時間と空間が織りなす巨大な重力波が検出されたことを示す証拠が得られた。その波長は、なんと数光年から数十光年だという。新たに発表された研究によると、このような波長の重力波の存在を示す証拠が見つかったのは初めてで、最大で太陽の100億倍という質量をもつ超巨大ブラックホールどうしの合体によるものではないかと考えられている。今回の発見の詳細は、2023年6月29日付けで学術誌「Astrophysical Journal Letters」に掲載された一連の論文にまとめられている。
この波を観測したのは、「北米ナノヘルツ重力波観測所」(NANOGrav)の研究者グループだ。68個のパルサーと呼ばれる回転する星の残骸を利用し、これらから発せられる電波放射のタイミングの変化を調べることで、重力波を検出した。「重力波の発生源はパルサーではありません。銀河スケールの時空の歪みを検出するために、パルサーを利用したということです」と、NANOGravの所長で米バンダービルド大学の宇宙物理学者であるスティーブン・テイラー氏は言う。
今回の発見により、超大質量ブラックホールによって宇宙がどう形づくられたかを知る手がかりが得られると期待されている。また、今回見つかった時空の歪みを調べることで、ビッグバン直後の時間についての知見が得られるかもしれない。さらに、宇宙の全物質の約6分の5を占めると考えられているダークマターの本質とは何かといった謎の解明に役立つ可能性もある。
質量を持つ物体が加速すると、重力波と呼ばれる歪みが生じる。この重力波は光の速度で伝わり、それに応じて時空が伸びたり縮んだりする。重力波は1916年にアルベルト・アインシュタインによって予言され、2015年に「レーザー干渉計重力波天文台」(LIGO)で初めての直接的証拠が観測された。LIGOは、この波が物質を通過する際に生じさせる微細な歪みを検知できる。重力波が特に役立つのは、ブラックホールのように光で直接観測できないものを調べたい場合だ。
光(電磁波)にはさまざまな波長や周波数がある。たとえば、ガンマ線は波長が短く周波数が高いが、電波は波長が長く周波数が低い。重力波も同じだ。LIGOが検出できるのは、波長が3000キロメートル程度の周波数が高い重力波だ。米ウィスコンシン大学ミルウォーキー校の物理学者で、NANOGravの研究に参加しているサラ・ビーゲランド氏は、「LIGOは短時間で変化するものを観測します」と話す。
それに対して、今回初めて検出されたのは、長波長で低周波の重力波だ。波長は非常に長く、波の頂点から次の頂点までの距離は、光の速さで数年から数十年分ほど離れている。
「私たちは、重力波の世界のまったく新しい領域を探り始めました」とビーゲランド氏は言う。「数カ月から数年をかけて変化するものを観測しているのです」
時空を揺るがす超巨大ブラックホール
今回見つかった重力波の発生源として最も可能性が高いのは、太陽の質量の1億倍から100億倍という2つの超巨大ブラックホールだ。一方、LIGOが検出した重力波は、せいぜい太陽の数十倍程度という小さなブラックホールか中性子星の衝突によるものと考えられている。
「高速に回転するパルサーを銀河規模の検出器として使うことで、超巨大ブラックホール連星から発せられると思われる、数光年の波長を持つ重力波を観測するのです。まるでSFですね」。そう話すのは、米国立電波天文台(NRAO)の天文学者で、NANOGravの研究に参加しているスコット・ランサム氏だ。
宇宙で最大規模の銀河の中心には、超巨大ブラックホールが存在すると考えられている。2つの銀河が合体するとき、それぞれの中心にある2つのブラックホールが、新しくできる銀河の中心に集まってくる。それが連星系のようにお互いの周りを回り合うと、重力波が生じる。
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