日告知・即日執行が違憲であると訴えた裁判で、大阪地裁が請求を棄却しました。残虐性については様々な考えがあると思いますが、少なくとも死刑を執行しやすくするためだけのためにこのような運用になっていて、その結果として執行停止などの法律上規定されている手段が現実的に取りえないようになっていることは不当だと思います。

窃盗事件の誤認逮捕で、そもそも盗まれてもいなかったことが判明し問題になりました。警察であったとしても間違えることは避けられませんが、そもそも300円の被害額と逮捕による身体拘束の不利益を考えると、逮捕をしなくとも在宅捜査を選択できたのではないかとも考えられます。このような誤認逮捕事例を参考に、誤認逮捕を減らしていってほしいですね。

5月

横浜市教育委員会が動員をかけて傍聴席を埋めていたことが判明し問題になりました。この問題については私もアベプラに出演してお話をしたので、下記動画を参照ください。

再審無罪となった湖東記念病院事件の国家賠償請求訴訟において、取調官が供述誘導を否定する証言をしました。この証言は刑事裁判においても排斥されています。人間は認知的不協和などの心理作用によって、誤りに向き合うことができないと言われています。

6月

死刑が執行された再審請求事件である飯塚事件について、福岡地裁が再審請求を聞かyくしました。その後、即時抗告審が福岡高裁に係属しています。死刑が執行された後に再審請求されている代表的な事案であり、今後の審理に注目が集まっています。

鹿児島県警の内部文書に、捜査書類の廃棄を促す文書が含まれていたことが判明しました。捜査書類を残しておいて再審で組織的にプラスになることはないと書かれていたようなのですが、残っていた捜査書類をもとに真実が明らかになることがプラスではないという考えが信じられません。組織の保身よりも、無実の人が救われることの方が重要だと思います。

私も弁護団に参画している人質司法違憲訴訟が提訴されました。このような取り組みは日本で初めてです。詳しくは以下の記事をご参照ください。

7月

江口国賠について、東京地裁が違法を認定しました。もっとも、同判決は黙秘権侵害を認定しなかったという問題もあり、現在控訴審が進行しているところです。

8月

私も弁護団の一員であるプレサンス元社長冤罪事件に関して、取調べ検察官が刑事裁判にかけられることになりました。検察官の取調べの行為について刑事裁判にかけられるのは日本で初めてということです。

9月

袴田事件について再審無罪判決が宣告されました。日本における5件目の死刑再審無罪判決となります。無罪判決は確定したものの、検事総長が判決に対して不服を述べる談話を公表したことから問題となりました。

このような捜査機関の姿勢が批判を招き、最終的に静岡県警と静岡地検が謝罪する事態に至っています。

その後、最高検察庁と静岡県警は袴田事件に関する検証を行いましたが、その内容は不十分なものだったと批判を浴びています。

10月

前記のプレサンス元社長冤罪事件の取調べを記録した録音録画について、最高裁判所が国に文書提出命令を発しました。取調べの録音録画の文書提出命令について最高裁が判断したのは日本で初めてであり、重要な判例ができました。

その後、この録音録画は法廷で取調べられました。

また、広島地検検事が自殺したことについて、国家賠償請求訴訟が提起されました。私は、自分がその立場になっていたかもしれないと思うと全く他人事ではありませんでした。自身の人権が守られていない人が他人の人権を守れるはずがありません。パワハラ・セクハラについては法律業界においてもぜひ撲滅されてほしいと考えています。

福井女子中学生殺害事件で再審開始決定が宣告され、確定しました。検察官の不誠実な訴訟遂行が決定文では批判されています。来年開かれる再審公判が注目を集めているところです。

11月

大川原化工機冤罪事件に関して、捜査の問題点を検証するアンケートを捜査員が実施したのに、それが組織的にもみ消されたというスクープがありました。正義感をもった捜査官を挫く、非常に大きな問題です。

元検事総長や元警視庁長官などをメンバーとする懇話会が、死刑に関する会議体の設置を提言しました。官房長官は会議体の設置を否定したものの、その後、石破主張は自民党内で死刑制度の在り方について議論を深めたいと発言しました。

今西事件という虐待冤罪事件について、大阪高裁で逆転無罪判決が宣告されました。検察官が上告し、最高裁の判断が待たれている状況です。揺さぶられっこ症候群に関する同種事犯で無罪判決が全国で10件以上相次いでいる状況であるところ、今回の高裁判決は他の同種事犯にも影響を及ぼし得る判示をしており、非常に重要な事件となっています。

12月

宣伝すいません。12月に新書「冤罪 なぜ人は間違えるのか」を出版しました。どうぞご参照ください。

紀州のドンファン事件が裁判員裁判で無罪判決となりました。検察が控訴をしており、今後の控訴審が注目されています。

以上のとおり、刑事司法に関しては激動の一年でした。特に、世界で最も長期間身体拘束を受けた袴田さんに対して無罪判決が宣言されたこと、死刑判決の前提とされた決定的な証拠がねつ造によって作られたものと判示されたことは非常に大きな出来事であり、日本だけでなく、世界的に議論されるべき問題だと思います。

2025年は、こういった一連の事態を受けて、再審法改正がどこまで進むのかが非常に注目されています。冤罪事件の教訓を生かす形で刑事司法システム自体を改善していくことが非常に重要です。より良い刑事司法になることを心から願っています。

プロフィール

西 愛礼(にし よしゆき)、弁護士・元裁判官

プレサンス元社長冤罪事件、スナック喧嘩犯人誤認事件などの冤罪事件の弁護を担当し、無罪判決を獲得。日本刑法学会、法と心理学会に所属し、刑事法学や心理学を踏まえた冤罪研究を行うとともに、冤罪救済団体イノセンス・プロジェクト・ジャパンの運営に従事。X(Twitter)等で刑事裁判や冤罪に関する情報を発信している(アカウントはこちら)。

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新書『冤罪 なぜ人は間違えるのか』

コメント


注目のコメント

  • 西 愛礼
    後藤・しんゆう法律事務所 弁護士(元裁判官)

    今世紀最も冤罪が問題視された激動の2024年、その1年間の経過を振り返りました。


  • FUJIMOTO DAISVKE
    兼業投資家 そろそろ中堅

    「逆転無罪判決が気に入らないから裁判官を訴追しよう!(途中で「抗議」に変更しましたが)」って署名に10万人以上が賛同する社会ですよ(笑)
    物証に基づき「疑わしきは被告人の利益に」なんてやったら、それこそ「無罪に抗議します」ってお気持ちで溢れかえるでしょうね。

    「冤罪防止」と「それ以外」で全く違う事件を想定してる法曹関係者はもしかして「世論で判決基準を変えるべし」とか言う情治主義を目指しているのでしょうか(笑)


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