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山田葵選手
桜花学園との決勝戦で力尽きたとはいえ、東京成徳大はベンチから出てくる選手もしっかり仕事ができる層の厚いチームだった。そして、全力で戦いながらも大舞台を楽しむ雰囲気があったチームを牽引していたのが、キャプテンの山田葵。安城学園との激戦を制した準々決勝では、佐坂光咲のブザービーターとなる逆転3Pショットをアシストするなど、大会を通じて素晴らしいゲームメイクでチームに貢献していた。桜花学園の壁に阻まれて日本一には届かなかったものの、最後までチーム全員で戦うというスタイルを全うできたことに、山田は誇りを持っている。
Q ウインターカップでの激戦から1年が経過しようとしています。昨年の今ごろ、どんな心境で大会に向けた準備をしていたか覚えていますか?
「(去年の)今ごろは1回戦目が精華女子さんだったので、そこで勝つか負けるかという状況でした。精華女子の対策を徹底的にやっていたのと、あとは“もう引退というか、全部終わっちゃうまであと1か月切ったよ、どうしよう”というドキドキと、“もうやってやるしかない!”というワクワク感がありながら、準備していました」
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山田葵選手
Q 遠香(おか)周平コーチは「出た選手みんなが仕事するというのが目標」と口にしていました。キャプテンとしてチームを牽引していたと思いますが、今振り返ってみて昨年の東京成徳大はどんなチームだったと思いますか?
「去年はすごく仲が良くて、いい意味で騒いでいて、動物園のようなチームだったんです。すごいケンカをしたこともあったし、雰囲気もめちゃ悪い時期もあったんですけど、それでもお互いの考えとか、言いたいこと、しっかり意見を言い合える関係で、みんなが活躍したら自分のことのようにうれしく思うようなチームでした。だから、あんなにウインターカップでも楽しそうに試合ができたのかなと思います」
Q チーム内で一番元気で声を出していたのはだれですか?
「自分もなかなか元気だったんですけど、マネジャーかな。3年生のマネジャーの子がすごく明るくて、元気なんですよ。だから、マネジャーが明るいと自然とチームも明るくなるというのはあります」
Q 初戦の精華女子戦からハイスコアで勝ち上がってきましたが、「1試合目、2試合目とあまり自分で(得点を)取りに行っていない」というコメントをしていました。チームのことを優先しなきゃという思いから、プレッシャーを感じたりしていたのでしょうか?
「そんなにプレッシャーは感じていなくて、チームのことを優先しなければというプレッシャーよりは、普通にいつも通りに成徳らしいプレーをできたらいいなと思っていました」
Q 順調に勝ち上がって迎えた準々決勝の安城学園戦、佐坂光咲のブザービーターで逆転勝利。あの試合のこと、思い出せることは全部話してもらえますか?
「前半は結構点差が開いて成徳が勝っているという試合だったんですけど、後半になってまんまとゾーンプレスにハマッちゃって…。成徳はいつもゾーンが苦手なんですけど、ゾーンに引っかかってしまいました。
最後のタイムアウトの時に負けちゃうというよりかは、ここで引退するの?っていう感じで自分は思っていました。タイムアウトが終わって、今だから言えることなんですけど、あの時内心、15秒くらいしか残っていなかったけど、なんか大丈夫だろうなというのがありました。それでよーいスタートってなったらボールが手に当たって、青野美玖のナイスルーズボールがあってマイボールになり、美玖がボールを取ったときに全力で美玖の名前を呼んでボールをもらいました。時間がないから多分過去最速のスピードくらいで全力で持っていって、自分でシュートを打とうとしたのですが、左に佐坂が待っているのが見えて、美咲を信じてパスを出したのもあるんです。
パスした後にそのまま逆サイドのコーナーに切れて行ったんですが、シュートを打ってからその軌道を見た感じ、これは入るんじゃないかと思ったんです。そしたらスッと入って、言葉で表せないくらい興奮したというか…。もし、あそこで美咲が外していたら、シュートを打てばよかったなとか後悔しているかもしれないので、あそこまで頑張ってくれたチームメイトと最後決めた美咲には、本当に感謝しかないと思えるような試合でした」
Q 安城学園ボールの状況からターンオーバーを誘発させ、佐坂のブザービーターをアシストしたプレーは、冷静に判断したからもたらされたプレーだったのでしょうか?
「そうですね。自分はよくポーカーフェイスと言われるんですけど、追い上げられているときにめちゃ焦っていたんですよ、“どうしよう”って。一応ポイントガードでやっていたので、自分がちゃんと運ばないといけないのにすごく追い上げられてしまった。“どうしよう”ってめちゃ焦っていたんですけど、焦っていた割には最後冷静にディフェンスを見て、美咲にパスできたなと思います」
Q 流れが悪い時、遠香コーチからどんなアドバイスがあったのですか?
「あの時、15秒のタイムアウトが終わった後、とりあえず入ったらワーッとボールに入ったところへ行けと言われていました。あまり覚えていないんですけど、とにかく必死に、がむしゃらにやっていたという感じです」
Q 劇的な勝利で10大会ぶりのメインコートでプレーする機会を得ました。相手は札幌山の手でしたけど、独特な雰囲気、いつもにない緊張とかあったのでしょうか?
「ありました。初めての経験すぎて、自分はすごく緊張しいなんですけど、みんなに“緊張しすぎじゃない?”と言われるぐらい緊張しすぎて、札幌山の手戦はプレーがガチガチだったんです。キャプテンというのもあって、すごく変な緊張がありました」
Q 他のチームメイトのほうがリラックスしていたわけですね?
「そうですね。“なんでそんな緊張しているの?”みたいな感じでした」
Q 須田理恵が出血でベンチに下がる時間があったにも関わらず、札幌山の手に勝利しました。いい形で勝てたと思える理由があれば話してもらえますか?
「やはり一番は全員で戦えたことだと思います。交代で出てきた選手が本当にすごく頑張ってくれて、メンバーが変わっても(いい)流れは切れなかったし、悪い雰囲気や状況にならなかった。ここぞという時にしっかり決めてくれたし、最後ちょっと危なかったですけど、それでも勝ち切れたのは全員でしっかり自分のやるべきことをやれたからかなと思います」
Q 決勝戦は桜花学園となりました。オコンクウォ・スーザン・アマカと朝比奈あずさのツインタワーに対してどのように攻め、どのように守ろうというプランを遠香コーチが立てて指示されたかを覚えていますか?
「守り方としては、最初に中に入れさせないようにガードとフォワード陣のところでしっかりプレッシャーをかけて、少しでも悪いパスをさせようという話をしていました。中に入ってしまったらセンター陣は1対1で守るし、成徳で練習していたポストトラップを仕掛けて全員で守ろうという話はしていました」
Q 高さに対してもオフェンスはいつも通り速い展開で、ということでしたか?
「オフェンスは速い攻めが特徴だったので、しっかり走り切ってやろうという話をしていました」
Q 1Qでの2ケタ得点差を2Q終盤に5点差まで追撃しました。しかし、ツインタワーを止められず、力尽きての敗戦となりました。改めてどんな決勝戦でしたか?
「絶対に勝ちたいという気持でやっていたんですけど、ずっとどんな状況になっても全力で楽しんでやろうという話は全員でしていた。最後中を止め切れずに点差が開いてしまったんですけど、それでも点差的に負けているはずなのに、なんでか勝手に自分もチームメイトも笑顔でやっていて、本当にすごく楽しかったんですよ。負けているはずなのにすごく楽しくて、自分の人生の中でも一生の宝物だなと思えるような決勝戦でした」
Q あの決勝は9人が10分以上で戦っていたことでは、他の学校とは違う東京成徳大らしい試合だったから、みんなで戦えたという感じになれたのですか?
「全員でしっかり戦えたのは本当によかったと思います」
Q 遠香コーチはすごく厳しい方ですけど、山田さんの代で最後ということでした。ウインターカップではすごく温厚な感じに見えたのですが、実際のところはどうだったのですか?
「遠香先生は練習が本当に優しくないので、ペナルティですぐラントレになっちゃうんです。それでも、練習試合でもそうなんですけど、試合中は割と静かに見ているというか、選手たちを安心させるような、なんか包んでくれるような指揮をとってくれるのいうのはありますね。ウインターだけが優しいというのではないんですけど、試合になったら少し優しくなるかもしれないです」
Q 決勝戦後に遠香コーチから言われたことで印象に残っていることは?
「実は決勝戦前に遠香先生と個別で話したんですけど、その時は“ようやくここまで来たな”と最初に言われて、“葵が悔いなく全力で全部出し切ってくれれば、俺はそれでいいから、悔いはない”ということを言ってくれました。そこで自分は泣きそうだったんですけど、試合後“お疲れさま、よく頑張ったな”と結構強めに言ってくれて、ガシッと握手をしたのは印象に残っています」
Q 決勝で対戦した桜花学園の江村優有とは、日本代表としてU19ワールドカップを一緒に戦いました。彼女とのマッチアップはどうでしたか?
「自分と江村は中学のときからの知り合いなんですけど、始まる前に“ついにやれるんだ”みたいな、“優有とマッチアップできる”という感じだったんです。遠香先生に練習のときから“江村に負けてもいいのか!”とずっと言われていて、ようやくそれを見せられる場というか、戦えて楽しかったというか、同い年ですけど、いい経験になったと思います」
Q そんなこともあって一緒に世界と戦ったのも何かの縁ですよね?
「そうですね。全然自分とは違うタイプ選手というか、プレースタイルです。一緒に出ている時間は少なかったですが、優有からすごく勉強になるなと思うことがあったし、その考え方すごくいいなと思うこともたくさんありました」
Q 東京成徳大で過ごした3年間で学んだこと、今の大学生活やバスケットボールに活かされているところは?
「遠香先生に学んだ“どこまでもあきらめない気持ちと情熱”というのは、今のバスケ生活にも生かされていると思うし、これからのバスケ生活、その後の自分の人生の中でもずっと心の中にあるものだと思います」
Q 高校の後輩や今大会に出場する選手たちに対し、ウインターカップの準備する過程で何かを伝えるとしたら、どんなことですか?
「ウインターカップはだれもが憧れる大会だと思うし、簡単に出られる大会じゃないと思っています。3年生は最後の集大成で、だれよりもウインターにかける思いは強いだろうし、1、2年生も先輩と一緒にずっとやっていたいという思い、勝たせてあげたいという思いが強いからこそ、全力で楽しんでやってほしいし、常に笑顔を忘れずにやってほしいなと思うので、一瞬一瞬をしっかり心に刻んで、全力で青春してほしいなと思います」
Q みんなで楽しめたというところがありましたが、楽しめた要因は? みんなが大事にしなければいけないですけど、上を目指すと笑顔とかを忘れてやってしまう部分もあると思います。それでも決勝という舞台まで行って、楽しめた要因は何だったと思いますか?
「何なんだろう…。本当に決勝戦というか、バスケット自体をすごい楽しんでいたから。ウインターカップもそうなんですけど、バスケットというスポーツを心の底から楽しんでやれていたから、すごい笑顔でできたのかなと思います」
Q 今のバスケ生活は?
「今は高校のときと全然練習も雰囲気も違っていても、バスケットはすごく楽しくやれています。中学校のときのクラブチームが“すごく楽しんでやる”というのをモットーにしていたので、笑顔でやらないと逆に怒られるようなチームだったんです。そういうのもあって、バスケットは楽しんでやるというのがずっとあったので、それがあってウインターも全力で楽しめたのいうのがあります。バスケットは常に楽しくやるというのがあります」
Q この24時間でちょっとだけ幸せだったこと、何かありますか?
「今日の朝、実技で体操の授業があったんですけど、その時に仲のいい子たちと固まっていて、すごい楽しいお喋りをしたことが幸せな出来事でした。気持がすごくハッピーです」
文:青木崇
青木 崇
NBA専門誌「HOOP」の編集者からフリーのバスケットボールライターとなる。NBAファイナル、NCAAファイナル4、世界選手権などビッグイベントの取材や執筆活動を行なっている。
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