グーグルの広告ブロック施策がネット通販に与える影響は? 知っておくべきことは?
Google(グーグル)とApple(アップル)は、消費者がオンライン広告に接触できる機会を限定しようとしています。この2社の広告ブロック戦略は、小売事業者にどのような影響があるのでしょうか?
Web上で展開できる広告オプションが減る
世界で最も大きなインターネット企業であるグーグルとアップルの2社が、広告ブロック戦略を発表しました。これは、インターネット業界の収益構造に大な影響を及ぼすでしょう。
オンラインマーケティングに変化をもたらす今回の発表に関し、EC事業者やeコマースが主要な収益源になりつつある小売事業者たちは今後の動向に注目すべきです。
今回、何が発表されたのかまとめてみましょう。結論から説明すると、Web上で展開できる広告オプションが減るということですが、細部を理解することが重要です。
アップルはユーザーのプライバシーを重視するテクノロジー企業です。Safariブラウザでは、Cookie(クッキー)をブロックできるようにし、グーグルやAmazon(アマゾン)といった企業のようにデータを長期間にわたって保持しないようにしています。アップルは、アプリのマーケティング担当者にiOSアプリ利用者の情報を共有しないほどプライバシーを重視しています。
アップルの新たな広告ブロック戦略は、ブランドの核となるプライバシー保護の考えにもとづいており、今後もSafariブラウザでは利用者のプライバシーをできる限り守り続けるとしています。
2018年の始めに、グーグルは新しいChromeブラウザをリリースする予定。新しいChromeでは、特定サイトの広告を自動的にブロックします。
グーグルはプライバシーよりも、ユーザーエクスペリエンスにもとづいて広告ブロック戦略を打ち出しました。小売事業者は難題が突きつけられる一方、オンラインで消費者の注目を集めることができる機会になるでしょう。
2018年の初めに、グーグルは新しいChromeブラウザを発表する予定です。新しいChromeは、利用者を混乱させるような方法で広告を表示する特定サイトに関し、自動的に広告をブロックするそうです。ポップアップ広告、自動再生のビデオ広告、テイクオーバー広告も含まれます。
グーグルは、オンラインメディアに関わる企業が立ち上げた団体「Coalition for Better Ads」と協力し、どの種類の広告をブロックすべきか検討しています(編注:なお、同団体では4種類のデスクトップWeb広告と8種類のモバイルWeb広告について、ユーザーエクスペリエンスが低いと指摘しています)。
グーグルの広告ブロックは、デスクトップとモバイルのChromeブラウザに適用される予定で、両デバイスのユーザーエクスペリエンスに影響を与えるでしょう。
グーグルのこの動きは、明らかにユーザー目線に立ったものです。同時に、グーグルが業界の重要な流れをリードするという、ビジネス上の意味合いもあります。その流れとは、広告ブロックとモバイルの台頭です。
広告ブロックの流れは徐々に拡大しており、特にミレニアル世代、Z世代(Generation Z、1995年以降の生まれ)の間で顕著です。グーグルは何億ドルもの資金を広告ブロック用ツール「AdBlock Plus」に支払い、広告ブロックを解除していることがわかっています。
自社の広告ブロック機能がリリースされれば、グーグルは収益を改善でき、若い世代の支持も得ることができるのです。
また、利用者にとって不要な広告を取り除き、モバイル利用者目線でサービスを提供することで、グーグルはモバイルのユーザーエクスペリエンスを向上させることができるでしょう。
ページの読み込みスピードを引き上げることでモバイルに最適化したコンテンツの提供をめざすAMPや、モバイルで見やすいページをSEOのランキングで上位に表示するなど、グーグルは過去3年間、モバイルを優先してアルゴリズムを変更してきました。
モバイルを重視することがこの先で重要だと考え、ユーザーエクスペリエンスを最適化しています。
デスクトップサイトとは異なり、モバイルサイトに満足できない場合、40%の利用者がすぐにそのサイトを離脱するとされています。だからこそ、このグーグルの動きは重要なのです。
グーグルのモバイル上での広告ブロック機能は、ユーザーにより親和性の高いコンテンツを表示し、興味のないコンテンツをブロックすることにつながるかもしれません。
ECなど小売事業者への影響
小売事業者は、「責任ある広告出稿」を行うために、自社のデジタルマーケティングを見直す必要があるでしょう。
不要なディスプレイ広告やエンドユーザーに配慮しないインプレッション重視の広告は通用しなくなります。しかし、グーグルの広告ブロック機能は、すべての広告をブロックするわけではありません。
「Coalition for Better Ads」によって策定されたガイドラインから外れる広告のみをブロックするとしています。グーグルの広告検閲をくぐり抜けるためには、自社の広告がユーザーエクスペリエンスの向上に寄与するかどうかを注意深く検討する必要があります。
最初は、どのメディアに広告を出すか吟味し、リーチと頻度を制限する必要が出てくるでしょう。「広告をバラまいた後は、運を天に任せる」という従来のアプローチではなく、より責任がともなう、ターゲットを明確にしたデジタルマーケティングへの移行が必要となります。
既存客のカスタマージャーニーを深く分析すると同時に、アトリビューション360のようなグーグルの新しい分析ツールを利用すれば、マーケティング戦略の策定などに役立つはずです。
デジタル広告の規制が厳しくなると、小売事業者はアプリ内広告に注力することになるでしょう。この動きは、消費者行動にぴったりと結び付くのです。
消費者行動の分析などを手がけるLXRInsights社によると、モバイルアプリ経由の商品購入がここ数年、堅調に伸びています。2017年の母の日は、FacebookとInstagramのアプリ経由での商品購入が18%上昇。この2つのSNS上での商品購入に、消費者が慣れてきたと言えるでしょう。
消費者にアプローチするためには、検索マーケティングを強化するのも効果的です。多くの小売事業者は、消費者が購買行動に至る前の早い段階で、ディスプレイ広告を表示します。
そう、ブランド認知やブランド発掘の促進を、ディスプレイに頼っている小売事業者が多いのです。
グーグルの広告ルールが厳しくなったら、認知獲得から購入までのファネルマーケティングの第一段階として、広告ブロック規制に影響されない検索マーケティングに目を向ける必要があります。
消費者は商品を見つけたり、調べるたりする際、今もまだ検索を最も多く利用しています。ブランディングの手段として、多くの小売事業者がディスプレイ広告に頼っていますが、マーケティング担当者はPLA(Product Listing Ads/グーグルの商品広告リスト)などを利用し、ディスプレイ広告が失う効果を補っていくべきです。
戦術はもちろん大切ですが、デジタルマーケティングで成功する一番の鍵は、自社のデータを詳細に分析し、利用者を深く理解することです。
業界内では、利用者のエンゲージメントを高めるために、カスタマージャーニーの分析が大切であると言われてきました。今回のグーグルとアップルの新たな動きで、それが仮説ではなくなったのです。
デスクトップとモバイルで、消費者がどのようなカスタマージャーニーを辿っているのかを分析することで、消費者の注目を集め、財布の紐を緩めてもらうことができるのです。