小さなカタツムリから巨大なクジラまで、多くの動物の体内には血液が流れている。
この貴重な液体は、感染症と闘い、養分とガスを臓器に送り届け、老廃物を運び出す。しかし、血液と聞いて多くの人が思い浮かべる、「鉄分が豊富」や「赤い」といった特徴は、種によってさまざまに異なる。
たとえば一部の甲殻類や、イカ、タコなどの頭足類の血液は、酸素を運ぶタンパク質であるヘモシアニンに銅が含まれているために青い色をしていると、米スタンフォード大学の海洋生物学者スティーブン・パルンビ氏は言う(『スタートレック』に登場するバルカン人の血液が緑色なのも、銅を含んでいるためだと氏は笑う)。ヘモシアニンは、海洋生物の体内にあるときには無色だが、酸素と結びつくと青に変わる。(参考記事:「まるで宇宙生物! イカを解剖してみよう」)
ヒトの場合、酸素を運ぶのはヘモグロビンというタンパク質だ。パルンビ氏によると、ヘモグロビンもヘモシアニンも、酸素を運ぶという役割は同じだという。「進化によって、同じ目的のために異なる方法が生み出されるという事例はたくさんあります」
約25億年前に登場したヘモシアニンは、もとは地球の嫌気性あるいは低酸素の環境において、原始の生物にとって毒として働いた酸素を無毒化する役目を果たしていたと、英スウォンジー大学の比較免疫学者クリストファー・コーツ氏は言う。やがて大気中に酸素が増えると、ヘモシアニンはさらに進化して、生物の体内で酸素を輸送するようになった。
赤いヘモグロビンが登場したのはこれよりもずっと後の約4億年前だと考えられている。その理由はおそらく、脊椎動物の呼吸器系がより複雑であるためだと、コーツ氏は言う。事実、大半の哺乳類、魚類、爬虫類、両生類、鳥類の血液は赤い。ヘモグロビンのタンパク質は、鉄分を含み、酸素と結合するヘムという分子をもっている。
ヘムエリスリンというのは、これとはまた別の鉄含有色素タンパク質だ。ヘムエリスリンは酸素分子に結合して、シャミセンガイといった腕足動物やホヤなどの血液を紫がかったピンク色にする。
さらには、南極には血液色素をまるでもっていないコオリウオがいる。色素がない原因は、ヘモグロビンをつくる遺伝子を失ったからだ。コオリウオが暮らす極寒の南極では、環境中に豊富にある酸素がエラや皮膚から直接染み込んでくる。
脊椎動物では血液とリンパ液が分かれているが、昆虫では区別できず、体内でホルモンとガスを運ぶ体液は「血リンパ」と呼ばれる。ただし酸素だけは、体の側面や後部にある開口部から直接取り込まれる。
「体の側面に鼻の穴が並んでいるようなものです」と、米ネブラスカ大学リンカーン校の昆虫学者ジュリー・ピーターソン氏は言う。血リンパには、黄や青緑がかった色素が含まれることがあり、これは昆虫が食べる植物に由来する。
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