【詳報】「想定外の超弩級プリニー式噴火」福徳岡ノ場、専門家語る(衛星写真あり)
今月13日に噴火が確認された小笠原諸島付近の海底火山「福徳岡ノ場」。JX通信社は、人工衛星を自社開発・運営する宇宙ベンチャー「アクセルスペース」と協同し、噴火直後の様子を衛星写真で4日続けて撮影した。今回、噴火の特徴や今後備えるべきリスクについて、火山学者で静岡大学防災総合センターの小山真人教授に分析してもらった。
ーー「福徳岡ノ場」の衛星画像を見た率直な感想をお聞かせください
小山教授
ひとまず噴火は落ち着いていることが分かる。かなりの規模の噴火だったので、さらに噴火が続いてもおかしくはなかった。当面は落ち着いたと思うが、何度も噴火する可能性があるのでまだ注意が必要だ。 当初は、非常に激しい噴火が24時間以上続き、噴煙が1万6000メートルまで達して、それが1〜2日続いた。あの状況になると、少なくとも付近から50キロは離れていないと危険だ。硫黄島の位置がちょうど50キロメートルぐらいの場所にあるが、硫黄島もそれなりの警戒が必要なレベルの噴火だった。
ーー今後も同規模、またはそれ以上の噴火が起こる可能性がありますか
小山教授
再び噴火する可能性はあると思う。今回の噴火は火山学的には「プリニー式噴火」といって、滅多におきる噴火ではない。世界的に見れば数年に一度くらい起きているが、日本だけで見ると20世紀以降2回しか起きていない。1914年の桜島大正噴火と、1929年の北海道駒ヶ岳の噴火だ。
これに準ずる規模の「準プリニー式噴火」であれば、1986年の伊豆大島の割れ目噴火や、1977年の有珠山噴火、2011年の霧島新燃岳の噴火がある。
今回はこれらより1ケタ規模の大きい爆発的な噴火だった。1707年、江戸時代中期の富士山の宝永噴火はプリニー式噴火であり、16日間続いたので規模は今回の福徳岡ノ場の噴火よりも大きいが、噴出レートで比較すればおそらく宝永噴火と同レベルの超弩級の噴火と言えるだろう。
ーー福徳岡ノ場は11年前にも噴火しています
小山教授
11年前は大した噴火ではなかった。もともと浅瀬だったので少し島はできたが、噴火自体は小さかった。そういう意味では今回の噴火は意外だった。こんなところでこれほど大規模かつ爆発的な噴火が起こるなど、恐らく火山学者は誰も思っていなかっただろう。
近くの海底をボーリング調査すれば危険な性格を持つ火山と分かったかもしれないが、そこまでの調査はできていなかった。付近に海底カルデラがあることが改めて注目される。カルデラがあるということは、爆発的な噴火を何度も繰り返してきた可能性が高いということだが、実際には調査が遅れていたためそういう証拠がなかった。今回の噴火で、その恐るべき正体を改めて認識できた。
ーー新しくできた島は今後、島として残るのでしょうか
小山教授
このまま噴火が終われば、島はいずれ消滅すると思う。こうした島は軽石と火山灰でできており、非常にもろい。ちょっとした台風や低気圧がくるだけで高波によって消滅してしまうだろう。
プリニー式噴火は基本的に軽石と火山灰を噴出するだけで、溶岩は流さない。爆発的なので、マグマがのぼってきても砕けてしまう。マグマの中のガスが発泡して軽石と火山灰になって吹き上がって、周囲に降り積もる。非常に爆発的な状況では、形成された島すらも吹き飛ばす。今回も恐らく最初はそんな状態だったのだろう。その後、徐々に噴火が衰えてきて、火口の周りに軽石や火山灰が積もって島ができたのだと思う。
ーー新しい領土となる望みは薄そうですか
小山教授
現状ではないだろう。噴火を繰り返して、だんだんマグマの中のガスが抜けてくると、溶岩として溢れ出す場合もある。溶岩流や溶岩ドームが陸地を作り出す状況になれば、頑丈なので、ある程度島として残るかもしれないが、現状では無理だろう。
ーー爆発的な噴火では溶岩は発生しないのですね
小山教授
溶岩は穏やかな噴火で発生する。ガスが抜けたあとのマグマが溢れ出すと溶岩として盛り上がったり流れたりする。今回は非常に爆発的だったので、相当ガスが抜けないと溶岩は出てこない。
ちなみに、福徳岡ノ場は水深50メートルほどにあり、相当な海水量があったにもかかわらず、そこを突き抜けて起きたプリニー式噴火だったわけだが、こういう噴火は、より厳密には「水蒸気プリニー式噴火」といい、浅い海底や湖で起こる。普通のプリニー式噴火に比べて、もともと噴煙に含まれる水蒸気と細かな火山灰が多いことが特徴だ。通常のプリニー式噴火だと噴煙は灰色だが、今回は噴煙の中に大量の水蒸気があったから噴煙が白かった。非常に印象的だ。水蒸気プリニー式噴火は十和田湖やニュージーランド北島などで発生した事例があるが、世界的に見ても観察事例が少ない。
ーー今回、想定外の大噴火が小笠原諸島周辺で起こったことは何を意味するのでしょうか
小山教授
伊豆・小笠原諸島には火山列がある。海底火山が多いが、硫黄島や西之島などは水面に頭を出す火山島だ。穏やかに噴火する場合もあるが、爆発的な噴火を繰り返した火山は、海底カルデラという形で地形を残す。海底カルデラをもつ火山は今回のような規模の大きい爆発的噴火を引き起こし、さらに状況が悪化すれば、大規模な火砕流を発生させる可能性もある。めったに起きることはないが、伊豆諸島の鳥島近海などでは、海底カルデラで大規模な火砕流がくりかえし発生した事例も海底のボーリング調査から分かっている。
噴火が始まって24〜48時間の間、私が一番気になっていたのは、あの状態で何日か続くと相当な量の空洞がマグマだまりの上部にできてしまう。そうなると、マグマだまりの天井が重力不安定になって、カルデラ陥没が起こる。するとマグマだまりに残っていたマグマが一気に火砕流となって噴出する恐れがあった。そうした大規模な火砕流が発生すれば、50キロメートルぐらいは平気で海上を突進するので、硫黄島に火砕流が到達する恐れもあった。
今回の福徳岡ノ場の噴火によって、こうした破局的な噴火を起こすポテンシャルをもつ火山であることが、改めて認識された。こういうリスクがあることを認識しておく必要がある。
また、噴火によって津波が引き起こされる場合もある。たとえば、2018年12月に発生したインドネシアのクラカタウ火山の噴火では、噴火にともなう山体崩壊と海底地すべりによって津波も発生したが、さらにさかのぼると、この火山は1883年に巨大な噴火とカルデラ陥没によって大津波を発生させている。
クラカタウ2018年噴火や渡島大島1741年噴火のように、カルデラ陥没に至らなくても、山体崩壊や海底地滑りが起これば相当な津波が起きる事例は世界的に知られている。今回、近くの硫黄島では、風向きが悪ければ軽石や火山灰が厚く降り積もる可能性もあったが、それよりも津波被害を受けるのではないかと恐れた。また、最悪の場合、火砕流到達の可能性もあった。ひとたび大規模な噴火が生じれば、そういうリスクが無視できなくなることを、小笠原諸島など近くに住む人は認識しておく必要がある。福徳岡ノ場で再び大規模な噴火が発生したら、のんびり見物するのではなく、高台に避難する準備が必要だと思う。
ーー衛星画像の連続撮影から得られることは何だと思いますか
小山教授
まず驚いたのは解像度の高さ。噴火中はひまわり画像をずっと見ていたが、どうしても噴煙の形ぐらいしか分からない。噴火が穏やかになってきた時にようやく周りの島が見えてきて、火口の場所が分かる程度だった。
この衛星画像を見ると、海面上の薄茶色の部分が浮遊軽石だと分かる。島の形状や噴火した位置も分かる。大量の浮遊軽石が漂っていることが分かるので、これを採取して分析する必要があるが、衛星画像から浮遊軽石の場所や移動方向を特定できるので、調査船を出せば採取・調査ができる。
また新島周辺に「変色水」と呼ばれる緑色に見える部分があるが、火口から重金属に富む泥水や温泉水が湧き出す場合がある。その正体はまだ特定できないが、火口から何かが吹き出して漂っていることが衛星画像から分かる。
連続撮影により、こういったもののモニタリング、時間順の変化を追うことができる。もし津波が発生した場合、この精度であれば、津波が捉えられ、防災上も重要になるだろう。海上保安庁や気象庁と連携するなどし、広く一般にも公開すれば、防災上あるいは学術上の非常に有用な資料として生かすことができる。ぜひこれからも衛星撮影を続けてほしい。
左から8月15日、16日、17日撮影
大量の浮遊軽石(16日撮影)