この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年3月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
食用の昆虫を捕まえ、ウガンダの市場に重要なタンパク源を供給している人々がいる。だが、乱獲と気候変動が、この“未来の食料源”を脅かすことになるかもしれない。
ある寒い夜、ウガンダ南西部の丘の上には強風が吹いていた。
捕虫用に仕掛けた大きな金属板が、がたがたと風に揺れる。発電機が大きな音を立てて、仕掛けの中央にある400ワットの電球を光らせていた。目がくらむほどの光量だが、この光が食用の昆虫を引き寄せる。ウガンダでは現地の言葉で「セネネ」(バッタの意味)と呼ばれる、キリギリス科の仲間(Ruspolia differens)だ。
金属板の下に置かれた数十個のドラム缶は空のままだった。だが、地元のセネネ捕獲者団体の代表を務めるキグンドゥ・イスラムによると、ドラム缶は体長8センチほどの昆虫でいっぱいになるだろうという。
毎年、春と秋の雨期が終わると、セネネの大群が繁殖と採食のためにやって来る。その時期には大勢の人が野外に出て、捕獲にいそしむ。塩味でいためたセネネは、ウガンダならではの珍味だ。1袋200円ほどで野外の市場やタクシー乗り場、道端などで売られている。
2020年11月、南西部のハルゴンゴを訪れた。本来なら秋の捕獲期の真っただ中だ。言い伝えによると、セネネは月から来るとされ、その夜は満月だった。だが「全然、捕れませんね」と、イスラムは言う。「どこに行ってしまったんだろう?」